【レポート】<シンセの大学 vol.1>、「ポストEDMは、より演奏能力に重きが置かれる」
休憩を挟んで行われた後半は、フューチャーベースのレクチャーへ。浅田氏が紹介した特長は、以下の通りだ。
・規則性がなく3連符を織り交ぜたリズム
・コードチェンジ
・グロウル/ウォブルベース
・シンボリックなシンセ:Roland「TR-808」、Native Instruments「Massive」、XFER RECORDS「SERUM」、Reveal Sound「Spire」、Native Instruments「FM8」
「2006年頃に、主にイギリスを中心に発生したダンス・ミュージックで、BPMにシンクしたLFOのかかったシンセが入るなど、ダブステップの影響が大きい音楽です。ただ、ダブステップと圧倒的に違う点は、ハーフフィールのビートではなく、BPMそのままの4つ打ちになっていること。そして、音像感があまり重くなく、キラキラした音色が使われている点です。リズムは基本的にTR-808で作られていて、ダブステップで使われるリンドラムやTR-909よりも、スネアやハイハットの音色的に軽く、TR-808のディケイの短さも、レンジ感の違いに大きく影響していると思います。
ダブステップと明らかに方向性が違う点は、リズム構造がポリリズム的で、予期せぬタイミングでコードがチェンジしていくことです。音色的には、シンセブラス系やSUPER SAW系が使われていて、それにサイドチェイン風の音色変化が加えられています。だた、これをサイドチェインで作るのではなく、シンセのフィルターエンベロープによってうねりが作り出されている点が、大きなポイントです。 また、極端に加工された声が、必ずといっていいほど入っている点も特長です。いわゆる“ボイスチョップリング”と呼ばれるテクニックで、サンプリングした声を断片的に切り刻み、やや古臭いピッチチェンジャーでオクターブを上げ下げしたような荒々しいロー感のある音で、即興的に打ち込んで作られています」──浅田祐介氏
浅田氏の解説から、ダブステップとフューチャーベースの違いは、根本的に大きな音楽的違いではなく、とても細かい差によってジャンルが細分化されていることが理解できた。このように「EDMの現在」を掘り下げていくと、次第に「EDMの未来」も見えてくる。浅田氏はEDMの現状を、「DAWだからこそ構築可能なアフタービートからの逸脱期にある」と分析し、その反動で、「ポストEDMは、より演奏能力に重きが置かれるようになるのではないか」と予測した。
◆ ◆ ◆
浅田:J-POPだと、たとえば付点8分系のリズムを入れたとしても、1~2小節で、小節の頭にリズムを戻したくなるんです。でもEDMだと、8小節くらいは余裕で付点8分のリズムが続くので、とてもポリリズミックです。こうした、2&4拍を強調するアフタービート、すなわち4つ打ちから逸脱しようという傾向が、今の音楽的な流れなのかなと感じています。そして、ポリリズミックな音楽って、人が演奏するのは難しいけど、Ableton「Live」やSteinberg「Cubase」といったDAWなら、1曲丸々打ち込むことも簡単。そうしたポリリズム的な絡み合い方を面白がるのが、今のEDMの流れのだと感じています。
藤井:つまり、ますますDAWでないと作れない音楽になってきているんですね。
浅田:しかも、より一層、演奏能力から逸脱してきていかるのかなと感じています。かつて、打ち込みによって、楽器が弾けなくても音楽が作れるようになりました。でも実際は、打ち込みのために「白鍵の並びはド、レ、ミ……」という最低限の音楽的知識は必要でした。ところが最近のDAWでは、その知識すら必要なく、絵を描く感覚でコードを書けたり、とてもビジュアル的に音楽が作っていけるんです。
藤井:でも、それだと(クリエイターとして)続かないよね。
浅田:ただ、分かっている人は、ちゃんと分かっていると思いますよ。そこから先に、楽器の知識や演奏能力が大事になってくるということを。既にその振り戻しとして、演奏テクニックがずば抜けているダーティ・ループス、ドラムンベースを生で叩くジョジョ・メイヤーといったプレイヤーも実際に出てきていています。こうした若い人たちのパワーによって、ポストEDMは、もっと生演奏に寄った、演奏能力に重きがおかれたものになっていくのではないかと考えています。
◆ ◆ ◆
