「M-SPOT」Vol.056「バイリンガル・トリリンガルは、歌表現で言語チェイスができるという武器」

2026.03.03 20:00

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時代はグルーバル、我々の知らないところで日本人が素晴らしい活動をし、一定の熱い支持を集めていることも珍しくない。今回は、フランスと日本を行き来しながら活動をしている女性アーティストを紹介しよう。

世界観、コンセプト、己のポリシー…全てが三位一体となった心地よい作品の裏には、3言語を自然に使い、無理のない自由な活動スタイルが確認できる。紹介するのはMio Kosekiというシンガーソングライター、コメンテーターはTuneCore Japanの野邊拓実、そして進行役はいつもの烏丸哲也(BARKS)である。

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──またまた素敵なミュージシャンを発見いたしました。Mio Kosekiという女性アーティストなのですが、フランスと日本を行き来しながら活動している方で、柔らかでスムーズな音像でありながら、非常に強いメッセージ性を内包させた楽曲をリリースしているんです。「Invisible à tes yeux」という曲ですが、まずは聴いてください。

野邊拓実(TuneCore Japan):いいですね。歌声も曲調も、そこから醸し出される雰囲気にも一貫性があって、アンニュイな作風が心地良いです。

──フランスと日本を行き来している方のようですが、「Before Monday」という曲はIndieTop Chartで8ヶ月連続1位を記録するという偉業を成し遂げたりもしている方なんですよ。この「Invisible à tes yeux」はフランス語の持っている軽やかな雰囲気もありますけど、歌っているテーマはルッキズムなんです。非常に重たいテーマですけど、まずは伝えたいことがあるという主張の源泉から生まれた作品って素敵だなと思います。

野邊拓実(TuneCore Japan):結局は音楽にとって重要なのは、誰がどういうモチベーションで作り発しているのかというところ。そこに価値が置かれるようになりますよね。例えばAIって要件定義はできるけど要求定義はできない。「こういうことをしたいんだ」という時に、AIはそれに対する最適なアウトプットは出してくれるけど、「こういうことがしたいんだ」という要求はAIからは出てこない。AIを使う使わないに関わらず、「こう表現をしたい」「こういうことを表したい」っていうことが人間に残されている領域というか、人間がやる意味のある領域でもありますから、ルッキズムへの疲弊に対して歌うという確固たるコンセプトがあって、それをきちんと表現して人に伝えたいという作品は非常に魅力的ですね。歌詞には「ブス」などという攻めた表現もありますが、そういうところにも曲へのパワーを感じます。

──ふわっとした柔らかい質感ですが、込められた思いは重厚で。

野邊拓実(TuneCore Japan):昔からコンセプチュアルな作品は数多くありますけど、この楽曲は歌詞もメタファーも音色もメロディーも全てコンセプトに沿っているというお手本みたいな好作品ですね。素晴らしい。大量に楽曲が作られている中で、こういうコンセプチュアルなものの重要性って今後はますます上がってくるだろうなって思います。

──本来音楽を作る意味ってそういうところにあったりもしますからね。自分のこの感情を共有したいとか。

野邊拓実(TuneCore Japan):難しいですけどね。単純にただ曲を作るのが楽しいっていう人たちもいらっしゃるので。でも、そういう人たちにとっては、生成AIが出てきたことで劣勢に立たされているというか、楽しいだけじゃなくて、そこに何かの価値をリスナーに見出してほしいとなれば、難しいところだなって思います。

──この楽曲に対して、本人は「歌詞はほぼ日本語ですが、ブリッジにフランス語を入れました。フランスのアンニュイなエレクトロと、東京のアーバンポップが融合したような作品」と語っているんですが、YouTubeのコメントはほとんど海外からのものなんですね。フランスで聴かれることも想定しているであろうところで、敢えて日本語をメインに歌うことに関しては、どのような意識や戦略があるんでしょう。

Mio Koseki

野邊拓実(TuneCore Japan):どうなんですかね。もしかしたらもはや言語なんか気にしない環境なのかもしれない。それこそ、例えばフェニックス(フランス出身のロックバンド)か全世界で人気を博したり、「カンナム・スタイル」(Psy)が全世界で売れたような現実を見ると、グルーバルでは何語で歌っているのかって、さほど重要ではないのかも。

──確かに母国語以外に公用語として英語が通じる国もいっぱいありますし、日本語文化で育った僕ら日本人が思うほど、音楽を聴く意味においては言語の壁はさほどないのかも。

野邊拓実(TuneCore Japan):僕らも普通に洋楽を聴くじゃないですか。何の違和感もなく聴いていて、英語だとも意識していない。

──確かに。そういう意味では、日本語、フランス語、英語というトリリンガルというのは、表現ツールが多彩になるという強みに直結しますね。Mio Kosekiさんは、持っている素養を全部使ってごく自然に活動しているのか。

野邊拓実(TuneCore Japan):そうですね。言語の選び方とかもこだわりがあるのかもしれないし、「このメロディーだったら英語かな」とか、そういう感性もあるのかもしれない。やっぱ多言語が使えるっていいっすね。

──ずるいね(笑)。

野邊拓実(TuneCore Japan):ずるいっす(笑)。メロディーに合わせて言語を選べるだなんて。

──まるでトラック制作で音色を選ぶように、歌の表現手段の時点で言語という選択選択肢があるのか。

野邊拓実(TuneCore Japan):いやあ、学びがありますね。楽曲の中で多言語が出ても違和感や唐突感を感じないのは、「音楽的だから」なんですね。そう思いました。

Mio Koseki

東京とパリを行き来しながら活動するシンガーソングライター。 ヒップホップにルーツを持ち、J-POPやシャンソン、詩的なポップの要素を融合。繊細で情熱的な歌声と、日本語・フランス語・英語を自在に往来するリリックで、独自の音楽世界を築いている。 日常を過ごす日本社会、そして度々滞在するパリの街並みからインスピレーションを受け、文化や言語の垣根を越えた感情を描き出す。 その楽曲には、社会の矛盾への冷静なまなざしと、心の揺らぎを癒す強さが宿る。 オリジナル曲「Before Monday」が2021年にフランスのSNSで拡散され、世界公式インディーチャート「IndieTop Chart」で8ヶ月連続1位を記録。 J-POPとフレンチポップスを自然に融合させたスタイルは、欧州の音楽メディアでも注目された。 以降も、スイスのJ-POPチャートで1位を記録したアルバムのリリースや、CM音楽制作、夏木マリ主宰のコンテンポラリーダンスカンパニー「マリナツキテロワール」への出演など、ジャンルを横断して活動を広げている。 2024年には、フランス外務省主催「Chante en francais」で世界5人の受賞者に選出され、フランスのTV局TV5MONDEでも特集。 同年末のパリ3日間ソロ公演も成功を収め、ヨーロッパでの支持を静かに広げている。 そして2025年10月、初のヨーロッパツアー「Premier Envol TOUR 2025」を開催予定。 “傷だらけの心”を歌い続けるその声は、言葉を超えて、聴く人の心にそっと触れてゆく。
https://www.tunecore.co.jp/artists/MioKoseki

協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.

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