【インタビュー】小林私、「来れる人は来ればいいし、来なくてもいい。ライブだけにならないようにはしたい」

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▪️ただ歌って帰るよりも「この地に来てこの話を聞いた」っていう特別性があったほうがいい

──そういう意味では、あの空気感もそうだし、喋ってることも含めて全部がライブの表現というか「作品」になっているっていうことですよね。それで言うと、今回いわばライブのメインになっていたのが、わざわざ机を出してゲストとトークするというあのラジオパートだったわけですけど。あれはどうしてやろうと思ったんですか?

小林:あれ、もともと東京公演ではやる予定がなかったんですよ。大阪公演が僕1人の弾き語りだけだったので、それで1時間半ってなるとお客さんが飽きちゃうと思って、なんかメリハリをつけれたらなっていうのであの案が出てきたんですよね。でもなんか思いついてみたら結構良さげな案だから、東京はゲストも来るから「ラジオにゲストが来る」みたいな感じでやったら面白いんじゃないかって。それで結果、全公演でやることになりましたね。

──東京公演ではオリジナルでジングルやラジオCMっぽいのを作ったりして、気合入ってましたね。

小林:でもね、大阪は違ったんですよね。大阪では僕のハミングの「ビタースウィート・サンバ」(『オールナイトニッポン』のテーマソング)だったんですよ。そっちのほうが正直、ネタとして面白かったんですよね。ラジオのCMあるあるを流しても「ああ、ラジオが始まるんだ」っていうところまで一個ラグが生まれちゃうけど、あの曲なら「この音といえばラジオだよな」ってすぐ伝わる。それがよかったんですけど、東京は映像収録が入るから「ビタースウィート・サンバ」は権利的に厳しいと(笑)。それでアプローチを変えたんです。だから僕的には二番手の案なんですよ。で、二番手の案をやるんだったらしっかり作り込まないとなと思って、ジングルもちゃんと作って、CMもちゃんと多重録音して作りました。


──すごいこだわりを感じました。今後やるかどうかは別にしても、あの形って結構画期的だなと思ったんです。仰ったように弾き語りだけだとダレるという問題も解決できるし、ゲストがいればそのゲストとの関係性もちゃんと伝えることができる。かつ、アンケートをリスナーからのお便りに見立てて話をすることで、擬似的にコミュニケーションになっていくという。小林私のライブでやっていなかったところを、あの建て付けが解消しているなと。

小林:でもお便りが思ったより来ちゃったっていうのがしんどかったですね(笑)。大阪公演では当日リアルタイムでバッて確認するスタイルを取ってたんですけど、みんな真面目に書いてくれて、とんでもない量のお便りがきちゃって。ちょっとこれはさばけないなってなって、東京公演は事前にある程度チェックして選定したんです。あの規模感でギリギリ大変だなって感じだったんで、お便り系はもうちょっとやりようを考えてもいいかなとは思いましたね。

──無理やり大喜利をやらせるみたいなアンケートでも、みなさんちゃんと返してくれるんですね。

小林:意外とみんな書いてくれるんだなっていう。

──一方通行と言いながらもあの場面はやっぱりコミュニケーションになっていて、それは配信でコメント欄と会話するのと同じだと思うんです。そういうのをライブでやるっていうのも小林私らしいなって思いましたね。

小林:そうですね。お客さん側の匿名性を保ちつつコミュニケーションを取るにはどうすればいいかっていうのは結構課題ではあったんで。お客さんも、わざわざ僕に認知されたいっていう熱心な人もそんなにいないと思うので、そういう匿名性は保ちたいですよね。今後はそれをいろいろ発展させれたらいいなと思いつつ、そもそもライブを減らしていこうというのもあるので、その二律背反でやっていこうかなと思います。

──大前提として「あんまりやりたくない」というのは揺るがないと。そういえば小林私のライブは時間のわりに曲数も少ないですしね。あれ、やろうと思えばもっとやれますよね。

小林:全然できますね。対バン相手のライブとか見てると、同じ30分もらってるはずなのに、曲数全然ちげえやみたいな。30分で僕は4曲か5曲ですからね。でもそれも、歌いたくないっていうよりは、ただ歌って帰るよりも「この地に来てこの話を聞いた」っていう特別性があったほうがいいかなと思ってるんです。なるべく直近に起こったことを喋りたいなと考えてるので、「この日に来た意味があるんだな」って意味が持たせられればなっていうのが出発点なんですよね。

