【月刊BARKS 藤井丈司連載対談『「これからの音楽」の「中の人」たち』】第3回 <span>じん</span>編Vol.3「天才ギタリストに出会っちゃったギターヴォーカル」

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藤井丈司連載第3回目は、ボカロPでありながら、作詞、作曲家、小説家とマルチクリエイターとして活動するじんが登場。そんなじんとの全4回に渡る対談のVol.3をお届けします。

◆ 【月刊BARKS 藤井丈司連載対談『「これからの音楽」の「中の人」たち』】第3回 じん編Vol.2「語り部として最高のアクター」

Vol.3「天才ギタリストに出会っちゃったギターヴォーカル」

  ◆  ◆  ◆

◆絵がカッコ良かったんですよね。それで信じ切りましたね
こんな人とできるなんてっていう喜びだけで


藤井:でもそういうストーリーは出来てても、それを映像化していかなきゃいけないじゃない?

じん:はい。

藤井:で、絵師であるしづさんと出会いっていうのは、どういうきっかけだったんですか。

じん:最初から絵は、絶対必要不可欠って思ってたんですよ。で、あとは音楽は僕がやればいい。で、キャラクターがたくさん出てくるんだったら、そのキャラクター設定も僕がやればいいし、キャラクター設定資料みたいなのは絶対まず出したいし、小説を、物語としてちゃんと書きたいっていうのもあったんです。この何個かのハードルが最初にあって、まず小説をやるんだったら紙媒体での発売はまぁ無理だろうと。僕はそんなプロでもないから、ホームページでこっそり文だけ出そうっていうことを考えてたんですよ。それで「人造エネミー」の絵は、友だちが書いてくれたんです。

藤井:まだ、しづさんじゃなくて。

じん:はい。で、やっとこれでネットに出せるって思ってホっとしました。とりあえず出さないと、人とも知り合えないから。

藤井:そうだよね。

じん:で、自分と協力してくれるそんな人なんて見つからないだろう、まずものを出そうって思ってた時に、しづさんがいいって言ってくださって。

藤井:「人造エネミー」で?

じん:はい。その時、僕のツイッターのフォロワー数が60何人とかで(笑)。しづさんのほうが多くて100何人とかで。

藤井:60人と100人が出会うの? すごいな、砂漠の中でヘアピンを拾うような確率(笑)。それがいつ?

じん:2011年2月です。だからネット時代マジックだなと思うんですけど。

藤井:でも…どうやって知ったんだろう、お互い。

じん:僕のツイッターで、自分の曲名をずっと検索してたんですよ。

藤井:名前じゃなくて曲名で。

じん:曲名で。で、しづさんが「人造エネミー」のURLを貼って、タイトルも載せて「これいい」って言ってたんですよ。それを見つけて「ありがとうございます」って。いきなり曲いいねって言ったら本人から連絡がくるという(笑)。

藤井:ビックリしただろうなー(笑)。でも、僕もやったことあるな(笑)。

じん:その時しづさんと意気投合して。

藤井:意気投合っていっても、ツイッター上だよね。

じん:ツイッター上です。顔も見てないです(笑)。ただ、「ピコピコしてゲームっぽくていいです」って言ってくれて、「ありがとうございます」って返事しました。その時たまたまゲームの話なんかして盛り上がって意気投合した後に、それと進行形で僕はツイッターの使い方を覚えてたんですけど、プロフィールのところにURLが貼れるぞと。で、しづさんのやつを見たら、pixivのURLが貼ってあって。pixivって何だ?と思って見に行ったら、この人イラスト描くの?って(笑)。マジか!と思って。

藤井:それまで知らないんだ。もうやり取りはしてるけど。

じん:2ヵ月間ぐらい知らなかったです(笑)。それで、えっ!?って思って。その時ちょうど「メカクシコード」っていう曲を作ってたんです。それで「絵を描いてもらえませんか?」って言ったら「いいですよ」って言ってくださって。

藤井:まだ喋ってないの?

じん:喋ってないです。まだ文章でずっとやり取りをして。

藤井:ずっとテキストのやり取りで進むんだ。世代かなぁ。

じん:その時しづさんには連作なんですっていう話で、こういうキャラクターを出してほしくて、こういう雰囲気でって伝えたら、「だったらわかります」って言ってくれて。

藤井:話を話したこともない、会ったことない人と、創作の話をするの?

