【インタビュー】由薫、新曲「Ray」が照らす繊細な恋の始まりと楽曲制作の新たなフェーズ「自分の境界線を超えていきたい」

2026.04.28 18:00

Share

由薫が新曲「Ray」を3月20日に配信リリースした。由薫自身が作詞作曲を務めた同楽曲は、映画『鬼の花嫁』のイメージソングとして書き下ろされたもの。重たい雲の間から、突然ふっと現れた一筋の光が“Ray”という言葉に込められたイメージだ。

「私にとって、誰かを好きになるということは、自分を知るということでもあります」とは、新曲「Ray」に関する由薫のコメント。“あなたのせいで私は私が好きになってしまう”という一節は、由薫自身から湧き上がった思いであり、恋の始まりを主観的・客観的にとらえた同楽曲のキーワードでもある。また、恋というテーマをはじめ、これまでと異なる楽曲制作方法、リニューアルした作曲ツールなど、新たな挑戦の数々がミュージシャンとしての由薫の新たな扉を開けたようだ。

ポジティヴな変化や挑戦は結果、余計な飾りをなくしたことで本質を浮き彫りにさせ、由薫のアイデンティティや独自性をより鮮明にすることに成功した。そして4月16日には、1年を通じて“夜”をテーマとした新たなライブシリーズ<Ray in the Night>をスタートさせるなど、2027年のデビュー5周年を前に制作もライブも精力的だ。より深く、より遠くへ、広がり続ける由薫の新たな可能性も語られたロングインタビューをお届けしたい。

   ◆   ◆   ◆

■好きな人に近づけば近づくほど
■自分も照らされていくのが恋愛かな

──2025年10月リリースの「The rose」、2026年1月リリースの「echo」に続く新曲「Ray」は、作詞作曲を由薫さん、編曲を川口大輔さんが手掛けた両者タッグの3作目となります。「The rose」リリース時のインタビューでは、「今年は曲作りに力を入れていて、たくさん作っている」とうかがいましたが、新曲「Ray」もたくさん作っていったデモから選ばれた曲ですか?

由薫:いえ。今回は書き下ろしという形で、まず映画『⻤の花嫁』の内容をいただいた上で、メロディから作りました。

──「Ray」は映画の主題歌ではなく、イメージソングという立ち位置の楽曲ですね。どういう切り口で作っていきましたか?

由薫:まさに作曲するときはそこがすごく大事でした。イメージソングを作る段階で、まだ完成形ではなかったですけど、映画のある程度の映像を観せていただく機会があって。そのなかで、「この踊っているシーンで、イメージソングとして使いたいんです」という部分も教えていただいて、動きに合うようなメロディや歌詞の入り方を意識しながら書いていきました。

──ギターなりピアノなりを弾きながら、メロディを作っていった感じですか? それともメロディ先行のような感じで?

由薫:曲を作ったときの状況をよく覚えているんですけど、ちょうど年末年始で部屋の模様替えをして、真っさらな部屋で、最初に作ったのがこの曲だったんです。片付いた部屋で、新しい1年が始まるっていう下ろし立ての気持ちで書きはじめて。キーボードを前に、手紙を書くような感じで歌詞とメロディが出てきました。

──最新曲のひとつなんですね。

由薫:はい。今までと作り方を変えたところは、一旦自分のなかから出てくるものを整理しようと思ったところです。実際に映像を観る前、テーマだけを読んだ時点で、自分のなかから出てくる言葉を書き留めたんです。ノートに“恋するってどういうことだろう?” “人を好きになるってどういうことだろう?”みたいなことを書き連ねて。それを一旦置いた状態で映画の断片を観て。自分の考えとどこが一緒でどこが違うのか、それを意識して曲を書いていったのは、今までにはなかったかもしれません。

──そこでキーワードになったのは何でしたか?

由薫:曲のサビ頭の、“あなたのせいで私は私が好きになってしまう”という部分は、最初のメモにあったものだったんです。もちろん映画を観たあとに書けば、内容に感動してすごくいいものが書けることに違いないんです。だけど、映画のなかの物語だけじゃなくて、自分自身の曲でもあるべきだなと思って。感情移入しすぎないようにという意識を持ちながら作っていきましたね。

──その“あなたのせいで私は私が好きになってしまう”というフレーズは、曲の肝になっていますし、歌の主人公のキャラクターが明確化される一節でもあります。きっとこの子は自分に自信がなくて、自分を認めてあげられないタイプの子なんだろうなって。そんな人でも、 他者からの愛で自分の存在や価値を見出していけたり、自分を肯定できる。そういう前向きさが見える曲だと思います。自分を認めることに戸惑いを覗かせるのもリアルだと思うんですが、このフレーズはどうやって出てきたものですか?

