【連載】フルカワユタカはこう語った 第14回『グランドホテル』
2017年第一弾となるフルカワユタカ連載コラムは、その特別編として年始に公開した“フルカワユタカと須藤寿はこう語った -net radio-”の前文をご覧になってからお読みいただけると、面白さが倍増します(※編註)。
◆フルカワユタカ 画像
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彼にいくつかつけたあだ名の中で、一番気に入っているのは“プンスカ”。いつも怒ってばかりいるから“プンスカ”。
彼と喋っているとよく16年前の話をしてくる。まだリリースをする前の“ど”インディーズ時代。出演した下北沢シェルターのイベントで僕は鼻っ柱をへし折られた。茨城から上京して、僕はすぐにでも誰かに見つかる自信があったのだけど「なるほど、そんなに簡単ではないのかもな」と、その時思った。MO'SOME TONEBENDER、とにかく百々さんの声は圧倒的だったし、バンドの完成度も当時の僕らが対峙するには高すぎた。
彼はそこで言う。「いやいや、君にも僕は衝撃を受けたんですよ」。そう言われてもね。申し訳ない、僕は君と共演したことを覚えていないのだ。
2010年の終わり頃、彼のバンドの企画に誘われた。なんだかピコピコした音楽をやってるし、横柄で人を寄せ付けなさそうなイメージがあったので少々意外ではあったが、特に断る理由も無かったし、僕らも活動がマンネリしてきた時期だったので出演することにした。アンコールで1曲共演しようという提案を受け、彼らが作った曲に「僕はゲリラ」という即興詩を載せて披露することになった。本編終演後、アンコールの為に合流しようとバックステージに向かったら、彼がタロティ (B&Cho / ex.DOPING PANDA)に全力でダメ出しをしていて、“これから共演するのにこんな雰囲気嫌だな”と思った。あとは、アンコール後、誕生日ケーキが運ばれて来て、それをなぜかフィリポ (Dr&Per / ex.髭)が顔面に被って客席にダイブしたことをぼんやり記憶している。が、それは違う時の様な気がしなくもない。その日の打ち上げで初めて彼と深く喋った。回りくどいけど面白味のある人だと気づいた。ちなみに、鬼の首を取ったかのように話してくる「フジテレビの楽屋で長机に寝ていた」という僕の話。彼が見たというならそうなのだろうけど、ジェントルマンの僕がそんなことをするはずがない。
それからしばらくして、大震災が起きた。なんだか世の中全てがモノクロの“静止画”のように感じて寂しかった。気分転換に僕は彼とPOLYSICSのハヤシ君を食事に誘った。失敗だった。彼は「こんな時に楽しそうに飲んでいては不謹慎だと思う」と言って、僕らを慣れない新大久保に呼んでおきながら、会の最中、ずっとネガティブな話をし続け、フォローする僕らまで真っ暗な気分にさせた。さらに、帰りの電車ではハヤシ君がずっとipodを僕に聴かせてきて、それらは本当にカッコいい音楽だったのだけど、これは家で飲んだ方がマシだったなと思った。
彼のスタジオは友達の家みたいで居心地が良かった。近くに木下君 (Vo&G / ART-SCHOOL)が住んでいた事もあり、デモを作った後なんかに一緒に飲んだりもした。ただ、彼は押し付けがましいところがあって。たかがデモ作り、楽しくやりたいだけなのに「ゴメス君、もっと裏のビートを感じながら弾けばいいのでは?」とか「ダビングは順番通りにやらなきゃだめ。これを録り直すならアレも最初からだよ」とかうるさいから何度か口ゲンカになった。「僕の曲だ」「僕のスタジオだ」と。
それと。彼から「フェアウェル」という楽曲をもらった際、ちょっとした不義理をした、かもしれない。いや彼がそう言い張るなら“きっと”したのだろう。送られて来た怒りのEメールをみて、僕は彼に嫌われたのだと思った。
“プンスカ君”と今月アコースティックツアーをまわる。ギター1本での弾き語りは僕にとって大きなチャレンジだから楽しみだ。そもそもは僕が言い出した事のなのに、律儀に段取りしてくれた“プンスカ君”には心の底から感謝している。それにしても、いつ仲直りしたのだろう? あの怒りのメールは覚えているけど、その後、どうライブに誘ったり飲みに行ったりしたかを全く覚えていない。一つ言える事は、僕は彼に嫌われてはいなかったということだ。
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前回寄稿したネットラジオの前文(【連載特別編】フルカワユタカと須藤寿はこう語った -net radio-参照)を須藤君目線で書き直すとしたら、差し詰めこんなところだろう。
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僕の人生の舞台は5年前まで、危なっかしいけど、いかした群像劇の中にあった。
デリケートなのにデリカシーのないロックスター
下北沢で飲み歩く寡黙なベース(ボール)プレイヤー
ドラムをこよなく愛する男気溢れたハンサムガイ
下北沢シェルターの誰かの何かのイベントの打ち上げでbloodthirsty butchersの吉村さんに初めて会ったとき、僕はこう言われた。「え、DOPING PANDAってお前がボーカルなの? なんだ、毒だんごの野郎ボーカルじゃなかったのかよ」。僕の横にはハヤトがいたから、“毒だんごとは”、である。
解散ライブの時、ハヤトがシンバルを客席に投げた。僕も“負けじ”とエフェクターを投げた。タロティは投げるものが無くて何故かデジカメを投げようとしていたので、僕が止めた。中身は知らないが、変なものが映っていたら色々台無しだ。投げるものが無くなって、ハヤトがダイブした。それに反応してお客さん達が「スターも飛べ!!」と言って来た。体の大きなタロティーには声がかからなかった。僕はステージから降りなかった。「俺は俺なりに」そういって袖へ消えた。須藤君はこの最後の3人のやりとりを見て、「なるほど、解散するんだ、って思ったよ」と言っていた。