じん:絵がカッコ良かったんですよね。それで信じ切りましたね。こんな人とできるなんてっていう喜びだけで、その人がどんなのかっていうのは……でも話し口調はすごい丁寧で、気持ちのいい会話ができる人だったから、この人なら大丈夫って。

藤井:はぁ~、そういうところで信頼感が生まれるんだね。

じん:「カゲロウデイズ」、あれひとりで作ってるんです。

藤井:え~!!

じん:歌詞出したり、フォーカスして動かすカメラワークも、最初に出てくるシーンも全部ひとりです、それを10日とかで。

藤井:途中で時計になるじゃない? あれは全部指定?

じん:指定じゃないです。演出も全部ひとりです。ただ1枚の絵を動画的に動かしてって行くっていう。

藤井:あれがすごくいいんだよね。フォーカスしてって全体が見えたりするっていうのが。

じん:そうなんですよね。あれおもしろいなと思って。徐々に見えてくる感がすごい。

藤井:そうそうそう。

◆しづさんは天才だと思うんですけど、僕はそこから頑張ってしづさんに
追いつかなくちゃ状態がずっと続いてた感覚はあります


じん:で、その頃はもう、仕事を早く辞めたくてしょうがなくて。早く音楽で飯が食いたいって。それが果たしてボーカロイドが正しいのかどうかも考えずに、とりあえず今僕ができる音楽の場はここっていうのがあったので、気持ちはここで頑張ろうってなってたんです。その時期に、たまたま、先輩に連れられてお酒を飲んで帰ってきて(笑)、「カゲロウデイズ」の原型が出来ました。

藤井:へぇ~。天から降ってきたね。

じん:あれはたぶん、何かがとりついてくれたやつですね(笑)。次の日に聴いて、ピンときたんですよね、やっぱり前日の夜から次の日、次の日は休みだったんですけど、朝11時ぐらいに起きてきてまたそれを作り始めるっていう。で、「カゲロウデイズ」は夏の曲をと思って作って。だから自分の中でも夏っぽさっていうのをあの曲にすごい押し込めたつもりで。それをしづさんに聴かせたら、「動画作らせてください」って言ってくれて。「おぉ、じゃあぜひ」ってなって「カゲロウデイズ」ができたっていう感じです。


藤井:映像は、最初からこうなの?

じん:これです。

藤井:はぁ~。手直しとかないの?

じん:ないですないです。しづさんのは「カゲロウデイズ」に関しては、動画が雄弁じゃなくて、そんなに。多くを語らない動画だったんですけど、ものすごい演出力の塊だなと思って、ある種。

藤井:確かに。

じん:何ひとつも情報がないんですよ、この動画には。男の子が出てくる街の情報ぐらいしかなくて。それと青空があるぐらいで。

藤井:そう、常に青空があるんだよね。あれがいいんだよね。北野武っぽい。

じん:雰囲気の説明はあるんですけど、ストーリーに関しての説明っていうものがまったくなかったので、この人はほんとに演出だけで。

藤井:カット割りだけでね。

じん:そうそう、音楽のダイナミクスを上げてくれるっていう。

藤井:一人で作ってるんだ....間奏の時計とかも自分で考えてるの?

じん:ビックリしましたね。あれは僕が、この話は、例えば何回も女の子が死んじゃったりまき戻ったりするっていう説明はしてたんですけど、それを時計という表現だけでキメてくれた。

藤井:大サビになって、歌詞だけが真っ黒な背景の中に残っていくじゃないですか。まぁ天才と天才が出会ったね。

じん:いや、しづさんは天才だと思うんですけど、僕はそこから頑張ってしづさんに追いつかなくちゃ状態がずっと続いてた感覚はあります(笑)。

藤井:そうか。まぁバンドみたいなもんだよね。

じん:そうですね、めっちゃくちゃ上手い天才ギタリストに出会っちゃったギターヴォーカルみたいな感じだったかもしれないですね。

藤井:そうだ。ある意味ギターとヴォーカルだね

。じん:だからあれ以降の作品は全部、しづさんが担当されてるPVはもうしづさんにコンテ切ってもらったりしながらって感じだったんですけど、最近、「アヤノの幸福理論」っていうやつの。

藤井:いい曲だよね。

じん:ありがとうございます。あれのストーリーボードは全部僕が書いたんです。やっぱりバラードって言葉に重い意味が宿りすぎるジャンルだなと思って。しかも長回しって、映像、そんなに得意じゃないじゃないですか。早い展開だったら、しづさんも合わせやすいと思うんですけど。

藤井:リズムがあるとね。

じん:そうですね。

藤井:切って入れるから。

じん:しかも切るまでの各セクションの尺が長いっていうので、じゃあそこにはこういう絵を出してくださいっていうのを僕が言ったほうが。


藤井:もう一人、絵師がいますよね。わんにゃんぷーさん。あの人とは、どうやって出会うの?

