【月刊BARKS 藤井丈司連載対談『「これからの音楽」の「中の人」たち』】第3回 じん編Vol.1「いきなりTHE BACK HORN」
僕にとっては、じんさんの「カゲロウデイズ」は、ボカロというジャンルに限らず、ここ数年の日本語のロックの中で、もっとも好きな曲の1つだ。
またこの曲が中心となって、小説やコミックへと、さまざまなサブコンテンツを生み出した面から見ても、優れて新しい「音楽コンテンツ」でもあると思う。
暗喩に富んだ陰影のある歌詞、複雑なテンションコードと効果的な転調、グルーブとスピードに溢れた演奏(ボカロには珍しく生のバンドサウンドなのだ)。
それらが渾然一体となって進化系のロックを奏でながら、ボーカロイドが、まるで遠い星の砂漠のように乾いた声で唄う。その音楽の相棒として、ディスプレイの中では、しづさんの描く一枚絵が、巧妙な演出のもとに展開していく。
その絵の中に、ト書きのように、もう一度歌詞は「詩」として、描かれる。詩・画・書一体となった水墨画のように。
僕らは音楽を聞き、消え入りそうなソフトウエアの声から言葉を聞き取り、ディスプレイの中の動くカラフルな水墨画を眺め、詩を詠みながら、右脳と左脳を駆使して、総体としての物語を浴びようとする。
右脳と左脳、2つのCPUのさまざな記号認識と意味変換機能を、同時にフル回転でドライブさせながら。
これは、「カゲロウデイズ」という、たった4分間の音楽コンテンツが到達した、今までの音楽では成し得なかった、新しい表現領域かもしれない。
しかもこれは、この小さな島国で生まれた、独自の音楽ジャンルでもある。
そんなことを考えながら、じんさんに、この曲と「カゲロウプロジェクト」が出来上がるまでの、道のりを聞いてみた。
Vol.1「いきなりTHE BACK HORN」
◆ ◆ ◆
◆こんなにさらけ出してうわーってやるようなことを、言葉で何ていうんだろう?
たぶんこれが「ロック」っていうんだなって思ったんです
藤井:どうも、はじめまして。お会いしたかったです。
じん:いやいや、そんなもう…ありがとうございます(笑)。
藤井:褒め殺しはしないようにしますから(笑)。
じん:ありがとうございます!(笑)
藤井:今日は、「カゲロウデイズ」一曲を中心に、話そうかと思ってるんですが…。
じん:了解です。「カゲロウデイズ」は、あれを動画にアップしたのがもう2年9ヵ月ぐらい前のことだったんですけども。当時ボーカロイドっていうところを、僕はあんまり知らなくて。投稿しているっていうのはあったんですけど、もともとボーカロイドってキャラクターだったりとか文化が、好きっていうところはまったくなくて。
藤井:なくて。
じん:僕、高校の時にバンドをやってたんですよ。
藤井:高校は札幌でしたっけ?
じん:生まれは利尻だったんです。で、十勝の帯広市内付近の高校に通ってて。
藤井:利尻で生まれて。
じん:ええ。で、父の転勤で十勝のほうに行って。で、十勝の高校に行ってる頃、そこでバンドをやろうにも、近くにスタジオがあるわけでもないし、たくさんアーティストが来るわけでもなく、来たとしても帯広市内に行くのに車で40分ぐらいかかるみたいな(笑)。
藤井:うん(笑)。
じん:で、THE BACK HORNっていうバンドが大好きで。
藤井:おー、高校生で、いきなりTHE BACK HORNか。
じん:初めて聴いた時に、こんなにさらけ出してうわーってやるようなことを、言葉で何ていうんだろう?って思った時に、たぶんこれが「ロック」っていうんだなって思ったんです。
藤井:それは歌詞だけじゃなくて、その「叫び」みたいなことも含めて。
じん:そうです。「叫び」とかも含めて、僕はこれをロックと呼びたいなっていう。そういうところに至ったのが高校の頃だった。
藤井:それは、なんていうアルバムだったんですか。
じん:『ヘッドフォンチルドレン』です。で、「奇跡」を初めて聴いた時にそれを思ったんですよ。
藤井:あの曲、いいんだよね。
じん:それまでは、父母が普通の音楽を聴く人だったので。山下達郎とかピチカートファイヴとか。
藤井:あー、山下達郎さんが、ここで出てくるのか。だからあんなにカッティング上手いのか(笑)。
じん:いや、どうなんですかね?(笑)。でも、山下達郎さんは、日本一ギターカッティング上手いと思ってます。
藤井:上手いよね。
じん:めちゃくちゃ上手いなと思ってます。
藤井:でも、じん君のギターも、音楽性は違うけど、わりと近いところに行ってるよね。
じん:あ、ほんとですか?
