「M-SPOT」Vol.055「なぜインストなのかを考えたら、インストの理由がわかってきた(気がする)」

2026.02.24 20:00

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多くのポップスが歌声や歌詞を通して、その歌が持つ世界観を伝え、制作者の意思が伝播していくものだけれど、歌のないインストゥルメンタルという音楽もまた、いつの世もその存在は揺るがない。様々なスタイルや音楽形態はあれど、インストの持つ魅力とはなにか。インストでなければならない理由はあるのか。

今回は、焙煎寺ユウというアーティストの作品から、そんな話が展開されていった。コメンテーターはTuneCore Japanの堀巧馬と野邊拓実、そして進行役はいつもの烏丸哲也(BARKS)である。

   ◆   ◆   ◆

──今回は焙煎寺ユウというアーティストを紹介させてください。たくさんの作品を発表されていますが、今回はその中で「Restart」という楽曲をご紹介しますね。


──耳障りの良い心地よい楽曲で、本人のプロフィールには「フリーBGM / ボカロP 歩んできた人生を音にしています」とあるんです。が…ものすごく好き勝手なことを言ってもいいですか?

野邊拓実(TuneCore Japan):「M-SPOT」というのはそういう企画ですから(笑)。

──フリーBGMをたくさん作られているんですけど、ボカロPとのことなので過去作をディグったら、確かにボカロ楽曲をリリースしているんです。ただ、現在の作品群はメロディがボーカロイドではなく楽器に差し替わったような作りのままなんですね。メイン歌メロ+バックトラックという曲構成・作風は変わらないのに、なぜメロを歌う役割をボーカロイド(声)じゃなくて楽器にしたのか、その理由が気になって(笑)。


堀巧馬(TuneCore Japan):僕の持論なんですけど、アーティストって、音楽において「こういう影響を受けた。だから自分は音楽をやっている」っていうストーリーを持っていると思うんです。音楽への熱量や感動のようなものが一般人より多いはずですよね。じゃあ一般リスナー…僕のような音楽を演るまでには至らなかった人たちが「なんで音楽好きなんだっけ」を考えてみると、僕らにとって音楽って、人生においての情景のようなものだと思ったんです。まさに人生のBGMなんですよ。だから、朝の通勤時、すっごいテンションが低くても、例えばG-DRAGONの「POWER」を聴きながら歩いていると、なんかすげえ強くなった気になったりして(笑)。

──得な性格(笑)。でも分かります。

堀巧馬(TuneCore Japan):そういうのってあると思うんです。僕は最近までインストをあまり聴いてこなかった人間ですけど、寝る前とかお風呂の中とか、それこそ電車に乗っている時でもいいですけど、状況によってはボーカルがいらない時があるんです。言葉になっていると伝えたいことが理解できちゃうから、その世界に引っ張られすぎるというか。音楽って元々余白があるけど、言葉にするとさらにレールができちゃうんですよね。

──主張がそのまま伝わってきますよね。

堀巧馬(TuneCore Japan):そう。だからそれもいらない時って確かにある。BGMというのはそういうことなんじゃないかと思っていて、あえてボーカルを乗せないのは、音楽制作におけるちゃんとした選択肢なんだと思っているんです。昔は「歌えないからインスト?」とか思ってたんですけど(笑)。

──確かに。ボーカルを乗せないのは、リスナーに対するある種の優しさなのかも。

野邊拓実(TuneCore Japan):音楽って抽象度が高いアートですけど、音楽の中で1番抽象度が低い具体的な部分って言葉…ボーカルですよね。そこにどんどん特化していったもののひとつがヒップホップだとも思いますし、もしかしたらJ-POPもそうかもしれない。けど、その対極にある抽象度の方にフォーカスして、言葉にできないような「海辺で夕日を見た時に湧き上がる感情」みたいなものって、そこにリリックがあると意味を限定してしまいますよね。今まで生きてきた中でいつも音楽があったことを考えると、音楽って本質的にBGMなのかもしれないなって思ったりします。

──ミュージシャンやエンジニアのような音響のプロでさえ、音はイメージで話をしますよね。「××Hzを××デジ上げたような音」とは言わずに「キラキラした音」とか「もっとパンチのある音」とか。抽象度が高いということは、感情に最も近付くための道筋かもしれないし、それを最も活かした手法のひとつがインストなのかも。

野邊拓実(TuneCore Japan):抽象的な表現だからこそ、それを実現する時に個々の個性や味が出る。それぞれの表現が合わさったりする事ができるのがバンドをやる意味だとも思いますね。そういった抽象的なところの会話ができることこそ、すごく音楽的だと思います。

──確かに、アーティストってそんな会話ばかりしていますよね。「澄み切った青空に白い鳥が羽ばたくような感じ」とか(笑)。

野邊拓実(TuneCore Japan):そんな表現だらけですね。

堀巧馬(TuneCore Japan):でもそういう意味では、ミュージシャンは感受性が豊かであると同時に、それを伝えるために言語化する能力は欠かせないかも。「例え力」はすごく大切かもしれない。

野邊拓実(TuneCore Japan):そうですね。インタビューとかでも変な表現したりしますよね。

──ある例えで、相手に伝わらなかったと思ったら別な例えをして伝えようとする。それが例え力ですよね。焙煎寺ユウさんがなぜインストにしたのかも、なんか分かった気がしました。そもそも歌を付けようと思ったらできる人なんですもん。

堀巧馬(TuneCore Japan):そうそう、歌を付けようと思えばいくらでも。

焙煎寺ユウ

野邊拓実(TuneCore Japan):ただただ「歌詞を考えるのめんどくさいな」って思っただけかもしれないですけどね(笑)。でもね、それはそれで人間っぽいなって思うんです。「めんどくさいからやめた」みたいなことも、アーティストとしてありな選択なんですよ。ミュージシャン全員が音楽理論を勉強する必要もないし、音符も読めなくても音楽って成立しますし。

──確かに。

堀巧馬(TuneCore Japan):めんどくさいというその裏には、要は「自分の表現したいことはすでにできている」という事実があるわけですよね。だからめんどくさいし考えない。

野邊拓実(TuneCore Japan):そこは「自分の音楽の本質じゃない」というところね。

──であれば、それは正しい選択だ。

野邊拓実(TuneCore Japan):持っているものだけじゃなくて、持っていないものも含めてその人の個性ですから、不要なものはちゃんと削るっていうのはアーティストの正しい選択ですよ。

──音楽に正解も完璧もないという、本質的な話だ。「なんでインストなんだ?」とか愚問を言ってごめんなさい(笑)。

野邊拓実(TuneCore Japan):「なぜインストなの?」と訊いたら、ものすごい哲学が返ってくる可能性もありますね(笑)。話を聞いてみたいです。

焙煎寺 ユウ

フリーBGM / ボカロP 歩んできた人生を音にしています。
https://www.tunecore.co.jp/artists?id=965468

協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.

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