──逆に言うと、みんなが聴きたい曲を歌って帰るだけでいいとは思えない。

小林:そうですね。たぶんそれが正解なんですよ。でもみんなそれをやってるから、俺はやらなくていいかなって。それこそこないだのライブで歴史は踊るとやった「生活」なんて、1年か2年ぐらいやってないですからね。みんながこれ聴きたいって思ってるってことは、「じゃあやらないほうがいいか」っていう(笑)。僕の偉大な先輩であるCRYAMYというバンド、僕はそのボーカルのカワノさんのことがめちゃくちゃ大好きなんですけど、カワノさんもワンマンが嫌いですし、こないだもライブの当日に歌詞カードを配布して全部新曲を演奏するっていうライブをしてましたし。カワノさんも内容は違えど、めちゃくちゃ喋りますから。そういうとんでもない先輩を見てるので、それに負けじと人とは違うことをやっていかないといけないな……というと非常にきれいにまとまりますね。

──小林私なりの反骨心とアナーキズムの表れであると。

小林:そうですね。

──それはちょっと嘘っぽいですね。

小林:嘘ですからね。ただ逆張りしたいだけですから。

──でもいくら逆張りをしたところで、現実にはお客さんみんな満足して帰っていくわけじゃないですか。

小林:そう。だから気持ち悪いですよね、彼らも(笑)。

──そこに素直な喜びを感じる日は来るんですかね?

小林:エンタメが嫌いなわけではないですし、エンタメをちゃんとやろうという意思もあります。でもそれをまっすぐやるにはもっと達者な人がいるだろうなとも思うので。少数派に向けていつまでもやろうかなという気持ちではありますね。それで一種のエンタメだってことになっているのであれば、あんまり怒られずに済むかなと思うし。そう、怒られたくないんですよ。本当に僕が破天荒なことをやりたいのであればもっとめちゃくちゃやってると思うんですけど、怒られたくないなって思うから今ぐらいのバランスになっていて。怒られないギリギリを探していますね。

──確かに、なんだかんだちゃんと着地させる感じはありますね。

小林:あれですよ、バス停をちょっとずつ自分の家のほうに引っ張ってきて、最終的に家の前をバス停にするみたいなことですよね。どこかで元の位置を戻されないように気をつけて引っ張っていきたいな、というところではありますね。

──じゃあ、そのためにはライブやり続けないといけないですね。

小林:そうなっちゃうんですよね……。

──でも逆に、あまりにもやらないからこそ、やりさえすればそれでOKになるっていう境地もありますよね。「ライブをやった」という事実だけで全て許されるという。

小林:それがいちばん熱いですよね。年1ぐらいでパッと出てバッと歌って帰るっていう.
ライブしすぎて曲作れないっていうのがいちばん本末転倒ですから、僕にとっては。曲作りたいだけなんですから。ほっとかれたらいちばん曲作りますから、そうしたいですよね。

──小林さんのライブは今後希少になっていく可能性がある?

小林:でも、それも嫌なんですよね。「今のうちに来とけ」っていうのはそれはそれで嫌。来れる人は来ればいいし、来なくてもいい。ライブだけにならないようにはしたい。配信が好きっていうのも、もちろんインターネット環境がないと見れないっていうのはありますけど、なるべく間口を大きく取れる場所でやっていくっていうことのほうに僕は大きく意味を感じるので。なるべく、みんながお金もそんな払わずに見れるような場所でやりたいなっていう気持ちはありますね。


──さて、8月27日、東京2回目の「分割・裁断・隔別する所作」はどんなものになるんでしょうか。

小林:どうでしょうね。セットリストは変えますし、喋ることは全く決まってないので、正直当日になるまでは何もわからないですね。何をその日僕は思いついているのかっていう。直近で、何の漫画読んでるかにかかってくる気がしますね。

──確かに『未確認は進行形』は全然リアルタイムの作品じゃないですからね。

小林:大阪では『べるぜバブ』の話を延々としてましたから。

──どっちも10年前の作品だ。

小林:明日ライブするってなったら、僕は『暗号学園のいろは』と『ジャンケットバンク』の最新巻の話をすると思います。果たして東洲斎享楽(『暗号学園のいろは』の登場人物)の話はするのか? 期待してもらえればと思います。

取材・文◎小川智宏

<東阪ワンマンライブ「分割・裁断・隔別する所作」>

2023年8月27日(日)東京 I'M A SHOW 開場17:00/開演18:00
Guest:レトロリロン
詳細:https://kobayashiwatashi.com/live_information/schedule/list/
問い合わせ:サンライズプロモーション東京 0570-00-3337 (12:00~15:00)

リリース情報

DIGITAL ALBUM『 原作』
アーティスト:小林私
配信日:2023年8月28日(月)
品番:NOPA-4974

収録曲:
1.四角
2.可塑
3.HEALTHY
4.リブレス
5.biscuit
6.地獄ばっかり
7.スープが冷めても
8.香日
9.笑って透明人間
10.光を投げれば
11.冬、頬の綻び、浮遊する祈り
12.飛日
13.並列
14.花も咲かない束の間に
15.サラダとタコメーター

サブスクリプション事前予約:https://www.toneden.io/evillinerecords/post/gensaku

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