Daryl HallとJohn Oatesがそうした伝説的スターに属さないという意味ではない。’80年代のノスタルジアが高まるにつれ、H&Oの超ポップなミュージック・ビデオや思いっきりスムーズなサウンド、『Miami Vice』顔負けのスーツ、それにOatesのクルリとはねるカイゼルひげでさえ、なぜか急にクールに見えてくる。レトロの良さがぐっと受け、当時を席捲したデュオのソングライティングの才能を新発見する動きが出てくるに違いない。“She’s Gone”や“Rich Girl”のようなアダルト・コンテンポラリーの代表曲、それにブルーアイド・ソウルのスマッシュヒット“One On One”や“I Can’t Go For That”がどんなに素晴らしいか見直されるはずだ。突如として、若手バンドがHall & Oates(少なくともHall)に影響を受けたと自慢げに言い始めるだろう。その上、彼らを真似て自分たちの歌に手拍子をかぶせたり、皮肉だが憎めない“Sara Smile”のカヴァーをレコーディングするバンドも出てくるに違いない(だってAlien Ant Farmが“Smooth Criminal”をヒットさせるくらいなんだから)。そうこうするうち、Sonic YouthやMelvinsをフィーチャーしたトリビュート・アルバムが作られるだろう(まぁ、タイトルは『Semi-Private Eyes』か『H2Faux』ってとこか)。
すでにH&Oのメロウな名曲を取り入れている流行に敏感なアーティストもいる。なんならソフトロックのPhoenixやZoot Woman、ライトなFMディスコのDaft Punkなんかを聴いてみるといい。まるでフィラデルフィアのデュオ、H&Oによる『Rock ‘N’ Soul, Part 1』のテクノ・リミックス・ヴァージョンだ。こんな具合だから“Maneater”が最新のフォルクスワーゲンのコマーシャルに起用されるのも、まさに時間の問題といえる。
とはいえ、H&OがL.A.のHouse Of Bluesで行なったコンサートを観る限り、彼らのノスタルジックなカムバックに気づいているヒップスターは、まだそれほど多くなさそうだ。気づいているのはPhoenixやZoot Woman、Daft Punk、それに……エヘン、この私だけ。 House Of Bluesの観客はほとんどがベビーブーマー世代だった。ぱりっとした身なりでRV車から降り立つと、チップをはずんで駐車係に任せている(高いベビーシッター代に比べれば、これくらいどうってことない)。コンサートでは有頂天で“Kiss On My List”を叫ぶのだ。そんな中、髪もまだフサフサとあり、細い身体を維持しているHall & Oatesのほうが、ファンよりよっぽど若々しく見える。このデュオは以前からヒップなど超越しており、歌の良さで勝負する。しかも今夜は’84年の“Adult Education”に始まり、名曲ぞろいとくる。賢明にも、’97年の出来はいいがヒットしなかった『Marigold Sky』からはほんの数曲しかやらなかった。前述の曲に加え、“Out Of Touch”“Say It Isn’t So”“Wait For Me”など、観客大受けのグレイテストヒットばかり。さらにDarylがソロで、“Every Time You Go Away”(’85年、イギリスのアイドルPaul YoungがカヴァーしてヒットさせたHallの曲)を歌い、僕の大好きな曲ですと言ってDelfonicsのカヴァー曲“Didn’t I(Blow Your Mind This Time?)”をソフトに聴かせた。
もちろんOatesも一応ソロの出番がある(口ひげがなくて一瞬、誰か分からなかった)。自作『Voices』からの“How Does It Feel To Be Back?”は、本来は短いポップソングなのに、ギター・ジャムがだらだらと入り、ちょいとやり過ぎの感じ。それにしても、一番ヒットしたカヴァー曲、Mike Oldfieldの“Family Man”とRighteous Brothersの“You’ve Lost That Lovin’ Feeling”がなかったのはがっかりだ。さらに“You Make My Dreams”や、なんと“Private Eyes”さえセットリストに入ってなかったのは、もうショックを通りこして絶対に許せない! まあ、それでも全体としては、指を鳴らし、つま先で拍子を取りたくなるようなナンバーワン・ヒット満載のイージーリスニングの夕べは、とても楽しかった。みんなはどうか知らないけど、私はもう『Rock ‘N’ Soul, Part 2』が待ち遠しい。