『musicforthemorningafter』 Sony Records SRCS-2481 2001年6月28日発売 2,520(tax in) 1 Life On A Chain 2 Strange Condition 3 Just Another 4 Black 5 Lose You 6 For Nancy('cos It Already Is) 7 Murray 8 June 9 Sense 10 Closet 11 On Your Side 12 Sleep Better 13 EZ 14 Simonize 15 Knew Enough To Know Nothing At All | | L.A.のJohn Anson Ford Theaterはまだ暗くはなっていなかったが、夕闇がせまるにつれ私は左側にある招待席エリアを見回して、すべて予想通りだと安心した。ドレスアップしたわけ知り顔の人々は、やあやあと挨拶しあっては大きな笑みを浮かべていた。彼らはプラスティックのカップでカクテルをすすり、したり顔で頷いている。大評判のアーティストがまもなく演奏しようとしているのだ。このようにほとんど我を忘れて浮かれ騒いでいる連中は、Pete Yornのレコード会社の人々に違いないと私は思った。 失敗例も数多い音楽産業(全てのアルバムのうち90%は惨めな結果に終わるのだ)において、業界人たちがこの夜のように盛り上がっていても不思議ではない。Peteのアルバム『musicforthemorningafter』は全米中でチャートを駆け昇っており、彼のハンサムな顔はたくさんの音楽誌の表紙を飾って、ファンのため息を誘っているのだ。ジーンズを着たこの夜の一般客の多くはBlues Travelerを見に来ていたのだが、事情通の人々はセクシーなボサボサ髪をしたオープニングアクトをチェックしようとしていたのである。彼の演奏もまた素晴らしかった。悪魔のような用心深さと向こう見ずな誠実さ、それに信じられないほどキャッチーな曲とすぐれたバンドが適切なバランスで配置されていたのだ。レコード会社の面々はクリスマスツリーのように光り輝いていた。連中の新たなロックスターは絶好調なのである。 私はギグやテレビ/ラジオ出演、サウンドチェックやリハーサルの合間にPeteと会い、ウェストウッドのJunior's Deliで大型のサンドイッチやジューシーなピクルスを一緒に食べるくらいの時間を過ごすことができた。彼は気さくでレイドバックした本当に魅力的な人物で、ロシアン・ドレッシングと大きなピクルスが大のお気に入りだ。 ――あなたは多くの人々の心を捉えたわね。 Pete: うん、ありがとう。みんなは僕がラヴソングばかり書いていると思ってるし、無意識のうちにそうしているのかもしれないけど、僕の作る曲の多くは僕に関する歌でさえないんだよね。僕は感情を表に出すことなく感情が込められたレコードを作りたいんだ。つまり、感情を押し付けるのじゃなくて、リスナーから静かに感情的な反応を引き出すような作品をね。曲を聴いた誰もが自分にとっての意味を見つけられるように、言葉の多くは意図的に個人化されていないんだよ。 ――アルバムの売れ行きはどう? Pete: いい調子だよ、本当に。カレッジチャートでトップ10入りしている。そのチャートで新人アーティストは僕だけというのもクールだし。最近ではオルタナティヴラジオにも広がって、局のほうでも注目して取り上げ始めている。ママは僕に仕事が見つかったと思っているみたいだよ。 ――好調の理由は何だと思います? Pete: アーティストには、間違った理由で音楽を作らせようとするプレッシャーがたくさんかけられるんだ。ラジオのヒット曲に追随するとか、自分の内面から出てくる音楽ではなくてリスナーが気に入ってくれると思うような曲を書くとか。僕はまったく正直にこのアルバムを作ったよ。経済の後退とも何か関係があると思うんだけど、人々はより内省的になろうとしているんじゃないかな。 ――ものごとは自分で思い描いていたように運んでる? Pete: そうだね、僕はそれほど受け身の性格じゃなくて、ものごとを決まったやり方でやるのが好きなんだ。作業にのめり込んで時間を浪費するんじゃなくて、最初から段取りを決めておきたいんだよね。いつもすごくでっかい計画を思い描くようにしてるんだけど、それはまわりのスタッフにとっても常に同じことで。ある日なんか、僕らみんなが暗中模索になってしまってね。あることがどんなに重要に思えたとしても、自分がエンジョイすることが同じくらい大切なんだよ。僕はいつでもそうした視野を保つように努力しているし、そのおかげで書くことのできた作品もたくさんあると思うんだ。この“ビッグピクチャー”のコンセプトがソングライティングの原動力なのさ。 ――ツアーでの生活についてちょっと教えて。 Pete: レコードを出してから初めてのツアーなんだけど、素晴らしいね。何と言ってもバンドの連中と一心同体になって旅行できるというのがいいよ。