【ライブレポート】クボタカイ「声ありのライブが初めてで、ぐっと来るものがありました」
クボタカイが3月3日、渋谷WWWでワンマンライブ<ロマンスを持ち寄って>を開催した。到着したオフィシャルレポートをお届けする。
◆ライブ写真
2022年3月に渋谷クラブクアトロで開催された<シン・クボタ>以来約1年ぶりとなるワンマンのステージ。ポップミュージックの表現者として全方位に進化し続けていることを証明するようなパフォーマンスは、1年前とは明らかに違うものになっていた。
「別れた恋人からかかってきた電話に応える」というシチュエーションの女性の声によるスキットをSEに、バンドメンバー、そしてクボタがステージに登場する。声出しが解禁されたフロアからは歓声が上がる。そして始まった1曲目はイベントのタイトルともリンクする「ロマンスでした」だ。アコースティックギターを弾きながら、クボタが切ない心情を情感豊かに歌い上げる。
ちょっと意外なオープニングにグッと引き込まれる中、「<ロマンスを持ち寄って>、よろしくお願いします!」。そんな挨拶とともにアッパーなシンセのサウンドとビートが鳴り響く。パワフルなラップが展開する「Youth Love」だ。マイクを握ったクボタが「いくぜ!」と叫べば、オーディエンスの手が上がる。たった2曲でアーティストとしての振れ幅を見せつけるようなオープニング。一気にWWWはクボタの世界に巻き込まれていった。
そこからグルーヴィな「ベッドタイムキャンディー2号」、アカペラから始まった「Wakakusa Night.」とメロウな楽曲を続けると、一息ついたクボタ。「改めまして、クボタカイです」と自己紹介しつつ、「すごいな、声ありって」と初めて体感する声出しOKのワンマンライブに驚きを表明する。
「もしも人生が映画だったら、この人生ってハッピーエンドなのかバッドエンドなのか。ヒロインは誰で、どのくらいの値打ちがあるのか。そんな無駄なことを考えたりします。でも僕が生きた23年間をこのライブの短い時間に詰め込むので、みんなもそれぞれのロマンスを持ち寄って、重ねて、映画を見るみたいに見ていただけたら」。そんな言葉で「ロマンスを持ち寄って」というライブのテーマに込めた思いを語ると、「春に微熱」から再び音楽に身を投じていった。
そんな中、再び色合いを変えてタイトなドラムから入っていったのは「拝啓(Freestyle)」。曲名にあるとおりフリースタイルで綴られるラップではバンドメンバーに、そしてオーディエンスに向けた切れ味鋭い言葉が次々と畳み掛けられる。「クボタカイってのは超ヤバい」とラッパーらしいボースティングを挟むことも忘れない。1曲の中に詰め込まれた色とりどりの感情に、「これがクボタカイだ」と思う。「ロマンス」というのが単に恋愛に限らない「心が動く瞬間」のことだとすれば、文字通り自分の心の動くままにさまざまな楽曲を生み出すクボタカイの音楽はロマンスそのもの。揺れ動くようにして切なさと衝動のあいだを行ったり来たりしながら、曲を重ねるごとにステージから放たれる熱は高まっていく。
中盤、「ここからはちょっとゆっくりやろうかなと思います」と歌い始めたのは「アフターパーティー」だ。シンプルな弾き語りのサウンドと失恋の燻るような思いを綴った歌詞が、クボタの原風景を思い起こさせる。対照的に弾き語りにバンドのサウンドが重なっていく「せいかつ」は、そこから出発したクボタの音楽の世界がどんどん広がっていったことを示しているようだ。ゆったりとしたグルーヴに身を任せながら体を揺らして歌うクボタ。オーディエンスも気持ちよさそうにそのリズムに身を任せている。
「声ありのライブが初めてで、ぐっと来るものがありました」と改めて感慨を口にしつつ「ここから後半戦。またヒートアップしていきましょう」と告げるとフロアから歓声が上がり、その興奮をパワフルなビートとシンセサウンドが助長する。先ほどまでとは一転、ファンキーなサウンドに乗せてキレキレのラップを繰り出す「MIDNIGHT DANCING」。「TWICE」では「ハンズアップ!」という彼の声に応えてオーディエンスの手が上がり、「さあさあ、声が出せるらしいですね? 倍の熱量で返してもらえたら嬉しいなと思います」という呼びかけにコール&レスポンスが巻き起こる。素晴らしい一体感がWWWを包み込んでいく。
照明演出も美しく楽曲を支えた「博多駅は雨」を経て、クボタの口から「ひとつ、嬉しい報告があります」と、映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』の主題歌を書き下ろしたことが告げられる。そして初披露されたその新曲「隣」。ハイトーンで歌われる透き通るようなメロディ、スケール感のあるサウンド、ドラマティックな展開。間違いなくクボタカイ史上一番「大きな」歌だ。映画も、ここに集まったオーディエンスも、その先にいるリスナーも、全部丸ごと抱きしめるような楽曲をじっくりと届けると、そこからギターノイズでつないで「僕が死んでしまっても」へ。この曲は生まれて以来ずっとクボタカイのライブのキーとなり続けてきたが、こうして「隣」と組み合わされるとまた一段とエモーショナルに聞こえてくる。筆者はこの曲を儚さや絶望を歌った曲として受け取ってきたが、「隣」に続けて聴くと究極のラブソングのように思えてくる。朝日のような眩い光がフロアを照らし出した瞬間に、大袈裟にいえばクボタがすべてをかけて届けようとしている愛のようなものを受け取った感じがしたのだ。
そしてそんな気持ちをさらに高めてくれたのが、本編最後に披露された「ピアス」だった。これは表層的には恋愛の歌とも取れるが、歌い始めるにあたってクボタはこう語った。「ありがとうございます。拍手にパワーと愛情を感じます。でも僕、返せるの音楽しかないから。これからもいろんな人生で心に傷や穴、増えていくだろうし、なんなら今もあるだろうし。それを少しでも埋められたら、僕は音楽をやって大成功だなと思います。できればこれからもずっと耳のそばにいさせてほしい」。自分の、そしてリスナーの心の穴を埋める「ピアス」としての音楽。そんな思いを込めた真摯な歌が届けられ、喝采の中ライブは一旦の終幕を迎えた。
その後アンコールではバンドメンバーを紹介しつつ目下の最新曲「夢で逢えたら」を披露。さらに万華鏡のような幻想的な光の中「MENOU」を歌い上げると、最後はお客さんと記念撮影。ひとりの風景や心情も、バンドメンバーにオーディエンス、みんなで作り上げた美しい一体感も、全てを表現し切ったワンマンライブ「ロマンスを持ち寄って」はこうしてフィナーレを迎えたのだった。
取材・文◎小川智宏
撮影◎ヤオタケシ
セットリスト クボタカイ<ロマンスを持ち寄って>
1.ロマンスでした
2.Youth love
3.ベッドタイムキャンディー2号
4.Wakakusa Night.
5.春に微熱
6. エックスフレンド
7. 拝啓(Freestyle)
8. Sunset City
9. アフターパーティー
10. せいかつ
11. MIDNIGHT DANCING
12. ひらめき
13. TWICE
14. 博多駅は雨
15. 隣(新曲:映画「サイド バイサイド 隣にいる人」主題歌)
16. 僕が死んでしまっても
17. ピアス
EN1. 夢で逢えたら
EN2. MENOU
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