【インタビュー】なとりが新曲「IN_MY_HEAD」で次のフェーズへ「逃げてきたことに対して一歩踏み込んで、向き合いたい」

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TikTokにアップした「Overdose」が大きなバズを起こしてから2年半。アルバムリリースにワンマンライブ、そしてフェス出演にimaseやキタニタツヤとのコラボレーションと、音楽クリエイター・なとりは新たな挑戦をひとつひとつ積み重ね、進化し続けてきた。

10月には初のホールワンマンとなる<劇場〜再演〜>を開催、ライブアクトとしてもスケールアップしていることを示した。そのステージでの発言にもあったとおり、彼は今、新たなフェーズへの入り口に立っている。

その変化を如実に物語るのが、11月29日に配信リリースされる新曲「IN_MY_HEAD」だ。オルタナなギターストロークとまっすぐひた走るビートにのせて、頭の中でこんがらがる思いをそのまま曝け出すようにして叫ぶなとりの声。そこにある熱感や生々しさは、これまでのなとりのどの曲とも違う。この曲はいかにして生まれたのか、アルバム以降の心境の変化とともに語ってもらった。

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◾︎やっぱり自分のアイデンティティの部分は声

──ホールワンマン<劇場〜再演〜>、横浜公演を拝見しましたがすばらしかったです。

なとり:ありがとうございます。いちばんは楽しかったんですけど、前回のワンマンと違ってキャパも広がり、フェスとかも経験して……やっぱり自分の帰る場所というか居場所はワンマンにあるんだなと改めて感じました。本当に落ち着いた環境で、かつ楽しめましたね。

──最初のワンマンのときとはやっぱり違いましたか。

なとり:違いました。今回はすごく冷静になれる瞬間が何度もあって。1stワンマンのときはずっと満身創痍みたいな感じで、常に全力で、本来の楽曲では静かになるところもずっと熱量を落とさず歌うみたいなことをやってたんですけど、今回はやっている最中も自分のパフォーマンスについてすごく考えられたので。いい意味で冷静になれた瞬間もあって、ひとつ成長というか、「ちゃんと経験してきたんだな、自分は」ということを思いました。

──なとりさんなりのライブでの表現の仕方を掴めてきた感じはしますか?

なとり:まだ全然完成形ではないんですけど、自分がやりたいこととか、お客さんがどう思っているのかなとか、なんとなく客観的に捉えられるようになってきたなと思います。


──2024年はここまで、ライブもそうですし、コラボや楽曲提供とかも含めて、なとりという名前がいろいろな場所に出ていくような出来事がたくさんあったと思います。その中でのご自身の進化みたいなところはどういうふうに感じていますか?

なとり:なんだろう、進化というより変化なのかもしれないですけど、人と関わる機会が増えて「ちゃんとなとりとして活動してるんだ」っていう実感がすごく出てきて。ずっと、何かのジオラマを俯瞰して見るような感覚で曲にしてきたんですけど、そのジオラマに入り込んでいる感じになっていて。他人事じゃなくなってきたというか。それはひとつ、大きな変化なのかなと思います。

──当事者としての感覚が出てきたという。

なとり:そういうのはありますね。

──それこそライブもお客さんがいてこそ成り立つものだし、かつなとりのライブに来るお客さんってすごい熱量じゃないですか。そういう人たちと面と向かって音楽をやるっていう経験っていうのも大きかったんじゃないですか?

なとり:大きかったですね。1stワンマンのときも「みんな本当に実在したんだ」って思ったんですけど、今回はとくに冷静になれる時間が多くて。MCもちゃんと人の目を見て喋った感覚があったんです。ずっと漠然としてたものがちゃんと見えた感じがありましたね。ずっと1対何千のつもりで生きてたんですけど、結局1対1なんだなっていうのはすごく思っていて。そこはライブをやってよかったなって思ったところです。

──実際、コラボなどの引き合いも多いということは、いろいろな人がなとりという存在、なとりの声を求めているっていうことですよね。そうやって求められる状況というのはどうですか?

