【インタビュー】猫戦、古今東西のポップスへの深い愛情を多彩なサウンドで開花
■等身大のことを頑張ってやっているところがあって
■チープな音色が鳴っていてもそう感じさせないアルバムになりました
――では、猫戦の作品のお話をしましょう。『蜜・月・紀・行』には10曲が収録されていますが、シングルや配信で既にリリースされている曲も含まれていますよね?
原田:はい。シングルは8cm CDでのリリースで、今回のアルバムは初めての全国流通盤なので、それも踏まえて選曲しました。シングルのリリースの度に買っていただけるのもとてもありがたいんですけど、媒体を問わずにたくさんのみなさんに曲をお届けしたいという想いがあったんです。だから猫戦がこれまでにリリースした曲や、ライブでよくやっている曲も収録しました。あと、今、私たちは大学の4回生なんですけど、“学生時代ベスト”“初期の猫戦”みたいな感じで1枚にまとめたい気持ちもありました。
――8cm CDでのリリースは、なかなかインパクトがありましたよね。長方形のあの形のジャケットは、平成初期に主流だったパッケージですから。
原田:8cm CDがたくさんリリースされていた頃の曲がすごく好きで、小沢健二さん、Charaさん、YUKIさんのシングルを私も買っていて、そういう音楽のエッセンスも猫戦にはあると思っているんです。だから自分たちの曲をCDでリリースする際に単なるデータ媒体みたいにしてしまうことに物足りなさを感じたんですよね。パッケージとしてもこだわって、バンドとしてのスタイルの提示もしながらお届けすることに意味があると思って、8cmでリリースすることにしました。
――1stシングルは2020年2月にリリースされた「鶴」ですが、かっこいいですね。70年代的なテイストを感じますし、ギターのサウンドが渋くて心地よいです。
小原:ギターは70年代のストラトキャスターを弾きました。美桜ちゃんから借りたんですけど。
原田:もともとは母の知り合いのギターです。
小原:ずっとレスポールを弾いていたので、ストラトはあんまり使ったことがなかったんです。あんまり慣れていない楽器の演奏が音源として残っているんですけど(笑)。でも、それも味なのかなと思っています。
――原田さんの歌にも、とても惹かれました。熱唱ではなくて、平熱の感じで切ない想いが深く伝わってきますから。
原田:“平熱の感じ”というのは、すごく嬉しいです。“不機嫌な感じで歌おう”って思って、“無愛想な感じで歌います”って言ったら、スタジオにいた人たちが“どういうこと?”ってなったんですけど(笑)。でも、おっしゃる通り、平熱の感じを出したかったんです。
――「オー・エル」も、やるせない感情が伝わってきます。
原田:歌詞は自分の個人的な感情を誰に伝えようとするのでもなく書くことが多いんですよね。「オー・エル」は“ダウナーなテンション感だけどエモーショナル”みたいなのが表れていると思います。先程もお名前を出した古内東子さん影響が出ているのかなと。古内さんの悲恋の描写の大人な雰囲気に憧れて、19歳くらいの頃に書いてみた曲です。
――「Lovers・・・?」「Private Beach」とかもそうですけど、意味やストーリーを自由に想像できる謎かけみたいなニュアンスが漂う歌詞ですね。
澤井:僕は歌詞をあまり見ないで音楽を聴くタイプで、音として向き合う感じがあるんです。さっき原田が“誰に伝えようとするでもなく書くことが多い”って言っていましたけど、そういう不思議な感じが音として面白いんですよね。
井手内:リスナーのみなさんが一番聴きたいのは、やっぱり歌だと思うので、僕はそういうことを考えながら楽器を演奏しています。“いろいろな受け止め方、想像の仕方ができる歌詞の言葉をちゃんと届けよう”と思わせてくれる歌詞なんです。
小原:僕もわりと澤井くんと感覚が似ていて、歌詞の意味はあまり意識していないです。カラオケとかに行って歌って“気持ち良いな”って思う時に歌詞を意識する感じの曲というか。まあ、僕はまだカラオケで歌ったことはないですけど(笑)。多分、猫戦の曲はカラオケで歌ったら気持ち良いと思います。
――猫戦の曲をカラオケで歌うコツみたいなものは、何かありますか?
