『レス・ポールの伝説』公開、生きる伝説をNYで直撃

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ギブソン社の誇るエレクトリック・ギターの代名詞“レスポール”。レスポールと言えば、エリック・クラプトン、ジミー・ペイジ、ジェフ・ベック、スラッシュ…いや、ここで歴代のギタリストの名前を列挙することはもはやナンセンスだ。何故って、レスポールを手にしたことのないギタリストなんて世の中にいないからだ。99%テレキャスターのイメージしかないキース・リチャーズも、60~70年代はレスポール・スタンダード、レスポール・カスタム、レスポールJrを愛用、かのエドワード・ヴァン・ヘイレンですら、すっかりレモンドロップにバーストした1959年レスポール・スタンダードを手にしていた事実がある。

世界中のあらゆるミュージシャンたちに愛用され、エレキ・ギターのスタンダードとなったレスポールは、ギター・プレイヤーのレス・ポール氏が生み出したものだ。

ソリッド・ボディのエレキギターの父と呼ばれ、現在のスタジオ・レコーディングの礎となった多重録音とマルチトラック・レコーディングを発明・開発した先駆者として“発明家の殿堂”入りを果たしたレス・ポールは、1950年代のポップ・チャートの王であると同時にロックの開拓者でもある生きる伝説である。そして何より驚くのは、93歳となる現在においても週一でステージに立つ現役プレイヤーであることだ。

ソリッドギターというアバンギャルドで非常識な楽器“THELOG”を考案するも、世の楽器メーカーは一笑に付した1940年代。世の中が彼の偉業に気付くまで何年もかかることになる。ミュージシャンとしてヒット作を出すも鼓膜を破る事故に合い、結婚と離婚の繰り返しの人生の中でグラミー賞を受賞、ロックの殿堂入りを果たした現役プレイヤーのレス・ポール…その貧困時代から富と名声を築くまでの自身の物語が映画となった。

今回日本のみで公開となる映画『レス・ポールの伝説』は、レス・ポールのヒストリー、ミュージシャン達とのセッションを中心に、レス・ポール自らが人生を語り、B.B.キング、ジェフ・ベック、ポール・マッカートニー、そしてキース・リチャーズといった彼を尊敬してやまないミュージシャンたちがレス・ポールを語る唯一無二の音楽ドキュメンタリーだ。

◆『レス・ポールの伝説』 予告編 動画

そんな映画の公開に先立ち、ニューヨークにてレス・ポールを直撃、貴重なインタヴューに成功した。2008年8月4日、レス・ポール93歳、最新の発言である。

   ◆   ◆   ◆

── 毎週のコンサートですがどれぐらい続けられていますか?

レス・ポール:26年間だよ。

── 凄いですね、何が続けるエネルギーの源になっているのですか?

レス・ポール:毎週のコンサートは自分にとって身体と心のセラピーになっていて、毎朝起きて出かける理由になっている。音楽が心と身体を癒してくれるんだ。人々の喜びのために演奏をすることはとても大切なことだよ。新たな友達を作ったり、古い友達と過ごしたりしているよ。もし、それと全く逆のことをして引退しまったらカラカラに乾いて飛んでいってしまうよ(笑)。

▲キース・リチャーズが「彼は俺たちに最高のオモチャを与えてくれた」、エドワード・ヴァン・ヘイレンが「彼がしてくれた事がなければ、自分は今していることの半分もできなかった」と語るように、独学ながら創造力に富んだ発明を次々と繰り出したレス・ポールがいなければ、現代の音楽産業の復興はなかったのである。粘り強く頑固な職人気質で、好奇心旺盛、悪ふざけを好むレス・ポールは、93歳を迎えてもなお彼の好奇心は旺盛で、その楽観的な考えとあふれる活力、そして飾り気のない魅力は、会う人すべてを虜にする。
── 引退を考えたことはありますか?

レス・ポール:考えたことはあるよ。時には気持ちが落ち込むこともある。“何故”という気持ちが出てくる時がある、何故これをやっているのか、やらなくてもいいのに、と。たった1度だけ、ステージを立ち去ってこれが最後の演奏だと言いそうになったことがあった。でも、引退しなかったんだ。観客の喝采や人々のやさしさにとっても元気付けられて、引退に“NO!”と言ったんだ。

── 今、一番興味を持っていることは?

