【レビュー】竹内夢、枠に収まらないポテンシャルの1stミニアルバム『rêve』
竹内夢が本日5月5日に、アーティストデビュー作となる1stミニアルバム『rêve』をリリースした。
NHK Eテレ『おとうさんといっしょ』の“歌のお姉さん”、またミュージカルや舞台女優としても知られている竹内だが、それらの活動の原動力になっていたのは「歌をやりたい」という気持ちだ。
世界中がコロナ影響下にある2020年以降の情勢のなか、何ができるだろうを自身を見つめ直した時に「このまま歌わないでいるのは違う」と感じたという竹内。YouTubeでの歌配信を始めた。そんな彼女の動きに対し、かねてから縁のあった音楽家・プロデューサーのシライシ紗トリが贈ったある助言が、竹内夢をソロ・アーティストの道へと導いていく。
1stミニアルバム『rêve』は、2人のタッグから生まれたクリエイティビティ満点の作品に仕上がった。制作の過程で明らかになった竹内夢のポテンシャルを、各曲レビューから楽しんでいただきたい。
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M.1 月とハニー
アーティスト・竹内夢の初のオリジナルソングとして4月21日、今作のリード曲として先行配信された「月とハニー」は入りのドラムからしておしゃれ度満載。小粋で都会的ネオアコサウンドがちょっと懐かしくもあり、新しくて心踊る。竹内の歌はポイントポイントにやってくる絶妙な転調、高低差の激しくメロディを自転車のペダルをこぐように軽快にのりこなす。その歌を声色や単語の発音などのさじ加減で場面ごとに表情を微妙に変え、歌詞の物語を表現していくところは、ミュージカルや舞台をこなしてきた彼女だからこそ。
この曲のなかでもっとも中毒性ある“パパッパ”のコーラスは、本来前半しか入っていなかった。それを竹内が自身のひらめきで後半まで歌ったものをプロデューサーのシライシ紗トリ氏が「いいじゃん」といって採用し、この形になった。そのシライシ氏が監督をつとめたMVでは「カメラに向かって笑わないで歌う表情を研究した」と竹内。歌のお姉さんのときは見られない笑わないアクトが見どころだ。
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M.2 イルミレイン
M1の最後、“好きな曲すら知らないけど、君に好きでいて欲しいんだ、この先何が起こるかわからないけど、見えないんだけど、楽しみだから”と宣言して、アーティストとしての第一歩を踏み出した竹内。M2の「イルミレイン」はサビ歌始まり。冒頭からぐいぐいと竹内の歌が前のめりぎみに入ってくる。“とうとう違う扉開けてしまった”と歌うように、この歌で見せるクールな表現、佇まいはアルバムのなかでもファンがもっとも「こんな夢ちゃん、見たことない」と驚いた姿ではないだろうか。
楽曲自体はSNSを中心にヒットを生み出すいまのネットシーンやアニソン、デジタルなネオソウル、そのいいところを掛け合わせたような今風サウンド。それをグロッケンのようなキラキラ光る音と、柔らかいエレピ、竹内の“アーアーアーアー”のクールなコーラスをアクセントに緩急をきかせて曲は展開していく。Bメロパートでは、離れ離れになった2人の距離感を思わせるようにオクターブ離れた歌をダブルで重ね合わせ、それによって、歌がさらにせつない旋律となって、ロストラブ後のメランコリックな感情をかきたてていくところはお見事。
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M.3 アイノウタ
このミニアルバムのなかで一番最初にレコーディングを行なった曲がこれ。シライシ氏の頭のなかには、レコーディングをする前からすでに竹内が「この曲を歌っているイメージがあった」のだとか。
「アイノウタ」自体は、アコースティックギターとリズムを刻むシェイカーというシンプルなサウンド構成。このアルバムのなかでもっとも音数を抑えたアレンジがほどこされているためか、曲が始まるとアコースティックギターの弾き語りでこの曲を歌っている竹内の姿が目の前にすっと浮かびあがって、優しい旋律と歌声が耳から体へと溶けていき、幸せなひとときをもたらせてくれる音楽ゾーンへと導いてくれる。このようなふくよかな音楽体験ができるのも、アンプラグドでオーガニックなサウンドと竹内のナチュラルな歌声との相性が抜群だからこそ。思わず身をゆだねたくような心地よさだ。シンプルだからこそ竹内は「この言葉をどう歌うかとか、細かいところまで紗トリさんとキャッチボールをしながら歌の表現を見つけていった曲」とコメント。
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4.Brand New Shoes
