【月刊BARKS 藤井丈司連載対談『「これからの音楽」の「中の人」たち』】第3回 じん編Vol.4「歌詞がついたリードシンセ」

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藤井丈司連載第3回目は、ボカロPでありながら、作詞、作曲家、小説家とマルチクリエイターとして活動するじんが登場。そんなじんとの全4回に渡る対談のVol.4をお届けします。

◆ 【月刊BARKS 藤井丈司連載対談『「これからの音楽」の「中の人」たち』】第3回 じん編Vol.3「天才ギタリストに出会っちゃったギターヴォーカル」

Vol.4「歌詞がついたリードシンセ」

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◆例えばロックもR&Bも演歌も、全部ボーカロイドで作れるんですよ。
それぐらいの多ジャンル性が内包されている


藤井:「カゲロウデイズ」ってプロジェクト化していくわけだけど、最初にミュージシャンから始まってるわけじゃない? じんさんっていう。

じん:そうですね。

藤井:ミュージシャンが書いた曲から、メディア展開が始まっていくっていうことは今あんまりないでしょ? 音楽ってタイアップが多いわけだから、昔から。あるドラマとか映画みたいなものがあって、そこに曲をつけてくださいって提供して、もちろんそれがドラマや映画の物語を凌駕するようなすごい作品ができることがたまにあるけど、でもそれはやっぱり引き金としては何かの物語を、自分の中に取り込むうちに、何かが降りてきて、ていうことがわりと常ですよね?

じん:そうですね。

藤井:だけどこれは、自分が書いた曲があって、それが連作になっていって物語になっていくっていうところから始まった物語ですよね。そこがやっぱり全然根本が違う。

じん:確かにそうなんですよね。やっぱり音楽だけで何か表現をっていうことを、自分で縛り付けなかったんですよね。それこそ、僕のいちばんのリファレンスって、子供の頃の僕みたいなところなんで、その僕をワクワクさせる為に、そいつが喜ぶものを自分で考えて、大事にして前を向いて進んでいけるようにってところを考えた時に、結局今の手段に落ち着いているっていう感じなんです。

藤井:でもほんとにないよね。音楽から始まった、コンテンツから広がっていくっていうのは。

じん:あんまりないですよね。

藤井:あと、ボカロってジャンルは、大人が流行らせた音楽じゃないでしょう? ボーカロイドはヤマハが作ってるけど、あれをおもしろいじゃんって言って、みんながいっぱい曲を作って、主にニコ動に乗せて、それがうわーって広がっていくっていうのはさ、日本の十代と二十代がやり遂げた事ですよね。誰かが仕掛けようとか、これ儲かるぜって制作会社が入ってやったことじゃない。固く言うと日本のユースカルチャーから生まれた、初のオリジナルコンテンツだと思うんだよね。

じん:それはほんとに思います。ボーカロイドっていうアイコンを元にした音楽ジャンルというか、例えばロックもR&Bも演歌も、全部ボーカロイドで作れるんですよ。それぐらいの多ジャンル性が内包されていて。でもボーカロイドってワンパッケージで、普通の小学生女子がダブステップを聴いてカッコいいって言う、これを国独自の文化で作れたっていうのはすごいことなんじゃないかなって思ったりしたんですけどね。

藤井:そう思う。

じん:いや、僕もそう思います。あなたの娘さんが喜んで聴いてるこれはデスメタルですよ、みたいな(笑)。ボーカロイドがやってなかったら聴かなかっただろうジャンルを、ボーカロイドがやってたことで聴くことになったっていうのは、増えてる気がします。

藤井:入りやすいんだよね。最初の話に戻るけど、ボカロっていうのは自我がないから、どんな音楽でも、やってる人の熱さとか汗とか、そういうのがないぶん、ディスプレイ見ると、物語がすーっと入ってくるっていう、その音楽のジャンルを問わずに入っていけるっていうところが、不思議なもんだな。

じん:僕は自分の音楽に関しては、歌ではなくて。やっぱり歌詞がついたリードシンセだなと思うんですよ。そこまで弾かないと認められなくて。

藤井:あ!歌詞がついたリードシンセか!なるほど。

じん:だからインストゥルメンタルだなって思うんですよね。僕は自分の曲をすごいインストゥルメンタルなサウンドに近いと思ってて。なぜなら、歌としてあるべき肉がないんですよね。で、やっぱりカロリーがそこにはなくて。

