「M-SPOT」Vol.057「これはアートなのか、エンタメなのか」

生成AIが登場したことで、現代のミュージシャンたちは、それをいろんなシーンでいろんな活用方法を広げ始めている。これまでになかった発想や、これまでは成し得なかったクリエイティブも生まれてくるかもしれない。今回はそんな予感のもとに、ちょっと変わった作品をご紹介してみたい。
発露の根源はどこにあるのか、目指す先はどこを見据えているのか…詳細情報が見えない作品ゆえ、トークバトルも混迷を極めることとなった。コメンテーターはTuneCore Japanの野邊拓実、そして進行役はいつもの烏丸哲也(BARKS)である。
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──今回はとても特徴的な作品をピックアップして意見を交換してみたいと思っています。ある種の問題提起でもあるのですが、まずは聴いていただきましょう。BANgというバンドの「恋に堕ちさせられたこと」という楽曲なんですが。
──切り貼りパッチワークのようなアプローチは以前からある手法ですけれど、まず引っかかるのが、構成そのものやテンポや小節に強い違和感がある点ですよね?
野邊拓実(TuneCore Japan):そうですね…、最初は電波が悪いのかと思いました。
──どんなバンドなのかと調べたら、日本発AI仮想バンドとのことなんです。プロフィールには「プロデューサーはITコンサルかつ小説家、AI含めたリミックスを多様し様々なジャンルの楽曲を40曲、わずか1ヶ月で公開。小説家ならではの歌詞、さらにオルタナティブな曲調が特徴的」と書かれてある。それ以上は不明なんですけど、つまりはサンプリング元とする音素材を生成AIに作らせて、それを切り貼りして新たな作品に転生させるという新たな表現手法なのかなと思いまして。
野邊拓実(TuneCore Japan):んー。
──「既存楽曲をサンプリングするという著作権侵害」を避け、パッチワーク素材をAIに作らせるという発想には現代アート的な感覚があるのでしょうか。
野邊拓実(TuneCore Japan):楽曲を聴いた所見では「ああ、難しいやつか…」って、自動記述(オートマティスム)で書かれたシュルレアリスム作品を思い出しました。「シュルレアリスム宣言/溶ける魚」という散文作品集なんですけど、大学生の頃に頑張って読んだけど本当に支離滅裂でわからない感じ。曲のサンプリングとかをパッチワーク的に切り貼りしていくこと自体は太古の昔から行われているので、手法としては実はそんなに新しくはないんですけど。
──いわゆるリミックスがそうですしね。
野邊拓実(TuneCore Japan):はい。その「素材をAIで作っているバージョン」だよなと思うと、ものすごくクリエイティブな発想ではなく、どちらかというとコネクティブというか、既存のある概念と既存のある概念を融合させて生まれたものっていうものだなと思います。ただ、「恋に堕ちさせられたこと」みたいな、歌詞にも受動態の表現がこんがらがっちゃっているので、「溶ける魚」っぽいというかシュルレアリスムっぽさがありますよね。本人がどういうモチベーションで演っているのかがわからないですけど、もしかしたらAI生成って、近代・現代芸術のシュルレアリスムとの相性ってめちゃくちゃいいのかもしれない。
──なるほど。
野邊拓実(TuneCore Japan):オートマティスムなどはまさしくAI的ですよね。人間の意思が介在しないところでオートマティスム生成させて作品を成立させるというのは、実験的なファインアートの領域との相性は確かに良さそう。人間が介在しないことによって、逆に人間って何かを考えられるようになるみたいな話とか、人間が介在しないことでしか生まれない芸術性とか、解釈は人それぞれですけど。ただBANgのプロフィールからは、そういう現代芸術的なことをやっているんだ、みたいなニュアンスは見て取れないですよね。
──そうなんですよ。
野邊拓実(TuneCore Japan):普通に「日本発AI仮想バンド」って言っているんで、現代アートへのモチベーションじゃなく演っているんだとしたら、普通にちょっと怖いな。
──本来のサンプリングって、元ネタをチョイスする時点でリスペクトやトリビュートの念があって、そこから自分自身の表現に拡張させ新たな作品を作るという作法でしょう?でもこの作品には、素材への敬意も遠慮も一切ないですよね。生成された音楽が素材として面白いと思ったら使えばいいだけで、素材を乱発しそこからチョイスするという時点で、既存のサンプリング技法とはスタートが違うって思ったんです。
野邊拓実(TuneCore Japan):収集から始まっていないからね。ただね、現時点の音楽生成AIが良くないのは、AIが学習した音楽へのリスペクトが一切無いような発言が目立つところ。AIの会社が凄いというよりも、脳みそに汗をかきまくって音楽を生み出していた先人たちが凄かったという話だよなって思うので、そこに対するリスペクトがないのはどうかなって思うんですよ。特にAIを使ってSNSでのアルゴリズムで目立ってくるような人たちの中には、そういうカルチャーに対するリスペクトから離れている人が多い印象もあるので…。