レス・ポール:現在、多くのプロジェクトを進めている。どれも音楽のためだけのものではないよ。作曲もするし、アレンジもするし、バンドでリハーサルして演奏もする。それと共に、楽器のデザインもする。新しい音、新しい形、新しいフィーリングを作り出すんだ。世の中が変わっていくから、自分もそれに合わせて変わって行かなきゃね。技術の進歩について行かなければならない。今、自分にとっては補聴器がとっても大きな問題だ。ストラディバリウスを演奏していたとしても補聴器を通すと缶詰を開けているような音に聞こえるんだよ。最悪の音だ、でも補聴器なしでは聴くことはできないから補聴器は必要になる。そういった補聴器を使っている人に演奏を綺麗な音で届けるために、現在は多くの時間を補聴器の改善に費やしているよ。いままでそれがなされていなかったからね。

── 現在たくさんのアーティストがあなたが発明した多重録音やエレキギターを使っています。

レス・ポール:とても感謝していて、驚いています。夢がかなった言いようがありません。夢の中でしかこんな事は起こりえないと思います。このクラブ(イリジウム)で演奏しているのはお金のためではなくセラピーの為で、もしお金をもうけようと思ったらもっとメディアにでて大規模な事をやっている。でも、そうするとそれに自分の人生を費やさなくてはならなくなる。私の歳になると、ちょっと落ち着く人が多いけど自分は結構忙しいよ。

── 今回、日本では「レス・ポールの伝説」が公開されることになったんです。

レス・ポール:とっても嬉しいよ! 日本の方は礼儀正しく、良い音楽にたいして感謝の心を持っていて、エンターティンするにはすばらしい人達で、ユーモアのセンスも最高だよ。全てがすばらしい!

── 前回日本に来られたのはいつか覚えていますか?

レス・ポール:うーん…30年前だね。あれから大きく変わってるんでしょうね。

── 日本に行く可能性はありますか?

レス・ポール:うーん…行けないと思う。(日本以外にも)全ての国から来いと言われてしまってしまうからね。

── 日本ではリタイアした人がバンドを組むという現象が出てきているんですよ。

レス・ポール:本当(笑)?

── 何かアドバイスはありませんか?

レス・ポール:まずは楽しむということ、自分を幸せにすることだね。もしあなたが重役だった人だとする。私だったら自分の古い服を着て私の友人=ギターを取り出し友人と楽しむと思う。その他にも知人を招待してね。自分の精神科医、愛人、バーテンダー(笑)だれでも良いと思うよ。どれくらい上手くなれるかは、どれぐらい耳がよいかとリズムが良いかによると思うよ。その2つが無ければ、趣味にとどめておいた方がいいね(笑)。

── 日本のアーティストはご存知ですか?

レス・ポール:クラブ(イリジウム)に来たときにその事を聞いてDr.K(徳武弘文)をステージに上げて一緒に演奏したことがあるよ。彼はフィーリングで演奏するギタリストだった。彼からも学んだよ。

── 今、あなたの人生の目標はなんですか?

レス・ポール:明日を見ることができれば良いと思っているよ。それだけだよ、続ける事だね。時間は止まらないし若返らないしね。できる限り自分のやっていることを続ける事だ。

── 今の若いアーティストはレスポールのギターは知っていても、レス・ポールさんのことを知らない人がいます。そういった人たちに何か言いたいことはありますか?

レス・ポール:何の問題もないと思うよ。レス・ポールという人の存在を知っているか知らないかでどういった違いが出るかは分からない。そんなに考えたことは無いよ。もし全てのひとが自分のことを知っていたら嬉しいかも(笑)。今まで考えたこと無かったらちょっと分からないね。

── 日本のファンへのメッセージをお願い致します。

レス・ポール:やりたいことで成功するには、あきらめてしまわないように目標をあまり高くしない事が大切だと思います。ゴールへの努力を続けられるように、もう少しで届きそうな所に目標を置くといいと思うよ。そして、絶対あきらめない事。出来る!必ず出来る!努力して、努力して、努力する!と決心をすることだよ。それが全ての事に通じる鍵なんだよ。
※レス・ポール・インタヴュー 2008年8月4日 NYにて

映画『レス・ポールの伝説』
2008年8月23日より渋谷アップリンクX他、全国順次公開
■『レス・ポールの伝説』公式ウェブサイト

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