【ライブレポート】Ken Yokoyama「友達助けるのに理由なんていらないよな」
東日本大震災以降、被災地フリーライブ開催や、Hi-STANDARDを復活させ<AIR JAM>による復興支援ライブ等を行ったKen Yokoyamaは、2011年末、すべてのライブ活動を一時休止して曲作りに専念することを発表した。
◆Ken Yokoyama画像
「全部を止めて、一回自分を追い込まないとダメかなと思っちゃってさ。たぶん自分も混乱してると思う。早く曲を作って、作品として吐き出して、またツアーするよ」
これは当時のステージでKenが語った言葉だ。そして完成したアルバム『Best Wishes』は、試行錯誤と労力を注ぎ込み、葛藤の末に掴んだ作品だからこそリアリティに満ちて微塵の偽りもない。
アルバム『Best Wishes』を掲げて行われた<Best Wishes Tour>は、12月1日の札幌クラブカウンターアクションを皮切りに、北は北海道から南は九州まで全27ヶ所を縦断する全国ツアー。そのファイナルのZepp Tokyoから3日後となる2月10日、追加公演<Best Wishes Tour Extra Gig>が開催された。オープニングを飾ったゲストバンドのdustboxのSUGAが、「Ken Bandにとって思い入れのある会場」と語った横浜Bay Hallがツアー最終地となる。今日ここで、果たしてKen Bandがどんなライブを見せてくれるのか。超満員の1,200人を収容した会場は、沸き立つ期待が蒸気となって天井に白く充満している。
場内が暗転するとステージ袖からメンバーが姿を現した。さりげない登場だが、客席はすでに沸点へ達したかのような盛り上がり。波打つような歓声が口々にメンバーの名前を叫んでいる。と、ステージ最前まで躍り出たKenがおもむろにアルペジオを奏でた。オープニング・ナンバーは「Save Us」だ。ギタリストのMinamiが繊細にアルペジオを絡め、松浦のリムショット、Jun Grayのメロディアスなベースソロが乗ると、会場はこの上なく美しいハーモニーに包まれていく。その柔らかで温かな雰囲気を打ち破るソリッドなギターリフが鳴り響き、それに呼応するかのごとく客席にはクラウドサーフが巻き起こった。のっけから一気にステージへ引き込まれてしまった。1曲目が終わるや、ほとんど間髪入れる間もなく、「Kill For You」「Pressure」「Soul Survivors」と4曲を披露。さらに続けて演奏された「You And I, Against The World」では、曲の終わりで女性下着が客席からステージへ投げ込まれる。
「Junちゃん、そのパンティになんて書いてあんの?」と聞くKenに、Junが答えた。「We Are Fuckin' One!」。それがそのまま曲紹介となって、「We Are Fuckin' One」へ。これは偶然のタイミングか、はたまた投げ込まれた下着がアドリブ的にセットリストを変更させたのか、この際そんなことはどうでもいい。なんのてらいも必要としない自然体のスタンスと、MCらしいMCもないまま一気に直滑降するような豪快さが、この日のKen Bandのコンディションの良さを物語っていた。
「My Shoes」では曲に入る前に、客席とのコール&レスポンスがあったものの、その後もライヴ前半は「Sold My Soul To R'NR」「Your Safe Rock」「Not A Day Goes By」「Last Train Home」と畳みかける。こう記すと、ひたすら演奏のみに没頭するストイックなライブだったと思われるかもしれないが、そうではない。Kenはステージからマイクを客席に投げ渡し、自らはJunのコーラスマイクで歌ってみせた。何度Kenの白いマイクとシールドが、客席へ向かって大きな弧を描く場面を見たことか。至近距離のやり取りが可能なライブハウスで、もっと直接的に音楽でつながり合おうとするステージと客席は、どうしようもなく感動的な光景を作り出していた。また、たとえば「We Are Fuckin' One」のエンディングで語った「友達助けるのに理由なんていらないよな」というひと言。曲に込めたメッセージを伝える言葉は短いが、だからこそ強く優しく響くのだろう。