由薫:最初は全然違うテーマでいろいろと書いていたんです。そこからどんどんブラッシュアップして、“Ray”(光線、光)というものにたどり着きました。“きっとこの映画は、若い女の子も観たりするんだろうな”と思ったときに、初めて人を好きになる気持ち……例えばそれは、友だちを好きになることや友だちっていう関係性になる気持ちと、恋愛的に誰かを好きになって恋人になる気持ちって、全然違いますよね。私自身も初心に帰って、“その違いって何なんだろう? 恋に落ちるってどういうことなんだろう?”と考えたときに、友だちと向き合うよりも、傷ついたりとか、思いもよらなかった感情に出会うことが、人を好きになるってことなのかなと思って。

──なるほど。

由薫:恋をして初めて“自分は嫉妬する人間なんだな”と気づくこともあるだろうし。 いい感情にしろ悪い感情にしろ、友だちだったら抱かない感情が起こることが、好きになるっていうことなのかなって。ひとりの人といろいろな部分で向き合うことが恋愛だったりするのかなと思ったんです。それで、“Ray”というイメージが湧いてきて 。

──自分にいろんな光が当てられるような感じですかね。

由薫:好きな人ってすごく光り輝いて見えたりするし(笑)。 同時に、その人に近づけば近づくほど、自分も照らされていくのが恋愛かなって。自分で自分のことが見えなかったのが、誰かを好きになって光に近づくごとに、自分の輪郭やありのままの姿、心のなかがわかってくる。良いところも悪いところも含めて、 “自分ってこうだったんだ”って。友だちに対しては冷静に装える人でも、恋愛となると急にわがままになったりとか、そういういろいろある要素のひとつとして、 誰かを好きになったとき、その好きという気持ちを通して、自分を認めてあげることができる……“あなたっていう人のせいで、自分のことも好きになりそうだ”って。そういう恋愛ってめちゃめちゃ素敵じゃないかと思ったんです。

──たしかにそうですね。

由薫:そのことは最初のメモ段階から書いてはいたんです。この映画もまさに、自信のない女の子が好きな人と出会って、自分のことを描き直していくというか、掴み直していく物語だなと思ったんですね。だから、 “あなたのせいで私は私が好きになってしまう”というのはひとつのテーマとだなと考えていました。

──その軸となるものが出来上がれば、もう曲は完成したなっていう感じでしたか?

由薫:いえ、“もっと歌詞で等身大の自分を表現しよう”というのが今の私自身のお題でもあって、スタッフの方と何度も歌詞のやり取りをしました。“この表現はどうですか?”とか、“この言い回しだと意味が伝わらないですかね?”みたいなやりとりをチーム内でさせていただいて、磨き上げていった曲です。そのなかでの変化として、最初は詩的な表現が多かったところを、どんどん噛み砕いてシンプルにしていきました。

──率直な言い回しが多いですね。心のままというか。

由薫:「The rose」や「echo」は“愛について歌う曲”でしたけど、“恋について歌う曲”はこれまであまり意識して作ったことがなかったから、自分としても初挑戦でした。スタッフの方とか友だちにも「“きゅんとする”って何だと思いますか?」みたいな質問をして回っていましたね(笑)。「曲を聴いてきゅんとするってどういうことなんだろう?」とか、いろいろと話していくなかで、やっぱり“まっすぐな思い”にきゅんとするんだなってところにたどり着いたので、今回は削ぎ落としの作業がすごくありました。だから率直な言い回しになったんでしょうね。大人になっちゃう部分とかをどんどん削いで、ピュアな心を取り戻すっていう(笑)。すごく楽しかったですけどね、今までにないことだったので。

──由薫さん自身がきゅんとするポイントって、実際どういうところですか?

由薫:やっぱり恋愛において一番素敵な瞬間って、素直な思いを口にするときなのかな。この映画のヒロインも、愛されることにコンプレックスを抱いているキャラクターなんです。私自身、もともとネガティヴな思考回路だったり、自己肯定するのにすごく時間がかかるタイプだったし、学生時代は自己否定ばかりしていたので。もちろん、自分でそれを組み立て直すことも大事だけど、誰かから「いいね」「素敵だね」「好きだ」って言われることで、自分を肯定できていく。それも恋愛の良い側面なのかなと思います。そういう恋愛にはきゅんとするかな。曲としては、駆け引きするほうが恋愛の曲になりやすいんですけどね(笑)。でも今回は、シンプルで尊敬し合う恋愛を描きたかった。だから、“好き”っていうことをいかに言い換えていくのか。私の今回のラブソングは、“あなたのせいで私は私が好きになってしまう”に落ち着いたことが、自分としても嬉しいです。

──2026年は年明けから、恋について考えた時間があったんですね。すごくハッピーな感じですね。

由薫:はい(笑)。暗い曲を書くときは、どうしても暗い気持ちになってしまうので。すごく良い年明けでした。

前のページへ
1 / 3