「M-SPOT」Vol.061「多面的な魅力を持つことは、吉と出るか凶と出るか」

2026.05.12 20:00

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元来、人は多面性があり、いろんな魅力を携えている。欠点は克服し長所は伸ばしなさいと教育を受け、更新し続け立派な人格を磨き続けることが美徳とされてきた。もちろんそれに異論はないものの、全てを克服することが至上の命題なのかどうか。

アートやエンターテイメントを牽引するミュージシャンをリスペクトする我々は、ミュージシャンに何を求めどこに喜びを感じているのか。そしてアーティスト自身は、何を礎にその魅力を放ち続けるパワーを得ているのか。

Xinyi Kamiyaという魅力的なアーティストの紹介を通じて、アーティストが目指すべき目線の置き方を考えてみたい。コメンテーターはTuneCore Japanの野邊拓実、そして進行役はいつもの烏丸哲也(BARKS)である。

   ◆   ◆   ◆

──このところ生成AIのクオリティがさらに向上して、とんでもなく高品質な楽曲がお手軽に作れる状況になっているおかげで、よくできた素晴らしい楽曲やハイスペックな歌唱に出会うと「まるで生成AI級ですね」と言いたくなる自分がいます。最大級の賛辞なんですけど、そもそも「AIじゃないのに、AIみたいだなんて失礼だ」と思う自分もいれば、一方で「AIじゃないんですよ」と念を押したい自分もいる。このXinyi Kamiya(シンイ・カミヤ)というアーティストの作品も、まさにAIかのようなクオリティなんですよ。


──Xinyi Kamiyaの「Close To You」という曲ですが、意外と音数は少ないんです。

野邊拓実(TuneCore Japan):そうですね。だいぶゆったりというか情報量が削減されている感じがします。

──歌、上手いですよね?

野邊拓実(TuneCore Japan):ニュアンスの付け方も非常に上手いですね。別にすごいエモーショナルな息遣いをしているわけではないけど、微妙な声色の変化だったり裏声の返り方だったり一瞬だけコブシが効くような感じだったり…みたいなところに静かなエモーションを感じるというか。

──特にAIっぽさは感じなかったですか?

野邊拓実(TuneCore Japan):何点かあるな…とは思いました。ひとつはボーカルのオートチューン具合。ほとんどのところではオートチューンを感じない音質にも関わらず、ものすごく高いところから低いところに降りるところで、ちょっとケロっぽさが見えたりとか、音のハマり方がすごい綺麗すぎて…これは褒めているんですけど、ロングトーンで音程がずっと合っている感じがまるで人工的なもののようで。あと、ボーカルミックスの感じも意図的なのかもしれないですけど、バックトラックとボーカルでエコーの感じが違うというか、ボーカルを浮かせて現実感がないような印象があって、すごい後ろの方でふわふわっとなっているシンセサイザーの音だったりトラック同士が混じっちゃっている感じの音とかが、AIで書き出した時の質感とちょっと似てる感じはあるかもしれないな、と。

──Xinyi Kamiyaはシンガー/ソングライター/トラックメイカーなので、基本はDIYで作っているんでしょうか。

野邊拓実(TuneCore Japan):クレジットにはプロデューサーが書かれているので、どこまで制作しているのはちょっとわからないですね。

Xinyi Kamiya

──それにしてもインディペンデントの世界でも、ミュージシャンのクオリティ・レベルは非常に高くなりましたね。

野邊拓実(TuneCore Japan):確実に上がっていると思っています。音楽のレベルと言う意味では別に昔もすごい人はいっぱいいたわけですけど、いわゆる業界の大人の人がバックに付いていなくてもできることの範囲が確実に広がったんだと思います。例えば昔はPro Tools(DAW:音楽制作・録音・編集ソフトウェア)ってめちゃくちゃ高かったわけですけど、今では何万円か出せばDTMもソフトシンセもいっぱい買えて、楽曲の制作やアレンジメントも、なんならミックス、マスタリングまで自分でできますから、TuneCoreが出てきた以降はメジャーには行かずにそのままインディペンドでやっていく人たちが確実に増えましたよね。

──だからといって、誰でも人気アーティストになれるわけではないけれど。

野邊拓実(TuneCore Japan):どっちにしろ、自分たちでどこまでブランディングできるのか、自らのパッケージングを綺麗に整えられるかどうかは、確実に問われていると思います。そもそも音楽って、聴かれる音楽に対して発表される楽曲がものすごく多い供給市場なので、どうやったら「自分たちは他と違うんですよ、他よりいいんですよ」を発信できるかが必要な時代だと思うんですよ。

