「climax e.p.」 TOCT-4456 1,100(tax in) 2003年2月26日発売 1. DAN DAN DAN ダン・ダン・ダン 2. Devil's Organ 悪魔のオルガン 3. Haiku 熊穴に入る 『climax』 TOCT-24982 3,059(tax in) 2003年3月26日発売 1. Superstar スーパースター 2. Dummy Oscar 誰かの唇 3. Television 裏切りの男 4. Honey 恋人よ 5. HAIKU 熊穴に入る 6. China Bowie チャイナ・ボーイ 7. Volvox ボルボックス 8. The Thorn 刺だらけの都市 9. DAN DAN DAN ダン・ダン・ダン 10. Al Capone アル・カポネ 11. Devil's Organ 悪魔のオルガン 12. Charm Against Evil 渦巻いた世界 | | ――『climax』はシカゴ・レコーディングの3作目ということで…。 片寄明人(以下・片寄): 『May & December』はミックスだけだったんで、フルでレコーディングするのは2枚目なんですけど。前作の『When you were a beauty』はストリングスやホーンセクションが入ってて、オーガニックな完成されたポップ・アルバムだったんだけども。そういうのを1回作ってるから、今回もう1回シカゴに行ってレコーディングするなら違うものを作りたいとは考えてました。前のアルバムでホーンやストリングスで表現していたメロディを、今回はエレクトリックな楽器で…って言っても'80年代によく使われてたDX-7とかなんだけど。 白根賢一(以下・白根): ぜんぜんビンテージとかじゃなくて。 ――でもすっごいマニアなシンセ使ってますよね? 片寄: それもあるけど、今回はあえて'80年代に使われつくしたような音を使ってみて。その結果かな、ちょっとエレクトリックな肌触りがするとか、奇妙な音像に仕上がったんじゃないかなと思ってますけど。 ――寺尾聡風なのがあったりしますしね。 片寄: ありますあります(笑)。寺尾聡、好きだもんね。 白根: まぁ今回は、今まで生きてきた中での自分のトラウマが…けっこうね。極端な話「演歌書いてきてよ」とかさ(笑)。 片寄: 言ってたねぇ。 白根: “ここまでやっちゃっていいのかなぁ”とか思いながら、そういうところをお互いに引き出し合ったんだよね。 片寄: バンドの限界はやっぱ押し広げたいと思ったし。ロックバンドがやる音楽っていう枠があったとしたら、そこからからはみ出たいなと思ってたから。さっき賢ちゃんも言ってたように、トラウマ系っていうかね。メロウな音楽が好きだったりする根源には寺尾聡がいたりとか、子供の頃は一口では形容しづらくて理解できなかったニューウェイヴとか。記憶の片隅にひっかかってる、ずっと忘れられない、そういうものを模倣するんじゃなくて。作りたい音があったとして、それを聴いたときの感情があって、それに近い、同じような気持ちになるものを作ろうとしたりとか。その寺尾聡っぽい曲にしても、シカゴには寺尾聡のCDはないから、寺尾聡がどんなものだか分からないわけですよ。だからある種妄想なり記憶の中の寺尾聡なんですね。“ディアンジェロの音楽みたいな感じだったよなぁ”とか思って。オケに対して少し後ろ気味で歌ってたに違いないって思ってそうトライしてたんだけど、東京に帰って寺尾聡聴いてみたら、ぜんぜんジャストに普通に歌ってたみたいな(笑)。そういう勘違い、それが面白いんだよね。あとわりと、今回のアルバムは“今、一番最先端のことをやろう!”と思ってやってるアルバムじゃないかもしれない。 白根: じゃないね。 片寄: でも、使ってる技術とやってることは最先端(笑)。たとえば、打ち込みっぽく聴こえるドラムの音なんかも、賢一が生で叩いてるドラムを器械でトリガーさせて、賢ちゃんが叩いてるリズムに対して、ドンッて叩くとそっちでコンピュータがドンッて鳴るっていうようなシステムを作ってたりして。賢一の身体のリズムでコンピュータを鳴らしてたり、それと同時に賢一の生のドラムの音を混ぜてみたりとか。そういうエレクトリックなものとアコースティックなものの境界線がひじょうに入り組んでる作りになってるから。 白根: 生音もけっこうきれいにイイ音で録ったんですけど、最終的にミックスの段階でガンガン変えていくんでね。今思えばね、“何でもよかったんじゃないの?”って思うんだけどね(笑)。ただそれは、最終的な曲の方向性だから。パッションはやっぱり生に勝るものはないし、一発録りの勢いとかも絶対。だからその辺がすごく、年々入り組んできてどんどんわかんなくなってる。 ――ある意味、実験的なことが続いているという感じですね。 片寄: うん。確かに実験的なことはやってるけど、でも実験がメインてわけでもなくて。 高桑圭(以下・高桑): そう。あくまで欲しい音に対してそれをするってだけの話だから。 片寄: 曲がまずあって、それを今まで聴いたことのない形に仕上げたいって、やっぱ思うわけですよ。どっかにあった何かじゃなくて、新しいオリジナリティあるものに仕上げたいって思って一生懸命やってる結果が実験だったりとかするんだと思うんだよね。今回とくにね、今までのGREAT3の典型みたいな曲をあえて外して、やったことのないようなタイプの曲をやろうっていうのがあったから。圭のベースラインとか、もちろん圭色っていうのはあるんだけど、そこから一歩踏み込んだ、新しい領域に行ってたと思うし。歌詞なんかもそうとう書いてたしね、今回。 高桑: でも歌詞書きはまだ、片寄に比べるとぜんぜん数少ないし、片寄ほど捻り出すっていう感覚もないから最高に楽しんでできるんだけど(笑)。 片寄: 俺なんかだと、今回のアルバムで言うと“愛っていう言葉は使わないぞ”とかさ。もういっぱい愛とかそういう言葉を使ってきてるなってことを、ベスト盤とか聴いて初めて思って。じゃ、今回はこれ抜きで、この言葉を使わないでも自分の表現ができるかなって思ってやってみたりして。 高桑: そしたら俺が“愛”って書いてきちゃって(笑)。 片寄: そうそう。でも圭が書く“愛”とはぜんぜん意味合いが違うからいいの。“愛”っていう言葉を歌いたくないっていうことじゃなくて、自分はそれを使わないで自分が持ってることを表現できないかなって思って。あと今回は、曲を書いた人がその詞を書くとかじゃなくて、僕が書いた曲に圭が歌詞つけたっていうのもあって、それで僕が歌うっていうパターンもあったし。今までのアルバムに比べると…まぁ、スワッピングと言いますか(笑)、そういうのはあったね。クレジットはいつも“GREAT3”ってなってるんだけど、今回は本当にどこからどこまでを誰が書いたって思い出せないぐらいに入り組んでる、詞も曲も。 ――では、『climax』の中で一番思い入れのある曲は? 高桑: 思い入れ…そういうことはよく訊かれるんですけど、なかなか。思い入れっていうよりは、思い出がある曲っていうほうが言いやすい(笑)。「アル・カポネ」のレコーディングのときに、最初にアナログで録ったウッドベースをデジタルに移すときにジョンが消しちゃって。俺たちが別のブースでミーティングしてたらジョン(・マッケンタイア/シカゴ音響派の第一人者的エンジニア)が申し訳なさそうに入ってきて「キヨシ…」とかって呼ばれて、「ベース消しちゃった…」とかって言ってて(笑)。「ごめん、もう一回弾いてくれる?」って(笑)。 片寄: でも結果的にカッコ良くなったからね、あれ良かったよね。 白根: 今、ミーティングで思い出したけど、ミーティングしてたよね(笑)。 片寄・高桑: してたねぇ。 白根: バンド始めて長いし、今回特に日本を離れて3人だけでずっとやってて、今後のいろんな話とかね、けっこう…もうバンド以外のことも話す機会があってね。 片寄: そうこうしてるうちに喧嘩になったりとか(笑)。楽しかったけどね。 白根: その後に歌録りがあったりとかして。「The Thone」の歌はよく出てるなぁと思うんですよね。あれを録ってるときのスタジオの、なんとも言えない空気感が忘れられないですね。なんかねぇ、変なねぇ…イイ感じだったんだよ(笑)。ものを作るときって、すごくいい雰囲気でやれるに越したことはないけど、必ずしもそれがいい作品になるかっていったらそうではないというか。やっぱり、追い込んだと思うし、みんな。楽しむときはむっちゃくちゃ楽しんだし。その辺の喜怒哀楽がよく出てると思うな。 片寄: 僕は歌詞を向こうで書いてたから、わりと詞のことを考えることが多かったんだけど、今回インストゥルメンタルの曲が3曲入ってて、それがどれもすごい良くてね。繋ぎっていうんじゃなくて、歌もの、もしくはそれ以上のプライオリティが自分の中にあるなっていうぐらい。だからアルバム1曲目に「スーパースター」を持ってきてるし。シングルに入れた「Haiku」は、賢ちゃんがシンセで書いてきたメロディを、ニューヨークから来てもらった女の子にテルミンで弾いてもらって。僕らの目の前で、何もないところから音を紡いでいく、それはすごかった。けっこう感動しちゃったんだよね。聴いててグッときちゃうっていうか。こういう気持ちに、歌詞がついてもなるようにしないといけないなって、そのときに思ったのを覚えてる。それが印象深いかな。インストゥルメンタルの質の高さっていうのが今回のアルバムの特徴かなっていう気もしますね。 取材・文●望木綾子 | |