【インタビュー】小林私、「来れる人は来ればいいし、来なくてもいい。ライブだけにならないようにはしたい」
今年6月28日に3作目となるアルバム『象形に裁つ』をリリースしたシンガーソングライター・小林私が、東京と大阪で開催するワンマンライブ<分割・裁断・隔別する所作>。
7月15日に大阪・GORILLA HALL OSAKA、8月5日に東京・I‘M A SHOWでの公演を終え、残すは8月27日に同会場で行われる東京2公演目のみという状況で、筆者はその東京公演を観たわけだが、じつに面白いライブだった。
「ワンマン」といいつつ東京公演にはゲストがいたり(8月5日は歴史は踊る、27日にはレトロリロンが出演)、「新作を引っ提げてのワンマンライブ」といいつつ『象形に裁つ』の曲が意外なほど少なかったり(27日にどうなるかはわからないが)、相変わらず歌っているよりも喋っている時間のほうが長いんじゃないかというようなステージを展開しながら、突如ゲストを交えて架空のラジオ番組「小林私のラジオ」を模したトークショーが始まったり……もちろんギター1本で歌われる楽曲のすばらしさもさることながら、トータルでステージから匂い立つ「小林私性」が強烈だった。
そんなユニークなライブを繰り広げている最中の小林に話を聞いた。こんなライブをやっているアーティストは他にいないわけで、そこのところどう考えているのか、つまりアーティスト小林私として「ライブ」とはどういうものなのか、いろいろと語ってもらった。
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▪️ライブハウス行ってお客さんの前で歌うっていうことに対しての生きがいみたいなものは僕には全くない
──8月5日のワンマンライブ「分割・裁断・隔別する所作」東京公演、大変楽しく拝見いたしました。
小林:楽しく……だいぶオブラートに包んでくれましたね(笑)。
──いや、本当に楽しかったです。小林さんはどうでした?
小林:あんまり覚えてないんですよね……。何をしましたっけ? 僕は。
──ライブの途中で30分くらい、ラジオ番組の建て付けで喋ったりしていました。
小林:やってましたね。あそこでも何を喋ったか、あんまり覚えてない。最初に『未確認で進行形』(アニメ作品)のことを話したのしか覚えてないですね。あれしか決めてなかったんで。毎回、ツカミだけは決めていってるんですよね。
──それ以外に、「こういうライブにしたい」みたいなイメージは特になかった?
小林:いや、もう全然なかったですね。「ワンマンはあまりやりたくないな」っていうことしか考えてなかったですね(笑)。ワンマンってすることないですからね。2マンや3マンだったら相手方の演者さんと会えたりするのが面白かったりしますけど、僕の場合は本当に1人で出るだけだから、何にも起こり得ないと考えると全然面白くないですよね(笑)。
──でも、ワンマンといいつつ実態はワンマンじゃないじゃないですか。8月5日の公演では歴史は踊るが出演していましたし、8月27日にはレトロリロンが出ると。前回のワンマン<舞台では支配の力は諸君に宿る>でも清竜人さんが出演されていましたが。
小林: 1人でやりたくないっていう思いがあるんです(笑)。今回の東京の2公演はなんでゲストを入れたかっていうと、もともと僕は大阪、東京で1公演ずつで済まそうとしてたんです。でも追加公演という形で本数を増やしたほうがいいんじゃないかみたいな話が出て、それは絶対やりたくないなって思って(笑)。「追加」公演って意味わかんないなっていうのもあるじゃないですか。だから2公演やることにして、でも同じ箱で、同じテーマでやるんだったらゲストを招いてなんか変わり映えが欲しいなっていう。それでゲストを呼ぶことにしたんですよね。
──歴史は踊る、僕は初めて観たんですけど、ヤバいバンドですね、彼ら。
小林:非常に気持ちの悪い友達です(笑)。
──ひねくれすぎて、かえって愛らしくなってるみたいな。
小林:ボーカルの小林右京くんはそういうタイプですね。右京とはもともとネットつながりで仲良くなったんですけど、人間そのものはひねくれてるんだけど、曲はすごく素直に打ち出すというのが変だなと思って。日本語の使い方とかも、たとえば一人称ひとつ取ってもみんなが「僕」とか「私」「俺」を使うところに「拙者」って入ってたりとか。しかもそれがボケじゃないんですよ。彼ももとは2ちゃんねらーですから、現代の日本で全く違和感なく「拙者」を使える、かなり稀有な人間なんです。だから曲の中でも拙者がいい意味で浮いてないというか、そういう言葉選びが体に染みている、面白い人だなと思います。
──ステージで一緒に演奏もしましたけど、あれはどうでしたか?