原田:「Pap Love!」を私がカラオケで歌った時、背景動画で坊ちゃん刈りみたいな男性が車のボンネットに手を置いて、横浜のみなとみらいみたいなところに立っていたんです。猫戦のみんなは昔のトレンディーな雰囲気の時代の音楽も好きで、この曲にもそんな要素が表れていると思います、だから、そういう感じに没入しながら歌うと良いかもしれないですね。
――「Pap Love!」は、背伸びをしようとしている恋愛の様子が伝わってくる曲ですね。
原田:書いたのが子供の頃ですから(笑)。18歳とかの時期です。今よくよく考えながら歌うと恥ずかしさもあるんですけど。我ながら若さ弾ける感じですね。
――若々しさという点だと「Lovers・・・?」のファンキーなベースは、そういう雰囲気を感じる音です。
原田:高校時代の彼を引き出しました(笑)。
澤井:深く考えずに弾いたら、バキバキになっていました。
――猫戦の曲はアウトロもかっこいい曲がたくさんありますよね。「キャビア~Black Pearl~」とか、フェイドアウトで終わる曲が結構あるのも印象的です。こういうところにも70年代辺りの音楽のテイストを感じます。
原田:フェイドアウトのために長くソロを弾いてもらっていたりするので。最近、小原もフェイドアウト慣れしてきて、“この辺からフェイドアウト? どうせ使わんとちゃう?”とか言ってくるようになりました(笑)。
小原:アウトロでフェイドアウトしている曲は、使われている部分より1分くらい長く弾いていることがよくあります。
――アウトロが特にかっこいい曲に関しては、「サテライト」「蜜月」辺りですかね?
原田:歌を活かす演奏してくれているので、アウトロは羽を伸ばすというか。それまで我慢しているわけではないですけど(笑)。でも、楽しんで演奏しているのが伝わってきますよね。楽器のエネルギーが一番集まっているのがアウトロなのかなと思います。“アウトロが終わらないで欲しい”と思える曲って、良い曲じゃないですか?
――おっしゃる通りです。
原田:“この曲、終わらないで欲しい”って思っていただきたいんです。
――「蜜月」は、描かれている風景も、ずっと続いていて欲しい幸せですからね。《セーターに袖を通す冬の朝に あなたは夏の私が楽しみと、言った》とか、どう考えても幸せな状況じゃないですか。
原田:美しい瞬間を切り取りたかったんです。「Pap Love!」を書いた頃と比べると自分自身がグレードアップしているような気がしていて。22歳のくせに偉そうなんですけど(笑)。でも、余裕が出てきているというか、目に映るものに対するいろいろな感情が浄化されてきている感じがするんです。その感覚を残したいと思って「蜜月」を書きました。
――2021年の7月に配信した「ヴァーチャル・ヴァカンス」は、アコースティックサウンドの“honeymoon ver.”も収録されていますが、サニーデイ・サービスの曽我部恵一さんが“好き過ぎるんです”というツイートをしていらっしゃいましたね。
原田:とても嬉しいです。そのツイートを見た時は、びっくりしたんですよ。ありがた過ぎて罰が当たりそう(笑)。
――(笑)。配信したもともとのバージョンはスチールパンの音が鳴っていたり、トロピカルテイストですね。
原田:はい。大滝詠一さんみたいなトロピカルなイメージというか。詳しくはないんですけど、私はブラジル音楽、ラテンミュージックとかもかっこいいと思っていて。そういう音楽を日本人がやった感じ、“本当のラテンじゃない”というか、J-POPにあるトロピカルな雰囲気の曲です。私たちはラテン気質じゃないのに、やってみたニュアンス。本当の意味で開放的になりきれずに箱に収まってしまう開放感。“こういうのやってみたい”っていうのが出発点だったので、猫戦の中では珍しいタイプの曲です。
――タイトルにも表れていますけど、この曲、実際に海には行っていないですよね?
