柴咲コウ、芝居と音楽の融合のさらなる進化を示した意義深いライブ

柴咲コウの全国ツアー<KO SHIBASAKI LIVE TOUR 2024 ACTOR'S THE BEST〜響宴〜>追加公演が 2月8日(⼟)に東京・昭和女子大学 人見記念講堂で開催された。チケットは全席 SOLD OUT、U-NEXT での独占生配信も行われた。
2023年7月に芸能活動25周年を迎えた柴咲コウ。同年11月リリースのアルバム「柴咲コウ ACTORʼS THE BEST 〜Melodies of Screens〜」は、俳優としての出演作にて⾃⾝が歌ってきた主題歌や挿⼊歌、さらにカバー曲も織り交ぜた、柴咲コウにしか成し得ない1枚となった。さらに同年12月、そのアルバムを掲げ4年半ぶりとなる全国ツアー<KO SHIBASAKI CONCERT TOUR 2023 ACTOR'S THE BEST>を開催した。そして2024年11月にはその “俳優”と“アーティスト” という⼆⾯性の融合に挑戦した「ACTORʼS THE BEST」の系譜を引き継ぎつつ、新たなコンセプトで制作された New EP「響宴」を発表。同EPを引っ提げ、12月から全国を巡ってきたライブツアーが東京にてオーラスを迎え、会場には多様な年齢層の観客が訪れていた。
開演前から、場内は鳥のさえずりや自然を感じさせる音と共に、森のような⾹りで満たされていた。そして冒頭には、宝塚歌劇団出⾝のパフォーマー帆純まひろがシルクハットを被ったスーツ姿で登場。観客を舞台の世界へと誘う役⽬を果たしていた。舞台上には、本ツアーのコンセプトである“循環”を象徴する大きなサークルのオブジェが設置され、神聖な存在感を放っていた。パフォーマーはススキや紫陽花など様々な植物に囲まれたステージを歩きながら、「⽬には見えないけど、確かに存在している」⿃の鳴き声や川のせせらぎ、また清らかな香りを言葉にしつつ、ここが深く神秘的な森の中であることを示唆。やがて、空間の響きを確かめるように手を鳴らすと、その音に呼応するかのようにバンドメンバーがステージに集う。そして、眩い光とともに深い紫いろの頃もを羽織った柴咲コウがサークルの中央に姿を見せると、観客から期待を表すかのようにあたたかく大きな拍手が沸き起こった。

オープニングを飾ったのは、巡り巡る季節や輪廻の“循環”や“輪”、出会いと別れを繰り返す“縁”といった New EP や本ツアーのコンセプトが盛り込まれた LITTLE(KICK THE CAN CREW)作詞・作曲のタイトル曲「響宴」。初挑戦となるポエトリーリーディングを取り入れた楽曲で、“宴の始まり”を告げると、続いて柴咲コウがヒロインを務めたドラマ『安堂ロイド〜A.I. knows LOVE?〜』挿入歌の小田和正「woh woh」のカバーにて全てを包み込むような大きな愛を丁寧に表現。そして、NHK大河ドラマ『おんな城主 直⻁』の挿入歌「わたしが竜宮小僧だったとき」を何かが込み上げるように歌い切った。続いて映画『黄泉がえり』の劇中で“RUI”として歌唱した「泪月-oboro-」「月のしずく」など、“月”というモチーフや出演作のテーマを想起させる名バラードを祈りを込めて歌い上げると、光の渦のようなサークルの中へと還っていった。
キーボードとハンドパンが奏でる雨音によって場面は転換。羽織を取り払い、大きな薄い桃色のリボンがついた帯をしめた柴咲が登場。中央のサークルを神社に見立て、参拝するかのようなシーンを挟み、やがて和傘をさしたスーツ姿のパフォーマーが現れた。柴咲が傘を受け取り、2人は見る者によって如何様にも受け取れる目線のやり取りを交わしたかと思うと、パフォーマーは足早に去っていった。
