【コラム】どこへでも飛べる自由型ポップバンド、それが緑黄色社会
緑黄色社会のニューアルバム『SINGALONG』が売れている。4月22日に配信リリースされるやいなや、すぐさまiTunes総合ランキング、iTunes J-POPランキング、LINE MUSICアルバムリアルタイムランキングで1位を獲得し、自己最高ランクを軽々とクリア。カラフル、パワフル、ビューティフルな新しいポップの世界を提示することで、なかなか出口の見えないおうちライフ、ささくれがちな心を抱える音楽リスナーを癒し楽しませてくれている。
そもそもリョクシャカ(と愛称で呼ばせてもらおう)は、10代のバンド・コンテストでいきなり脚光を浴びた、早熟なバンドだ。男女混成のフレンドリーな親しみやすさ、ロックバンドながらストレートな歌もの志向、マニアをにやりとさせるひとひねりしたポップセンス、そして何と言ってもボーカル&ギター・長屋晴子の、クール・ビューティーな魅力溢れる歌声とルックス。それがひとたびライブになると、驚くほどにエモーショナルな演奏と熱い歌をぶつけてくるイメージのギャップも魅力的だった。
しかし、現在の音楽シーンはある意味ジャンルレスの戦国時代。バンド、ユニット、アイドル、ダンス&ボーカル、声優、YouTuber、すべてが同じラインの上で、リスナーの直感によってスマホやネット上で選ばれる、面白くも難しい時代。早熟な10代が現在は20代、アマチュアからインディーズ、メジャーに至る時間の中で、ライブ・パフォーマンスの強化を含め、人知れぬ試行錯誤を地道に積み重ねてきたことは想像に難くない。リョクシャカは1日にして成らず。その結果としてのブレイクは、いちリスナーとしてシンプルにうれしい。
『SINGALONG』には、強力なタイアップ曲が4つ入っている。映画『初恋ロスタイム』主題歌「想い人」、ドラマ『G線上のあなたと私』主題歌「sabotage」、アニメ『僕のヒーローアカデミア』第4期文化祭編エンディング曲「Shout Baby」、そして『パルティ』CMソング「Mela!」。それぞれに、ピアノと弦の王道ロックバラード、疾走感たっぷりのポップチューン、切ないメロディのアップテンポ、ホーン入りのハッピーなダンスロックと、くるくる変わる表情豊かな楽曲たち。ほかに、妖しくダークなエレクトロチューン「inori」、明朗メロディックな「スカーレット」、泣けるバラード「冬の朝」など、バラエティ度は満点だ。
中でも、公開からおよそ3週間で、YouTube400万再生を突破した「Mela!」のミュージックビデオは、アルバムのヒットを強力に牽引する機関車だ。サムネイルだけでぐっと目を惹きつけるアニメーションの映像を監督したのは、フィルム・ディレクターNao Watanabe。大手企業CMの制作のほか、様々なアーティトの映像、ライブDJもこなす、リョクシャカと同世代の若き俊英。エナジーと勢いのあるバンドは、同じくエナジー溢れるクリエイターを惹きつける。相乗効果で、音楽と映像の魅力は何倍にもふくれ上がる。
アニメの主人公は孤独なオオカミ、デフォルメされた渋谷(?)の街並み、ジョージ・オーウェル的に擬人化された動物の寓話、古今東西の童話のオマージュ(さて、いくつあるだろう?)、8名のクリエイターが手掛けたシーンごとにタッチが変わる緻密な作画(これも優れたオマージュ)。そこまでするか?と驚くほどの情報量とスキルとセンスを詰め込んだ映像と、ポップにはじけるメロディ。その中にくっきりと浮かび上がる、「こんな僕も君のヒーローになりたいのさ」というパンチライン。歌に合わせて映像が作られたのか、この映像の主題歌として作られたのが「Mela!」なのかわからなくなるほど、画と音とのシンクロ率はばっちりだ。
ちなみに4月29日から、「Mela! おうちでSINGALONG ver.」として、メンバー個々のおうち演奏を組み合わせた、新バージョンのミュージックビデオも公開中。笑顔いっぱいのメンバーの明るい表情、特に長屋晴子の、画面からこちらに飛び出してきそうなほどパワフルな歌いっぷりがいい。メンバーが登場しないアニメバージョンと対になる映像として、そして2020年4月のおうちライフをいつか懐かしく思い出すための記録として、一見をお勧めする。
リョクシャカはバンドだが、いわゆるバンドサウンドだけにこだわってはいない。メンバーにキーボーディストがいて、ドラムはサポートということもあり、様々な装飾音やプログラミングもばんばん使う。メンバー全員が作曲できるので、曲調もサウンドの幅も自然に広がる。様々なテーマの映画、ドラマ、アニメのテーマソングにもすんなりなじむ。極論すれば、長屋晴子の凛とした歌声が真ん中にありさえすれば、どんな音でも画でもいいのかもしれない。どこへでも飛べる自由型ポップバンド、それがリョクシャカ。
5月16日から始まる予定だったリリースツアーは、残念ながら開催見合わせ。しかし『SINGALONG』で見せた大きな飛躍と成長は、このアクシデントをばねにして、次に4人がステージに現れる時により力強いものになっているだろう。その日を楽しみに、そして日々の暮らしと命を大切に。さあ、『SINGALONG』をもう一度聴こう。
文◎宮本英夫
ニューアルバム『SINGALONG』
※CD発売日未定
1.SINGALONG
2.sabotage(ドラマ『G線上のあなたと私』主題歌)
3.Mela!
4.想い人(映画『初恋ロスタイム』主題歌)
5.inori
6.Shout Baby(アニメ『僕のヒーローアカデミア』第4期第2クールエンディングテーマ)
7.スカーレット
8.⼀歩
9.愛のかたち
10.幸せ
11.Brand New World
12.あのころ見た光
13.冬の朝