小林:面白かったですね。単純に右京の「飛べ!彗星」って曲は好きでしたし、自分の曲をやってもらうってこともひとりでやっているとなかなかないことなんで。せっかく来てくれたお客さんにも、普段とは違ったところが見せられたのかなと思いますね。
──8月27日に登場するレトロリロンについては? 過去に対バンもやっていますし、一緒にカバー動画をあげたりもしていましたが。
小林:僕と同期なんですよ。2020年6月に初めてリリースしたという意味でもそうですし、僕が初めてノルマを払わずに出たライブでも……コロナ期間入りたてで無観客だったんですけど、もともと企画されていたものが2ヶ月ぐらい延期されて開催されたんですよね。それもあって決まっていた対バン相手が出演できなくなったりして、最終的に僕とレトロリロンのボーカルの涼音さんの2マンという形になっちゃったんです。そこで初めてお会いして、めちゃくちゃかっこいいし、ギターもクソ上手いし、みたいなところから知り合って。そしたら涼音さんがレトロリロンってバンドを組んだと聞いて。曲もすごい聴いてましたし、すごい仲良くしてくれるし、これはもう呼ぶしかないっていう思いがありました。
──そこには自分の好きなアーティストやバンドを小林私のファンに紹介したい、みたいな気持ちも少なからずあったりするんですか?
小林:ああ、紹介したいとかは全然ない(笑)。まあ、1人でやるのもなっていうのがあったんで、どうせやるなら友人と出たいなっていう。フェスとかイベントで全然知らない人ばかりのときは前日めちゃくちゃグズってるんですよ。やっぱり友人がいるってわかってる現場だとすごく気が楽というか、いい意味で遊びの延長線上で音楽ができるなという感じがあるんで、それはすごくいいことかなと思いますね。
──そういうメンタルケア的な意味合いもあってのゲストだと。
小林:それは大きくあります。まるでプロみたいな顔してのこのこ出ていって、人前に立って口パクパクして帰るっていうのに、わりと強烈に違和感を覚えているタイプなので。ライブハウス出身のミュージシャンじゃないんで、ライブハウス行ってお客さんの前で歌うっていうことに対しての生きがいみたいなものは僕には全くないので、ここが居場所だなとは思わない。フェスとか出ていっぱいのお客さんの前に立ったときに、「やっぱりここは俺の居場所じゃないな」って実感しますよね。もっと狭い暗い部屋で、インターネット越しでのやりとりがいいなって。あと、最近は暑いし。
──でもむしろその居心地の悪さみたいなのがちゃんと伝わってくるのが、小林私のライブのよさだと思いますよ。
小林:演者が居心地悪そうだと、お客さんも気持ちが楽な気がするんで。僕は人のライブとか観に行ったりしても、「みんなでひとつになろう」みたいなことって「果たしてそうかな?」と思うタイプなので。「居心地の悪い居心地のよさ」みたいなのはせめて形成しておきたいなっていう意識はありますね。
──小林私のライブの特徴として、とにかくやたら喋るというのがあるんですけど、あれも話したいことがあって話しているというよりも、曲にいくのを先延ばしにするために喋り続けているように見えることがあるんですよね(笑)。
小林:たぶんその気持ちもどこかにありますよね(笑)。歌うのが嫌いとか、そういうわけでは全然ないんですけど。
──でも、居心地が悪い中でも何がしか得られるものもあったりするんじゃないですか?