ボカロP の⌘ハイノミが手掛けた楽曲「紫陽花」では、ステージ上で踊るパフォーマーと柴咲が時に見つめ合い、時に目を逸らしながら、<いつまでも 何度でも ⽔をあげよう>と繰り返し、“再⽣”を思わせる1曲を表現。続いての楽曲「雨音はショパンの調べ」や、コーラスのSHUも参加して切ない世界観を表現した「硝子窓」、さらに「そして僕は途方に暮れる」など、窓を打ち付ける雨を感じさせる楽曲が集結。特に印象的だったのは、ステージ上に生まれた木陰にて、丸太に座りそっと歌った「そして僕は途方に暮れる」のサビである。ドラムとコーラスのとダイナミックな重なりによって楽曲のスケールを拡大していくドラマチックなアレンジや、スペシャルゲス ト・ハンドパン奏者 REO MATSUMOTOによる唯一無二の音色も際立ち、ライブ全体の質感を決定付けていた。そして雨が上がった後には、福山雅治作詞・作曲、ガリレオシリーズの映画『沈黙のパレード』主題歌「ヒトツボシ」を披露。満点の星空を背にしてエモーショナルに歌い上げ、観客の方へ手を伸ばしながら出会えた喜びと幸せを願う歌をまっすぐに届けた。

歌い終えた柴咲が両腕を投げ出して呆然と立ち尽くし、和傘を見つけた彼女が傘をさすと、場内に落雷が鳴り響いた。その直後、置かれた傘から一瞬にして変身したように薄紫色の衣装を身につけたパフォーマーが登場。しなやかに踊る彼女に加えて、ハンドパン奏者 REO MATSUMOTOがマイクを持ってボイスパーカッションを展開すると、観客の熱量が一気に上昇。オールスタンディングでクラップを打ち鳴らす中、黒のショートパンツに着替えた柴咲が満を持して登場。「無形スピリット -Mugen Loop Remix-」では会場が一体となってタオルを回して盛り上がると、続く「n0w」ではさらにクラップのボリュームが上がった。そして全編英語歌詞の「Intoxicated」では柴咲が拳を上げてパワーを送り、「よくある話〜喪服の女編〜」ではスインギングなビートに合わせ、シルクハット&スーツ姿に戻ったパフォーマーとミュージカルのようなシーンを演出。ボカロP の⌘ハイノミによる新曲「想待灯」では、<愛してるが欲しい/手繰り寄せる精一杯>というフレーズを声高に歌い上げ、会場全体の感情が高まっていくようだった。そして、ベースが効いた「ラブサーチライト」ではタオルを回して熱狂する観客に向けて<ずっと君を離さないから>と熱い歌声を届け、速いパッセージの楽曲を歌いこなしながら<東京〜!>とシャウト。生のライブであるからこそのダイナミズムと楽しさを感じさせるとともに、ホールをクラブに様変わりさせたかのようなステージングからは、柴咲の表現者としての多彩さが伝わってくるようだった。ここから舞台は⼀変。再び和傘が登場し男女の物語へ。虫の鳴き声が聞こえる中で、花の衣装に身を包んだ柴咲とスーツ姿のパフォーマーは、同じ傘の下で寄り添い歩みを進めていたが、不意に立ち止まり、やがて離れることに。その後、映画『世界の中⼼で、愛をさけぶ』の主題歌「瞳をとじて」をアコースティックギターの音色を基調として情感たっぷりに歌い上げると、続いて名作映画『容疑者 X の献身』の主題歌「最愛」を披露。<⼼の雨に傘をくれたのは あなたひとりだった>と、偶然か否かまたしても“雨”や“傘”にまつわるフレーズを含む1曲が、“命の循環”という本ツアーならではのニュアンスで⼼に浸透してくるようだった。
