「M-SPOT」Vol.058「たとえ未熟でも、何より大事なものがある…というお話」

音楽の魅力とはなにか。音楽が我々の心を動かし感情を揺さぶるのは何故なのか。
きれいに整ったアレンジよりも、整合性の取れた美しい和声よりも、心を掴んで離さない音がある。未熟で未完成な楽曲でも、完成された作品からは得られない魅惑な香りが漂うこともある。
今回紹介するアーティストは、16歳のシンガーソングライター。実直な思いを楽曲にして、世に放ち続けている女子高校生だ。彼女の楽曲は、音楽業界に永く従事する我々の心をどう震わせたのか。コメンテーターはTuneCore Japanの野邊拓実、そして進行役はいつもの烏丸哲也(BARKS)である。
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──今回はとても素敵な作品を紹介します。Angeという女性アーティストで「Talking」という楽曲です。言葉を選ばずに白状すると、まだとても未熟で、音作りもバランスも整っていませんし、素人くさく非常に粗削りのままです。でも、ぜひ聴いてほしいんです。
──まず何がステキかって、日本生まれの日本人なんですけどすべての楽曲を英語で歌っているんです。つまり、最初っから目線がグルーバルなわけですけど、なんとAngeさんは2009年生まれなんですよ。
野邊拓実(TuneCore Japan):年齢的には高校生ですね。
──12月生まれなので、まだ16歳です。この時点で英語だと決めて、作詞・作曲・演奏・アレンジ・プロデュースをひとりで行って発信しているんです。等身大の自分の音楽をそのままに世に伝えていく純粋な衝動で活動する姿って、今の時代、逆に珍しくないですか?
野邊拓実(TuneCore Japan):今って、良くも悪くもものすごい完成度が求められてしまっていて、インディーズだろうと、まるでメジャーみたいなミュージックビデオや、楽曲も職業作曲家が作ったレベルのようなの完成度を期待されますよね。
──生成AIがまたそれを助長していますし。
野邊拓実(TuneCore Japan):生成AIはそれを激化させていくと思うんです。そういう中で、この作品にはすごいプリミティブな衝動があって、シンプルに素敵だなって思いました。楽曲を作ってそれをちゃんと音源にして、TuneCoreから配信してこのM-SPOT企画に応募してくるという一連の流れを実行していることが嬉しい。頑張っているなって応援したくなる。
──そうなんです。ピュアさと真剣さが凄く伝わってきますよね。
野邊拓実(TuneCore Japan):行動力というかモチベーションをすごい感じます。あと、歌詞がめっちゃ書かれてるのがいいですね。歌詞表示させると凄く長い(笑)。ここにも一生懸命書いたんだろうみたいことが見て取れますよね。まだ未熟ですけど。
──でも、ものすごくステキでしょ?
野邊拓実(TuneCore Japan):そう、いろんなところに伸びしろがある。「もうちょっとこういうところの知識をつけた方がいい」とか「こういうところはうまくなった方がいい」「本当はこういう技術があるといい」みたいなところはいっぱいあるんですけど、聴いているうちに「そんなことはなんでもないな」って思いました。作曲の技術しかり、演奏の技術しかり、プロデューシング、レコーディング、パッケージング…そういう技術はしっかりやっていけば身に付くものなので。
──ですよね。
野邊拓実(TuneCore Japan):というか、別に自分で身に付けなくても、人にやってもらえばいいことでもある。できる人を味方につけるというのも活動のひとつですから。だから、そういう未熟さはすごく些細なことで、そんなことよりも、ちゃんと自分が楽曲を作り、それを人に聴いてもらうためのアクションをきちんとしているところで、同年代のアーティストに対して頭ひとつ抜けていると思いますね。
──だから伝わってくるものがある、とも言えますね。
野邊拓実(TuneCore Japan):アーティストだけじゃなくて、もしかしたら起業家とかYouTuberとか普通の会社員にとっても、大事なことって「行動する」ということだと思うんです。やっぱり行動量って裏切らないですよ。それを実績と言ってもいいぐらい。ま、会社員では成果を出さないと行動量=実績にはなりませんけど(笑)、アーティスト活動においては、やっぱりどういうことをやったかが実績だと思うんです。もちろん「チャートに入った」とかいうことも、その先にある実績ではあるんですけど、そもそも、このペースでちゃんとリリースをしたとか、自分ひとりでどこまでやれたのかというのは、確実に実績になります。そこには、その人がどれだけモチベーションがある人なのかというところも結構重要な指標だと思うんですよね。
──わかります。というか、そこが生命線。
野邊拓実(TuneCore Japan):そうですよね。曲のクオリティがいくら高くても、めちゃくちゃモチベーション低そうだなって思っちゃったら応援の熱も下がるし、すぐに終わりそうだなって感じちゃう(笑)。そう考えると、モチベーションが見えるような行動ってものすごい大事だなとも思うんですよ。
──そこって、将来性とも関連しますよね。
野邊拓実(TuneCore Japan):音楽業界にいて、フェスやオーディションの審査員をするようになると「将来性を見てます」みたいな話をよく聞きますけど、将来性を判断するのに1番わかりやすい指標って、その人のモチベーションだよなって思っていますよ。「マジでやる気あるな」みたいな(笑)。
