【インタビュー】vistlip、約3年ぶりアルバム『THESEUS』に“嘘や矛盾”と“希望や美しさ”のパラドックス「ひとつの旅を表現したかった」

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2007年の結成以来、不動の5人で歩み続け、アルバムごとにさまざまな世界を描いてきたvistlip。2023年に事務所独立を発表し、翌2024年に結成17周年を迎えた彼らがニューアルバムに掲げたテーマは“THESEUS”だ。

◆vistlip 動画 / 画像

“テセウスの船”は、“船のすべての部品が置き換えられた時、果たしてその船が同じ船と言えるのか”と問いかけるパラドックス。そこから波及した伝説や寓話をモチーフにした楽曲郡は、すべての作詞を手掛ける智(Vo)ならではの毒を孕みながら、聴き手に“何が真実か”を問いかけてくる。

さらに、Yuh (G)、海(G)、瑠伊(B)、Tohya (Dr)という4人のコンポーザーを擁するvistlipの音楽性がますます多方面に開花。美しいメロディからヘヴィな扇動力、ダンサブルなビート、緻密なバンドアンサンブルまで、 “新しさ”と“らしさ”を併せ持つなど、彼らの深淵に惹き込まれていく作品だ。2年10ヶ月ぶりのアルバム『THESEUS』についてメンバー全員にじっくり語ってもらった。


   ◆   ◆   ◆

■vistlipは“テセウスの船”のように
■パーツが組み変わっている状況なんです


──事務所独立後初のフルアルバムとなりますが、バンドのモードや制作過程に変化はありましたか?

智:前作までは、最初に僕から全体的なコンセプトを提示することが多かったんですけど、今回はメンバーにまず楽曲を作ってきてもらいました。“今、メンバーはどんな曲をやりたいんだろう?”というところが知りたかったので。それに、楽曲を配信リリースしてきた中でストックも溜まっていたので、一度アルバム収録候補曲を全部並べて、全体の構成を考えながらブラッシュアップしていった感じですね。だから、今メンバーが打ち出したい音が入っている印象があります。

──候補曲を並べた段階では、結構な曲数があったんですか?

海:TohyaとYuhはいつもたくさん作ってきてくれるので、今回もデモはすごく多かったですね。僕は1曲しか出してないです。

智:少ないよね(笑)。何年バンドやってんだよ~。

海:ははは!

Tohya:決め打ちの1曲がちゃんとアルバムに入っているわけだから、うらやましいけどね。

Yuh:ここで皮肉言うなよ(笑)。


▲智(Vo)

──智さんとしては曲が揃ってどう感じました?

智:それぞれ好きにやってるなと思いました。vistlipは基本、アルバムを作るたびに苦労するバンドで。というのも、好きな音楽的な方向性がみんなバラバラなので、歌詞やその世界観でまとめてきたんです。今回はいつも以上にバラつきがあって、“果たしてまとまるかな?”と思ったんですけど、全体テーマを決めてしまえば、その曲に合った歌詞を書けばいいだけだったので、逆にやりやすかったかもしれない。コンセプトを決めてから曲を作ると、どうしても雰囲気が似てきてしまうから、そのほうが大変だったと思う。

──なるほど。

智:会場限定リリースしたシングル「B.N.S.」からイメージを広げていきたいと思って、アルバムタイトルを先に決めて。しっかり自分の中で道筋を作って作詞に取り掛かることができたのはよかったです。

──『THESEUS』のモチーフは逸話“テセウスの船”ですか?

智:はい。そこから、大きなテーマとして“嘘”や“矛盾”という意味合いを込めつつ、タイトルにつけました。裏テーマとしては…vistlipはスタッフや環境が変わったし、どんどんいろんな音楽に挑戦してきた結果、“テセウスの船”のようにパーツが組み変わっている状況なんです。オリジナルがどんどん失われていく中で、いざ全てのパーツが新しくなった時に、“vistlipは、これがvistlipだと胸を張って言えるのか?”という気持ちも込めていたりもします。タイトル案としては一番最後に出たアイデアだったんですけど、vistlipっぽさもあるし、メンバーに意味合いを伝えた時に全員がすぐに納得して決まりました。

