▲話の舞台は1930年代のアメリカ南部、ミシシッピー。3人の男が、新しく建設されるダムの底に眠っている宝の山を目当てに脱獄の旅に出る。“伊達男”という名のポマードを片時も離さない理屈っぽくもドジな仕切り屋エヴェレット(ジョージ・クルーニー)、文句ばかり言う皮肉屋ピート(ジョン・タトゥーロ)、お人好しで気弱なボケ役デルマー(ティム・ブレイク・ネルソン)。この3人は逃げる道中、「悪魔に魂を売ってギターの天才になった」と語る黒人青年トミーと出会い、「金になるから」とスタジオで“ズブ濡れボーイズ”と名乗りカントリー・ソングをレコーディングをして一時的なギャラを確保する。その後、うまく逃げたかと思えば見つかり、生きて行くためのお金を手にしたかと思えば盗まれという、ズッコケ珍道中の連続。その一方で、ミシシッピー州のオダニエル知事は革新派の新候補に押されっぱなしで窮地に追い込まれ、エヴェレットの妻ペニーは6人の娘を連れて再婚しようとしていた。そして、逃げろや逃げろの3人が全く知らぬ間にラジオではズブ濡れボーイズの曲が大ヒットを記録していた…。そして、話はドンデン返しの繰り返しを繰り返し意外で大爆笑のクライマックスを迎える…。
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2001年10月13日より、シネセゾン渋谷、銀座テアトルシネマにて公開! ●監督・脚本/ジョエル・コーエン ●製作・脚本/イーサン・コーエン ●音楽/T=ボーン・バーネット ●出演/ジョージ・クルーニー、ジョン・タトゥーロ、ティム・ブレイク・ネルソン、ホリー・ハンターほか ●配給/ギャガ・コミュニケーションズ ●上映時間/108分
Special Thanx to www.gaga.ne.jp/o-brother/ |
『オー・ブラザー! オリジナル・サウンドトラック』 UICM-1015 2,548(tax in) 2001年8月29日発売
1PO LAZARUS/Jamae Carter & the Prisoners 2BIG ROCK CANDY MOUNTAIN/Harry McClintock 3YOU ARE MY SUNSHINE/Norman Blake 4DOWN TO THE RIVER TO PRAY/Alison Krauss 5I AM A MAN OF CONSTANT SORROW/The Soggy Bottom Boys 6HARD TIME KILLING FLOOR BLUES/Chris Thomas King 7I AM A MAN OF CONSTANT SORROW/Norman Blake 8KEEP ON THE SUNNY SIDE/The Whites 9I'LL FLY AWAY/Alison Krauss and Gillian Welch 10DIDN'T LEAVE NOBODY BUT THE BABY/Emmylou Harris,Alison Krauss and Gillian Welch 11IN THE HIGHWAYS/Sarah,Hannah and Leah Peasall 12I AM WEARY(LET ME REST)/The Cox Family 13I AM A MAN OF CONSTANT SORROW/John Hartford 14O DEATH/Ralph Stanley 15IN THE JAILHOUSE NOW/The Soggy Bottom Boys 16I AM A MAN OF CONSTANT SORROW(2)/The Soggy Bottom Boys 17INDIAN WAR WHOOP/John Hartford 18LONESOME VALLEY/Fairfield Four 19ANGEL BAND/The Stanley Brothers
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| 『ミラーズ・クロッシング』('90年)、『ファーゴ』('96年)で知られるアメリカの奇才、ジョエル&イーサンのコーエン兄弟による待望の新作。
▲妻ペニー(ホリー・ハンター/左)の再婚を食い止めようとするエヴェレット(ジョージ・クルーニー/右)だが……。 | これまで一貫してアメリカ人の心の闇をシニカルに描き続けてきた同監督だけに、今作のストーリー展開も一筋縄ではいかない意外なドンデン返し続きだが、今回の彼らはいつになくコミカルで可笑しい。3人のどうしようもない男たちの、どうにもカッコの良くないボケとツッコミの連続の逃避行ぶりは何とも人間くさくて愛くるしい。しかし、今作の主題はそこではない。脱獄犯が逃走を繰り広げる舞台にして「アメリカ人の心のふるさと」である、アメリカ南部の良くも悪くも「らしさ」にある。
「良さ」と言えば、やはり音楽! アーシーで大地の香りのするなんともヒューマンな温かさに溢れるふくよかなその音楽は、後のロックやR&B、ブルース、カントリー、ゴスペルの元となるほどに大きな存在たりえてるのだが、この映画においても音楽は非常に重要な役割を果たしている。キリスト教の洗礼式における賛美歌から、囚人の労働家、墓掘り農夫の霊歌、そしてラジオから流れる流行歌に至るまで、南部の歌にはシンプルながらもそこかしこから人間本体が持つ肉感的なグルーヴを感じさせる。
そして、そんな音楽が南部の人は本当に大好き。誰もが音楽なしでは生きていけず、それは政治家も一般市民も犯罪者も黒人もすべて同じこと。その豊かな音楽の前では誰もが無邪気にならずにいられない。南部の音楽というものは、それほどまでの根源的な魅力に満ちている。
▲小遣い稼ぎに“The Soggy Bottom Boys(ズブ濡れボーイズ)”として歌い、録音したレコードが本人達の知らぬ間に大ヒット! | その一方で、良いことばかりではない。南部とは、やはり人種差別で悪名高い場所であり、KKK(クー・クラックス・クラン/黒人差別組織)発祥の地。今となっては考えにくいことではあるが、「革新勢力」をモットーとする政治リーダーまでもが公然と黒人差別に加担してしまう有り様は、まさにこの当時の南部そのもの。ブルースやゴスペルなど、南部音楽のその起源の大半が黒人であるなど、黒人が南部文化の形成に多大な寄与をしたにもかかわらず。
そうした、南部の善し悪しをはじめ、この映画は巧みに1930年代の南部をヴィヴィッドに克明に描き出している点が面白い。南部のラジオから流れる当時絶対的な人気を誇ったカントリー/ブルースの音楽番組『キング・ビスケット・フラワー・アワー』が流れたり、伝説のブルース・ギタリスト、ロバート・ジョンソンの有名な「十字路でギターの才能を引き換えに悪魔に魂を売った」というエピソードが出て来たり、大恐慌時代を思わせる大強盗の存在や、「ニュー・ディール政策」を思わせるダム建設…。こうしたディテールからも南部色が色濃く出ている。そして、そういう「南部の因習」を描き出すことで、「アメリカ人の性」を改めて浮き彫りにしているコーエン兄弟の手腕も見事である。
そしてこの映画が気に入ったのなら、絶対サントラも聴いてみよう。今となってはカントリーでさえハリウッド風な大味なショービズと化してしまったアメリカ音楽界に、1930年代の生身の感覚そのままのシンプルながらも芯の強い普遍的な歌の数々は心に響くことうけあいだから。
実際本国アメリカでは、この映画の公開が既に終了しているにもかかわらず現在でもカントリー・チャートの1位を独走し、ポップ・チャートでもトップ10前後に居座り続ける異例のロングセラーを記録するという一大現象まで起こしている。中途半端なインディ・ロックよりも、遥かに現在の音楽シーンのカウンターになっている点も見逃せない。 |
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