【インタビュー】magicHour、新次代を牽引するクリエイターが描く「サイバーパンクの中の人間ドラマ」

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都市の喧騒が一瞬静まり、空が刻々と黄金色から藍色へと変わっていく…そんな“魔法の時間”を音で描くアーティストmagicHour(マジックアワー)。20代のシンガーソングライター / 音楽プロデューサー / サウンドエンジニアであり、2024年2月に「Feel The Same」で鮮烈なデビュー。サイバーパンクとシティ・ポップ、ヒューマニズムを内包し、エレクトロを軸に多層的な表現を展開する唯一無二の存在感を持つ表現者だ。

生み出したすべての楽曲は、作詞作曲から編曲、ミキシング、マスタリングの最終調整まで、たった一台のノートパソコンで完結している。2025年4月2日にリリースした初のアルバム『MAGICHOUR』の制作背景から、アーティストとしての思想や美学、AI時代の音楽観まで、じっくりと話を訊いてみた。ちなみに、このインタビュー原稿も敢えてセキュリティーを保持するAIを活用して執筆に取り入れてみた。


magicHour

──インタビュー前に少し雑談したけど、話してわかりましたが人間力高めですよね?

magicHour:ありがとうございます(苦笑)。今、バンクーバーに留学していたり、どちらかといえば経験値というかいろんな物事を体験している方かもしれません。あと、小さい頃から大人と一緒にいる機会も多くて、いつもいろんなことを考えていました。

──なるほどです。では、magicHourというアーティスト活動をはじめようと思ったきっかけから教えて下さい。

magicHour:サウンド的な面で言いますと、もともとDJをやっていたのでエレクトロやフューチャーベース、ベースミュージックといったジャンルが好きでした。そんな中、エレクトロでありながらも日本語も混ぜながら歌うポップスというアイディアを思いついて、インターネットに曲をアップロードしはじめました。

──SoundCloudとか?

magicHour:そうですね、SoundCloudやYouTubeとか。がんばってはいたんですけど、難しさもあって。どうやって世に広めていこうかと考えていた時に今のスタッフに出会えて。

──バンド経験はあったんですか?

magicHour:学生時代、コピーバンドを少しだけやっていました。HydeさんやMONGOL800の「小さな恋のうた」など。

──海外へ行ったのはいつぐらいから?

magicHour:えっと、15歳ですね。

──となると、日本人としてのアイデンティティーがある中での海外だったんですね。

magicHour:そうかもしれないのですが、それ以前もニュージーランドなど、海外経験は多かったんですよ。

──そういった環境で、趣味嗜好としてはどんなアーティストから好きになったのですか?

magicHour:幼い頃の話をしますと、父親が流していた楽曲が耳に残っていて、それこそマイケル・ジャクソンや山下達郎さん。あと、母がピアノが好きだったのでクラシカルな曲やジャズピアノも耳にしていました。その後、自分がいいなぁと思ったのはザ・ビートルズだったり、個人的に好きになったのはONE OK ROCKですね。アルバムを全部持っています。

──どの辺から好きになったのですか?

magicHour:アルバム『ゼイタクビョウ』から聴いています。

──1stアルバムからですね。たくさん音楽を聴くタイプだったんですか?

magicHour:そうですね。あ、もともとは少年野球一筋だったんですよ。でも5~6年生ぐらいで肘を怪我してしまって。これから何をしようって考えた時に、たまたま父親がiPodをプレゼントしてくれたんです。それが音楽にのめり込んだきっかけのひとつですね。

──スポーツマンな側面もあったんですね。

magicHour:ニュージーランドでも野球をやっていました。まあ、そんなに上手くもなかったんですけど。



──そこから楽器体験はどんな感じで?

magicHour:母親の影響でピアノをやっていました。他はギターですね。バンドの時はギター・ボーカルで。

──そして、13歳ぐらいからDTMを触りはじめたと。

magicHour:姉が歌手としてデビューしようとしていた頃にはじめました。

──それはまた驚きの情報が。 magicHour一家、おもしろいなあ。

magicHour:ははは(苦笑)。姉は音大付属出身で。父も音楽の経験があって。それで、レコーディングがどうやって行われていくかを知りました。そして、僕がミキシングをやるようになって。

──なるほどねえ。世代的にボーカロイド文化の浸透もあったと思いますが、その辺は?

magicHour:ボカロカルチャーのレベルの高さは感じていましたが、自分はそちら側ではなかったんです。友人の作品をミックスしたりなどはありましたけど。

──そんな中、自分のオリジナル作品を作っていこうと思ったのは何歳ぐらい?

magicHour:15歳ですね。その後、DTMでダンスミュージックを作りました。あと、リミックスですね。チャーリー・プースの曲をフューチャーベースにしてみたり。

──DJ経験もそのぐらいの頃から?