藤井:カロリーゼロだ(笑)。

じん:だからほんとにウィダーインゼリーみたいなものなのかなって思うんですよね。ジューシーさがないというか。

藤井:ボカロって、水みたいなんだよね。

◆まず歌唱力っていうものが根本的になしってなって、はいスタート、バトル!
みたいなものなので、みんな尖るところがバラバラになっていくんですよね


じん:まさに。だから浸透圧がすごい高くて。例えばある人がセクシーに歌ってたとするじゃないですか。男からしたら、この子は女の子にモテそうだから僕は聴かないよみたいな、そういうイヤな感覚だったり、例えば媚びたような女の子の声だったら、この子は媚びてるから私は褒めないわっていうようなのがまったくないですよね、ボーカロイドを使うと。

藤井:だからボーカロイドをたくさん聴いてると、その水に慣れちゃうから、人間の歌を聴くと血の匂いがするんだよね。

じん:あ、わかります。なんか生臭いというか。

藤井:そうそう、生臭い。

じん:だから逆に僕は、定期的にエレファントカシマシを聴く会とかを開催してるんですけど。

藤井:あははは。

じん:エレカシを聴いて泣く!みたいなのをやったりするんですけど。いちばん生々しいところを聴いて泣こう、みたいな(笑)。やっぱりもう、声っていうのが、正直敵わない人には絶対敵わないと思うんですよ。練習しようが、絶対に敵わないことがあると思うんですよ。

藤井:声が出た瞬間にもう、まいりましたっ!ていうのがね。

じん:一生練習したって絶対に届かないことだってあるわけで。逆にボーカロイドの土俵はどうだってなった時に、その…まず歌唱力っていうものが根本的になしってなって、はいスタート、バトル!みたいなものなので、みんな尖るところがバラバラになっていくんですよね。
藤井:そうか、「歌詞がついたリードシンセ」だからね。

じん:歌モノって往々にして、僕はヴォーカルが尖っていくもんだとすごい思うんですよ。バンドもそうですし。

藤井:うんうん。

じん:だから尖る歌唱力っていう部分を失った段階で、例えばボカロの歌を人間に似せるために頑張る人もいますけど、それは要するに、速弾きみたいなものに近いと思うんですよ。このボーカロイドの歌がすごいっていうのはどっちかっていうと技術の問題ですよね。

藤井:エンジニアリング。

じん:そう、エンジニアリングの上手さ。だから博士的なうまさになってるんですよね、ボーカロイドに関しての歌唱力の高さが博士的なうまさっていうのは、おもしろいシンセの音作ったな、みたいなところに近い感覚がある。僕は、ボーカロイドならではだなと思ったのは、物語を歌わせるやり方がいちばんいいんじゃないかなって思ったんですよ。

藤井:やっぱり、自我のない語り部としての革新性がボカロにはある、と。

じん:ええ。


◆それも今のやり方っていうのが、繰り返してやっていくことが
必然だとは僕は全然思ってなくて


藤井:話は変わりますけど、あの、しづさんの動画って、歌詞のキモな部分を、とてもうまく絵の中で使うじゃないですか。実に効果的なフォントで、詩になってるっていうか。

じん:はいはい。

藤井:で、日本語だから、漢字は表意文字ですよね。表意文字がばって出てきて、漢字とひらがな、カタカナと、3つの種類の文字があって。それが組み合わさったものがディスプレイに絵と一緒に出てきて。それを歌ってることを耳で聴くながら目で追うっていうことが、ものすごい……多重の構造になってるっていう気がする。

じん:あ……

藤井:耳で聴きながら、目で歌詞を追いながら、その意味を考えながら絵を見るみたいな。で、ビートがあってっていうさ。そこが僕は、ボーカロイドがいちばん面白いところだと思うんだよね。

じん:いや、まさに! まさにそれで。めちゃくちゃそこを、前から僕もいろんなところで言ってるんですけど。

藤井:よかった、言ってみて(笑)。

じん:歌詞があるっていうものに関して、歌詞をちゃんとキレイに聴かせなくちゃいけないっていうのは前提にあるわけなんですけど、かといってボーカロイドのボリュームを僕はそんなに上げたくないんですよね。そのぶんの絵があると思うんですよ。音楽の中で、例えば今何て言った?っていう、歌詞が聞き取れる寸前の70パーセント、60パーセントぐらいしか歌詞を伝えるっていう役割を果たせなかったとして、それでもイントネーションと言葉の雰囲気と、どういうメロディかっていうのはまだ残ってる。じゃあそれを動画で歌詞をスピードよく出すと、あ、こっちも必要だ、こっちも必要だっていう、どっちも足りないみたいな状態を生み出してるっていうのはすごいあって。