中盤は「Kokomo」でスタート。この曲は、「なにか聴きたいのある?」というKenの問い掛けに対して、客席がリクエストしたものだ。そして、ここからはいつものKen Bandらしい脱力感と緊張感、共感も笑いも下ネタも網羅したステージが展開される。客席からの「脱げ」コールに応えて、松浦がストリップを披露。そのBGMはアドリブセッションによるものだったが、ドラムを担当したKenはセッションが終わりそうになると、再びカウントを刻んでセッションをリスタートさせるので、その都度、松浦は脱がなければならないという即興演奏のコント仕立てで、会場の大爆笑をさらう。一方で、「This is Your Land」のMCでは、「これまでは自分と関係ないもんだと思ってたけど、やっぱり震災以降、この国旗が好きだわ。国とか、そういう問題じゃないんだよな。自分が生まれた土地だからこだわっていきたい」と、なんとも説得力を持った言葉が届けられる。感動で胸が熱くなる言葉の数々も、くだらなくかけがえのない笑いも、すべてがKen Bandのライブにあることをファンは知っている。そして立て続けに披露された「Ricky Punks」「Ricky Punks II」「Ricky Punks III」に熱狂するフロアのエネルギーはどこまでも上昇気流にのって際限がない。
「If You Love Me (Really Love Me)」のツインギターによるソロリレー、イントロのアルペジオが鳴った瞬間、場内に“Oi!コール”が沸き起こった「How Many More Times」、Kenが「パンクロックに感謝と希望を!」と高らかに告げた「Punk Rock Dream」など、怒濤の後半はタイトなサウンドが心地よく、本編ラストの「Believer」まで一気に駆け抜けた。
この日、演奏されたナンバーは5thアルバム『Best Wishes』を中心に、つなげるというKenの気持ち、続けていく決意が強烈に感じられるものだった。伝えたいこと、伝えなくてはならないことを大上段に構えることなく、的確に言ってのけるリアルな言葉と表現力。それを本能的に受け取る客席とのやりとりを熱く感じ取ることができる本編だった。
鳴り止まないアンコールに応えて、ステージに登場したKenはこう語った。「NO USE FOR A NAMEの曲やるわ。ボーカルのトニーが亡くなって、バンドは解散してしまったんだけど、最後に会えたのがこの会場でね。dustboxもNO USE FOR A NAMEとは一緒にツアーしたことあるんだよね。だから、もしかしたらトニーが今日、来てくれてるかもしれないよね」。そして演奏されたナンバーは「Soulmate」。さらに続けてハスキングビーの「WALK」が披露された。「単純に曲が聴きたいからさ」と語っていたが、これらカバーには、彼らの音楽を引き継いでいく覚悟すら感じさせた。直後に演奏されたナンバーが、それを裏付けるように輝かしく感じられたのは私だけではないはず。「Let The Beat Carry On」にはそういった気持ちも込められていたのではないだろうか。
ライブはまだまだ終わらない。この後はファンのリクエストから、ライブでやったら盛り上がらずにはいられないナンバーが次々と演奏された。とりわけ印象的だったのが、リクエストを整理するためか、ステージ上でメンバー間の打ち合わせをしているときにJunが漏らした“えっ!”という悲鳴にも似た叫び声(笑)。その後演奏された久しぶりのナンバーに思わず納得してしまったが、それほどガチにリクエストに応えていることがわかる瞬間だった。終わってみれば、全30曲の大熱演。大音量でいながら、メンバーのはじき出す1音1音が明確な意志を伝えるかのごとく、その隅々まで堪能できるサウンドに魅了された。
「Running On The Winding Road」でライブを締めくくったKenは、グッと親指を突き立ててステージを去った。彼らはこの後、沖縄と北海道を廻る<This Is Your Land Tour>の開催を発表している。Ken Bandの生み出す強く優しいグルーヴは、命をつなぐかのように続いていく。
取材・文:梶原靖夫
撮影:Teppei Kishida
◆Ken Yokoyamaオフィシャルサイト
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