【ライヴレポート】vistlip、PopサイドとLoudサイドの両極にバンドの本質「どう見せていくかが大事」

vistlipが4月14日と15日の2日間、SHIBUYA PLEASURE PLEASUREにて<ONE MAN LIVE[Pop Seirḗn & Loud Poseidōn]>を開催した。“Pop”と“Loud”の両面を追求した同公演のオフィシャルレポートをお届けしたい。
◆vistlip 画像
最新アルバム『THESEUS』収録曲を“Pop”と“Loud”に二分化し、アルバムをより深堀していくという趣旨のもとに行われたのが、今回のワンマンライブ<Pop Seirḗn & Loud Poseidōn>だ。アルバムを引っ提げてリリースと同月の1月に東名阪で行われた<ONE MAN TOUR[Ship of Theseus]>では、“テセウスの船”をモチーフとしたアルバム全体の世界をコンセプチュアルに表現しただけでなく、『THESEUS』に込められていた“アイデンティティ”に対する答えを提示したことも記憶に新しい。
そこで今回の<Pop Seirḗn & Loud Poseidōn>は、“テセウスの船”と同じく、ギリシャ神話に登場する、“海”にまつわる怪物“Seirḗn(セイレーン)”と“Poseidōn(ポセイドン)”を、それぞれ“Pop”と“Loud”を形容するモチーフとして掲げ、再び航海に出ようというわけだ。

東名阪ワンマンツアー<Ship of Theseus>のファイナル公演(2025年1月18日@Zepp Shinjuku)と同じく、流木や碇などで装飾された舞台で始まった航海の続き。1日目の<Pop Seirḗn>は、アルバムと同じく「Mary Celeste」を出航の合図にスタートした。
そのほか『THESEUS』収録曲から、「Matorioshka」「Fafrotzkies」「Fairy God Mother」「Parallax Pancakes」の全5曲をセレクト。美しい歌声で人々を惑わし死に至らしめると言い伝えられている“セイレーン”の持つ魅惑的な武器に準えるように、“Pop=歌もの”を中心としたメニューが用意されていた。しかし、Popという言葉をダイレクトに表すというよりも、むしろメンバー自身も「重い!」と話していたようにディープ過ぎる内容でもあった。


基本的には『THESEUS』からセレクトされた楽曲の音像に近い既存曲が並んでいた中でも、「aquamarine」を筆頭としたライブ中盤、同期の不具合もあって図らずも緊迫感を増して披露された「CLASSIC OPERA」や「BABEL」といった重厚感のある楽曲によって醸し出された圧巻のオーラが、深度を増していたことは明確だった。ディープな内容になったこの日のセットリストについて、ライブ終盤に智は「みんなに対する好きだという気持ちを表したセトリ」と話していた。
確かに、春の陽気にピッタリな「STRAWBERRY BUTTERFLY」や本編ラストを飾った「Arrythmia」、さらに言うならば中盤の重厚感ある楽曲たちにもあった儚さと隣り合わせの“愛”の形。大切に思う気持ちや愛おしさを形にしようとするあまり重みを増してしまう……その伝い手であるvistlipと、各曲に感涙できるほど成熟した感性の持ち主であるファンとの関係性や、互いが存在する空間に漂う尊い空気。これらもまた、智の「vistlipってそうだもんな!」というひと言に尽きる。


「Arrythmia」を披露する直前のこと、「俺しか愛せないやつもいるかも知れないけど(照笑)、大切な人にvistlipの音楽を繋いで行ってほしい」と伝えた船長・智の囁きは、セイレーンのようにネガティブな結果をもたらすものではなく、間違いなく人々を幸福へ導くものだった。
◆ ◆ ◆
そして、“Loud”の名を司るに相応しく、海と大地までも支配する脅威の力を持った“ポセイドン”をタイトルに据えた2日目の<Loud Poseidōn>を迎えた。前日同様にTohya作の当日限りのSEが開演を告げたが、その雰囲気は前日の美しいそれとは打って変わって、雷がゴロゴロと鳴り続ける不穏な空気が会場を包んでいた。

メンバーのモノトーンを基調としたシックかつワイルドな装いも相まって波乱を予感させる航海は、“矛盾”や“嘘”といったアルバム『THESEUS』のコンセプトのルーツとも言える「B.N.S.」からスタートした。「最初からゴリッとしたセクション」との智の言葉通り、それに応えるオーディエンスも初っ端からヘッドバンギングの嵐を起こし、以降もそれが止むことはなかった。
序盤から感じられた、激しさゆえのピリついた緊迫感を極めた「Timer」で如実に感じられたのは、バンド感の強さだ。うねるようなギターを奏でるYuhと、サウンドの根幹を担うギターとパフォーマンスで魅せる海が前衛的にアプローチし、瑠伊とTohyaは絶対的な安定感でその存在をアピールする、といった具合に一丸となって音をぶつけるステージングが実に痛快。