──それが説得力だったり。

野邊拓実(TuneCore Japan):だからこのAngeさんの「ちゃんとリリースをしている行動力」は、起業家で言ったら、この年でベンチャーキャピタルにピッチをしてるみたいなレベルだと思います。僕なんか、16~17歳のころ何をやってたかを思い起こせば、音楽やりたいって言いながら「モンハン」ばっかり(笑)。
──そんなもんですよね(笑)。私もゲーセン通い。
野邊拓実(TuneCore Japan):現状、Angeさんの楽曲は未熟だとは思いますけど、それでもその未熟さならではの魅力もしっかりあって、今でも素敵だなって思います。現状でこれですから数年後は凄いぞと思うんですよね。
──全く同意です。生成AIがハイクオリティな作品を簡単に作り出す時代だからこそ、インディペンデントのアーティストですら完成度の高さを指標にしてしまう。多分Angeさんも至らぬストレスは抱えていると思うんですけど、そこをクリアさせること以上に作品を出したい気持ちの方が勝っている。だから行動する。そこに原石としての輝きがあると感じますね。
野邊拓実(TuneCore Japan):特にAIが出てきたこの時代は、完成されたものとか整理整頓されたものが当たり前になってくると思うので、であればこそ、逆に偶然性だったり、出てしまっている野暮ったさみたいなものは、すごく人間的なものとして価値が上がってくる。時代の感性の流れで考えても、この音源はすごく価値があるものですよ。将来性が楽しみって話もしましたけど、現在のこの音源自体もこれから価値が上がってくるものと思いますね。このまま頑張ってほしいです。もう頑張っているので「頑張ってね」っていうのもなんか違うなと思いつつ(笑)、困ったことがあればサポートしたいし、いつでも言ってほしいな。
──1年後、3年後、10年後…楽しみですよね。絶対変わっていくだろうし、全く変わらないところもあるだろうし。
野邊拓実(TuneCore Japan):めちゃくちゃ楽しみ。行動の数が1番成長の近道だと思うので、これからアレンジも洗練されていくだろうし、ミックスやプロデュースもレベルが上がってどんどん綺麗に整っていくとは思うんですが、整ってない今も魅力なので現状には胸を張っていいと思います。耳の肥えた方からしたら未熟と思う部分はたくさんありますけど、これが今聞けるってすごい幸せなこと・魅力のあること・すごい豊かなことって思っています。
──幸せな気持ちになれる楽曲と出会えました。
野邊拓実(TuneCore Japan):本当にこういうの、あるんですよね。
──16歳だなんて、未来しかないから。
野邊拓実(TuneCore Japan):よりマニアックな層をうならせるようなところを目指してもいいかもしれないですし、逆に大衆に分かる形で突き進んでくれてもいいと思いますし、とにかくやめないでほしいな。
──ですね。彼氏ができて「音楽どころじゃない」ってなるかもしれないし。
野邊拓実(TuneCore Japan):それもまた人生ですけどね。
──でもこういう人であれば、風向きが変わったらまた音楽に戻ってきてくれる気もする。
野邊拓実(TuneCore Japan):そうですね、僕の友達も音大を出ているんだけど、しばらく音楽はやめていて、お子さんの手が離れられるようになってきたところでバンドを始めた、みたいな人もいます。未だにめちゃくちゃピアノ上手いんですよ。そういうのって失われないんですよね。
──いろんな活動の仕方がありますね。ハラミちゃんもそうでしょ。
野邊拓実(TuneCore Japan):いろんな道があるので、「僕のような(笑)中途半端な音楽業界の大人から変なことを吹き込まれて、自分の意志とは違うような方向に行かないでほしい」というのが僕の願いです(笑)。
──生々しくも、でも極めてリアルなアドバイス(笑)。
野邊拓実(TuneCore Japan):無責任な人もいっぱいいるので(笑)。一度守銭奴に騙されてみるという経験も、もしかしたらものすごい曲を書く引き金になるかもしれないですけどね(笑)。
──ま、人生に無駄なことは何ひとつ無いということで。
野邊拓実(TuneCore Japan):このままの姿を僕は応援したいなと思いました。
Ange
2009年生まれ。 幼い頃から音楽に囲まれて育つ。彼女の曲の多くは10代の感情を題材としており、その歌詞にエモーショナルなサウンドをまるでパズルのように綺麗にはめ込んでいる。また、それらの歌詞の一つ一つの単語には深い意味が込められている。今を生きる多くの10代は感情、気持ちをSNSなどに発信する。しかし、彼女の場合は歌詞なのだ。AngeのAppleMusicでの再生回数は52000回を超える。また、YouTubeでの動画の再生回数は、49000回を超え、Instagramの閲覧数は39000回を超える。2024年10月25日“Slow Dancing” 2024年11月22日“PATH” 2025年3月16日“Don’t say it” 2025年3月31日“Butterfly” 2025年5月16日“Nobody can fix” 2025年7月23日“Talking” 2025年9月10日“Morse Code” 2025年11月26日“It’s Christmas Now”
https://www.tunecore.co.jp/artists?id=914584
協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.