じん:あの人は、僕の「カゲロウデイズ」を自分なりに、アニメーション風な動画にしてみましたって言ってアップしてくれたんです。

藤井:へー、映像のリミックスか。

じん:そうそう、それを、何だこれ? すごい!と思って。それで感動して、速攻で連絡をしてですね。その時思ってたのは、次こそはポップな曲をって、マイナー調4連発みたいな感じだったので、次は明るいやつを作りたいって(笑)。

藤井:そうだよね。ポップスの素養もあるんだよね。

じん:山下達郎、ピチカートファイヴ。親の影響です(笑)。

藤井:なるほどなー、それが親の世代の音楽か。時代は移り変わるねー。

じん:っていうのがあって、次は、檻の中でメデューサの女の子がいて、そこに人間が迎えに来るみたいなストーリーの曲がやりたいなっていう、絵本みたいなものにしたいって思ってたんです。それも乙一さんの影響受けてるのかなって思うんですけど、乙一さんも意外とそういうことをするんですよね。もう現実的にものすごいコンクリートくさい、灰色な作品をやった後にほわって……。

藤井:あれが効くんだよね。

じん:たまらないですよね。

藤井:うん。こんな風に言っていいのかわかんないけど、ポリフォニックになっていくんだよね、話が。どっちかだけのモノフォニックな話じゃなくて、ヴォイスがたくさんあるっていうかさ。

じん:和音になっていくみたいな。最初の1本から始まったのに、徐々にいろんな視点が増えていく、広がっていく、今度は、忘れていたけどここの視点の人が話し始めたぞ、みたいな感じになっていくっていう、そういうところを目指せればいいなと思って。

◆別におごりでもなくて、そういう誤解を生むことなんだなって
いうことで別にマイナスにとらえることはないかなって


藤井:そういう時に、もうひとり絵師が必要だなと思ってたの?

じん:いや、しづさんの絵のほうがカッコ良かったんですけど、目が怖かったんですよ。で、「可愛いのいけます?」って。「いや……得意じゃないです」って言ってて、「ですよね」みたいな。

藤井:へぇ~。

じん:それでわんにゃんぷーさんは、かわいい絵柄でやるのが得意な人だと思って、その時作ってたのが「空想フォレスト」で、「ぜひお願いします、あなたにやっていただきたい」「あ、やります」って言ってくれて、そのPVは全部ストーリーボード書きましたね。

藤井:あ、書いた。

じん:あのPVは全部、ここからここまで、これがあって最後こうっていうやつを、お願いします!って。

藤井:わんにゃんぷーさんとやる時は全部書いて渡すんだ。


じん:ちょうどその頃に、小説、漫画みたいな話も「カゲロウデイズ」の時にあったお話が、短編は無理ですけど、逆にこうこうこうなってこういう段階なんです、連載させてくれませんか?っていう話をしたら、2つの編集部から「やりましょう」っていうことを言ってくださったのが、ちょうどこの頃のタイミングでした。

藤井:それがいつだったの?

じん:2011年の秋ぐらいですね。すごい速いスピードできたんですよ、その話が。

藤井:そうなんだ。

じん:でも連載となると、僕は文字書きではないので。ストーリーは思いつくけど、果たしてこっちでちゃんと文字が書けるかっていうところとかも含めて、時間の切り方がわかんなかったんですよ。その時まだ仕事もやってたんで。

藤井:まだやってたんだ。そうだよね、だって収入ないもんね。

じん:それで、3社合同会議ですよ。もう僕がそれまでやってた皆さんを引き合わせて、これをプロジェクトにしたいという話をし始めて(笑)。最初僕がそれぞれの担当さんに言って、3社合同会議みたいな感じで初めてみんな名刺交換して、「こういう企画ということでやっていきましょう」みたいな。

藤井:そうやって会社を結び付けていくんだ。

じん:やりましたね。いや、あのスキームを作ったのはけっこう大仕事でしたね。

一同:(笑)

じん:いや、大変でした(笑)。

藤井:その合同会議やったぐらいで仕事辞める?

じん:いや、まだ辞めないですね。

藤井:まだ辞めないの?

