――今ギターコレクションは何本あるんですか?
Paul:気がついたらギターが増えてて、「I LIKE ROCK」という曲では100本のギターをオーバーダビングしたんだ。そのあと売りに出したんだけど、まだ80本はあるよ。
――ニューアルバム『PAUL THE YOUNG DUDE』のネーミングは?
Paul:モット・ザ・フープルの有名な曲「ALL THE YOUNG DUDE」からとってるんだ。まだ自分は若造なんだということ。それと自分が若かった頃に好きだった音楽の要素も入ってるってことさ。
――モット・ザ・フープルは特別好きなの?
Paul:あの曲はもともとはデビッド・ボゥイの曲なんだけど本当に名曲だ。特に、後にバッド・カンパニーに加入するギタリストのミック・ラルフスのヴィブラートが絶品なんだよ。
――ポールとしての音楽の歴史はまだまだ途上だと思うんですが、このタイミングでベストアルバムをリリースした理由は?
Paul:この5年間で10枚近く作ってきて区切りがついたっていうことと。今まですごいペースで作ってきたので少々スローダウンしたいってこと。そして、現時点で自分の音楽性に若干の変化が生まれてきてるってこと。そういう分岐点にいるってことを感じたんだ。
――ニューアルバムのメッセージやコンセプトは?
Paul:歌詞を通じてというよりも音楽全体のメッセージっていう意味で言うよ。今自分がやってるのはポップでありながらギターはすごいクレイジーでヘヴィーだったりする。これは自分がハッピーに感じるていることを表現してるんだ。アメリカの社会がそうであるように、アメリカで流行ってるグランジやオルタナってネガティブで暗いんだよね。僕はもっとポジティブで明るいことを表現したい。だからこのベスト盤に選んだ曲ってそれもハッピーなものばかりなんだ。
――「I’m not afraid of the police」は、チープ・トリックの匂いがするし、「KATE IS A STAR」など、全体的に’70~80年代ポップスやロックからの影響を色濃く感じます。この頃の音楽がポールに与えている影響力は?
Paul:僕の中にひとつの理論があるんだ。それは、「人間は13歳の時に聴いてた音楽に一生影響される」っていうことなんだ。僕は1966年生まれだから13歳って1979年。その頃はヴァン・ヘイレンがすごくて、ものすごく影響された。ヘヴィメタルではジューダス・プリーストやアイアン・メイデンとかが出て、そしてレッド・ツェッペリンやザ・フーとかもちゃんと現役でやってた。新旧が絶妙のバランスを保ってたんだよね。だから僕にとっては’70~80年代というのが非常に重要な時期なんだ。
――ソロとバンド活動のバランスがトッド・ラングレンのようですね。
Paul:トッドと較べられるなんて最高だよ! 確かにソロとバンドとのバランスはトッドのソロとユートピアの関係に似てると思うよ。彼はラジオ向きのポップソングを書いたと思ったら、ムチャクチャ実験的なことをやったりとか、その奇妙なバランスが彼の魅力だと思うし尊敬してる。でも何がカッコいいかって、ギターを低く持ってるというのがクールなんだ。
――ソロとRacer Xの区別をどうつけようと意識していますか。
Paul:それには、プロセスとプロダクトという二面があるね。ソロは一人でやればいいわけだから、プロセスに関わる決断は全て自分で決めることができる。でもRacer Xはバンドだから全員の合意が必要だ。プロダクト面では、Racer Xは純粋なへヴィメタルバンドを目指して生まれたものなので、それぞれの最高のプレイヤーが最高の演奏をしてくれればいい。ソロは自分が歌っているというのが最大の違いだね。ソロは何でも自分でやるから。ジョン・レノンやエルビス・コステロの声が好きだから、ソロでは自分で歌いたいんだ。だから、ヴァン・ヘイレンにジョン・レノンがいるという風に思ってほしいな。
――アコースティック盤との同時リリースのアイデアは?
Paul:2年間日本に住んでたときはアパート住まいだったんで、大きな音が出せなかったんだ。だからアコースティックギターと小さなカセットレコーダーで曲を作ってたんだ。その時にいい曲がいっぱいできたので、皆に聴いてもらいたくてね。それにベスト盤だから聴いたことのある曲ばかりでしょ、それじゃファンの皆に悪いかなと思って。あと、片方がロックで片方がアコースティックっていうコントラスもいいかなって。そういう理由をひっくるめて2枚組になっちゃったんだ。
――ジェネシスの「魅惑のブロードウェイ」をアコースティックギターで演るなんて信じられない。
Paul:僕が作品を作る時って必ずギターファンのことを考えるんだ。アコースティックの方は、ギターファンには物足りないかなって思って。昔カヴァーバンドをやってた時にこの曲をプレイしたことはあったから、これをアコースティックでやったらすごいことになるんじゃないかと思ってさ。チャレンジ精神さ。アコースティックだとノイズが入るからタイヘンだったけど、すごいクールなものができた。あと、コード進行やハーモニーも素晴らしいんだ。最も好きな曲の一つだよ。
――バッハの曲が入ってるけど、クラシック曲はあなたの中でも重要な位置にあるの?
Paul:もちろんバッハの曲が好きだってこともあるんだけど。例えば1曲目の「I’m not afraid of the police」はいい曲なんだけど、ギターテクニック的には大したことないだろ。クラシックのこういう曲をやるには猛練習が必要なんだ。自分のギター・テクニックを高めていくためにも重要だからね。
――曲のインスピレーションを得るのは、作りはギターを弾いている時?
Paul:もちろんそういう時もあるんだけど、歌詞からインスピレーションを得ることが多いんだ。シンプルなものでもいいから、歌詞があると曲がスムーズに導き出されるね。
――これからの予定は?
Paul:6月に日本でライヴをやるよ。その後も、ちょくちょく日本にも来るんだけど時差のない生活をしようと思ってる。この5年間、すごいスケジュールで動いてきたから、ちょっと落ち着いた生活をしてみようと思っている。もっとも、それは自分で望んでやってきたことなんだけどね。アルバムも10枚作ったし。
――ファンのみんなにメッセージを
Paul:これが僕の『PAUL THE YOUNG DUDE』というニューアルバムだよ。『GILBERT HOTEL』というボーナスCDも入ってる。これにはたくさんのアコースティックの曲が入ってる。何曲かはクレイジーな曲もあるよ。6月にやるジャパン・ツアーでは、両方の作品から何曲かプレイするつもりだよ。みんな、ぜひ僕のショーを観にきてね! 一生懸命やるし、すごいバンドを引き連れて、びっくりするような衣装でギターを弾くよ。きっと全ての場所で素晴らしいものになると思う。また日本で会おう! みんな僕の音楽を聴いてくれてありがとう! ポール・ギルバートでした。またね!
取材・文●森本 智