──確かに。AIから生まれた音楽素材を自由奔放にコラージュしている様子にリスペクトの無さを感じたんですが、それは「出来上がった音楽が心地よい」とか「かっこいい」という一般的な音楽制作目線ではなく、「アートとしての奇抜性」や「現代アートへの挑戦」へ舵を切っている印象を受けたから、なんですけどね。
野邊拓実(TuneCore Japan):そう、だから僕はそこが引っかかるんですよ。そういうアーティスティックなアプローチとしてやっているのであれば、すごくいい試みというか攻めを感じるんですけど、そういうところがプロフィールから感じられないので、あれ?ってなってるみたいな。
──「40曲をわずか1ヶ月で公開」という発言も、あれ?って思っちゃう。
野邊拓実(TuneCore Japan):僕もこの「40曲、わずか1ヶ月で公開」みたいな話は書かない方がいいんじゃないかなって思いましたね(笑)。音楽を軽視している発言にも取れてしまうので、あんまりいい印象は持たれないかも。でもアプローチとしては面白いのかなとも感じます。むしろAIがどうとか言う必要もないと思うんですけどね。だってただのツールですから。「AIはダメだけど、シンセのプリセットを使うのはあり?」なんていい出したら、線引きなんてめちゃめちゃ難しい。もはや聴く人、もしくは作っている人の納得感の問題だなって思うんですよ。「ゼロから作る」って言っても機材は使っているわけですから(笑)。ロバート・モーグが作ったMoogを使っているんでしょ?みたいな。
──それこそリバーブかけたいと思ったら洞窟に行くしかないよね、みたいな。
野邊拓実(TuneCore Japan):そうだと思うんですよ。そもそもリバーブという概念を考えた人がいるみたいなところとかまで考えるとキリがない。調整音楽をやっている時点でクラシックのパクリだし、みたいな。だからこそAIってただのツールでしかないので、AIが成立するために存在している「先人たちの音楽へのリスペクト」がなさすぎないことに対しては、僕は怒っていいと思うんですけど、AI自体に怒っているのは意味がわからない。結局は使う人の態度の問題ですよね。
──ツールが悪いのではなく使い方が問題だというのは、罵倒に使われるSNSや傷害に使われる包丁とも同じですね。
野邊拓実(TuneCore Japan):だからAIがどうこうというよりは、ちゃんとプロフィールとか楽曲の説明みたいなところがきちんと添えられていることが大事かなと思いますね。そういう説明を一切添えないで音楽1発だけで勝負したいっていう気持ちもかっこいいんですけど、「こういうモチベーションで作りました」みたいなタグラインって今後はますます重要になってくると思うんです。AIは要件定義は作れるけど、要求定義こそ人間に残された領域だから、その要求定義はこうだっていう「僕はこういうモチベーションで作ったんです」って、すごく価値が出る情報なんですよ。ツールなんて今後もどんどん出てくるものですから、モチベーションのようなマインドこそこれからの音楽カルチャーが豊かになるのか、お金が回らなくなって衰退していく文化なのかを左右するものかなとも思いますね。
──そもそもの「要求定義」的な思いが一言二言あるだけで「それであなたはどう思いました?」という会話が発生しますよね。音楽は存在するだけでは意味がなく、聴かれただけでもダメで、語られることで社会と結びついて熱量を発し影響力を放ち始めるものですから、作者側の情報提供は本当に大事だと思います。
野邊拓実(TuneCore Japan):解釈は人それぞれですから、どこまで説明してあげちゃうかっていうのはアーティスト次第でいいと思うんです。けれども、その説明をしなきゃいけない時代になってきてるなっていうのは自覚した上で、説明するかしないかをちゃんと選んだ方がいいと思いますね。
──御衣です。
野邊拓実(TuneCore Japan):だから、本当にBANgがどういうモチベーションでやってるのか知りたいですね。AIに限らず常にツールが出てきた時って「こういうものが出てきたってことは、これから音楽ってこういう価値が出てくるよね」とか「こういう価値は下がっていくね」みたいなことを考えながらやるべきだよなとも思います。アーティストが考えるべきなのかどうかはわからないし、もしかしたらバックアップ側の人が考えるべきかもしれないし、もしくは僕らみたいな音楽業界の人が考えるべきことなのかもしれないですけど。時代が本当に変わっていて、どんどん新しくなっていると思うので。
──この作品は、今の時代の象徴的な事象のひとつだったかもしれないですね。
野邊拓実(TuneCore Japan):そういうことをとても考えさせられる作品だったかなという風に思います。

BANg
日本発AI仮想バンドBANg。プロデューサーはITコンサルかつ小説家、AI含めたリミックスを多様し様々なジャンルの楽曲を40曲、わずか1ヶ月で公開。小説家ならではの歌詞、さらにオルタナティブな曲調が特徴的。
https://www.tunecore.co.jp/artists?id=1002579
協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.







