【インタビュー】Ken Yokoyama、ギターを語る「グレッチは僕の生き方を投影してくれる」

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■ポロンと弾いて、ギターを置いて5分眺めて。もう一回持つ(笑)
■この有り得ないハマり方は本当に説明がつかないんです

──すごく基本的なことをうかがいますが、このわずかな期間に、どうして10数本もの箱モノが必要だったんですか?

横山:やっぱり1本1本個性が違うっていうのがあって。

──確かに、ES-335とES-355にはスペックの違いがありますし、センターブロックの入ったセミアコ構造のこの2本に対して、次に入手したグレッチのブライアン・セッツァー・モデルはフルアコ構造という違いがあります。

横山:そう。最初は個性が違うっていう理由から選んでいったんですけど、それがグレッチにハマッてしまって。グレッチはモノとしての良さがあるんです。ギターとしての良さはもちろん、モノとして手元に置いておきたい。

▲Gretsch G6120 Brian Setzer Nashville

──グレッチってフォルムとか装飾とかカッコいいですよね。そういう、鳴りとはまた別の魅力が?

横山:“あいつを持ってるんだったら、こいつも持ってたいよな”とか。なんかそうなっちゃいましたね(笑)。もちろん鳴りも好きですし、1本1本仕様が違うので、あれも試してみたいこれも試してみたいっていう。いっぺんにそういう要素がカタマリで来て、もう大興奮ですね。

──アルバム『SENTIMENTAL TRASH』収録曲の歌詞って健さん自身の経験も実績も、45歳という年齢の責任感も覚悟も、すべてが詰め込まれた作品だと思うんですね。その一方で、好奇心のまま短期間に10数本のギターを買っちゃうって、失礼ながらあまりにも無邪気な感じを受けるんですよ(笑)。このギャップが健さんらしいと言えば健さんらしいんですが、何なんでしょう?

横山:はははは。それは自分でも説明がつかないんですよ。そうなるともう自虐的に、“いや僕、頭がおかしいんです”って言うしかないんです(笑)。真面目なことも考える一方で、ギターを弾きに毎晩家に帰って。家族が寝静まるのを待って、練習じゃないんですけどポロンと弾いて、ギターを置いて5分眺めて。そのままもう一回持つっていう!(笑)。この有り得ないハマり方は本当に説明がつかないんです。

──ギターに対して、キッズの心を持ち続けていることを象徴するようなエピソードですよね、それって。純粋にギターが好きで、だからこそ、そのギター本来が持つ音に、健さん自身がストレートに反応した結果、ロックンロールを奏でているという。では、アルバム『SENTIMENTAL TRASH』のレコーディングでは箱モノがメインだったんですか?

▲Navigator N-LP-'97 HONEY KEN

横山:いや、それがそんなこともないんですよ。6:4くらいで箱モノの割合が多かったですけど。まず、ベーシックギターのレコーディングで、“箱モノでいくかソリッドギターでいくか”というジャッジが曲ごとにありまして。ゴツッとした音がほしいときは、やっぱりESP(ナビゲーター)のHONEYを弾きましたね。「A Beautiful Song」はストリングスが入ることを想定していたので、ギターの存在感が薄くちゃだめだと。骨太なところを残しておきたかったのでHONEYを使ったり。と思いきや「Da Da Da」はグレッチのファルコンJr.で弾いていたりするんです。

▲with Gretsch Falcon Jr. <The Rags To Riches Tour V>2015.1.21@豊洲PIT

──「Da Da Da」は疾走するパンクチューンなので意外です。

横山:刻みの“ツクツク”の部分がグレッチのほうがよかったんですね。

──「I Don't Care」「Roll The Dice」「Yellow Trash Blues」のようなロカビリーやロックンロール、ブルース色の強いナンバーはやはり箱モノですか?

