【レポート】<シンセの大学 vol.1>、「ポストEDMは、より演奏能力に重きが置かれる」
では、改めてEDMという音楽の特長は何なのだろうか。浅田氏によると、ポイントは以下の3つで、「DAW登場以降の音楽である」と語った。
・4つ打ちが基本
・ドロップオフと歌なしのサビ
・サイドチェイン/チューンチェンジ
「昔からクラブ・ミュージックは、リズムの音色と構造でジャンル化されてきました。それの要素に、BPM(テンポ)が加わってきて、BPM150と160でジャンルが変わるようになった。言ってみれば、作り手側が「この曲は、BPM160だからブロステップだ」と宣言できるよりどころとなっているんです。DAWによって曲が作れるようになると、BPMを決めることで、ディレイ・タイムからソフトシンセのLFOまで、すべてをシンク(同期)させられます。これが出来ないと、ダブステップのワブルベースも生まれなかったし、そのシンクする鋭さは、間違いなくDAW登場以降のものです。だから、ダブステップもフューチャーベースも、すべてDAWがなければ成立しなかった音楽なんです」──浅田祐介氏
こうしたクラブ・ミュージックのリズムを構築するうえで欠かせないマシンが、ローランドのリズムマシン「TR-808」「TR-909」だ。浅田氏は「TR-808 / 909がなければEDMも生まれなかったわけで、スティーブ・ジョブズがMacを作った以上に、梯さんが生み出したTR-808 / 909は、世界に影響を与えた発明だと思っています」と、先日他界したローランド創業者・梯郁太郎氏を偲ぶと、藤井氏も「冨田勲さんも、YMOも、そして梯さんも、みんな日本で生まれて、それが今のEDMにつながっているんだと思うと、とても感慨深いですね」と続けた。
そして話は、EDM最大の特長とも言える「ドロップオフと歌なしのサビ」の解説へ。
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浅田:“ドロップオフ”とは、いわゆるリズムが抜け落ちるところ。EDMにはこれが必ずあって、僕らの感覚だとBメロに相当します。そこから段々と盛り上がってサビにいくんですけど、EDMでは大抵の場合、サビには歌がない。じゃあ何をやっているかというと、すごく分かりやすい、ペンタトニックとかのシンセ・リフで最高潮へもっていくんです。
藤井:そのフレーズを、観客が歌うのですか?
浅田:いえ、歌うのではなく、シンセ・リフでみんな踊るんですよ。サビに歌が入ってくると、情報量が多く、陶酔できないんです。だからEDMは、ミニマルに繰り返される要素が重要であって、サビの歌がない方が、踊りやすく陶酔しやすいんです。逆に言うと、そのサビに歌を付けたのが、2015年頃にヒットしたZEDDの楽曲といえます。
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こうして、EDMの歴史や概要、すなわち「EDMの過去」が整理されたところで、話題は、そのサブジャンルと言うべき、ダブステップ、そしてフューチャーベースの具体的な解説へと移っていった。まず、ダブステップを取り上げた浅田氏は、その特長を以下のようにまとめた。
・BPMに対してハーフフィールのリズム
・深いリバーブ感とコンプ感のリズム
・グロウル/ウォブルベース
・シンボリックなシンセ:Native Instruments「Massive」、XFER RECORDS「SERUM」、LennarDigital「Sylenth1」、Reveal Sound「Spire」、Dirigent「Predator」
「テンポ的にはBPM140~160くらいで、ハーフフィールのリズムパターンなのですが、ハイハットだけは元々のテンポ感で刻まれます。音色的には、ダブステップが出てきた当初、リンドラムのスネアにコンプとリバーブをかけた音が必須でしたが、最近はマストではなくなり、TR-909など太めのリズム音色が使われています。それ以上に大きな特長は、BMPにシンクしたウォブルベースと、唸り声のようなグロウルが、必ず入っていることです。
ウォブルとは“ブルブル震える”という意味です。それが、4/4拍子で音楽が進行していく中で突然、付点8分系や2拍3連符系で動くフィルターがかかったり、Massiveなどのウェーブテーブル・シンセの波形がシンクロしてグワッと変化するのが一番の特長です。こうしたウォブルベースは2001年頃からありましたが、当時はまだ、それほど激しい音色変化はなく、そうした音楽は“グライム”と呼ばれていました。そこから2000年代半ばに“ダブステップ”へと変化し、今では、スクリレックスに代表される、歌メロが多い音楽が“ブロステップ”と呼ばれます。海外の記事では、「ダブステップが商業的に変化したものがブロステップだ」と書かれていて、つまり、ダブステップが市場に溢れてきた時に、スクリレックスがグラミー賞を取り、そこで彼自身が名付けたか、あるいは誰かが新しく付けた呼び名がブロステップということになるのではないかと、僕は考えています。
スクリレックスの楽曲も、グロウする音色が特長ですが、彼自身、元々はメロコア・バンドのボーカルで、音楽的な志向性はハードでロック。怒りか、喜びかというと、明らかに怒りの音楽であって、それを表現するのに、Massiveのウェーブテーブルがマッチしたんだと思います」──浅田祐介氏
ここで、浅田氏は、この日のために作ってきた音源を披露。同氏がプロデュースする“DAW女シンガーソングライター”こと小南千明の楽曲「シェルター感」を、1コーラス目はロック感のある8ビート・ダンスミュージック(原曲)、そして2コーラス目を浅田氏がダブステップにアレンジしたバージョンで聴き較べが行われた。まさに“百聞は一見(一聴)にしかず”と言うべく、参加者は、ダブステップのハーフテンポ感、SERUMで作られたグロウル、そして、特長的なウォブルベースを体感し、「ダブステップとは何か?」を肌で感じることができた。
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