【インタビュー】HALLEY、<SXSW>で確かな収穫を持ち帰った気鋭バンドの展望を聞く
■THE NALEIO入部、メンバーとの出会い
──ここまで皆さんの音楽遍歴を伺ってきましたが、いよいよここからTHE NALEIO入部、そして出会いということですね。
直人:そうですね。サークルを掛け持ちして楽しくやってたらコロナ禍に入って、突然まったくバンドができなくなっちゃって。コロナ禍の1年目は人生で一番音楽を聴いていた期間でした。スナーキー・パピーのメンバーがやってるゴースト・ノートっていうバンドにハマってずっと聴いてました。あと、『ブルーノート・リイマジンド』っていうコンピレーション。UKジャズシーンの人たちを呼んでジャズのスタンダードを再解釈しようっていうアルバムです。
──いわゆるロバート・グラスパー以降のジャズというか。
直人:まさにそういう感じです。
継:本当にそればっか聴いてて、その話するのバンドで禁止になったよね。
直人:うん(笑)。
継:僕はコロナ禍の最初の年、実家の静岡に帰ってました。で、地元にドラムをやってた友達がいて、毎週課題曲を決めてそいつとセッションするっていうのをやってたんです。次の週までに上手くなったのを見せたくて、その時期にだいぶ弾き込みました。ベーシストとして大きな財産になったと思います。その頃にKing GnuやBREIMENも知って、THE NALEIOいいなあと思うようになって。コロナ禍が落ち着いた頃に東京に戻って、そろそろTHE NALEIOに入ろうかなってときに太賢から連絡が来て。
太賢:元々教会の繋がりで知り合いだったんです。
継:「THE NALEIO入らない?」って。こんな偶然あるんだ、って思いましたね。
直人:その頃には僕と太賢、心(西山 心/Key)と晴(登山 晴/Gt)はTHE NALEIOで出会ってて。ベースだけ見つからないってときに、太賢がクリスチャンの学生団体の友達で一人ベーシストがいて、好みも近いよってことで。
継:それまでは日本のR&Bやファンク系の音楽に少し詳しいくらいで、HALLEYと出会ってから一気に海外のR&Bを摂取しました。
太賢:それはお互い様だよね。みんな聴いてきたものが絶妙に違うから、ドッキングしたときにそれぞれ衝撃を受けた。
直人:そうだね。晴は音楽の入りがメタルで、そこからラウドロックを聴くようになったいっぽうで、ジャズやレアグルーヴに詳しくて、石若駿さんも好きで、本当に雑食。心は心で、元々歪んだギターの音がすると顔をしかめるような人で。
太賢:そうだったね(笑)。
直人:そういう尖り方で、ギター嫌いだったんだけど、THE NALEIOに染まってジャズを聴きこんで、巡り巡って今ではギターが一番かっこいい、とか言ってて。この間も自分のクラビネットを歪ませて楽しそうにしてました。
太賢:僕はゴスペル経由でファンクやネオソウルに行ったから、当時グラスパーに触れてなくて。そこを教えてくれたのは心。グラスパーだけじゃなく、グラスパーがフィーチャーする人たちもです。ミュージック・ソウルチャイルドとか、インディア・アリーとか。
直人:ほかにもブラックミュージックの有名どころ、エリカ・バドゥ、ディアンジェロ、ビル・ウィザースとか、我々は聴いてきてなかったんですよね。そういうメインストリームのところをTHE NALEIOとHALLEYに教わったって感じですね。
太賢:全員尖ってて、全員ちゃんと真ん中を通らずに来た(笑)。
──ここまでお話を伺ってきて印象的なのが、皆さんが「HALLEY」を一人の人間のように語ることです。自分自身のことでありながら、独立した個のような感じなんでしょうか。
太賢:ああ、HALLEYという音楽の人格はあるよね。自分も当事者だけど、自分は5分の1というか。
継:うんうん。それはある。みんなの好きな音楽を共有した、その集合体というか。
直人:みんなが自分の好きな音楽をどんどん確立していく経過を見てるし、その過程でお互いに影響し合ってるので、溶け合ってる部分もあるのかもしれない。
太賢:僕も最近ビートメイキングするときは、直人の手癖が入ってきちゃってるんだよね。ベースラインを作るときも継の音がずっと頭の中で鳴ってる。
継:似てるよね、最近作るものが。
太賢:ギターもピアノもそう。さっき5分の1と言ったけど、残りの5分の4も自分だと思えてしまうようなところもある。
直人:逆に5分の1の方にみんなが入ってきてるって感覚もあるな。さっき晴と心の紹介をしたけど、自分のことのように喋っちゃうところがあって。
■教会とその文化が生んだバンド
──太賢さんの声は、歌声はもちろん、こうしてお話していても低域の豊かなエッジヴォイスの立った響きが印象的です。そうした発声はやはりゴスペル由来のもの?
太賢:そうですね、指導とかトレーニングって形ではないんですけど、恥ずかしがらず心を解放して大声を出して歌うということを日常的にやってましたから、間違いなくそこで培われたものだと思います。プロテスタントにもいろいろあって、僕の育ったところはチルい感じの曲がない、熱量が高いというか。フルゴスペル(純福音)というもので、大声で愛を叫ぶ曲が多いんです。そこで歌における表情の付け方を学びました。そういうのって言語だと思うんです。
──発音が違うと意図した通りに言葉が伝わらないように、歌には歌の言語体系がある、といったことでしょうか?
太賢:そうですね。教会では隣の人が泣きながら歌ってたりするんです。その中で育ったので、こういう情景を表現したいときの息の量はこれくらいで、といった、歌における言語を学び取ってきたと思います。
──継さんも、中学生の頃から教会で演奏していたんですよね。
継:そうですね、ステージだけど緊張感はないんです。みんな知ってる人で、のびのびと弾ける機会が日常的にあって。今思えば本当にいい経験をさせてもらったなって思います。
太賢:教会ってそういうところだよね。僕も小学生の頃にステージに上がってクリスマスの生誕劇で歌って踊ってたけど、緊張というのはない。
──表情を見ていると、教会という場所が太賢さんにとって本当に幸せな場所なんだなと伝わってきます。
太賢:そうですね。なんて言うのかな、教会のコミュニティって親戚に近いんですよね。中学生くらいまでは在日韓国人の教会にいたんですけど、そこって全員がおじとおばみたいな感じで、もう愛されまくって育って(笑)。子供はコミュニティみんなで育てるって意識が強いんですよね。
──教会で受け取った愛や教えが歌詞に反映されている部分はあると思いますか?
太賢:完全にそうですね。教会で教えてもらったもので形成されてますね。
──ここ数年、日本ではいわゆるブラックミュージックの影響を感じさせるバンドが顕在化してきていますが、教会育ちという文化的ルーツのあるメンバーがいて、ゴスペルの精神性の部分まで踏襲しているバンドはなかなか珍しいように思います。
太賢:そうですね、自分の声も音楽も、すべては与えられたものだっていう認識だとか、なんのために音楽をやって、なんのために生きているのかというマインドセットは教会で学びましたね。
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