横山:まさにこういう曲は箱ものですね。「I Don't Care」はグレッチのブライアン・セッツァー・モデル。「Roll The Dice」はギブソンのES-355。「Yellow Trash Blues」はですね、実は僕、グレッチのシルバージェットを持ってまして、ピックアップがデュアルモンドのシングルコイルなんですけど、それは歪ませると全然良い音がしないんですよ(笑)。シルバージェットのくせにクリーン専用で使えるんですね。

▲Gretsch G6129TCS-1957 Silver Jet Heavy Relic

──グレッチのジェット・シリーズって、フォルムはレスポールっぽいですけど出る音は全然違って、独特の鳴りがありますよね。

横山:そうなんですよ。AC/DCのマルコムヤングみたいなクランチーなサウンドを目指すんだったらピックアップを載せ替えていけますけども、あんまりメロディックパンクに合う音ではないですもんね。

──それにしても、シルバージェットまで所有してらっしゃるとはビックリです。ジェット系は箱モノではないですけど、いわゆるソリッドボディとは異なる構造を持つギターですよね。

横山:ソリッドボディって言われたりしますけど、チェンバー構造ですから、厳密にはソリッドではないんですね。このシルバージェットはグレッチUSAのカスタムショップ製で、スティーブン・スターンさんというマスタービルダーが手がけたものなんですけど、57年製のヘヴィレリックを2本だけ作ったんです。その2本が日本にあるときに僕、たまたま別の用事で試奏に行ってたんですよ。で、その2本を試奏させてもらったら、そのうちの1本がめちゃめちゃすごくて。こんな音聴いたことない!っていうくらいめちゃめちゃラブリーな音がするんですよ。でも、値段が値段だったんで、“これ、ちょっとすぐに手を出しちゃうのもな”と思って、黙って帰ったんです。

──一度は自制心を働かせたわけですね(笑)。

横山:でも、やっぱり忘れられずに(笑)。かみさんに「すごいのがいたんだよ!すごいのがいたんだよなー」って言って。そうしたら「そんなに良いんだったら。コレクションのつもりで買われたらイヤだけど、使い処があるんだったら、あんたの仕事なんだから反対はしないよ」って言ってくれて。買っちゃいました(笑)。

──奥さまのおっしゃるとおり、こうして曲に活きているわけですから、いい買い物だったという。

横山:そうなんです!そうなんです! シルバージェットはシングル「I Won’t Turn Off My Radio」の「Smile」のイントロでも使いました。ああいう音が出るギターなんですよ。

──では、数ある箱モノのなかで、今回のレコーディングでのメイン的な存在はどれになりますか?

横山:チェリーレッドのES-355がエースでした。“フレディー”って呼んでるギターなんですけど、これはベーシックで使ったり、ギターソロでも使ったり、オールマイティな使い方をしましたね。使用頻度が一番高かったギターです。あとはレコーディング中に出来上がってきたオリーブグリーンのES-355があるんですよ。これは僕がギブソンジャパンの方に「こういうのありませんか?」って聞いたら、「作れるかどうか考えてみます」って言ってくれて。結果、そのアイデアがワールドワイド・リリースになってしまったという、とんでもないストーリーのギターなんですけども(笑)。“パトリック”と呼んでるそのギターは、レコーディングの後半で結構使いました。「Boys Don't Cry」は完全にパトリックの音ですね。

▲Gibson Memphis ES-355 Bigsby VOS 2015 Olive Drab Green

──グレッチの箱モノはどのような使い分けを?

横山:たとえば「Dream Of You」のギターソロだとか、「I Don't Care」は僕が“ベイビー”と呼んでいるブライアン・セッツァー・モデルですね。この2曲でも相当音色が違うことがわかると思います。あと、“スカイ”って呼んでるブルーメタリックのファルコンJr.は「Da Da Da」とか、「Yellow Trash Blues」と「Pressure Drop」のギターソロで使ったり。グレッチでレコーディングに使ったのは、これにシルバージェットの“ケオキ”を加えた3本かな。

──ということは、ここ数年で入手したグレッチとギブソンは計5本使っているわけで、そういう目線でギターサウンドを聴き比べてみても、今回のアルバムは相当面白いですね。

横山:そうなんです。繰り返しになりますけど、もちろん僕が昔から弾いているESP(ナビゲーター)のHONEYも随所で使いましたし。あとは、1stアルバムのレコーディング以前からギブソン59年製レスポールのヒストリック・コレクションを使ってまして。“No.1”って呼んでいるギターなんですけど、99年のヒストリック・コレクションって結構な当たり年なんですね。しかも美品だったので値段も張ったんですけど、これはレコーディングのたびに引っ張り出して使ってます。それと、2010年にギブソンカスタムショップが限定生産したランディ・ローズ・モデルも。これは200本しか作られなかったことに加えて、ランディ・ローズ・ファンって世界中にいるじゃないですか。だから日本に何本入ってくるかっていう。当時、争奪戦になったんですけど、運良く1本ゲットできまして。『BEST WISHES』のレコーディングのときから投入して、今回も箇所箇所で使ってますね。

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