「こう歌うのか。俺はこんな歌い方できねぇや」とシライシ氏がアーティストとしての竹内の歌にもっとも驚かされ、打ちのめされたという曲がコレ。「Brand New Shoes」というタイトルからは明るく軽快な曲調を想像しがちだが、この曲自体はバラードナンバーに仕上がっている。同じバラードでもM3のシンプルでオーガニックな「アイノウタ」とは対照的に、サウンドアレンジは静かな打ち込みからバンドサウンドへと広がっていくエモい作りになっている。サウンドに引っ張られて、歌も過剰に歌い上げたくなるところを、竹内は抑制を効かせ、最後までこれを切々と自分自身に言い聞かせるよう歌っていく。そこが聴いていてピュアで初々しい。
新しい靴でスキップしたり、不安になって止まったりしながらも、太陽と月の下、その両方を歩いてすすむよと歌うこの曲は、竹内がこれから歩んでいくアーティスト人生の道しるべとなるだろう曲。“すすむよ すすむよ”とレイヤーさせたコーラスで残像音を残していく部分は、これからのアーティスト人生でたくさん足跡を残していけというシライシ氏から竹内へのメッセージのようにもとれる。
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M.5 LOOKING FOR YOU
今作のなかでもっとも異彩であり、強烈インパクトを放つこの曲は「1曲ぐらい自分で作ってみたら?」というシライシ氏の発案で、竹内が初めて作詞・作曲にチャレンジし、文才ある姉の竹内心をも巻き込んで、完成までたどりついた自作曲だ。メロディを先に考え、思いついた竹内は「それだけを紗トリさんに渡すのもあれだなと思ったんで、とりあえずパッと思いついた歌詞を書いてつけて。あとからちゃんとしたものを書こうと思ってたんです」とコメント。そのときに、サビに入れてしまったのが「にゃーにゃーにゃー」で、その後どんなに考えてもこのインパクトを超える言葉が思いつかなかったため、竹内は姉に声をかけて、歌詞の後半のストーリーを考えてもらったそう。「そうしたら頼んだ翌日には書いてくれました」と竹内。
シライシ氏はそんな竹内姉妹について「どちらも違う種類の方向にぶっ飛んでいるから、2人とも面白いですよ」と話している。これから竹内夢がソロライブを開催するようになったときは「にゃーにゃーにゃー」がオーディエンスのシンガロングパートとなり、ライブでのキラーチューンに育っていきそうなポジションにいる楽曲だ。
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6.時をかける少女
アルバムのラストを締めくくるのは、竹内夢がアーティスト活動の第1弾として4月7日に配信でリリースしたこちらのカバーソング。この曲は原田知世が自身の主演映画『時をかける少女』の主題歌として歌い、大ヒットさせた原田の代表曲で、この曲を書き下ろした松任谷由実のセルフカバーをはじめ、これまでたくさんのアーティスト、バンドがカバーしてきた超人気曲だ。
「時をかける少女」は原田知世が作っていた音楽の世界観が似合うんじゃないかと思っていたシライシと、リアル世代ではなににも関わらず「以前から原田知世さんの音楽は好きで聴いてて知ってたんです」という竹内の考えが見事なまでにシンクロして、この曲のカバーが実現。穏やかな昼下がりを思わせるボッサテイストをほんのり交えたオーガニックなサウンドのなか、爽やかすぎずない抑制をきかせた透明感ある歌声に、歌詞のロマンチックな部分を演出するようにときおり甘い声を混ぜ合わせた歌の表現が、聴く人の緊張を自然とほぐし、和ませていく。そうして“過去も未来も星座も超えるから”という強い一節が今後の竹内の活動への意気込みとなって届いてきたところで、今作は幕を閉じていく。
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文◎東條祥恵
竹内夢 1st ミニアルバム『rêve』
¥1800(tax in)
品番 NMCD-0001
[収録曲]
1)月とハニー
2) イルミレイン
3) アイノウタ
4) BrandNewShoes
5) LOOKING FOR YOU
6)時をかける少女
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配信情報
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配信シングル第1弾 「時をかける少女」 配信中
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▲写真上:竹内夢/写真下左から:シライシ紗トリ、竹内夢(撮影:野村雄治)
対談インタビューはこちらから読めます。
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