【インタビュー】ザ・ブラック・キーズ、ダンが語る「カバーしたのは古い曲だけど、新しい感触が最高」
ザ・ブラック・キーズが5月26日、通算10枚目となるスタジオアルバム『デルタ・クリーム』(日本盤CD)をリリースした。同作品は彼らのルーツとなる“ミシシッピ・ヒル・カントリー・ブルース”のスタンダードナンバーのカバーアルバムとなるもの。USミシシッピ州北部の丘陵地帯“ヒル・カントリー”に出現したミシシッピ・ヒル・カントリー・ブルースは、ヒプノティック(催眠性)と評されるギターフレーズの反復とドラムによって引き起こされるグルーヴが特徴的だ。R. L. バーンサイドやジュニア・キンブロウのナンバーをはじめ、ザ・ブラック・キーズ結成前の10代の頃から愛してきたナンバー11曲を収録した。
◆The Black Keys 画像 / 動画
レコーディングはナッシュビルにあるダン・オーバック(Vo&G)所有のイージー・アイ・サウンド・スタジオにて行われ、ブルースレジェンドのバンドで長年活躍してきたケニー・ブラウン(G)とエリック・ディートン(B)が参加。先行シングル「クロウリング・キングスネイク」時、ザ・ブラック・キーズの二人はレコーディングを振り返ってこう語っている。
「最初にジョン・リー・フッカーのバージョンを聴いたのは高校生の時だった。私の叔父のティムがそのレコードを僕にくれたんだ。でも、僕らのバージョンは間違いなくジュニア・キンブロウのテイクだね。ディスコなリフだよ!」──ダン・オーバック(Vo&G)
「この曲のイントロのドラムフレーズは、偶然にできたものなんだ。最終目標は、ギターとの相互作用を強調することだった。より深いグルーヴを生み出そうとエリックとトライしたよ」──パトリック・カーニー(Dr)
これまでにグラミー賞を6回、BRITを1回受賞したほか、北米、南米、メキシコ、オーストラリア、ヨーロッパのフェスティバルでヘッドライナーを務めるザ・ブラック・キーズ。その最新作パーソナルインタビュー第二弾はダン・オーバック編だ。
◆ ◆ ◆
■俺たちのヒーローと一緒に演奏できた
■ただ楽しむためにプレイしたんだ
──前代未聞の1年間になりましたが、コロナ禍をどのように過ごしていましたか?
ダン:ずっとスタジオで仕事してたよ。たくさんの曲を作った。あとはバイクに乗ったり、友達と遊んだりして過ごしてたね。
──そう聞くと、良い1年だったみたいですね。
ダン:そうなんだよ(笑)。すごくラッキーなことに、とても良い1年だった。大人になってから、こんなに長期間、自分のベッドで寝られたことがなかったからね。
▲The Black Keys |
ダン:ミシシッピ・ヒル・カントリー・ブルースには、催眠的というか瞑想的な力が間違いなくあるからね。ジュニア・キンブロウとかR.L.バーンサイドは、その巨匠だった。彼らはこの曲をライヴで7分とか8分とか演奏し続けるんだよ。その結果、ダンスフロアの観客はトランス状態になる。だから、すごく特別な魅力があるんだ。
──レコードを聴いていただけではなく、彼らのショウも観ていたんですね?
ダン:そうだよ。当時の俺はショウを観るためにバーとかへ行ってた。R.L.バーンサイド、T-モデル・フォード、ロバート・べルフォー、ロバート・ケージ、ポール・ジョーンズとかをね。彼らの楽曲は2000年代初期にリリースされていた現代のものなんだよ。当時ミシシッピ・ヒル・カントリー・ブルースの復興が起こって、本当に素晴らしかったんだ。
──そんなことが起こっていたとは、知りませんでした。
ダン:そもそもニッチな音楽だから、メディアに取り上げられることがなかったんだよ。でも、本当にスペシャルな音楽で。俺にとってジュニア・キンブロウやR.L.バーンサイドは、サン・ハウスやスキップ・ジェームスと同様に重要なアーティストなんだ。
──レコーディングはたった2日間約10時間で終わったそうですが、パトリックに加え、今回のレコーディングに参加したケニー・ブラウン(G)とエリック・ディートン(B)と演奏している間、どんな気分でしたか?
ダン:最高だったよ。そのレコーディングを行なった週頭に、ロバート・フィンリー (ダンのレーベル“イージー・アイ・サウンド”所属アーティスト)のアルバムを制作してて、ケニーとエリックに参加してもらったんだ。俺は長年、彼らのファンだったんだけど、一度も一緒にレコーディングをしたことがなかったんだよ。ロバート・フィンリーのレコーディングの流れで、彼らと一緒にプレイを始めたら、ものすごく楽しくて、しかも自然だったんだ。で、パット(パトリック・カーニー)に「明日何してる?」って電話したら、その翌日にパットがスタジオへ来ることができて、一緒にレコーディングしたんだよ。ただ、“レコーディングしよう”とか話し合って決めたわけじゃなくて、ただ楽しむためにプレイしたんだ。このアルバムは、そうやって完成したものなんだよね。
──カバーする曲はどうやって選んだのですか? 全てザ・ブラック・キーズの二人がコピーしたことのある曲?
