【ライブレポート】キズ、イオンモール幕張新都心でフリーライブ「これがヴィジュアルロックだ!」

キズが、結成8周年を記念したフリーライブを開催した。
◆ライブ写真
告知があったのは4月1日、昨今猫も杓子もすっかり“嘘”をエンターテインメントとしているエイプリルフールの日だった。当初、怪文書のような形で公開された文面も翌日には全て明かされ、8周年へのカウントダウンの如く動画やインタビュー公開など盛りだくさんな企画展開の締めくくりに用意されていたのが、このフリーライブである。
来夢も「8周年はさすがにめでたいと思ったのでフリーライブします」とXへ投稿していた通り、ストレートにお祝いの意味が込められていたのは言わずもがな。とはいえ、バンドの周年という節目にフリーライブを開催するというところだけを見れば、今や珍しいことでもないだろう。

しかし今回、開催場所として選んだのは言わずと知れた巨大商業施設・イオンモール(幕張新都心)。しかも休日だけあって、溢れんばかりのファンが起こした人だかりに興味を示す人々も老若男女さまざまで、このタイミングでキズが不特定多数の人々がライブを観覧できる場所をセレクトしたところに“意味”を感じずにはいられない。
14時の開演予定時刻を少し過ぎたころ、会場近くに横付けされた車にメンバーの姿を捉えたファンによる歓声が響き出した。まもなくして、前日の8周年当日に公開された新ヴィジュアルの装いでメンバーがステージへと歩みを進めてきたのだが、来夢(Vo)は雨傘をさしていた。ただし、この日は汗ばむほどの大快晴。これもまた、雨男を称するキズのフロントマンとしての皮肉を表していたのだろうか。
しばし観客を見渡しながらステージへメンバーがセットすると、ライブは「地獄」からスタート。「そんなもんじゃねーだろ⁉︎ 死ぬ気で来い!」と叫んだのに始まり、来夢からの絶え間ない扇動に応じるように爆発的な熱量を見せたのは観客だけではなかった。reikiは初っ端からステージ上を駆け回り、ユエも豪快に足あげを決めるなどして、場所がどこであろうと“キズのライブ”を見せる姿勢に遠慮など微塵も感じられない。

「ヴィジュアルロックバンド、キズです。よろしくおねがいします」──来夢
堂々と名乗りをあげたのも束の間、今回のフリーライブのタイトルにも掲げられていた「傷痕」をドロップ。“いつもの”ライブ会場じゃなかろうと、そんなことはお構いなしに体を折りたたみ手を高らかに掲げ、聖母のような装いとは裏腹にきょうのすけ(Dr)が叩き出すハードなドラムと来夢の一喝に合わせてヘッドバンギングを巻き起こす様は一般的に見れば異彩な光景だろうが、キズが好き、バンドが好きな者からしてみれば誇らしいことこの上ない一体感である。
reiki(G)と来夢がステージから降りてゼロ距離でファンを煽ったのち、ヘヴィサウンドでディープに引き摺り込んだ「ストロベリー・ブルー」。そして、きょうのすけがその場に立ち上がって咆哮し、来夢がアコギを力強く掻き鳴らせば、それは「平成」の合図だ。たちまち破壊的サウンドで圧倒していくバンドと、そこへ食らいついていくファンとが起こす威力は、まさしく平成が産んだ伝説を築き続けているモンスターバンドの生き様を表すには十分だった。

曲の途中、「8周年だぞ、おめぇら! 8年間もよく俺らについてきたな! まだまだ行くぞ、まだまだこんなもんじゃねーだろ!」と来夢が“8周年”を強調しながら“先”を見据えた言葉を放つと、生きていることの証と言わんばかりの歓声が起こり、凄まじいまでの勢いを「おしまい」へと繋げていく。reikiとユエ(B)が大胆にステージを動きながらプレイする中、中央に構える来夢の風貌に改めて目をやれば、ドレッドヘアに蛍光カラーのサングラス、さらにポケットに手を突っ込んで歌う姿が纏っていたオーラは、やはり創造力豊かなパイオニア的ロックスターの風貌を感じさせるものだった。
アカペラから突入した「鬼」がエモーショナルに響き渡ると、その魂の籠った歌と演奏はたちまち人の心へと届いていった。たまたま筆者の視界にはファンであろう保護者に連れられてきた男児がおり、ここまでは大人たちの隙間からステージを覗き見ていたのだが、「鬼」の後半ではものの見事に体全体でリズムをとりながら、見よう見まねで拳を挙げたり手拍子をしたりしていたのだ。これは、キズが死に物狂いで生み出した音楽が“届いた”と確信した瞬間であったと同時に、冒頭でも触れた〈不特定多数の人々が観覧できる場所〉をセレクトした意味の一つでもあったのかもしれない。

そう思った矢先、「救われたい奴だけ……! 救われたい奴だけ、ついてこい……!」という来夢の熱のこもった声が耳に飛び込んできた。このように、リアルタイムに起こる事象の連鎖によって、心を揺さぶられ続けられるのがキズのライブ。「この先も、お前らのために歌わせてくれ!」と歌い締めたのち、来夢はラストをコールしてまもなく、男、女に続いて「おい、ガキども!」と呼びかけた。
かつてメンバーたちもアーティストや音楽に憧れを抱いた“ガキども”だったはず。時が経ち、影響を与える側に立っている4人は、必死で“ロックバンド”に触れたときに起こる衝撃を大人から子どもまで、目の前にいる全ての人へ刻みこもうとしていた。そして、それらをすべて総括するかのようにクライマックスを飾ったのが、4月9日にリリースされた新曲「R/E/D/」。曲中、来夢は声を張り上げてこう言った。
「これがヴィジュアルロックだ!」
ヴィジュアル系へのリスペクト、そしてキズがロックという音楽に生き、ロックを通して自己表現し続けることの答えともいえる「R/E/D/」に込めた思いを叩きつけるようにしてエンディングを迎えた。演奏を終えた4人の顔に浮かんでいたのは、ライブ中一貫していた鬼気迫る表情ではなく、達成感に満ちた笑顔。時間にして45分強、8周年を祝して行われたフリーライブが残した傷跡は、あまりにも深かった。

終演後には、7月26日に大阪城音楽堂にて<JP:PARASITE OSAKA>と題した単独公演を開催することを発表。また、前日すでに発表されていた通り待望のアルバム『極楽より極上の雨』が12月10日にリリースされる。正式には“1st LAST ALBUM”となっており、これがどのような意味を成すのか気になるところではあるが、今は純粋にキズが自ら降らせる“雨”がどのような作品となるのか注目していたい。8周年を迎えたキズは、これからも“まだまだ”覚醒していくはずだ。
文◎平井綾子
写真◎浜野カズシ
セットリスト
1.地獄
2.傷痕
3.ストロベリー・ブルー
4.平成
5.おしまい
6.鬼
7.R/E/D/
<JP:PARASITE OSAKA>
キズ単独公演 「JP:PARASITE OSAKA」
開場 17:00 / 開演 18:00
https://ki-zu.com/schedule/7309/
1st LAST ALBUM『極楽より極上の雨』
https://ki-zu.com/discography/
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