【連載】フルカワユタカはこう語った 第8回『ギターソロをもう一度』

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何とも迷惑な話だ。いや、身に余ることでそういう評価はもちろん光栄なのだが。

◆フルカワユタカ 画像

宣伝を兼ねさせてもらっているだけで十分ありがたく、いつ打ち切られても構わない、という本人のスタンスに反して色々な所でこのコラムが好評だという。音楽で期待されるのはいくらでも来いなのだが、コレはまいった。全くもってまいった。

みんな僕の責任感過剰体質を知らないもんだから、そういった評判を何の気なしに耳に運んで来る。文章上手いねとか、いつも楽しく読んでるよとか、ツイッターで誰それが褒めてたよとか。マネージャーからは「BARKSサイト内閲覧数ランキングで2位です!(そこは1位じゃないのかい!)」とか。このままミステリー専攻では底が抜けるぞと、雑誌のコラムやエッセイ集などに手を出してしまったものだから、当然と言えば当然だがプロの構文・構成能力の高さに気圧され、ここ数日間はキーボードの前に座るたび真っ白な灰になっていた。

書け!書くんだジョー!

ギターの上手い芸人さん達が沢山出てくるバラエティー番組。視聴者は彼らにプロ顔負けの演奏を期待して見たりはしない。彼らに求められているのは、あくまでも“話のプロ”が見せる範囲内の手先の器用さだ。彼らは決して、演奏を褒められて恐縮したり、プロの技術に気圧されたり、自分のフレーズの個性の無さを嘆いたりはしない。そんな必要はどこにもないからだ。同様、貴重なWEBページを一枠頂いてるとはいえ、音楽活動の宣伝の為にそれを使える僕なのだから、つまろうがつまらなかろうが構わず文字を連ねれさえすれば良い。仮にお褒めの言葉があるのなら有り難く頂戴すれば良い。そんなことは重々分かっているのだが、「まあ、こんなもんだよね」とバラエティー番組の芸人ギタリストに突っ込みを入れてしまう程度の器しか持ち合わせていない凄腕ギタリストには、そんな割り切りは土台無理。物書き界のフルカワユタカに「まあ、こんなもんだよね」とは言われたくない、という妄想ブーメランと僕は結局戦わざるを得ないのだ。忌々しきフルカワユタカめ。


小学3、4年生の頃(1階の教室だったと思うので高学年ではないはず)、僕は学級新聞にギャグ漫画を書いていた。どういう経緯で40人の中から僕がその職に就いたのかは覚えていないが、絵が得意だったのと、学年文集の『将来の夢』欄が『漫画家』だった頃なので、きっと自発的に、だろう。内容はというと、その頃流行っていた2等身のかわいいガンダム(SDガンダム)を主人公に、野球をやらせたり宝物を探させたりと他愛のないものだったと記憶している。はじめのうちは“漫画家ごっこ”を存分に楽しんでいた僕だったが、クラスでの良い評判がちらほらと伝わってくると、期待されていることへのプレッシャーから徐々に行き詰まり、1年ともたずに執筆に別れを告げた。

小さな頃から今まで、人の評価があるからこその苦しみではあるが、物づくりで僕が最も戦って来た相手は、他でもない自分自身だ。奇をてらわず、自分の作風を残しつつ、他人の作品は、当然、パクらず(笑)、そして必ず新しい何かを提示する。何の意図も意味も無いようなものや、他をパクった自分味のないものでなら、確かに過去の自分と差別化することは簡単だ。だが、そんなものは単なる趣味に過ぎない。培ってきた自分独自のセンスとスキルで構築し、かつその中に新しい何かをきちんと提示する。それこそが他人の評価を得るに値するものであり、それを人は作品と呼ぶ。どこをどう切り取ってもフルカワユタカであるのに一度も見聴きしたことがないものを見聴きしてもらわねば気が済まない。学級新聞の漫画からフルカワユタカの音楽まで、僕が戦ってきたのはいつもそこだった。

と、そんな僕だからこそ、どうしても納得出来ないことがある。2015年末発表した「I don't wanna dance」という楽曲のギターソロ。僕はそこにドーパン時代の「miracle」という楽曲のギターソロをそのまま当てはめたのだが、そのアレンジのせいで楽曲全体が“過去の焼き直し”だという批判を受けている。マンネリズムを最も嫌う僕が、焼き直しをしたという指摘を受けているのだ。断言しよう。これは決して焼き直しなどではない。これは以前から僕が使ってきた手法(あえて名付けるとするならば)“音楽的手塚スター・システム”に他ならない。“miracleのギターソロ”というキャラクターが楽曲間を越えて再度登場する。“てぬき”などと言う指摘は全く当てはまらない、れっきとした“アレンジ”だ。