腕利きのダークサイドベース
くるくるパーマの高速ギター
褐色のギャル男ドラム
近すぎて遠かったボーイミーツガールバンド
人たらしで自分勝手なジゴロボーカル
キノコカットの社会不適“切”者 (親友) etc…
メジャーに行った後、僕は田上さん (FRONTIER BACKYARD) と疎遠になった。僕にも言い分はあるけど、それ相応の不義理があったのも間違いない。それから7年後、ソロになって初めてツアーを回ったのはFRONTIER BACKYARDだった。数年前、比較的大きめなケンカをした。最近はよく会って、音楽の話をしている。今日もこれから一緒にライブを見に行く。
去年から市川さん (LOW IQ 01) に色んな所へ連れて行ってもらってる。宇都宮では久々にダイバーが飛んで来てマイクで唇を切ってカチンと来た、懐かしかった。アコースティックライブは市川さんと約束して(しまった)から(全力で)取り組んでいる。僕はSUPER STUPIDの大ファンだ。
「サバク」のMVに出てもらったFULLSCRATCHのmasasucksは、この業界で数少ない同い年だ (ちなみに宇野剛史もね)。20代前半、一緒にツアーを回って、健康ランドの割安時間が来るまで駐車場で酒盛りをした。下北で飲んで取っ組み合いになったのはたかだか5年前の事だ (僕は一体何人に“プンスカ”しているのだろう)。それ以来飲んでなかったけど、去年2人で飲んで、レコーディングにギターを借りて、MVに出てもらって、今度名古屋で一緒にライブをする。
社会とは全員が誰かの脇役を演じている群像劇である。いまさら「人と人の繋がりこそが~」みたいな青臭いことを言うつもりはない。そうではなく、否応無しにそうなのだということ。バンドとはその縮図の最たるものだからこそ、“単純に複雑”で面白い。
「僕はバンドに敵わないのか」
<emotion ツアー>を終えた時にそう思った。ドーパン解散のときは何に負けたのかも、もはやよく分からない状態であったが (敢えて言うなら自分達自身だろう)、ソロ初のリリースとツアーを終えた時に確かにそう思い、“音楽業界”という群像劇のはじっこで弱々しく見切れていた。助監督から「お前、何見切れてるんだ!」と怒られるレベルで。
それから3年、僕はバンドマンとしてではないがソロのロックミュージシャンとしてまた群像劇の中にいる。ドーパン楽曲解禁のように自分自身で切り拓いた部分もあるし、去年の事が大いにそうしてくれたとも言える。僕は今、誰かの脇役であり、自分自身の物語の主役として、僕のファンや音楽ファン達と繋がっている。だから、とりあえず今はバンドに敵うか/敵わないかは置いておくことにした。敵ったら/敵わなかったら、どうだと言うのか。今までだってずっとそうだったが、演じきった先にある結末を分かりっこなくったって、結局やっていくんだから。
■東名阪ツアー<And I'm a Rock Star TOUR>
OPEN 18:15 / START 19:00
(問)DISK GARAGE 050-5533-0888
2017年2月25日(土) 愛知 名古屋 JAMMIN'
OPEN 17:30 / START 18:00
(問)ジェイルハウス 052-936-6041
2017年2月26日(日) 大阪 梅田シャングリラ
OPEN 16:30 / START 17:00
(問)YUMEBANCHI 06-6341-3525
▼チケット
前売¥3,990(税込、D別) オールスタンディング
※3歳以上、チケット必要
※各公演ごとに、ドリンク代別途必要
■<And I'm a Rock Star TOUR extra>(acoustic live)
2017年2月16日(木) 札幌 KRAPS HALL w/須藤寿
2017年2月19日(日) 仙台 PARK SQUARE w/須藤寿
2017年2月28日(火) 吉祥寺 STAR PINE'S CAFÉ w/須藤寿
■<ツタロックpresents『順不同vol.1』フルカワユタカ × ent supported by 新代田FEVER>
OPEN 18:00 / START 19:00
出演:フルカワユタカ、ent ※順不同
※当日は2組ともソロのアコースティックライブを予定しております。
http://tsutaya.jp/jyunfudo-vol1/
■アルバム『And I’m a Rock Star』
NIW128 / 2,778円+税
01.サバク
02.I don't wanna dance
03.and I'm a rock star
04.真夜中のアイソレーション
※tvk「MUTOMA」1月度テーマソング
05.lime light
06.so lovely
07.walk around (feat. いつか [Charisma.com])
08.can you feel
※提供楽曲セルフカバー:FRONTIER BACKYARD mini Al「Backyard Session #2」収録
09.next to you
10.プラスティックレィディ
※提供楽曲セルフカバー:りぶ Al「singing Rib」収録
◆【連載】フルカワユタカはこう語った
◆フルカワユタカ オフィシャルサイト
◆フルカワユタカ オフィシャルTwitter
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