本編の最後は、「幸せとは何か?」を提示してくれるような3曲だった。まずは、様々な出会いや別れを繰り返しながらも、主人公が真実の愛を見つけるまでを描いたドラマ『砂時計』の主題歌として柴咲が書き下ろした「ひと恋めぐり」を披露。そして、ドラマ版『世界の中⼼で、愛をさけぶ』の主題歌「かたちあるもの」では、<泣きたいときや苦しいときは 私を思いだしてくれればいい>という歌詞に思いをのせて観客に声を届けていた。最後には、ライブの始まりに戻っていくように再び「響宴」を歌い終えると、パフォーマーは柴咲を羽織で優しく包み込み、柴咲は枯れてもなお美しい成熟さを表す紫陽花の花束をパフォーマーに手渡すと、スモークが流れ出す大きなサークルの中へと姿を消した。

本編では MC を⼀切挟まず、全編に渡ってまるで演劇の舞台のようなライブが展開された。打って変わってアンコールでは、ツアーグッズの Tシャツを見につけたカジュアルな姿の柴咲が登場。「ある1人の女性の一生なのか、ひと時なのか。その気持ちの揺れ動きを表現しました。たくさんある楽曲の中から、1人の主人公を想定して組み立ててみると、1つのストーリーができた感覚があります。」と充実の表情でコンセプトを解説し、「長く生きれば生きるほど、素敵な出会いがあれば、悲しい別れも増えていくなと思うけれども、それが重なって層になって、素敵で強い人間になっていければいいなと思います。」と未来への決意を語った。アンコール 1曲目は、公式メンバーシップKO CLASS会員と作り上げた楽曲「TRUST」。「色々な人間関係があると思うけれど、自分のことは自分が信じて、後押ししてあげたい。自分を癒して、認めてあげられるようにみんなに口ずさんでもらいたいです。」と呼びかけると、会場は<偽らない 囚われない 私の愛>というフレーズのあたたかい合唱で1つになっていった。場内がまさに幸福のバイブレーションで溢れる中、柴咲は「皆さん、素敵な歌声をありがとう。」と感謝を伝え、「1つになれたね。また続けていきたいと思っているので、応援よろしくお願いします!」と挨拶。そして、ラストの楽曲は「KISS して」。柴咲がチャーミングな笑顔を見せ、観客も総⽴ちでタオルを回し、会場が公演一番の一体感・盛り上りとなったところで本ツアーはエンディングを迎えた。
柴咲は最後に「みんな、これからも愛し愛されて生きていこうね。」というメッセージを送り、毎年恒例となっているバースデーイベントの開催が今年も決定したことを報告。「ぜひ、私に会いに来てください!また会いましょう。」と再会の約束をして、投げキッスの雨を浴びせつつステージを後にした。また退場時には、柴咲コウが取り組む“サステナビューティープロジェクト”にてコラボしている明治のチョコレート『Cacao Beauté(カカオボーテ)』が観客に配布された。聴覚や視覚、嗅覚など五感の全てを刺激し、“芝居と音楽の融合”のさらなる進化を示した意義深いライブであった。
取材・文/永堀アツオ
撮影:田中聖太郎
セットリスト
M-2 woh woh
M-3 わたしが竜宮小僧だったとき
M-4 泪月-oboro-
M-5 月のしずく
M-6 紫陽花
M-7 雨音はショパンの調べ
M-8 硝子窓
M-9 そして僕は途方に暮れる
M-10 ヒトツボシ
M-11 無形スピリット-MUGEN LOOP REMIX-
M-12 n0w
M-13 Intoxicated
M-14 よくある話~喪服の女編~
M-15 想待灯
M-16 ラブサーチライト
M-17 瞳をとじて
M-18 最愛
M-19 ひと恋めぐり
M-20 かたちあるもの
M-21 響宴 reprise
En-1 TRUST
En-2 KISSして
Vocal:柴咲コウ
Keyboard,Bandmaster:櫻田泰啓
Guitar:有賀教平
Bass:瀧元風喜
Drums:木村蓮翔
Chorus:SHU
Performer:帆純まひろ
HandPan:REO MATSUMOTO
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