なとり:嬉しいですし、感謝する対象がすごい増えた感じがあって。本当になとりというアーティストとしてちゃんと活動し始めたんだなっていう実感が湧いたのはコラボ活動の影響が大きかったと思いますね。自分ひとりでは絶対に届かない領域に、人さまを介して届けることができるっていうのは、コラボならではだと。

──imaseさんにしてもキタニタツヤさんにしてもそうですけど、それぞれ確固たるキャラクターやスタイルをもったアーティストで。そういう人と一緒にやるには、もちろん相手の力を借りるというのもあるけど、なとりさんも自分のいちばんいいところというか、武器を出していかないと戦えないっていうところもあるじゃないですか。そういう意味ではコラボをやるということはなとりさん自身のストロングポイントを自分で確認していくような作業でもあったのかなと思うんですけど。

なとり:やっぱり自分のアイデンティティの部分は声だと思うんです。今はまだ自分しかこの声の成分の人って(最近のミュージシャンでは)いないのかなって思うので、それは大切にするべきポイントだなと思います。あとメロディのクセとかも。これはimaseくんとやっていてすごく思ったんですけど、自分にしかないもの、同時に相手にしかないものを理解できたので、これをそのまま伸ばしていけば、それが長所になっていくんだろうなっていう感覚はあります。





──そういう気づきは自身の曲作りにもフィードバックされている?

なとり:そういう部分はありますね。他の人と作ったことによって「自分の曲に足りない成分はこれなんだ」と思ったところもあって。それこそimaseくんと作った「メロドラマ」「メトロシティ」、キタニさんと作った「いらないもの」「上書きしちゃった」を通して「なとりだったらこうするな」みたいな要素が分かってきたなと思って。その、なとりである理由みたいなものは改めて最近意識してるポイントですね。

──アルバム『劇場』以降もコンスタントに楽曲をリリースするなかで、振れ幅としても大きな曲を出してきていますし、「絶対零度」にしろ「糸電話」にしろ、アルバムまでとはまた違う一面というのもどんどん出てきている感じがします。

なとり:はい。見る視点というか、歌詞を書く上でずっと俯瞰で見てたのが自分の前の景色を書くようになったのもあるし、あといろいろな人をいざ目の前にしたときに「ずっと暗いところばっかり見てるのはダメだな」って思って。もちろん暗いところで書く魅力もあるのでそれは大切にしつつ、明るい部分というか、光もちゃんと見つけるっていうのは、歌詞を書く上ですごい大事にしてきましたね。

──それこそ「絶対零度」を聴いたときにびっくりしたんですよ。暗いところにいるのは変わらないかもしれないけど、なんかめちゃくちゃ燃えているし、感情が溢れているし、熱と光を放っているなと感じて。

なとり:はい。アルバム以降は今までやってきていないことを探す期間でもあって、それこそ「絶対零度」みたいな曲はあまり作ってこなかったし、「糸電話」なんてとくに僕が避けてきた、明るい場所を描くような分野だったので。でも見るポイントが変わったし、いろいろな人と関わることで、自分にしかできないけど、自分がやってこなかったものが見つかってきたんです。あとは自分が本当はやっていいはずのことからも逃げてきたんですけど、最近はそれと向き合うようになってきて、たとえば誰かから「お前はこういう曲が似合うからやってみてほしい」って言われたときもそれを受け入れるようになってきて。「確かにこれやってなかったしな」と気づくことが増えました。



──ああ、自分で自分を決めすぎないというか。

なとり:そうですね。ちゃんと他者の意見も聞くようになった(笑)。

──それでいうと、自分自身が思っているなとりと、外から見たときのなとりの見え方って、重なる部分もあると思うけど「そう見えているんだ」という部分もたくさんあったと思うんですよね。

なとり:そうですね。でも普通にいろいろな意見が嬉しいっていうか、別に怒ったりすることもないですけどね。「確かに」みたいな。「ありがとうございます」という気持ちで受け止めてます。

──それこそ「糸電話」なんてめちゃくちゃ新鮮だけど、でも作ってみたらライブも含めてお客さんの心に届くような曲になったじゃないですか。新しい扉開けたなって感じがしますよね。

なとり:そうですね。それこそ自分のサブスクの楽曲リストとか見ても異質だなって思うんですけど(笑)。でも今作れてよかったなって。

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