【ライブレポート】ベルリン、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンの音楽的地層

◆<ブラインド・デート(BLIND DATE) - Treffen mit Unbekannten>画像
この時期(1982〜83年)にニック・ケイヴが作り上げた音楽的人脈には驚くべきものがある。ノイバウテンのブリクサ・バーゲルド(Blixa Bargeld)のほか、ニューヨーク・アンダーグランドの女王、リディア・ランチ(Lydia Lunch)とも共演しているし、バズコックスのハワード・ディヴォートが結成した伝説のバンド、マガジン(Magazine)のバリー・アダムソン(Barry Adamson)との交流。ドイツの初期ポスト・ロック、ポスト・パンクバンドであるディー・ハウト(Die Haut)とも交流。こうして世界各国の強烈な個性がベルリン在住のニック・ケイヴという引力に引きつけられるかのように、ザ・バッド・シーズが結成される。
これらの歴史は、1980年代ロック史の最も熱い部分を象徴している歴史である。だが、これは過去に起きた「静的な昔話」ではなく、今もなお「生きた歴史」としてベルリンに息づいているように思える。2013年4月16日(火)、ドイツ・ベルリンのハッケシャーマルクトのイベント・ホール、ソフィーエンザーレ(Sophiensaele)にて<ブラインド・デート(BLIND DATE) - Treffen mit Unbekannten>というイベントが行われた。ステージの幕が上がるまで、出演者が誰なのか、演目は演劇なのか、舞踏なのか、パフォーマンスなのか、観客は知ることができない、といった趣向の“目隠し”イベント。
ご年配の方から子どもまで、約100人くらいの観客が「いったい何が行われるのだろう?」とワクワクした表情で開演を待ち構えている。
イベント開始。白い衣装に身を包んだ4人のメンバーが登場。この日の出演者は以下のメンバーであった。
・トモコ・ナカサト(Tomoko Nakasato:ダンス)
・ディルク・ドレッセルハウス(Dirk Dresselhaus:ギター、パーカッション)
・ヨッヘン・アルバイト(Jochen Arbeit:ギター、パーカッション)
・クラアス・グロースツァイト(Claas Großzeit:ドラムス、パーカッション)

この日のステージについて「事前にコンセプトはほとんど何もなかったんだ」と語るディルク。「白い衣装を着るということと、アルミニウムの音を使うくらいの“決め”しかなかったね」と打楽器奏者のクラアスは事後に話してくれた。そのクラアスは、エレクトロニカ・ユニットとしてのシュナイダーTMのドラマーとして活躍するほか、ディルクのフォーク・ロック・ユニット、シュナイダーFMのドラマーでもある。これらのバンドにおいて彼は安定したリズム感と色彩豊かなビートを表現しているが、この日のイベントにおいては、チェーンや、自動車のホイールから作られた自家製シンバルセットなどを駆使してアバンギャルドな演奏を展開。舞台/客席の境界線を取り払ったかのようなこの日のステージでは、3人のミュージシャンたちが客席の中に大きな三角形を描くかたちで配置していたため、それぞれのミュージシャンの放つ音がコンクリートの壁に反射し、予期しなかったような不思議な効果が醸しだされていた。


この日、ベルリンのこのステージで生まれた音楽の地盤を断面で切ったなら、そこにはアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンの音楽的地層が見えたと思う。ディー・ハウトがニック・ケイヴやブリクサ・バーゲルドと共演した素晴らしいステージの歴史や、例えば、1950年代サーフ・ギターの音色をフィーチャーしたディー・ハウトの「Der Karibische Western」など豊富な音楽的ボキャブラリーとフレーズが、伝説のアーティスト、ヨッヘンのギターと自作打楽器から、一瞬聴こえてきたかのような気がしたら、次の瞬間には聴こえなくなっていた。「街を歩いていて耳にするかのような、すべてが計算されずに入り混じっている音空間」だからこその幻聴感覚が十分に味わえるステージだった。
ニック・ケイブの音楽と同じく、ベルリンの音楽的地層は深く、いつも鋭いエッジがあり、絶望をはらんでいて、そして予測がつかない。
写真:Nozomi Matsumoto
文:Masataka Koduka
◆Biotope Journal:シュナイダーTMインタビュー
◆ヨッヘン・アルバイト・オフィシャルサイト
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