藤井:うん。カッティングだけで聞いてる人を説得できるもの。布袋くんもそうだけど。
じん:あぁ~。いや、そこひとつ、自分のギターの中では突き詰めたいなって思うところもあるんですけど。
藤井:ベリッ(弾くマネ)だけでさ。
じん:そう、チャキッ(弾くマネ)だけで(笑)。
藤井:殺せるってね(笑)。
じん:ホォ~ってなってしまう。あの刹那、この右手の迷いのなさだったりとか、逆にベロンって(ゆっくり弾きおろす格好)やった時の緩急とかっていう、ギターカッティングって雄弁な奏法ですよね。
藤井:ほんとにそう。
じん:まあバンド活動っていってもコピーバンドだったんですよね。自分で曲を作るなんて考えていなくて、ほとんどコピーバンドで。
藤井:THE BACK HORN以外には、どんなバンドを聞いてたんですか。
じん:あの時はナンバーガールとかに傾倒しましたね。バックホーン、ナンバーガール、あとはASIAN KUN―FU GEBERATIONがその時すごい好きで、ちょうど1stとかを聴いたんですよね。『君繋ファイブエム』。
藤井:あれも、素晴らしいアルバム。
じん:あのアルバムを聴いて、そうか、ロックすごい!っていう。
◆「カゲロウデイズ」を出した2年前からですね、たぶん
その時から狂ったようにギター好きになって
藤井:何年ぐらい前?
じん:6年ぐらい前ですかね。ちょうど高校2年生ぐらいの時に自分の中でバンドをやろうっていうのが始まって。
藤井:2007年ですか。ちょうどニコ動やTwitterの始まった頃だね。
じん:そうですね。高校1年生の時にちょうど、スペースシャワーTVで「奇跡」のPVが流れてて。
藤井:バンドは、既に今やってるみたいなスタイルなの?
じん:バンドを結成した時にやった楽器はドラムだったんですよ。
藤井:あ、そうなの!?
じん:はい。ドラムをやってて……最後のほう、高校3年生の時にやっぱりギターって弾きながら歌う、あのポジションにいきたいなと思って。当時そんなに発言力が強いほうでもなくて、「じゃあドラムやれよ」って感じだったんですけど、やっぱりあれをやりたいなと思って。そこからギターを練習し始めてなので、いってみれば17、8の時ぐらいがいちばんギターを練習してました。
藤井:今から5年前ですか。
じん:で、「カゲロウデイズ」を出した2年前からですね、たぶん。その時から狂ったようにギター好きになって、バックホーンの好きな曲は全部コピーして。
藤井:コピーだよね、まず最初に大事なのは。
じん:でも、逆に山下達郎を、あれはどうやって音を出してるんだろうって僕の持ってたちっちゃいアンプでは全然その音が出ない、“なんで!?”ってなったりしたのもその時期でしたし。この人のコードはパワーコードじゃないぞっていう。 “達郎さんはパワーコードじゃないぞ、何だ? セブンスだ”ってこんな難しい押さえ方をして、みたいな。
藤井:楽譜本で見てわかったの?
じん:楽譜を最初見てたんですけど、でも楽譜にセブンスとかって書いてなかったんですよ。簡単なただのCとかになってて、なんか違うぞってなった時に、コード譜を見た時に、“あれ、これセブンスでしょ、なんで書いてくれないの?”みたいな。
藤井:でも書いてあるコードと違うって、聞いてすぐわかるんだね。
じん:もともとキーボードは習ってたんですよ。
藤井:エレクトーン?
じん:エレクトーンです。あ、でも僕はローランドのテクニトーンってやつだったんです。足も使って、左手右手が2段になってるっていう。
藤井:それで耳が鍛えられてるのか。
じん:かもしれないですね。
藤井:やっぱり子供の頃に、キーボードやってるのは、後で効果があるね。
じん:で、専門学校に行ったんですよ。専門学校で始めて札幌に行ったんですよ。
藤井:それは音楽の専門学校?
