【月刊BARKS 藤井丈司連載対談『「これからの音楽」の「中の人」たち』】第3回 じん編Vol.2「語り部として最高のアクター」

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藤井丈司連載第3回目は、ボカロPでありながら、作詞、作曲家、小説家とマルチクリエイターとして活動するじんが登場。そんなじんとの全4回に渡る対談のVol.2をお届けします。

◆ 【月刊BARKS 藤井丈司連載対談『「これからの音楽」の「中の人」たち』】第3回 じん編Vol.1「いきなりTHE BACK HORN」

Vol.2「語り部として最高のアクター」

  ◆  ◆  ◆

◆根本的に使うこと自体が感情がまったくないので、
語り部としては最高じゃないかって


藤井:じゃあ働きながら「人造エネミー」ができるの?

じん:そうです。だから投稿したのが、2011年2月ですね。

藤井:震災直前だ。

じん:そうですね。そのあたりでもう、どうせ一人でできるんだったら、例えば歌詞に物語性をつけたりだとか、もともと小説もすごい好きだったので、そういうワガママなものを作ろうっていうのがあったんです。

藤井:自分の物語を。

じん:そうです。ひとりでいるこの環境、それで音楽で何か伝えたいってなった時に僕ができるのは、いいじゃないか、ボーカロイドで。それで物語を歌詞につけて、いろんなジャンルをやる。これはたぶんいちばんワクワクする形が思い浮かぶって思ったんです。

藤井:逆に制約がないよね。バンドメンバーとかヴォーカリストの。

じん:そうですね。制約もまったくないし、ボーカロイド特有の声の雰囲気っていうか、根本的に使うこと自体が感情がまったくないので、語り部としては最高じゃないかって。物語を何か歌詞として曲の中に押しとどめるには。

藤井:それは最初のオリジナル曲である「人造エネミー」の時に、ボーカロイドは語り部として最高って思った?

じん:思いました。

藤井:うわ、それは早いねー。

じん:ただただ文字を読んでるだけっていう感覚で、感情の起伏はオケがやればいいしっていう。あと展開は音楽が作ればいいっていうのはあって。でも、正直1回目やってみて確信した感じですね。途中までどんな感じなんだろうと思って。

藤井:それがすぐわかるってのは、相当音楽をすでに知っていたんだろうな。感情がなかったり、何のミスもなかったりするっていうのは、歌としては欠点なわけじゃない? 音楽的に言えばさ。

じん:ある意味それがあるから歌って底が知れないっていうところもすごくあって。僕が好きなTHE BACK HORNは、やっぱり歌がヒリヒリ突き破っていたからこそ、奥まできてくれる。

藤井:まあ、それはTHE BACK HORNにしても、シンガーが自分の自我みたいなものをぶつけて歌っていうものを成立させようとするじゃない。そうすると「その人の物語」になる。 でも、ボーカロイドって自我がないから、どんな自我でも持ってこれて、「誰かの物語」を担わせられるんだよね。

じん:そうなんです、例えば僕みたいな、完全にフィクションであるんだよっていうことを、前提とした価値観を作るうえにおいては、この上ない「アクター」で。

藤井:いや、よくそんなのすぐ気が付いたな。「アクター」だなんて。

◆僕はそのネタがわからない、みたいなのが多すぎて、
自分の好きなようにやろうっていうのはありました


じん:これはフィクション劇であるっていうのも頭の中にずっとあったんです。でも逆に、もっとそれを俯瞰して見た時に、ひとつの作品として、舞台劇みたいな風体をなせないかなってちょっと思ったりもしてて。

藤井:あぁ、なるほど。


じん:「人造エネミー」っていう曲は、それを1回見られてるっていうことに気が付くっていう、そして、それがぶち破られたら、たぶんすごい絶望するだろうなって(笑)。映画でいうところの『トゥルーマンショー』みたいなところが結局あったのかな……。

