ザ・チェインスモーカーズ、ヒット曲集としてはもちろん一編の作品としても意外な発見がある『ワールド・ウォー・ジョイ』

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俳優の新田真剣佑をフィーチャーしたザ・チェインスモーカーズの「クローサー(トーキョー・リミックス)」が大ヒットを記録している。洋楽チャートのみならず、総合シングルチャートでも上位ランキング入りを果たし(オリコン週間デジタルシングルチャートで初登場7位の快挙(2020/2/17付))、同シングルのショートビデオの動画再生回数は公開からわずか1日でミリオンを達成した。現在(2/27付)670万回を突破中。洋楽シングルとしては異例中の異例と言える様相だ。


ザ・チェインスモーカーズ(以下チェンスモ)によるオリジナル曲「クローサー」は、彼らにとってもキャリア史上最大のヒット曲。ビルボードの全米シングルチャートで12週連続1位を記録し、アメリカ国内だけを見てもダイアモンドセールス(1,000万枚)に認定されているほどだ。日本でも長期に渡って大ヒットを記録、洋楽ファンにはすっかりお馴染みだろう。同曲にフィーチャーされた女性シンガー、ホールジーへの注目度も一気に跳ね上がり(5月には単独来日公演も開催される)、彼女と甘いデュエットを披露したチェンスモのドリュー・タガート(髭モジャ度が低い方)のハンサムな歌声に魅せられた女性たちが続出した。


その名曲を今回、新田真剣佑が日本語と英語を駆使して歌唱。いわゆる一般洋楽リスナー層を飛び越えて、より幅広い音楽ファン層にアピールすることに成功した。日本に特化したローカライズは、以前から重要だと声高に唱えられてはいたものの、世界的な大物アーティストともなると、そうは簡単にいかず、ハードルが高かったというのが現状だ。いちいち各国や地域に対応しきれない、というのが実情だろうか。しかしチェンスモに限っては、世界を股にかけて活躍するアーティストでありながら、あっさり実行。実にフットワークが軽いのだ。”コレ面白そう!”と思ったら即実行。それこそが彼らの原動力の源と言えるだろうか。新田真剣佑が歌う「クローサー(トーキョー・リミックス)」が収録された彼らの最新アルバム『ワールド・ウォー・ジョイ』日本盤にも、そんなチェンスモらしさがギッシリと満載されている。


▲新田真剣佑 Photo_Masanori Naruse

まず今作で最も顕著なのが、ロックへの接近だ。以前にもコールドプレイとのコラボ「サムシング・ジャスト・ライク・ディス」を発表したり、ツアーではザ・キラーズの「ミスター・ブライトサイド」などのダンスロック系を必ずセットリストに入れていた彼らだが、新作では本格的にロックバンドとのコラボに乗り出した。アイドル人気も高いオーストラリアのロックバンド、ファイヴ・セカンズ・オブ・サマーとは「フー・ドゥー・ユー・ラヴ」で、元祖オバカなアメリカのパンクバンド、ブリンク182とは「P.S.アイ・ホープ・ユアー・ハッピー」で共演を果たしている。20代前半の前者とは拳を突き上げ合唱するかのようなアンセム調を、片や40代後半の後者とは元カノへの未練を綴ったセツナなポップロックを鳴らし、そのサウンドの振り幅の大きさにも驚かされる。

以前からライヴやレコーディングでは、3人目のメンバーとしてドラマーを加えて活動してきた彼ら。ダンス系DJ/プロデューサーには珍しく、パソコンや電子機材のみならず、普段から楽器を使って曲作りを行っている。2019年8月のサマソニでは、いわゆるDJプレイをほぼ封印し、ヴォーカルやドラムをはじめ、ギターやキーボードなどの生楽器も導入されたロック度の高いステージで圧倒した。今回のロック寄りのアプローチは、彼らにとって自然な展開と言えるだろうか。



もちろん、これまでに共演してきた前述のホールジーや「ドント・レット・ミー・ダウン」に起用されたデイヤのようなポップスターの発掘にも余念がない。EDM界ではシーアやアリアナ・グランデのような超大物シンガー、もしくは無名だが実力派のシンガーが起用されるケースが多いが、彼らの場合は、これから来そうなシンガーを絶妙なタミングで登用する。「コール・ユア・マイン」ではマーティン・ギャリックスからデヴィッド・ゲッタ、リタ・オラまで、コラボに引っ張りだこのビービー・レクサを起用。両者の交流は、互いのキャリア初期にまで遡るが(2013年キャッシュ・キャッシュの「テイク・ミー・ホーム」のリミックスを一緒に制作した)、グラミー新人賞の候補にまで挙がった彼女には、いっそう大きな飛躍が期待される。


一方の「テイクアウェイwithイレニアムfeat.レノン・ステラ」に起用されたのは、シンガーとして駆け出しのレノン・ステラ。TVドラマ『ナッシュビル』の女優として知られる彼女だが、最近ではジョナス・ブルーの「ポラロイド」でワン・ダイレクションのリアム・ペインとデュエットするなど、シンガーとしてのキャリアを積極的に推進中。ホールジーやデュア・リパに続くディーヴァ系が照準だと思われる。