──何もしないと埋もれたままですもんね。

野邊拓実(TuneCore Japan):自分たちの世界観をちゃんと作り上げられてないアーティストって、誰にも見つけてもらえない時代に入ってきていると思うんですよね。「とにかくMVを作ることが重要なんだ」みたいな時代が昔にはありましたけど、今は自分たちでブランドコンセプトとトンマナを考え、そこがきちんとパッケージングされたものが提供されていることが必須です。

──簡単そうで難しい気がする。

野邊拓実(TuneCore Japan):そうですね。多くのアーティストは「自分たちはどう見えるのか」というブランディングには目が行ってなくて、「どういう曲を作ったらいいか」とか「ショート動画はどういうものを作ったらいいか」「どうしたらバズるか」みたいなところに目が行ってしまっていてね。

──そこは手段であって、求める結果ではないのにね。

野邊拓実(TuneCore Japan):奇跡的にバズってその曲だけ収益が上がるみたいなことはあるんですけれど、その先はないというか、そこでファンが付くことがないんですよ。そのコンテンツのファンは付くんですけけど、そのアーティストのファンまでにはならない。だから、次の曲からどんどん再生数が下がっていくみたいなことがほとんどのアーティストで起こっていくんです。それを解決するための手段って、そのコンテンツで「これは世界観の一端だから、もっと奥にこのアーティストの世界観の本体があるはず」ってどれだけ思わせられるかですよね。アーティストのファンにさせるかどうかが問われていて、そこが鍵になっている時代だと思うです。自分の耳も痛いですけどね(笑)。

──(笑)

野邊拓実(TuneCore Japan):でもそういう時代なんです。「自分たちしか提供できていない価値はこれです」というところがきちんと決まっていて、アー写でもライブでも音楽でも動画でも全て、この体験を提供するための統一されたコンセプトに基づいている状態を作れているのか、そこがものすごく大事なんです。

──歌がうまいとか曲がいいとかパフォーマンスが凄いとか、ルックスが飛び抜けているとかキャラがいいとかトークが上手いとか、あるいは癒し系だとかニキネキ系だとか不思議ちゃんだとか、アーティストって多面的な側面を持っているわけですが、それらの特性をレーダーチャートで表した時、チャートを大きくするのかどこかを特化させるのか、そういった戦略はどう考えるべきですか?

野邊拓実(TuneCore Japan):むしろ特化じゃないですかね。結局そのレーダーのパラメーターのひとつひとつも全部好き嫌いの話なんですよ。「上手さ」とか「演奏スキル」みたいなものですら好き嫌いの話で、ジャンルによっても必要な上手さって性質が違うので、ちゃんとグリッドに合うような演奏をするべき音楽もあれば、その逆もある。「パンクなのにどんだけ綺麗に演奏しとんじゃ」みたいなね(笑)。

──そうですね。

野邊拓実(TuneCore Japan):音楽って、実は全部好き嫌いで成立しているものなので、「どういうものが好きな人に刺すか」って話でしかないと思うんです。となると「こういうものが好きな人に刺さりたい」であれば「その刺さる要素を伸ばしていこう」「なんなら他はもう別に余計な情報だから削っていいよ」ということです。

──わかりやすい。

野邊拓実(TuneCore Japan):余計なスキルが邪魔することもあるんです。自分の歌の話で言えば、オペラ出身でもあるし民謡もやってきているしジャズのセッションにも長くいて色んな経験を積んできたので、ボーカリストとしては技術的には高い方だと思うんですけど、僕の音源を聴いた友達に「なんか歌がうまい部分が邪魔」って言われたことがあって(笑)。

──え?