海:アルバムタイトルに関しては、最終決定するまで3回くらい“候補を出しては意見が割れて”を繰り返していて。でも、『THESEUS』という案には全員がvistlipのアルバムとしてしっくりきて、すっと決まりましたね。言葉の意味ももともと知ってたし。たぶん、ドラマや漫画の『テセウスの船』のイメージも強いと思うので、その放送が去年とかだったらボツってたかもしれないけど(笑)、結構前(2020年ドラマ放送)だから気にしなくてもいいかなって。

智:アルバムタイトルを考える中で、各曲のテーマになる歌詞も浮かんだんです。この曲はあのテーマが合うなって当てはめていけたので、作詞はスムーズでした。1日1曲くらいのペースで書くことができたので、アルバムトータルで、たぶん今までで一番作詞期間が短かったと思う。


▲Yuh (G)


▲海(G)

──だから、いろいろな伝説や寓話をモチーフにした曲が多いんですね。まずTohyaさん作曲の「Mary Celeste」は、船員と乗客10名が突然消えた謎の失踪事件の船の名前ですよね。楽曲は海をイメージさせる壮大なアレンジで。

Tohya:作曲したのは夏頃で、アルバムの全体像がまだ何も見えていない時だったので、僕としては海というより、空とか未来みたいなイメージだったんです。最初のイメージと着地点が違うことはよくあるんですけど、いつも着地点のほうがしっくりくるんですよね。結果、ミュージックビデオも海で撮影したし、アルバムのオープニングテーマとしてふさわしい曲に仕上がったなと思います。

──サウンドやメロディは爽やかなのに、歌詞がなかなかヘヴィな内容というギャップがいいですよね。

智:まあ、“智あるある”ですね、ストレートに歌詞が書けなくて困ってるんです(笑)。ド頭から“スカスカの心臓”みたいな歌詞になっちゃってるんですけど、綺麗なものにグロテスクに歪んだ要素をくっつけるのが好きというか、そのほうが綺麗だと思ってしまうんですよ。

Tohya:レコーディングの現場で智から歌詞をもらって、いろんな気持ちにはなりましたね(笑)。

智:いろんな気持ちって(笑)?

Tohya:スケジュール的に、まだ限界まで追い込まれているような時期ではなかったけど、だんだんピリピリしていく時期にさしかかったあたりに読んだので。状況的にすごく刺さって…刺さりすぎて困りました。


▲瑠伊(B)


▲Tohya (Dr)

──最後のサビ裏でシャウトが聞こえるのが気になったんですが?

智:海のシャウトです。綺麗な世界観をあえて壊して、声で歌詞の雰囲気を伝えたかったので、ヘンな感じにしたかったんですよね。このアレンジを聴いたTohyaくんが、「イメージが湧かない」と言ってましたし、瑠伊も「えっ、本番にも入れるの?」って不満そうでしたけど。

瑠伊:はははは! 不満というか、“普通入れないよね?”っていう素朴な疑問です(笑)。でも、聴いているうちに、“シャウトがなくなったら普通すぎるのかな”と思うようになってきたので、結果、面白いフックになってますよね。

智:そうそう。エンジニアも最初はイメージが湧かなかったみたいだけど、「大丈夫だから。海、録って!」って僕が進めて。結果的にエンジニアも「カッコいいですね」と言ってたから、“ほら、やっぱりいいじゃん!”と思ってました。

海:最初、「どこに入れんの?」ってなりましたけどね(笑)。智が言いたいことはなんとなくわかったので、歌詞を読みつつ、“自分が応えるならこうだよな”という言葉を考えつつ。でも悪目立ちしちゃいけないから、馴染むように意識しながらシャウトを入れました。

──Yuhさん作曲の「Candy Sculpture」「Ceremony」はかなりヘヴィに振り切った曲です。

Yuh:「Candy Sculpture」は以前、「ミドルテンポだけどノレる曲をやりたい」と智が話していたので、その言葉をイメージして作ってみました。勢いだけじゃない大人っぽさもありつつ激しくした曲ですね。「Ceremony」は、自分の表現したい音楽を突き詰めて、いききったものを作りたいという想いがあって。ギターソロはもうB'zになった気分で弾きました(笑)。今回の僕の曲は全部、やりたい音楽を突き詰めたものになってますね。本物で攻めたかったから。

海:“それっぽい感じ”じゃなくってことね。

Yuh:そうそう。ジャンル感をもろに出したかった。「Ceremony」は、これでもマイルドになったほうなんですよ。最初はサビもなく完全に縦ノリのリズムだったんですけど、曲が揃った時に「速い曲がほしい」となって、アレンジしました。

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