magicHour:そのぐらいからはじめて、友達と一緒にDJ兼ベッドルームポップなユニットもやりました。バンクーバーでは毎週DJをやっていました。クラブカルチャーの現場を肌感覚で感じられたのが大きかったですね。DJを通じて、曲の構成や人をどう踊らせるかを学びました。そこから自分の音楽をどう表現するかという意識が強くなったと思います。



──そして、紆余曲折がありながらmagicHourの活動へと繋がっていったのですね。ちなみに、サウンドの世界観にも通じるアーティスト名の由来は?

magicHour:夕暮れの綺麗さって、時間としてすごく刹那的でありながら心に残るじゃないですか? 瞬間の美しさに強く惹かれていて。そんな特別な時間のような音楽を作れたらという想いが名前の由来です。

──なるほど、文字通りマジックアワーなイメージなのですね。デビューアルバム『MAGICHOUR』のコンセプトは?

magicHour:エレクトロを軸に据えながら「サイバーパンクの中の人間ドラマ」を描きたいと思っていました。SF的な世界観の中にある孤独や希望、再生…そういう人間らしさを大事にしたくて。

──ゆえに、せつなさがメロディーから滲み出ているのですね。では、アルバム『MAGICHOUR』の幕開けを飾る「Feel The Same」について教えて下さい。2024年2月28日にリリースしたデビュー曲でもありました。

magicHour:この曲は、ハリウッドへ挑戦したいという夢のひとつとしてThe Weekndに提供したくて書いた楽曲だったんです。でも、実際にどうすればThe Weekndへ送ることができるかもわからず、結果、自分で歌ってみたらしっくりきて「これは僕の楽曲だな」と思ったんですよ。

──めっちゃいい話ですね。煌めくシンセとスリリングなビートが交錯する、エモーショナルで開かれた印象のエレクトロですよね。夢と現実の境界を揺るがせる1曲です。そして、アルバム用に書き下ろされた「If You Ever」は、新境地を感じるアフロスウィングな雰囲気が印象的でした。

magicHour: 孤独な若い心が切実に求める温かさやつながりを描きました。並べられた誘い文句は孤独の叫びのようで、その言葉に共鳴する心もまた、どこか孤独であることに気付かされるんですよ。

──そして、アルバムのプレリリースとなった「Joker (Just Like You)」からはダークなテイストを、「Blame」からはモダンなR&Bセンスを感じました。



magicHour:はい。この2曲は、自分の内面に向き合った時に出てきた後悔や罪悪感をテーマにしています。特に「Joker (Just Like You)」は、正しいことだけでなく間違ってきたことも含めて、自分の過去を見つめ直して描いた曲。映画『ジョーカー』の影響が表れていますね。

──人々の心境の影を感じますよね。ちなみに、先行してシングルリリースされた曲ですがアルバムにおいて「ILLUMINATION」は超絶キャッチーなポップチューンでした。

magicHour:冬のバンクーバーで作った楽曲です。いわばクリスマスのクラブ・チューン。クリスマス=バラードという固定概念を壊したくて、孤独な夜でもクラブに行って踊る、そんな情景をイメージしました。孤独だけど、前向きに光の方へ歩いていくような気持ちを込めて。

──そして、アルバムにおいて最重要な曲がラストに収められたタイトル曲「MAGIC HOUR」。

magicHour:この曲はまさにアルバム全体が辿り着く場所だと思って作った楽曲です。夕焼けの美しさを音像で描きつつ、今まで出してきた楽曲たちをひとつの形にまとめるような役割を持たせました。プロジェクト名と同じタイトルを付けたのも、その象徴性を込めたかったからです。

──アルバムが完成して客観的にはどんなふうに聴かれました?

magicHour:長く音楽はやっているんですけど、ようやく僕の作品ができたなという。実は、アルバムという形式で作品を出さなくてもいいんじゃないかと思っていたこともあったんですよ。でも、今はアーティス名義でアルバムを出せたことが嬉しいですね。

──それこそ配信シングルをたくさんリリースしていたから、今どきで言えばそれをまとめてリミックスを追加してEPみたいなスタイルでも良かったわけですもんね。なのに、アルバムというフォーマットへ挑戦して、新たな可能性を感じさせてくれる新曲も作られていて。

magicHour:アルバムをイメージするにあたって、何か足りない要素を感じたことからタイトル曲「MAGIC HOUR」ができたんですよ。


──しっくりとじっくりな名曲ですよね。それでいうと、ポップでキラーチューンである「Sunday, Monday」から、新曲であり新境地な「Wonderful World」への流れも気持ちよくて。

magicHour:これは、夏に書いた曲で。それこそ、夕日を見ながら作りました。ブラスの感じが夕日っぽいと思うんですけど、ジャズ要素のある曲を作りたかったんですよ。結果的にシティポップな雰囲気ある作品になりました。


──ちなみに、エレクトロやダンスミュージックとしては、どんなアーティストに影響を受けてきたのですか?