その「テイクアウェイ」では、イレニアムとのコラボも実現した。イレニアムはメロディックでエモなフューチャーベースを鳴らすEDMシーンの新進DJ/プロデューサー。ポップシーンで人気のチェンスモだが、そのルーツや基盤となるEDMシーンをまったく忘れてしまったわけではない。とはいえ、アルバムリリースの直前まで極秘だったカイゴとのコラボには、驚いた人も多かったようだ。


カイゴは、北欧ノルウェーから登場したDJ/プロデューサー。ビーチリゾートを彷彿とさせる爽やかなサウンドを、まったりビートに乗せたトロピカルハウスで、あれよあれよと世界を席巻。好奇心旺盛なヤンチャなチェンスモと、落ち着き払ったカイゴでは、一見水と油のようにも思えるが、初の顔合わせとなった「ファミリー」では共通するセツナなメロディで結託。意外にも相性の良いところを窺わせる。


DJ/プロデューサーでありながら、自らマイクを握り、楽器を演奏するチェンスモ。もちろん全てが完璧とはいかないが、常に失敗を恐れず、怖いものなしの姿勢で挑戦する。最新の北米ツアーではステージ中央に鋼鉄製の球体の檻を設置。その中を複数のバイクがグルグル走り回る、サーカスのような曲芸で手に汗を握らせる。さらに宙乗りをやってみたり、ゲーム感覚のスリリングな映像や派手なパイロ、ライティングなどを駆使して、おもちゃ箱をひっくり返したかのようなエンターテインメントで楽しませる。大人になりきれない、童心を忘れぬ彼らにしか成し得ない遊び心やオバカが満載なのだ。それを青臭い、ふざけていると、古参のジャーナリストやメディアから叩かれることもしばしば。だが、ミレ二アル~SNS世代の支持を全面的に勝ち取ったのは間違いない。

そんな現代っ子のチェンスモとはいえ、実はアルバムという形態には大いに拘りをもっている。意外にも、アルバムを聴いて育ったからだという。つい先日も「次のアルバムの制作に集中するため」として、全てのSNSを休止すると発表。このアルバム『ワールド・ウォー・ジョイ』ももちろんヒット曲集として楽しむこともできるが、一編の作品として聴くことで意外な発見があるのではないだろうか。

文●村上ひさし


リリース情報

『World War Joy|ワールド・ウォー・ジョイ』
<日本盤CD(全16曲)>
発売中
新曲「クローサー (トーキョー・リミックス)」収録
¥2,200+税 / 日本オリジナル・ジャケット仕様 / ボーナス・トラック6曲追加

<日本盤デジタル配信(全15曲)>
配信中
◆https://lnk.to/TCS_WWJALjp
<輸入盤/デジタル配信(全10曲)>
発売中

【収録曲】
01. The Reaper feat. Amy Shark|ザ・リーパー feat. エイミー・シャーク
02. Family with Kygo|ファミリー with カイゴ
03. See The Way feat. Sabrina Claudio|シー・ザ・ウェイ feat. サブリナ・クラウディオ
04. P.S. I Hope You’re Happy feat. blink-182|P.S.アイ・ホープ・ユアー・ハッピー feat. ブリンク・182
05. Push My Luck|プッシュ・マイ・ラック
06. Takeaway with Illenium feat. Lennon Stella|テイクアウェイ with イレニアム feat. レノン・ステラ
07. Call You Mine feat. Bebe Rexha|コール・ユー・マイン feat. ビービー・レクサ
08. Do You Mean feat. Ty Dolla $ign & Bulow|ドゥー・ユー・ミーン feat. タイ・ダラー・サイン&ビューロウ
09. Kills You Slowly|キルズ・ユー・スローリー
10. Who Do You Love feat. 5 Seconds of Summer|フー・ドゥー・ユー・ラヴ feat. ファイヴ・セカンズ・オブ・サマー
[日本盤ボーナストラック]
11. Closer (Tokyo Remix) feat. Mackenyu Arata|クローサー (トーキョー・リミックス) feat. 新田真剣佑
12. Takeaway (Sondr Remix) with Illenium feat. Lennon Stella|テイクアウェイ (サンダー・リミックス) with イレニアム feat. レノン・ステラ
13. Push My Luck (Twinsick Remix)|プッシュ・マイ・ラック (ツインシック・リミックス)
14. Call You Mine (Keanu Silva Remix)|コール・ユー・マイン (キアヌ・シルバ・リミックス)
15. Who Do You Love (R3HAB Remix)|フー・ドゥー・ユー・ラヴ (リハブ・リミックス) feat. ファイヴ・セカンズ・オブ・サマー
16. Family with Kygo (Lune Remix)|ファミリー with カイゴ (ルーン・リミックス) ※日本盤CDのみ収録
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