藤井:なるほどね。

じん:半分半分っていう、目と耳を使うエンターテイメントっていうのは、そんなにないんじゃないかなと思っていて。

藤井:で、英語だと、例えば“アイラブユー”って歌ってるとして、“「I」「LOVE」「YOU」”って出てきても、たぶん面白くないんですよね。やっぱり“私は愛してる”って歌って、それを聞きながら、「私」と「愛」っていう字を漢字で、それを見て初めて、この音楽は…このコンテンツって言った方がいいのかな、おもしろいと思うんです。……

じん:いや、もっと喋りたいですね。

藤井:ねえ。

じん:藤井さんが言ってくれたところは、しづさんとは共通認識で持ってます。普通にそうあるべきだし、逆にそれがあるからこそ、僕らはたぶんそれを自ずと「カゲロウデイズ」の時にデフォルトとして定義して、お互いいいねって言ったんだもんねって。

藤井:あ、そうなんだ、二人とも。

じん:はい。そこは僕たちは明言してないけど、紐解いてみれば結局そういうところで、このあり方で作品を発表するっていうのは、決して過多でもなければ、物足りないっていうものでもないんじゃないかなって。例えば、これが人間だったら最高なのにねって、言われないところなんじゃないかなっていう話を、したりもしました。で、たぶんそれは聴いてくれてる人たちが往々にして、もちろんキュンとくる快感のポイントは違うかもしれないですけど、そういうところに頷いてくれてるんじゃないのかなって。

藤井:いや、絶対そうだよ。だから、3種類の文字を使う日本語でしか出来ないことだし。どっちも足りなくて補い合いながら、2倍以上の効果っていうのは、音楽を聴くだけでもないし、ディスプレイ見るだけでもないし、何か新しい…なんて言うんだろう……。じん:変な話、普通は音楽か映像のどちらかを切り捨てると思うんですよね。でも、どっちも必要だぞってなった瞬間に、ものすごい活性化して楽しいエンターテイメントになるんじゃないかって思ってるんです。

藤井:右脳と左脳を両方を、撹拌されますよね。

じん:そう。で、歌モノっていうのは最高なのが、たった4分なんですよね。長くない、続かないっていう。そこの一瞬のエンターテイメントっていうのが、これはおもしろいことがどんどん出来そうだって僕は思いますね。

藤井:わりと世の中では、音楽って今すごい閉塞的だって言われてるけど、じんさんが作ってるのを見てると、全然可能性があるなと思う。ボカロ全般とは言わないけど。

じん:いや….ありがとうございます。僕はまだまだ出来てないことがたくさんあるので、もっとやりたいなっていうのはあって。

藤井:「カゲロウプロジェクト」の音楽は終わったわけだけど、今後また。

じん:全然やろうと思ってることがあります。それも今のやり方っていうのが、繰り返してやっていくことが必然だとは僕は全然思ってなくて。僕の頭の中で浮かんだことをやるのがいちばんやりたいことですかね。

藤井:それはもう浮かんでると。

じん:けっこう浮かんでますね。

藤井:少年時代の自分が楽しめる事?

じん:ほんとにそうです。やっぱり次はどういうことが僕はおもしろいと思うだろうか、みたいなところに正直にいきながら、ただクールにいきたいなって思うんですけどね。

藤井:楽しみにしてます。これからも頑張ってください。

じん:ありがとうございます。頑張ります!

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「dazw/days」
2014年6月18日発売
[初回生産限定盤A]CD+DVD
ZMCL-1001~4 ¥2,500(tax out)
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[初回生産限定盤B]CD+DVD
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ZMCL-1009~10 ¥1,600(tax out)
アニメ『メカクシティアクターズ』
スペシャルワイドキャップステッカー付属(初回仕様のみ)
■CD
1,daze /じん ft. メイリア from GARNiDELiA
※アニメ『メカクシティアクターズ』OPテーマ
2.days /じん ft. Lia
※アニメ『メカクシティアクターズ』EDテーマ
3.daze /じん ft. メイリア from GARNiDELiA (short ver.)
4.days /じん ft. Lia (short ver.)
5.daze (Instrumental) /じん ft. メイリア from GARNiDELiA
6.days (Instrumental) / じん ft. Lia
■DVD
1.daze /じん ft. メイリア from GARNiDELiA(MUSIC VIDEO)
2.days /じん ft. Lia(MUSIC VIDEO)
3.daze /じん ft. メイリア from GARNiDELiA
(“MEKAKUCITY ACTORS” non-credit OPENING MOVIE)
4.days /じん ft. Lia
(“MEKAKUCITY ACTORS” non-credit ENDING MOVIE)

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