小林:人前に出る度胸みたいなのはもちろん場数を踏んできているぶんついたりはしていますけど、じゃあ面白いことを喋れるようになったかって言ったらそうでもないし、スベっても何も思わない心のほうが鍛えられているかもしれないし、それが役に立つのかって言ったら役に立たないんですよ。配信とかしてても思いますけど、コミュニケーションとしては成立してないわけですよ、ライブのMCって。めちゃくちゃ特権的な立場で一方的に喋るっていう。ステージもちょっと高かったりするし。そういう権威を持った状態で演説みたいなことをしてるので、対人コミュニケーションとしては終わってるわけです。そういう意味ではそれが何かに役立つのかって言ったら、役立ちはしないなとは思いますね。
──確かに小林さんがライブで話しているときって、何かを伝えようとしているというよりは、自分で話して誰よりも先に自分が笑うみたいな感じですよね。
小林:「笑ってくれ」ともあんまり思ってないときがありますからね。この会場で1人2人に伝わってくれたら嬉しいな、ぐらいで言っている話もあるので。みんなを巻き込んで何かやっていこうっていう意志がそもそもあんまりない。「せめてこういう場にいるんだったら、仲間の1人や2人見つけとくか」みたいな気持ちでアニメの話とかしてます。
──8月5日のライブの内容に話を移すと、「難しくてやりたくない」って言っていた新作『象形に裁つ』からの「繁茂」もちゃんとやりましたね。
小林:そうですね。セットリストを組むときに入れちゃってたんですね。「なんで入れたんだろう」って思いながらも、入れたならやるかと。でも意外となんとかなったなって。ライブ用にちょっとコード組み直したんです。それなら事故りにくいかなと思って。あれはやってよかったですね。でも、事故りにくいとか言いながら、僕は気づいてなかったんですけど、歌詞飛ばしてたらしいですね。めちゃくちゃうまくいったなって記憶で帰ったら、配信で「『繁茂』ミスってたな」って言われて(笑)。
──恐ろしい世の中ですね。もうちょっと新作の曲もやるのかなって思ったら、意外とやらなかったですね。
小林:そうですね。どうしてかは僕もわかんないんですけど。セットリストを決めるときは基本、その日のことをまず思い浮かべるんですよ。どこどこ行って、リハして、じゃあライブ始まりましたってなったらなんか喋るであろう、1曲目何にしようかな……みたいなところから、流れで一気に組んじゃいますね。脳内イメージの話ですけど、「ここは続けてもう1曲やったほうがいいな」とか「ここはもうちょっと話したいことありそうだな」とか想定して。順々に想定しながら組んでいくことがほとんどですね。
──場所とか空間とか季節とか、そういったものも結構影響しますか?
小林:まあ、そうなんでしょうね。1回、日比谷野音で<若者のすべて>(2021年の<若者のすべて #01-YOUNG, ALIVE, IN LOVE MUSIC->)っていうイベントに出していただいたときにCody・Lee(李)と対バンしたんです。それで楽屋とかに貼ってある彼らのセットリストを眺めたりしてたんですけど、そしたら何曲めかに、「雨天だった場合はこの曲」みたいなことが書いてあるんですよ。天気によってやる曲を変えるみたいなことを想定してるんですよね。それはすげえなって思いました。
──プランBがちゃんとあったってことですね。
小林:そうそう。それはすごいなって思った。あと今年<SYNCHRONICITY>っていう渋谷のサーキットイベントに出た時はMEGA SHINNOSUKEさんが出ていらっしゃったんですけど、終わったあとメガシンさんと喋ってたら「セトリではもう1曲あったんだけど、あの曲で終わるのがいちばん気持ちよかったから終わりにした」みたいなことを言っててかっこいいなと思いました。僕も喋りすぎてめちゃくちゃ押しちゃったときに1.5倍速ぐらいで1曲終わらせたことはあるんですけど、そのぐらいのびのびやっているのは僕には真似できないなって思います。
──でもたぶんですけど、観ている人は小林私はめちゃくちゃのびのびとライブやってるなって思っているはずなんですよ。好きなだけ喋って、歌いたくなったら歌って、また喋ってって、自由だなと。
小林:そうだと思いますね。でも、やっぱりどこかにリードが繋がってないと不安っていうのはあるから。「ここまでの範囲で絶対戻っていかないといけない」っていうことを考えるからこそ、のびのびしていいゾーンも作れている感じですよね。精神的に、本当に全部自由にやっていいですよだとめちゃめちゃ難しいような感じがします。
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