このように息の合ったアクトが光る「Dolly」や、同じくブレイクからのバンドインに思わず気持ちがアガる「Candy Sculpture」、さらに「the wonderland from LAB.」から始まったラウドの権化と言わんばかりのセクションでは、ステージ上のテンションも大いに爆発。前日に瑠伊がMCで話した「(ベースソロ)見てろよ!」の伏線を見事に回収した「EVE」や、Tohyaのドラムソロを挟む「BAKE」といった各々の見せ場も冴えわたっていた。
そして、クライマックスに差し掛かる中、「Ceremony」で見せたのがvistlipが持つミクスチャーロックの真髄だ。そうしたラウドな側面の中でしっかりと強みも見せつけ、容赦なくせめぎ合うような本編を締めくくった「LION HEART」で会場中に広がっていたのは、バイタリティや希望を内包した壮観な景色だった。強靭な演者とファンとが作り出す凄まじい一体感は、たとえ難破するようなことがあったとしても、vistlipが擁するこの船は沈むことはないだろうと確信づけるものだった。


アルバム『THESEUS』を掘り下げるだけでなく、結果的にvistlipというバンドの持つ振り幅を再確認させたとも言える2日間。特に“Loud”に重きを置いたライブを振り返るように、智は「vistlipとは?」ということに触れた。
「いろんな面があるんで、“どう見せていくか”が大事なバンド。これからも、自分が良いと思ったものを、まっすぐ届けようと思います」──智
“いろんな面がある”バンドゆえに、「vistlipとは?」ということを完全に見せることは、ワンマンライヴというvistlipだけの限定的な時間・空間をもってしても容易なことではない。それがイベントライブであればなおさらだ。しかし裏を返せば、対バン相手やシチュエーション、そのときに伝えるべき気持ちに応じて、攻め方や戦い方が無限大にあるバンドであるとも言える。今後控えている、vistlip主催対バンイベント<[Party On]-Pizza Slices->でも、都度どのような見せ方で挑むのか注目でもある。

<[Party On]-Pizza Slices->は、ダウト(東京公演)、零[Hz](名古屋公演)、RAZOR(大阪公演)とのツーマンを主として、vistlipメンバーを慕うグラビティ(東京公演)、DEXCORE(名古屋公演)、MAMA.(大阪公演)をそれぞれドッキングさせるなど、これまでの<[Party On]>とは一味違ったライブイベントとなる。ライブ中に告知を担当した海曰く「楽しくピザパーティーをしようと思っている」とのことだが、出演バンドの中には主催者vistlipに食ってかかろうという意欲を見せるバンドもいるとのことで、なかなか侮れないパーティーとなりそうだ。
なお、vistlipは毎年恒例の“七夕”7月7日にZepp DiverCityにて周年ライブも決定しており、この<vistlip 18th Anniversary ONE MAN LIVE>の詳細も楽しみに待ちたいところ。これからもvistlipの未来は航海の如く続いていく。
取材・文◎平井綾子
撮影◎Lestat C&M Project
■<vistlip ONE MAN LIVE[Pop Seirḗn & Loud Poseidōn]>2025.4.14(Mon.),15(Tue.)@東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASURE SETLIST
SE
01. Mary Celeste
02. THEATER OF ENVY
03. John Doe
04. Making of day1.
05. 蟻とブレーメン
06. Matorioshka
07. aquamarine
08. Fafrotzkies
09. CLASSIC OPERA
10. BABEL
11. chapter:ask
12. STRAWBERRY BUTTERFLY
13. Antique
14. Fairy God Mother
15. Parallax Pancakes
16. NEXT
17. Recipe
18. Arrythmia
encore
en1. 偽善MASTER
en2. Idea
▼<〜Loud Poseidōn〜> SETLIST
SE
01. B.N.S.
02. My second B-day.
03. Prey Shadow
04. Timer
05. Dolly
06. Mr.Grim
07. ROACH
08. Candy Sculpture
09. the wonderland from LAB.
10. Walking Dead
11. Which-Hunt
12. EVE
13. BAKE
14. inbreed
15. Ceremony
16. DANCE IN THE DARK
17. Imitation Gold
18. LION HEART
encore
en1. CLASSIC OPERA
en2. 偽善MASTER
W encore
en3. 彩
■<vistlip presents[Party On]-Pizza Slices->

5月14日(水) 東京・Spotify O-WEST
w/ ダウト / グラビティ
5月15日(木) 東京・Spotify O-WEST
w/ ダウト / グラビティ
6月03日(火) 愛知・名古屋 ElectricLadyLand
w/ 零[Hz] / DEXCORE
6月04日(水) 愛知・名古屋 ElectricLadyLand
w/ 零[Hz] / DEXCORE
6月07日(土) 大阪・ESAKA MUSE
w/ RAZOR / MAMA.
6月08日(日) 大阪・ESAKA MUSE
w/ RAZOR / MAMA.
▼チケット
一般発売:4月26日(土)10:00〜
URL:https://eplus.jp/vistlip/
■vistlipライブ予定
■<vistlip 18th Anniversary ONE MAN LIVE>
7月07日(月) Zepp DiverCity
※詳細後日発表
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