magicHour:最初にエレクトロで衝撃を受けたのはスクリレックスでした。当時流行っていたゲームでたまたまデモバージョンが流れて。激しいエレクトロなサウンドがカッコよかったんですよ。そこからは、マーティン・ギャリックスやアフロジャック。あと、イレニアムというフューチャーベースのアーティストが大好きですね。

──フューチャーベースは、magicHourにとって大事なキーワードだったりしますか?

magicHour:そうですね。フューチャーベースは僕が最初に作りはじめたダンスミュージックでした。結果的にDJとして選んだのはハウスミュージックだったんですけどね。いわゆるEDMとかプログレッシブ・ハウスでした。でも、ひとりで向き合いたいのはフューチャーベースなんですよね。

──magicHourのアートワークもサウンドとシンクロする印象的なデザインですよね?


アルバム『MAGICHOUR』

magicHour:これはAIを使っているんです。とはいえ、ただAIで生成してるだけではなく、人の手によるエディットもしっかりとしていて。林宋其(ハヤシソウキ)さんという新進気鋭のクリエイターにやってもらっています。

──チームなのですね。

magicHour:実は幼い頃から知り合いで。彼は宇宙戦艦ヤマトが好きなんですよ。僕もすごい好きで。

──えっ、ふたりとも世代感がおかしいのが面白いですね(苦笑)。

magicHour:親の影響があったりするかもしれないのですが、それがサイバーパンクや機械っぽい感じが好きなことへと結びついていくんです。

──そして、敢えてAIを活用してみたと。

magicHour:最初、magicHourのロゴをデザイナーとして頼んだんです。その時に、参考画像として出してくれたのがAIを活用したデザインで曲にマッチしたんですよ。それに、サイバーパンクの世界観もそうですし、僕のこともちゃんと理解してくれていて。そこからAIを掘り下げて使ってみようと、ミュージックビデオでも活用しています。



──magicHourとしてライブ活動はどうお考えなのですか?

magicHour:もちろんライブも考えています。今は、いろんな作品を見聴きしてイメージを考えている段階ですね。

──ちなみに現在も学生だと思うのですが、どんなことを学んでいたり興味を持たれているのですか?

magicHour:もともとそんなに真面目なタイプじゃなかったので、最初は勉強なんてあんまり気にしていなかったんです。学校へパソコンを持って行って、授業中に曲を作っていました。でも、今になって勉強は楽しいことなんだなとわかってきたんです。

──勉強などで、最近、気になる出来事はあったりしますか?

magicHour:進化スピードの速いAI関連もなのですが、量子力学も気になっていて。僕の好きなチャンネルがこのふたつですね。

──AIと量子力学は近年のトレンドですね。エンタメとも親和性が高いです。

magicHour:量子力学って、これまでの根本を完全に覆すんですよ。たとえば、情報のコミュニケーションにおいても、ふたつの量子がすごい離れた位置、地球から宇宙ステーションまで離れていても、瞬間的にコミュニケーションが取れるのですが、それは、光の速度を超えているということなんですね。

──うんうん。

magicHour:これまで僕らが考えてきた相対性理論などの考え方が覆されるんですよ。だからこそ可能性があるんじゃないかなと。それこそ、まぁテレポーテーションだったり時間旅行だったり。夢がありますよね。





──なるほどね。それでいうと音楽制作って、DTMなんて、音を波形によってタイムラインで可視化して時間を神の視点でいじれる創作物ですからね。magicHourのモノ作りの発想と量子力学って、ある種近い感覚があるのかもしれませんね。

magicHour:あるかもしれません。サンプリングで対象を切り貼りしていた表現がさらに自由度が高まっていますからね。うん、今となっては音楽はどんなことでも表現できるんですよ。さらにAIが発展することで、新たなサウンドが生まれてくるんじゃないかなと思っていて。まだサウンド面では使ってはいないんですが、AIが作る新しい表現は気になっています。

──そんなmagicHourから今の日本って、どんな風に見えたりしますか?

magicHour:日本は難しい場所にはいると言われていますよね? というのも、発展していた時期から30年間何も起きなかったと位置付けられていて。でも、僕の知り合いもなのですが、若い世代が取り戻していこうとしています。音楽もですけど、世界で活躍できる可能性も高まっていますよね。僕自身、ここからの未来に期待したいですし、同じ若い世代のひとりとして期待してほしいです。

取材・文◎ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)


magicHour 1st Album『MAGICHOUR』

2025年4月2日発売
written, produced & performed by magicHour
1.Feel The Same
2.City of Desire
3.Joker (Just Like You)
4.In The City
5.Temporary Lover
6.Blame
7.ILLUMINATION
8.If You Ever
9.Back to U / Remind Me
10.Alright
11.Sunday, Monday
12.Wonderful World
13.MAGIC HOUR



◆magicHour オフィシャルサイト
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