音楽的なレクチャーはここで終了し、話題は、これまでの話の中で度々名前が挙がったソフトシンセ「SERUM」へと移っていった。SERUMは、1プリセットあたりに最大256個の波形をセットとして持ち、それらをリアルタイムに切り替えていくことで、時間軸での飛躍的な音色変化を生み出せる「ウェーブテーブル」と呼ばれるタイプのソフトシンセだ。
「搭載されている元々の波形のクオリティがとても高く、フューチャーベースにすごく向いています。たとえばスーパーSAWをユニゾンで鳴らしてデチューンをかけたり、エンベロープでフィルターのかかり具合を変化させていくような音を、アナログ・シンセ的な感覚で、簡単に作っていけます。さらにすごい点が、フィルターに、フランジャーやフェイザーといったユニークなタイプが含まれていること、そしてWAVファイルをSERUMに取り込んでシンセシスできることです。そのため、フューチャーベースに欠かせないボイスチョップもできますし、グラニュラー・シンセっぽい音を手軽に作れることも大きな魅力です。そして、個人的に一番気に入っているのは、数式を書くと、それをそのまま波形として音が出せること。いわゆる、フェアライトCMI的な音作りが可能で、これは理系の萌えポイントですね(笑)。もちろん、数式の一部の変数を変えていくと音も変わっていくし、ある波形と別の波形を、何個の波形を使ってモーフィングしていくかといったことも自動でやってくれる、非常に優秀なウェーブテーブル・シンセです」──浅田祐介氏
こうしてすべてのレクチャーが終了すると、今年秋にメジャー・デビューを控える小南千明のミニ・ライブへ。ローランド「JD-Xi」や「TR-8」を駆使し、背後にPreSonus「Studio One」のDAW画面を投影しながら、「シェルター感」「Quantize」「Hands」「SPIRAL DAYS」が演奏され、第一回レクチャーのエンディングに華を添えた。
◆ ◆ ◆
<シンセの大学>第二回は、6月17日(土)に開催。次回は、『EDMの現在・過去・未来Ⅱ~BIG ROOMへようこそ~』をテーマに、音楽プロデューサー/作曲家/トラックメイカーであるShinnosuke氏(ex.SOUL'd OUT)がゲスト講師として登壇する。EDMの成り立ちと、その代表的音源をピックアップしてもらいつつ、実際にDAWのセッション・ファイルを公開しながら、独自“レシピ”をレクチャーしてくれる予定だ。さらに、彼がプロデュースするunder prayerのミニ・ライブも行われるなど、見逃せない内容となっている。
撮影・文◎布施雄一郎
■<シンセの大学>第二回
16時開場/17時スタート
ゲスト:Shinnosuke(音楽プロデューサー/作曲家/トラックメイカー)
定員:50名
▼参加費
一般 2,000円
JSPA会員及び学生 無料(受付で会員証/学生証/ご案内メールを提示)
<シンセの大学>申込みページ http://www.jspa.gr.jp/usj/20170617/0002.html
関連リンク
◆RED BULL STUDIOS TOKYO オフィシャルサイト
◆Theresyn オフィシャルサイト
◆SERUM オフィシャルサイト
◆レポート(2)へ戻る
◆レポート(1)へ戻る
この記事の関連情報
【イベントレポート】“バリューギャップ問題”を考える「なぜ日本は失敗したのか」
【イベントレポート】<シンセの大学 vol.5>、「マニピュレーターもバンドの一員だという意識」
【レポート】<シンセの大学 vol.2>、「EDMは8ビートロックと似ている」
【レポート (後編)】<マニピュレーターズ・カンファレンス>、「シンセサイザーを“作る”ということ」
【レポート (前編)】<マニピュレーターズ・カンファレンス>、「シンセサイザーは一体どのように生み出されているのか?」
【月刊BARKS 藤井丈司連載対談『「これからの音楽」の「中の人」たち』】第3回 じん編Vol.4「歌詞がついたリードシンセ」
【月刊BARKS 藤井丈司連載対談『「これからの音楽」の「中の人」たち』】第3回 <span>じん</span>編Vol.3「天才ギタリストに出会っちゃったギターヴォーカル」
【月刊BARKS 藤井丈司連載対談『「これからの音楽」の「中の人」たち』】第3回 じん編Vol.2「語り部として最高のアクター」
【月刊BARKS 藤井丈司連載対談『「これからの音楽」の「中の人」たち』】第3回 じん編Vol.1「いきなりTHE BACK HORN」