じん:まだちょっと(笑)。その時もまだ辞めずで、漫画の原作を考えながら小説を書き、アルバムを作るっていうことで新曲もたくさん作りながら、昼は仕事をし、夜はそういう作業をしっていうのが続いて。で、さすがにここから4、5ヵ月経ったあたりで小説と音楽がもうヤバいってなってきたあたりで、さすがにちょっと体が血を見る感じになってきました(笑)。いろいろと体から血が出てくるみたいな状態になって。

藤井:寝てないんだ。

じん:そういうのがあったりもして、ちょっと仕事辞めようかなっていうのがあって、前の職場には、「すいません、こうこうこういう話になって」って、音楽クリエイターとしてCDを出させていただけるっていうのと、あと小説家として小説も書かなくちゃいけなくて、漫画原作も始まるっていうのでって言ったら、こいつそんなに仕事辞めたかったのかっていう(笑)。

藤井:あははは。

じん:よくもたいそうな嘘ついたなっていう雰囲気の中で、「いや、ほんとなんです」って言って、ちゃんとメディアファクトリーさんが作ってくれた企画書を持っていって、「これ、僕なんです」って。「えぇ~、じゃあそれは本当っぽいな」みたいな話になって(笑)。

藤井:それが2012年?

じん:いや、それがまだ2011年で、ファーストアルバムが出るちょっと前に仕事を辞めましたね。ぶっちゃけた話、制作期間はもろに仕事とかぶってたんで、結局ファーストアルバムを作ってる最中はもろに仕事をしててっていうのが。

藤井:なるほど。すごいね、しかし。

じん:いや、もう思い出すだけでけっこうオエッてなる(笑)。あと20分で仕事始まるけど、もう歌詞送らないとマズい、みたいな(笑)。

藤井:あはは。

じん:どんな状態だよ、みたいなのとかありましたね。でもそういうところから始まりました。

藤井:たった1年か。

じん:「人造エネミー」からだと、そうですね。

藤井:それから、3社会議でそれをやりましょうって始まるまで、それが同じ年の中でできてるっていう。

じん:そうですね、1年以内に起きてることですね。だからそういうのもあって、すごい仕組まれてたとかめちゃめちゃ言われるんですよ。

藤井:そうじゃないんだよね。

じん:お前は作られたんだろうとか、企業がじんっていうプロジェクトをやろうとしたんだろうって、その3社が集まってっていうことをすごい言われるんですけど。

藤井:それは声を大にして言ってください。

じん:いや、それはほんとにもう……逆にそこまで言われたら、けっこうやったなと思って。そんな3社が合同で考えるようなことに思えてしまうようなことをひとりでできたんだなっていうのは、別におごりでもなくて、そういう誤解を生むことなんだなっていうことで別にマイナスにとらえることはないかなって。

藤井:見りゃわかるじゃんっていう話だよね。

じん:そうそう。だから僕のこういう話とか、考えてることとか、ライヴも見ていただければわかってもらえるのかなって。

藤井:ライブのDVD送ってもらったよ。1曲目をバッて弾きだした時に、あ、この人は本物なんだってやっぱり思った。すごいなって。

じん:ありがとうございます(笑)。

  ◆  ◆  ◆

New Single
「dazw/days」
2014年6月18日発売
[初回生産限定盤A]CD+DVD
ZMCL-1001~4 ¥2,500(tax out)
スペシャルボイスドラマCD『the old days』
[初回生産限定盤B]CD+DVD
ZMCL-1005~8 ¥2,100(tax out)
スペシャルノベル『my little daze』
[通常盤]CD+DVD(初回仕様有り)
ZMCL-1009~10 ¥1,600(tax out)
アニメ『メカクシティアクターズ』
スペシャルワイドキャップステッカー付属(初回仕様のみ)
■CD
1,daze /じん ft. メイリア from GARNiDELiA
※アニメ『メカクシティアクターズ』OPテーマ
2.days /じん ft. Lia
※アニメ『メカクシティアクターズ』EDテーマ
3.daze /じん ft. メイリア from GARNiDELiA (short ver.)
4.days /じん ft. Lia (short ver.)
5.daze (Instrumental) /じん ft. メイリア from GARNiDELiA
6.days (Instrumental) / じん ft. Lia
■DVD
1.daze /じん ft. メイリア from GARNiDELiA(MUSIC VIDEO)
2.days /じん ft. Lia(MUSIC VIDEO)
3.daze /じん ft. メイリア from GARNiDELiA
(“MEKAKUCITY ACTORS” non-credit OPENING MOVIE)
4.days /じん ft. Lia
(“MEKAKUCITY ACTORS” non-credit ENDING MOVIE)

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◆藤井丈司プロフィール
◆藤井丈司Facebook
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