原田:はい。2020年の夏や春に海外旅行のチケットの予約をしていたんですけど、コロナの影響で全部キャンセルになっちゃって。行こうと思っていたホテルのブックマークを見ていた状況と、似非異国情緒ミュージックをやりたいっていうのをかけ合わせて、この曲を作ってみました。
――インターネットが普及する前、海外の情報が限られていた時代の息吹を感じます。絵葉書の写真を眺めながら異国のムードを表現する感じというか。
原田:私は大学で観光学を専攻していたんですけど、観光業が始まった頃のこととかもたくさん勉強したんです。当時のバックパッカーは『地球の歩き方』とかのガイドブックが毎年更新されるのを見て現地に行っていたらしいんですけど、80年代の旅行雑誌とかむちゃくちゃなことがいっぱい書いてあって(笑)。情報が乏し過ぎるあの感じが、私は好きなんですよね。
――この曲、スチールギターっぽいフレーズも入っていますね。
小原:ラテン音楽はあまり聴いたことがなかったので、本を買ってちょっとだけ研究しました。普通のギターでスライドプレイをしたんですけど、何を使ったんだっけ?
原田:なか卯の開店記念のプラスチックのレンゲです。
小原:そうだった(笑)。普通はボトルネックとかを使いますけど、レンゲで代用しました。
――この曲を完コピしたい人は、レンゲを用意しないといけないですね。
小原:はい。開店するなか卯に行って手に入れてください(笑)。
――(笑)。井手内さんは、プレイ面でアピールしておきたいことはありますか?
井手内:「ヴァーチャル・ヴァカンス」と「サテライト」で、僕はコンガを叩いておりまして。個人的にコンガが大好きなんです。そこもぜひ聴いていただきたいですね。
原田:陸のコンガは、似非異国情緒の要になっています(笑)。
――(笑)いろいろなことをやったアルバムですね。先ほど“学生時代ベスト”と原田さんがおっしゃっていましたが、卒業制作という感覚もあります?
原田:そうですね。まさに卒業制作です。楽器も上質なものを使っているわけではなくて、ストリングスの音とかは全部打ち込みでやっていますから。でも、そういうところも愛せるんですよ。手前味噌ですけど、すごく曲が好きです。等身大のことを頑張ってやっているところがあって、チープな音色が鳴っていてもチープに感じさせないところがあるアルバムになりました。
――自分たちにできる範囲で最大限に良い音を鳴らすガッツも感じる作品ですよ。
原田:ガッツはすごくあります!
――今後の活動に関してはツアーがありますが、3月19日の京都・西院 NEGA POSIでの公演はワンマンライブですね。
原田:はい。翌日が大学の卒業式なんですけど。
――卒業式前夜祭?
原田:そういうことになります(笑)。大学の卒業とは関係ないですけど、1つの区切りとして意味のあるツアーにできたら良いなと思っています。
取材・文:田中大
リリース情報
2022.02.02 Release
\2,500+税 NCS-10267
01.鶴
02.オー・エル
03.Lovers・・・?
04.Private Beach
05.ヴァーチャル・ヴァカンス
06.サテライト(Album ver.)
07.キャビア ~Black Pearl~
08.Pap Love!
09.蜜月
10.ヴァーチャル・ヴァカンス
(honeymoon ver.)
https://nekosen.lnk.to/mitsugetsukiko
ライブ・イベント情報
3.11(金)名古屋/鶴舞KD ハポン
w/ Foods ,えんぷてい
3.19(土)京都/西院 NEGA POSI
One-Man Live
【詳細・予約】https://linktr.ee/Nekosen
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