例えば過去に第一線で活躍していた“ベテラン俳優”を“miracleのギターソロ”だとしよう。そのベテラン俳優が“新しい演出の舞台”=“I don't wanna dance(僕史上、最もアフロなリズムアプローチの4つ打ちに挑戦したし、少なくとも邦楽では聴いたことがないテイストに仕上がったと自負している)”で新しい役者に混じって懸命に演技している……って逆に分かりづらいか(笑)。要するにこれは“どうしたってドーパンの楽曲の方が盛り上がるのね”という状況(それ自体は別にイヤじゃない)に対する僕なりの皮肉やユーモアであるし、バックトラックが違うことでギターソロの印象がいかに変わるか、という非常に音楽的な実験でもある。批判をする人達は、まさか僕がこれ以上新しいフレーズを思いつけないと本気で思っているわけではないだろうが、この転用を“努力していない”と受け取ったということか。僕からしたら、新しいフレーズを思いつくことと、このギターソロをはめることを思いつくことの創作の質に全く差はないのだが、そう受けとられたとすれば大変残念なことだ。

「I'll be there」のメロディーを転用してつくった「call my name」。
「crazy」という楽曲タイトルから派生した「crazy one more time」。
そのサビのメロディーを転用した「くっついたらもう離れない」。

今回ほど派手にではないが、僕はこのフルカワ流“手塚スター・システム”を過去にも実践してきた。そもそも議題の「miracle」自体がメロディーの転用を使って2曲存在する。もっとも、今回の批判が「また手塚スター・システムかよ、もっと斬新な手法をとれよ」というものであれば甘受していたのだが。


小学生のフルカワ画伯は過去作品と内容・手法が食い合わないようにせねばと悩み抜き、“段々と登場人物が薄くなり消えていき、最後の方は“てぬき”とだけ書いてあるコマが連発される”という超前衛的な漫画にたどり着いた。が、彼の達成感とは裏腹にその作品は『帰りの会』で「こんなの漫画じゃない!」と猛烈な批判を受けることとなり、失意の中で彼は“漫画家ごっこ”の職を辞した。それを境目にきっぱりというわけではないが、それからギターに出会うまで、彼の将来の夢は『漫画家』から『松本人志のようなお笑い芸人』へと変わってゆく。この『消えて行く回』を描いた数年後、『天才バカボン』で似た手法を赤塚不二夫がとっているのを発見した際は、凡人には分からぬ世界があるものなのだなと自らに感心した。

似た手法といえば、2016年6月から2ヶ月連続で開催される対バン企画<フルカワユタカ presents「play with B」~with C2/~with SEE YOU>。つい先日知ったのだが、髭が6、7月に開催する2ヶ月連続対バン企画のタイトルがなんと<with>(しかも会場は代官山UNIT)なのだという。おまけに付け加えると、僕は2015年末、“踊りたくない(I don't wanna dance)”というタイトルのミニアルバムを出したが、時期を同じくして髭が出したアルバムのタイトルは「ねむらない」だった。当然、どちらかがパクったなどということではない(そもそも須藤君に粘着されるのはごめんだから、パクれと言われても髭からだけは絶対にパクらない)。僕は以前から彼の歌詞や会話にうかがえる瞬間的かつ動物的な言葉選びが好きなのだが(僕につけたあだ名“毒川ユタカのフル饅頭”と“プンスカ”は秀逸)、これほど似通ったタイトルをつけ合うとなると、そもそもの言葉のセンスが相当近いのかもしれない。

ただし、いずれのタイトルも僕の方が“深い”。

彼の方には簡潔さとスピード感がありとても分かり易い。が、なんというか、きちんとその言葉がプロットになっているというか、命名者の構成能力を感じさせる点において、幾分僕の方が“深い”。そりゃあそうだ、みんなからの好評をムチに日々こうして言葉を探し続けているのだから。


■<フルカワユタカ presents「play with B」>

【「play with B」~with C2~】
6月18日(土)下北沢 Garden
w/ Base Ball Bear(サポートギター:フルカワユタカ)
OPEN 17:00 / START 17:30
▼チケット
前売り¥3,990(税込、D別)オールスタンディング
一般発売日:5月14日(土) 10:00~
(問)下北沢GARDEN tel :03-3410-3431 (13:00~21:00)

【「play with B」~with SEE YOU~】
7月22日(金)代官山 UNIT
w/ the band apart
OPEN 19:00 / START 19:30
▼チケット
前売り¥3,990(税込、D別)オールスタンディング
一般発売日:6月18日(土)
(問)代官山UNIT tel :03-5459-8630 (11:00~20:00)

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