藤井:それは「人造エネミー」を作ってたところで、そこまですっと……。

じん:根本的にたぶん、ボーカロイドをやろうって段階で、あんまりボカロの文化を知らなかったんです。表層的にボカロの曲を聴いたらもう、みんなボーカロイドが人間みたいに歌う感じに持っていこうっていうのがあって。僕は今から研究して修練しても絶対間に合わないし、時間がかかると思ったんです。だから“いいじゃん、ボーカロイドなんだからボーカロイドで”っていう発想なんですよね。

藤井:そこの発想の転換があるよね。演者であるっていう。やっぱりみんな、ボーカロイドに自分のことを歌わせるっていうことで作っていく。でも、じんさんは全然違うんだよね。こういう物語があって、その中でボーカロイドがいろんな物語の主人公を演じ分けていく……ただ演じていくっていうね。

じん:そこを語っていくっていう。

藤井:その発想の転換と音楽性の高さと演奏力の高さっていうので、、音楽としてやっぱり全然違うところに行ってるなって、まず最初に思ったんだよね。

じん:ありがとうございます。いや、それがあんまり……普通なことかなって思ってた節があって。なんで逆にみんな、これを使わないの?っていう。

藤井:あぁ。でも今でもいないんじゃない?

じん:どうなんだろう? でも僕の体感なんですけど……僕の「カゲロウデイズ」とか「ヘッドフォンアクター」のあたりぐらいから、やっとボーカロイドの新作をいろいろ見ようとか、過去の作品をたくさん見てみようとか、いろいろやり始めたんです。1作目を上げた時にちょびっと見ただけで、これはわかんないからやめようって感じだったんですけど。

藤井:あははは。

じん:深すぎて。歴史がありすぎて、このことがあるからこそ、ここでこれを言っとけばどん!みたいな。僕はそのネタがわからない、みたいなのが多すぎて、自分の好きなようにやろうっていうのはありました。

藤井:ふーん。

じん:「カゲロウデイズ」の最初の、 “8月15日の午後”っていうあの歌詞は、どっちでもとれるようにっていうのは考えたんですよ。一応主人公が男の子で、女の子がどんどん死んでいくのを見てしまうっていう話なんですけど。1回最後まで聴いていただいたら、それが例えば主人公のことなのか、それとも相手、これって女の子のことなんじゃないかって、若干三人称と一人称がふわふわしてるような歌詞回しだったんですよ。だけど「ヘッドフォンアクター」っていうのがいちばん最初から、Aメロですね、“窓の外は大きな鳥達が”っていう、小説のいちばん最初みたいなことを歌詞として入れようっていう。完全に三人称を読んでくれるっていう感覚が。

◆これは連作でないと僕はイヤですって、
この話はお断りさせていただきたいって、先方に話したんです


藤井:なんか小説家では、乙一さんが好きっていう。

じん:僕、大好きです。

藤井:僕も、『ZOO』を最初読んだ時にビックリして。こんな小説あるんだっていうのと。

じん:あれ、最高ですね。

藤井:ただし、これは音楽にできないなと思ったの。それまでの日本の小説とかけ離れてるから、すごく違うものの流れからあの作品になってるような気がして。つまりJ-POPも乙一さん以前の日本の小説も、登場人物の人格は同じ気がするんですね。だから、お互いに行き来出来る気がしてたんだけど、乙一さん以降、変わってきてる気がするなぁ。

じん:そのお話は僕もすごい同意で。例えば、この人は星新一さんが好きだな、この人は太宰さんに影響を受けてらっしゃるっていうのがあったとしたら、乙一さん、この人は何だろう? エグいじゃないですけど、すごいビビッドでコラージュな切り取り方をして、それを小説でしかできないやり方の話にしてるっていう。その当時は、僕読んだのが中高生ぐらいの時だったんですけど、読んだ時はもうそんなこと何も気にせずに、“うわ、おもしろい!”って思って『ZOO』を読んだんですけど。いまだにまた読み返した時に、この人はなんでこんなことを思いついたんだろう、他の小説で例えば『平面いぬ。』っていう話があるんですけど、手に彫った犬の刺青が勝手に動き始めるっていう。それは目をそらした時しか動かない、見てる時は動かないっていう。この発想はどこから生まれてくるんだっていうようなことを。

