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ニューヨーク、マンハッタン島の東に位置する地区、クイーンズ。ブルックリンとブロンクスに挟まれたこの地も、ヒップホップ・シーンを語る上では外せない重要ポイント・聖地だ。
あまり語られることは無いが、ランD.M.C.やL.L.クールJ、ソルト・ン・ペパら大御所たちも同地の出身である(注1)。
しかし、シーンにおいて”クイーンズ”という地を決定的に印象づけたのは、その地をリプレゼントし、また体現してみせたヤツらジュース・クルーの出現だった。マーリー・マール率いるこのクルーからはクール・G・ラップ・アンドDJポロやビッグ・ダディ・ケイン、ロクサーヌ・シャンテ、ビズ・マーキーら、多くのアーティストを輩出(とは言えケインはブルックリン、ビズはアップタウンの出身だったりする)しただけでなく、ブロンクス代表ブギ・ダウン・プロダクションズとのブリッジ・バトルで、”クイーンズ”の名をシーンに深く浸透させた。
バトル後、ジュース・クルーから飛びだした多くの連中は着々と成功を収めていくが、クイーンズ色は薄まっていき、シーンでその名が出てくる機会も少なくなってきた。メイン・ソース(注2)やオーガナイズド・コンフュージョン、アキネリらヒップホップ史に名を残すクラシカルなアーティストが出てきてはいたものの、アンダーグラウンドすぎたため、クイーンズ隆盛とまではいかず…。 そんな状況下、現われたのが御存知ナス!
最高峰のリリシストとしてクイーンズを強くリプレゼントしたナスが、’94年に名盤として語り継がれる1stアルバム『Illmatic』をリリースしたことで、再び同地に注目が集まる。
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| ▲Mobb Deep |
翌年’95年にはモブ・ディープも登場し、彼らが同年リリースした2ndアルバム『Infamous』は、『Illmatic』同様にクイーンズの息吹を封じ込めたようなサウンド~ストリートのヤバイ空気や緊張感が立ち込めたトラックに、血生臭いハードボイルドなラップ・スタイル、プロジェクト(低所得者用集合住宅で、ナスもモブ・ディープもそこの出身)のリアルな生活を描写したリリックで絶大なプロップを集め、クイーンズ・ヒップホップの盛り上がりは加速していく。
クイーンズ復活の勢いに乗り、シーン最前線へとカムバックを果たしたのがクール・G・ラップだった。グループ後期は西海岸へ移転(注2)していた彼も、ナスとのジョイント「Fast Life」を収録したソロ・アルバム『4,5,6,』をリリース。そして『Illmatic』へ参加していたラッパーAZ(注3)やマイク・ジェロニモ、ロイヤル・フラッシュ、ロスト・ボーイズらがデビュー。
モブ・ディープの周辺からもビッグ・ノイド(現ノイド)、ロイヤル・フラッシュと従兄弟同士のカポーン・ノリエガ、古くはスーパー・キッズ、またはインテリジェント・フッドラムとしてジュース・クルー周辺で活動していたベテランMCトラジディら次々と新しい才能が世に出ていき、クイーンズはヒップホップ・シーンの聖地として確固たる地位を築いた。
近年もクイーンズ最強スクリューボール(注4)、ナス率いるファームへも参加したネイチャー、また初期ファームのメンバーでもあるコーメガなどなど、クイーンズ・ハードボイルドの血を受け継ぐ連中がデビューし、シーンを熱く盛り上げている。
そして2001年12月にナスが新作『STILLMATIC』を、そして2002年1月にはモブ・ディープが新作『INFAMY』をリリースし、クイーンズ・ヒップホップの勢いは止まらないのだ! |