ダン:俺たちが好きな楽曲を挙げてカバーしていったんだけど、一度もプレイしたことがないものも幾つか入ってるよ。もちろんケニー(R.L.バーンサイドのバンドメンバーだった)は、この音楽スタイルの創始者のひとりだから、実際にこれら楽曲の多くを演奏してきてるけどね。それにエリックも、ミシシッピ・ヒル・カントリー・ミュージックの歩く辞典のような人だから、演奏した曲はすべて知ってた。自分たちのヒーローと一緒に演奏できたことに加えて、初めてプレイする曲もあって楽しかったよ。演奏中、部屋に立ち込めたエネルギーが本当に素晴らしかったんだ。部屋にはもうひとり、パーカッション奏者がいて、彼もロバート・フィンリーのアルバム制作のために前日にスタジオに来てたんだ。タンバリンやコンガを演奏してもらったんだけど、俺たちは一度もこういった編成で演奏したことがなかったからね。だから、カバーしたのは古い曲だけど、新しい感触が得られて最高だったし、面白かったね。
▲カバーアルバム『Delta Kream』 |
ダン:いや、そうじゃないよ。たまたま時期が重なっただけ。でも、彼が亡くなったことを聞いたときは悲しかったよ。18歳の俺が最初にミシシッピー州を訪れた時、父親と一緒にジュニア・キンブロウのジュークジョイント(南部にある黒人経営のクラブ)に行ったんだ。そこは日曜日しか開いてなくて、俺たちは早い時間に行って、ジュニアの息子でドラマーのケニー・キンブロウに会った。そうしたらケニーから、「実は、俺の兄弟のデヴィッドが刑務所に入ってる。保釈金を貸してもらえたら、彼を刑務所から連れ出すことができて、曲を演奏しにここへ来られるんだが」って言われたんだ。それでお金を貸して、ケニーがデヴィッドを連れてジュークジョイントに帰ってきた。デヴィッドは一晩中、そこでプレイしてくれたんだよ。ゲリー・バーンサイドがベースを弾いて、ケニーがドラムを叩いてね。驚異的だったよ。俺の人生が変わる体験だった。
──最高のエピソードですね!
ダン:しかもその晩の終わりに、彼らは貸したお金をちゃんと返してくれたんだよ。その晩のビールの売り上げでね。
──なんていい話。先日、パトリックにも取材をしたのですが、「ダンがジュニア・キンブロウにハマっていた時に、俺はR.L.バーンサイドを聴くようになった」と言っていました。
ダン:パット(パトリック)はジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンの影響で、R.L.バーンサイドを聴くようになったんだ。ジュニア・キンブロウやT-モデル・フォードを教えた俺は、パットをさらに奥深くに引きずり込んだんだよ。
──ダン自身は、どのようにミシシッピー・ヒル・カントリー・ブルースを発見したのですか? お父さんの影響とか?
ダン:いや、ひとりで漁ってた。最初に聴いたファット・ポッサム・レコーズ(ミシシッピー州のインディーレーベル。ジュニア・キンブロウやR.L.バーンサイドが所属していたほか、ザ・ブラック・キーズも『Thickfreakness』(2003年)と 『Rubber Factory』(2004年)をリリース) のアルバムはレーベルのサンプラー盤だったと思う。カプリコーン・レコードがディストリビュートしてて、ジュニア・キンブロウやR.L.バーンサイド、ポール・ジョーンズの曲が入ってて、ロバート・パルマーが解説を書いていた。あのアルバムも、俺の人生を変えたんだ。俺の目を開かせて完全に新しい世界を見せてくれた。これらのブルースは現代に発表されている曲で、実際にライヴを観に行くことができたんだ。最高だったよ。確か俺が17歳か18歳の頃だった。
──地元のオハイオ州アクロンでこれらの音楽を聴いている人は、ほかにいなかったでしょうね?
ダン:うん、俺とパット、あとは近所の友だちに聴く奴がひとりいたけど、彼はほとんど楽器をプレイしてなかったな。
──パトリックは「この音楽がなかったら、ザ・ブラック・キーズは存在しなかった」と言っていましたが、ダン自身もそう思っていますか?
ダン:100%そうだよ。彼らミュージシャンたちがいなかったら、ザ・ブラック・キーズもなかった。
◆インタビュー【2】へ
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