藤井:時間もがらっと入れ替わったりするじゃない? 空間が入れ替わったりさ。ああいうところが、じんさんの一連の作品を聴いた時に、すごく似てるなって思ったんだよね。

じん:あぁ~。

藤井:乙一さんの小説を読んだ時とすごく似てる感じが自分の中に甦ってきて、あ、こういう……他にもちょっと……舞城王太郎さんとか。西尾維新さんとか。

じん:西尾さんはこないだ、西尾さんのアニメーションの主題歌を手伝わせて頂きました。『化物語』っていう。

藤井:ああ、もうすでに(笑)。そういう、今までの小説と全然違う流れのもののテイストみたいなのを、この音楽はできてるんだと思って、やられたって思ったっていうか、なんか変わったんだなっていう風にすごい思ってたんです。

じん:だからこそ、アルバムを出したいっていうのがすごいあったんですよ。

藤井:映画とかに持っていこうみたいなことは、考えなかったんですか?

じん:正直、実は「カゲロウデイズ」を出した後にぶわーっと話がいっぱい来て。その中で、これは自分がやりたいことを離さないかとか、邪魔をしないかっていうところで、結局選んだのが漫画と小説とっていう。

藤井:その時に、ああいう風に曲が連作で物語になっていくっていう構想はもうあったの?

じん:ありました。で、最初に来たお話が、短編のお話を書いてください、小説も漫画もどっちも『カゲロウデイズ』っていう短編のお話を、小説として、漫画として、掲載させてほしいという話をされた時に、いや、ちょっと待ってくれと両方ともに言って。

藤井:それはまだマネジメント事務所はない状況のとき?

じん:なかったです。まだ個人の時に。で、これは連作でないと僕はイヤですって、この話はお断りさせていただきたいって、先方に話したんです。

藤井:「人造エネミー」が第1話なんだ。

じん:そうです。だから、あれから見せていきたいっていうのがすごくあって。だから後半に引っ掛かってくる悲劇を最初にやっていたっていうのと、2番目に舞台設定をやろう、3番目に謎を残そうっていう。で、その謎を回収する為に話を急転させていこうっていう流れが。

藤井:ミステリーなんですね。音楽が元になった連作ミステリー。

じん:はい。だけど、これは一体何をやってるのかな?と。どこのタイミングで一体この主人公はどうなるんだろうこの人たちはどうなるんだろう?これは一体何なの?っていうところから切り替えるっていうのが大変だったんですけど。

藤井:そうだよねー。誰もやってないもの、こんな事(笑)。

じん:(笑)。それをやっていこうとする中で、でも全曲ができあがっててっていうわけではなくて。

藤井:あ、出来上がってないのか。連載なんだね、反応を見ながらの。

じん:投稿順は正直、その時にやりたいことと、テーマと、各種ばらつきのある曲をやりたいっていうだけはだいたい決まっていて。

藤井:それはステートメントっていうか、みんなにこういうプロジェクトをやりますからっていうのはみんなに言ってたの?

じん:言ってました。

藤井:ニコ動上で?

じん:言ってます言ってます。ただ、マイリストっていうのがその時あったんですけど、それに“第1話、何何”“第2話、何何”ってもう書いてあったんですよ。で、あぁ連作体なんだってみんなは思ってたのは、なんとなくわかったんですけど。

藤井:ああ~。それ、初だよね、きっと。第何話の曲ですって言った人って。

じん:わかんないですけど、もう自分は迷いなくこれでいこうと。

藤井:すごいな。それで音楽の一曲一曲が、ミステリーの物語になっていくっていうのは。

じん:それで結局の話、「カゲロウデイズ」を出した段階で、第3話目でっていう(笑)。

藤井:2話目って何なの?

じん:「メカクシコード」です。何人か登場人物がだんだん出てきて、秘密組織みたいなのがあって、そしてこれが街の中の出来事だっていったら、僕だったらワクワクするなと思ったんですよ。

  ◆  ◆  ◆

文◎藤井丈司

続きは次回。連載対談、じん編Vol.3「天才ギタリストに出会っちゃったギターヴォーカル」をお届けいたします。

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2.days /じん ft. Lia(MUSIC VIDEO)
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