野邊拓実(TuneCore Japan):膨大な情景が浮かぶような世界観なのに急に目の前に出てくると「いや、歌は上手いんだけど…ちょっと向こうに行っててくれない?」みたいな気持ちになるって。「今、景色見てんのよ、今じゃないだろ」みたいな(笑)。なので僕は最近、歌はすごく抑えて歌っている(笑)。本来だったらいい要素だと思っているものが、本当の魅力を邪魔してしまうことって、結構あると思うんですよね。だからレーダーチャートで言えば、全部のパラメーターを上げたらいいのかって言われると、そういうことではないなって思います。「本当の自分の魅力ってなんなんだろう」「どういう人たちに刺したいのか」「その人たちがいいと思う自分の本当の魅力ってなんなんだろうか」を考えた時に、ようやくどのパラメーターをどのどれぐらい伸ばしたらいいのかという結論が出る話だと思っています。

──確かに、全パラメーターを上げると「すげえ器用な普通な人」になりそう。

野邊拓実(TuneCore Japan):マジでそうです。それはそれですごいことですけどね。でも全部を伸ばせた人っていないと思うんで、中途半端に全方位を上げて「結局この人の魅力ってなんだっけ」みたいなことになるぐらいだったら、「他は何にもできないけど、強烈にこの要素があるんだよ」の方がわかりやすいですよね。説明の余地なしに「うわ、この人すげー」ってなるのはそういうことでしょ。

──ワンアンドオンリーの人ですね。

野邊拓実(TuneCore Japan):アルゴリズム的にも有利でしょう。良くも悪くも一般の方々って、音楽をやっている人たちが思っているほど音楽を追求してくれるわけじゃないですよね。そこまで興味を持っていないというか、お金や時間や労力を消費して音楽を解釈しにいこうという姿勢を持っている人たちっていわゆる音楽好きの一握りなので、広く一般に刺したいのであれば、0.5秒で良さがわからないとスワイプされちゃう。

──確かに、音楽好きを自負する人ってクラスに2人ぐらいですもんね。

野邊拓実(TuneCore Japan):本当にそう。

──まして楽器を買ってバンドを組みたい人なんて学年に数人程度ですから。

野邊拓実(TuneCore Japan):高校生の頃にレディオヘッドの話ができた相手は1人だけでした。のちにそいつとバンドを組むんですけどね(笑)。そう考えると、みんなはそこまで音楽に興味はないという前提で進めないと広く普及はしないよなと思うんです。それこそMrs. GREEN APPLEとかYOASOBIとかAdoって聴いた瞬間に何がいいかわかるじゃないですか。好きか嫌いかは置いといて「こういうところがいいとこなんだな」「こういうところが凄いな」っていうのは速攻でわかる。少なくとも自分の良さが分かっていて、それが伝わる状態になっているためにアンテナを高く持つということですね。

──優れたプロデューサーっていうのは、そういうことをしてくれる人でもありますから。

野邊拓実(TuneCore Japan):そうですね。優れたプロデューサーほど、アーティストの魅力を引き出してちゃんと伝わる形にしますから。もちろんいろんなスタイルがあるので、プロデューサー自身がめちゃくちゃいい良さを持っていて、その色に染められてヒットする形もありますけどね。

──確かに。海外で言えばロバート・ジョン・“マット”・ラングなどは、まさしくそのタイプですね。

野邊拓実(TuneCore Japan):日本で言えば中田ヤスタカもそうですね。Perfumeは3人がめちゃくちゃ踊れるっていう別の要素もありますけど。

──今回紹介したXinyi Kamiyaも、魅力溢れた存在感を伝えるプロデュースワークが鍵なのかもしれないですね。ありがとうございました。

Xinyi Kamiya

都市の孤独に、寄り添う残響。多層的なルーツを持つ新星・Xinyi Kamiya 日本人の父と台湾人の母を持ち、日本語・英語・中国語を自在に操るトリリンガル・アーティスト。 DJとして活動していた父の影響で、幼少期から90年代のブラックミュージックを呼吸するように吸収して育った。その音楽的バックボーンは、現代のアーバン・サウンドに深いグルーヴとノスタルジーを吹き込んでいる。 東京を拠点に活動する彼女が音楽を紡ぐ一貫した動機は、「都市の孤独」と「繋がりへの渇望」。華やかな都会の喧騒の裏側に潜む、誰にも言えない寂しさや空虚さ。そんな感情の隙間に、彼女の歌声は静かに、しかし力強く入り込む。 最大の特徴は、吐息のように繊細なウィスパーボイスと、感情を爆発させるエモーショナルな伸びのコントラストだ。その声は、真夜中の静寂の中でリスナーの心に寄り添い、孤独を「孤立」にさせない温かさを持っている。 憂いとノスタルジーを纏った彼女の音楽は、言語の壁を越え、現代を生きる人々の夜を彩っていく。
https://www.tunecore.co.jp/artists?id=990769

協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.

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