古い友人の彼らと一緒に、あらゆる街を回るのが最高なんだ。それを別にしても、毎晩新しい観客のために演奏してその反応を見たり、新しいファンに会えるのは本当に素晴らしいことさ。ランドリーに通うのはあまり好きじゃないけど、気にはならないよ。 ――どこがハイライトでした? Pete: Music MidtownでPatti SmithとBob Dylanのオープニングをやったときだね。実際にはBobとは対面できなかった。さっと現れて、さっと消えちゃったからね。でもPattiに会うことはできた。彼らと同じステージで演奏できたのは名誉なことだよ。2人とも絶好調で素晴らしかったね。とくにBobは最高だった。アウトドアで演奏するのも好きなんだけど、ラスヴェガスでやったときには、マンダレイ・ベイのプールのそばでプレイしたよ。 ――印象的だった街はあります? Pete: クリーヴランドではRock And Roll Hall Of Fameへ行ったよ。マージービートのセクションがクールだったな。シアトルのExperience Music Museumにも行って、それからSpace Needleのてっぺんにも昇った。良かったよ。僕はNirvanaファンだったし、今でもPearl Jamが好きだからね。僕らのレコードはシアトルでは本当によく売れているんだよ。L.A.とニューヨークに続く第3の市場なんだ。フィラデルフィアではRodin Museumへ行ったけど、とても面白かった。それから何と言ってもカンサス州ローレンスだね。これは自信をもって言い切れるけど、あそこのバーのCDジュークボックスは世界中で最高のものだよ。ローレンスの小さなダイヴバーの地下には、パーフェクトにレコードが揃ってるんだ。 ――William Burroughs('50年代のサブカルチャー、ビートニクを代表する作家のひとり)の出身地よね。だからそんなにクールなのかしら? Pete: そうかもね。シンシナティのショウが暴動でキャンセルされたので、ローレンスで3日も過ごすことになったんだ。僕はブッ飛んだ気分で、最高のショウを披露して、酒もたくさん飲んだよ。だって他に何ができるって言うんだい? 毎晩バーやクラブに通うはめになるくらい大変だったんだから。 ――好きな飲み物は何? あらら、そんな大きなサンドイッチをどうやって丸ごとかじるわけ? Pete: ジャックダニエルズかバドワイザーだね。ジャックとコーヒーががあれば、ちゃんと起きられる。 ――とっても牧歌的に聞こえるけど、人生で何か悪いことはやっていないの?(この時点でPeteはロシアン・ドレッシングをたっぷりかけたコーンビーフ・サンドイッチにかぶりついており、トマトがあちらこちらに飛び散っていた) Pete: トマトをあなたのテープレコーダーにこぼしたという事実は、確かに悪いことだろうね! 今ではすべてが落ち着いていて、平穏な気分だよ。幸せだし、音楽は楽しい。レーベルは最高で、レコードをちゃんとサポートしてくれている。ここのピクルスも素晴らしい。この店は最高だね! ――次は何をするの? Pete: 6月の18日にヨーロッパでレコードが出るから、しばらくは向こうを回ることになるよ。ヨーロッパで出せることに興奮しているんだ。6月の終わりにかけて、もう一度アメリカを回るよ、MTVのツアーでね。 ――こんなに成功して、思い上がったりしない? Pete: そんなのは僕らしくないと思うな。これが19歳くらいの時に起こったのならともかく、僕はすでに充分な経験を積んでるし、そんなことには影響されないよ。 ――ツアーバスの中ではどんな音楽を聴いてたの? Pete: Stoogesの最初のアルバム、Clashの『London Calling』なんかだね。『BornTo Run』はずっと聴き続けているよ。 ――私にとって最もスピリチュアルな出来事はSpringsteenのコンサートだったわ。 Pete: 僕もSpringsteenの大ファンだよ。『Born In The USA』が出たとき、僕は10歳の反抗的なパンクロック小僧で、「こいつはゲイだ!」って言ってたけどね。近所で暴れ回っては、トラブルを巻き起こし、車に卵をぶつけるようなガキだったんだ。それが今では生涯のお気に入りレコードのひとつになってるんだよね。 ――私にとってもそうよ。Springsteenはカーキチで知られてるけど、どんな車に乗ってるの? Pete: 親の車を盗んで捕まったことがあったけど、多くの子供がやっていると思うな。友達の足を轢いちゃったこともあるし。ペチャンコになってしまって、これがホントの扁平足だよ。今乗っているのはGMCのトラックでさ、2、3年前に買ったんだ。いつかはアストンマーチンを買いたいね。まさしく夢の高級車ってやつだよ。それで帽子をかぶってドライヴして回るんだ。 ――じゃあ、ちょっとしたトラブルを起こして、車に卵をぶつけてあげるわよ。もちろん轢かれないように足は引っ込めておくけど。 By Pamela Des Barres/LAUNCH.com | |