じん:音楽の専門学校です。レコーディングエンジニアを専攻してました。
藤井:あ、エンジニアリングを勉強してたんだ。
◆東京に行きたかったんですよね。憧れでもあって
単純な話、武道館があるみたいな
たぶんこれが「ロック」っていうんだなって思ったんです
じん:ギターに関しても、曲作りに関しても、そんなものはみんな習わないって知ってたんですよ。好きなバンドは全部、別に誰に習うわけでもなくやってるっていうのは前情報として知ってて。
藤井:うん。
じん:だったらもっと、例えば達郎さんのギターの音を出せるようなやり方はどうやってできてるのか、どうやったら実際CDにできるのかとか、そういったところを勉強したいと思って入ったんです。
藤井:将来を見据えてるね、エライ(笑)。
じん:そう、このギターにこのマイク、みたいな。そういった音の作り方みたいなことは仕組みがわかったけど、結局の話、そこにも決まり事なんて何もない、っていうのもわかりました。で、就職をしようってなった時に、東京に行きたかったんですよね。憧れでもあって、単純な話、武道館があるみたいな。
藤井:うんうん。
じん:SHIBUYA-AXがあるとか、赤坂ブリッツがあるとか。
藤井:ロックのアイコンが。
じん:とりあえず何でもいいから東京に行く口実として就職しようと思って、東京の就職先に面接を何回も受けに行って。で、入って、やっぱり仕事始めてしまうと、作る時間がなくなったのもそうなんですけど、ここで一生働くことになるんだ、僕は、ちゃんとやんないとっていうのもあって。
藤井:うん。
じん:かといって友達もいなければ、ライヴハウスに行くほどの勇気もなくて。っていう時にバンドはちょっとできないから、ひとりで活動するには急すぎるしって思った時に、知り合いの人がボカロでやってて。
藤井:そこでボカロに出会うんだ。
じん:はい。友達の兄ちゃんがやってたんで「俺の兄ちゃんがやってるよ」みたいな。どんなもんよって感じで聴かせてもらって、あ、おもしろい、自分で歌作れるんだっていう。普通に新しいおもちゃ見つけたっていう感覚から始まって。
藤井:ほー。
じん:就職決まって直前ぐらいでボカロの話があって。だからほぼほぼ自主研究だったんですけど(笑)。
藤井:じゃ、友達いないからボーカロイドだけ持って東京出てきて。
じん:そうそう、そんな感じで。
藤井:もうマネキン抱えてるみたいな(笑)。
じん:そう、マネキン抱えて(笑)。プラス、やらなきゃっていうのがあって。
◆ ◆ ◆
New Single
「dazw/days」
2014年6月18日発売
[初回生産限定盤A]CD+DVD
ZMCL-1001~4 ¥2,500(tax out)
スペシャルボイスドラマCD『the old days』
[初回生産限定盤B]CD+DVD
ZMCL-1005~8 ¥2,100(tax out)
スペシャルノベル『my little daze』
[通常盤]CD+DVD(初回仕様有り)
ZMCL-1009~10 ¥1,600(tax out)
アニメ『メカクシティアクターズ』
スペシャルワイドキャップステッカー付属(初回仕様のみ)
■CD
1,daze /じん ft. メイリア from GARNiDELiA
※アニメ『メカクシティアクターズ』OPテーマ
2.days /じん ft. Lia
※アニメ『メカクシティアクターズ』EDテーマ
3.daze /じん ft. メイリア from GARNiDELiA (short ver.)
4.days /じん ft. Lia (short ver.)
5.daze (Instrumental) /じん ft. メイリア from GARNiDELiA
6.days (Instrumental) / じん ft. Lia
■DVD
1.daze /じん ft. メイリア from GARNiDELiA(MUSIC VIDEO)
2.days /じん ft. Lia(MUSIC VIDEO)
3.daze /じん ft. メイリア from GARNiDELiA
(“MEKAKUCITY ACTORS” non-credit OPENING MOVIE)
4.days /じん ft. Lia
(“MEKAKUCITY ACTORS” non-credit ENDING MOVIE)
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