ロック・オペラを支える、素晴らしきミュージシャンたち

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先日ドイツ・フランクフルト(マイン)におけるシュテファン・プーヒャー演出による舞台『ファウスト 第一章』のレポートを書かせていただいた(【ライブレポート】コラージュ映像と音楽に溢れた演劇『ファウスト 第一章』https://www.barks.jp/news/?id=1000086477)が、この舞台は本当に面白かった。舞台の中央に影武者のようにバンドがいて演奏し、役者がいきなりギターを持って歌い出したりと、演劇とロックの融合が見事になされていることに非常に驚かされ、良質なロック・オペラを思い出した。

◆演劇『ファウスト 第一章』画像

ロック・オペラの歴史は長い。ロック・オペラといえば作曲家アンドリュー・ロイド・ウェバーと作詞家ティム・ライスのコンビによる『ジーザス・クライスト・スーパースター』と『エビータ』などやザ・フーの『トミー』、あるいはピンク・フロイドの『ザ・ウォール』などを思い出す方も多いだろうが、イギリスにて1970年『ジーザス・クライスト・スーパースター』がコンセプト・アルバムとして録音された際に、主役イエス・キリスト役のディープ・パーブルのイアン・ギランの熱唱を影で支えたバンドのメンバーは、イギリスのザ・バンドとしばしば形容されるグリース・バンドだ。

グリース・バンドのメンバーはその後、イギリスを中心に最も信頼されるセッション・ミュージシャンとなり、ポール・マッカートニー、エリック・クラプトン、ロキシー・ミュージック、フェアポート・コンヴェンション、ポール・キャラック、ポール・ヤング、B.B.キングなどなど、驚くべき数のイギリス発ロックのステージ、レコーディングに貢献している。

この歴史を見ても、「よいロック・オペラの影には必ずいいミュージシャンがいる」という法則が成り立つことを証明できるだろう。そもそも、舞台の演出を目的として、舞台の風景に彩りを加えるような音楽を演奏しなければならないから、かなり巧くないとダメなのだ。また、自分がやりたい音楽しか出来ない人(これが真のロッカーなのかもしれないが)には演奏出来ない音楽だろう。

さて、フランクフルトにおける『ファウスト 第一章』の公演は連日満席、1月26日(土)、27日(日)、28日(月)は先日レポートした編成とメンバーが変わり、マーシャ・クレラ(Masha Qrella)(G、B、Vo)、ミヒャエル・ミュールハオス(Michael Muhlhaus)(Key、B、Vo)、ロバート・クレッツマー(Robert Kretzschmar)(Dr、Vo)というベルリンを代表するミュージシャンたちによる豪華な編成!マーシャ・クレラについては何度かBARKSで書かせていただいているので、今日はこの見事な『ファウスト 第一章』を支えた他の2人のミュージシャンが所属するべルリンのバンドを紹介しよう。

●ベルリンのパブロック?ブルームフェルト(Blumfeld)

まずはキーボードを担当したミヒャエル・ミュールハオスが参加しているバンド、ブルームフェルトは、1990年代からハンブルクを中心に活動しているバンド。残念ながら最近はあまりライブ活動は行ってないが、様々なジャンルの音楽を卓越した技術で演奏できる彼だからこそ、ブルームフェルトの音楽は、ポップ、ロック、ファンク、エレクトロニカなどの音楽ジャンルを軽快に串刺しにするようなサウンドを提供している。そして、アコースティックな響きを非常に大切にしている。特筆すべき点として、英国のパブロック、ブリンズリー・シュウォーツの『シルバー・ピストル』が持っているような、ほのぼのとした雰囲気と心地よいノリを持っている。2003年発表の『Jenseits von Jedem』が特に素晴らしく、なんとなく、肩に力を入れないで、ほのぼのと前へ前へとぐいぐい進んでいくような音楽だ。同時に非常に知的で、ニック・ロウのようなアイロニーも持っている、しっとりしたツウ向けのロック。ザ・バンドやブリンズリー・シュウォーツのオルガンの音色が好きな人には、ミュールハオスのオルガンの音色は必聴だ!

また、ミュールハオスは、2009年のマーシャ・クレラのアルバム『スピーク・ロウ』において印象的なキーボード演奏を行なっているほか、マーシャの音楽活動にかなり貢献している。また彼は、テューレン(Die Turen)というバンドで活動している。英語に訳すとそのままザ・ドアーズ(笑)。筆者はまだ聴いたことがないが、ライブで見るのを楽しみにしている。

●ベルリンポップの魅力がいっぱい!イッツ・ア・ミュージカル(It's a Musical)

次は、『ファウスト 第一章』にてドラムスを担当したロバート・クレッツマーが参加するポップな2人組バンド、イッツ・ア・ミュージカル。

スウェーデン出身の女性アーティスト、エラ・ブリクスト(Ella Blixt)がヴォーカル、キーボード、たまにギター、ロバートがヴォーカル。エラはスウェーデン出身の女性シンガーでベルリンに在住、かつては渋いアコースティックなデュオ、ボビー&ブルム(Bobby and Blumm)のボビー・ベイビーとしてデビュー。深い味わいを持つ歌声を披露したのち、イッツ・ア・ミュージカルをロバートと結成。2009年にリリースされたポップな名曲「Music Make me Sick」は日本でもスマッシュ・ヒットを記録した。

イッツ・ア・ミュージカルは、最高級のお洒落なフランス・ポップのような贅沢で緻密なサウンドを提供してくれる、本当に良質なポップ・グループ。ライブで見るイッツ・ア・ミュージカルも素晴らしい。ロバートは片手でドラムを叩きつつ、もう片手ではヴィブラフォンで副旋律を叩き、そして歌い、エラと見事な美しいハーモニーを織り上げる。彼らの音楽には、セルジュ・ゲンスブールなどが持つヨーロッパの良質なポップの伝統、バート・バカラックやアメリカで最もシンガー・ソングライターが面白かった時代の歌心、そしてビートルズが持っているロックならではの繊細さが詰まっている。

It's a Musicalの新曲がそろそろ発売されるらしい。要チェックだ!

ひとつの素晴らしい演劇の舞台の背景には、素晴らしいミュージシャンたちの素敵な音楽活動がある。ドイツの街ではそんな空気をごくごく身近に体験することができる。

文:Masataka Koduka

◆ブルームフェルト・オフィシャルサイト
◆イッツ・ア・ミュージカル・オフィシャルサイト
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