【インタビュー】チャーリー・レコード・ジャパンに期待「日本はアメージング・カントリー」

ポスト


今回は音楽と、音楽ビジネスの話をしよう。洋楽ファンなら知る人ぞ知る、英国屈指のリイシュー(再発)レーベル「チャーリー・レコード」が、7月から新たに「チャーリー・レコード・ジャパン」を日本で立ち上げた。

主な業務は、レーベルの公式ロゴやアルバムのジャケット・アートなどを使用したオリジナル商品の開発と、日本独自編集盤のレコードやCDの製作販売。「ライセンス契約」と呼ばれるスタイルで、音源だけではなくファッションやグッズ展開なども視野に入れた、新しいスタイルの音楽ビジネスだ。

BARKSでは、「チャーリー・レコード・ジャパン」の代表をつとめる金子ヒロム氏にインタビューを敢行。かつてザ・ローリング・ストーンズ公式ストアだった「ギミーシェルター」の店長を長年務め、近年は幾多のロックスターたちが巣立ったロンドンの伝説的ライブハウス:マーキー・クラブ®・ロンドンの日本代理店「マーキー・クラブ®・ジャパン」や1960年代から活動している英国ロック・フォトグラファー:ディック・バーナットの公式フォト・エージェント「ディック・バーナット・ポートフォリオ・ジャパン」など、音楽にまつわる様々なビジネスを展開する金子氏。そんな彼が「チャーリー・レコード・ジャパン」でやりたいこととは一体何か。その胸の内を聞いてみよう。


チャーリー・レコード・ジャパン代表の金子ヒロム氏

金子ヒロム:今回のチャーリー・レコードの話なんですけど、(写真を見せて)きっかけはこの人なんです。P・P・アーノルド。2022年の夏に、マーキー・クラブ®のライセンス会社の人たちとロンドンでミーティングをしたんですが、ちょうどザ・ローリング・ストーンズがハイドパークでコンサートをやった時で、それを観に行ったんです。<ブリティッシュ・サマー・タイム>という約1ヶ月に渡って毎週末行われるビッグなイベントで、ザ・ローリング・ストーンズあり、イーグルスあり、パール・ジャムあり、デュラン・デュランありという感じで。同時期にガンズ・アンド・ローゼズもUKツアー中でした。その中でストーンズは2回ライブをやっている。音楽関係者もいっぱい来ていた中で、マーキー・クラブ®のライセンス会社の人から、1960年代のストーンズやジミ・ヘンドリックスを撮っているゲレッド・マンコヴィッツ(Gered Mankowitz)というフォトグラファーのエージェントを紹介されたんですが、彼はP・P・アーノルドも撮っているんです。で、「P・P・アーノルドが日本でも活動の幅を広げたいから、窓口をやらないか?」と言われて、いろいろ話をした。元々彼女はアイク&ティナ・ターナーのバックダンサー&コーラスグループのアイケッツにいて、1966年のストーンズのUKツアーのサポートアクトにアイク&ティナ・ターナーが出た時に、ミック・ジャガーがP・Pを見て「あの子はすごい」と、アンドリュー・ルーグ・オールダム(ストーンズのマネージャー)に紹介して、アンドリューが「俺のレーベル、イミディエイト・レコードからソロを出さないか」という話になって、リリースすることになったと。


P・P・アーノルド

──伝説のストーリーですね。

金子ヒロム:「今、イミディエイト・レコードってどうなってるの?」と聞いたら、チャーリー・レコードというところがディストリビュートしていると。イミディエイトのほかにもBYGレコード、セルロイド、テキサスのガレージレーベルのインターナショナル・アーティスト、ルーツ・レゲエのトレジャー・アイル、ビバリーズ、ラテンロックのココというレーベルとか、いろいろやっているんだと。「それは面白そうだね」と言ったら、「社長に会うか?」と言われて、セッティングをしてくれたんですね。そしたらチャーリーの社長が「俺たちはメジャーじゃないから。とにかくすごく面白いことをやりたいんだ」と言うので、「ライセンス契約はどう?」という話をして、そこからとんとん拍子に話が進んでいきました。

──それが「チャーリー・レコード・ジャパン」。具体的に、どんなことをするわけですか。

金子ヒロム:ライセンス契約というのは、向こうのレコードやCDを輸入して売るのではなくて、ジャケット・アートやレーベル・ロゴを使った商品を開発していく仕事で、それを様々なメーカーさんにやってもらう。企業だったり、ファッションブランドだったり、飲料メーカーでもいいので、なんでもやってくださいと。

──代理店の役割ですね。



金子ヒロム:そこにプラスして、「日本独自編集盤を作れる」いう特約を入れているんです。たとえば「ボックスセットを作ろう、帯をつけてライナーノーツは誰々に書いてもらって、おまけで7インチ、Tシャツも作って入れちゃおう」とか、そういうものを入れたボックスを作ったり、日本独自編集盤を出すことができる。ロックに造詣の深い会社の人が「イミディエイト時代の、スモール・フェイセズのボックスを作りたい」ということであれば、それがトライできる。ヤードバーズも、ジェフ・ベックがいた頃までの権利は全部チャーリー・レコードが持っているので、可能なんですね。あとは、サイケ・ガレージ系で人気がある13thフロア・エレベーターズとか、ボブ・マーリィーのウェイラーズがメジャーになる前の音源の権利も持っているんです。「こんなのあるの?」って、びっくりしました。

──すごいですね、それは。

金子ヒロム:また、今回はチャーリー・レコードの音源と映像の管理をやっているライセンスミュージック・ドットコムというところとも契約しています。そういうものを含め、いろんなメーカーさん、企業さんに周知して、「どうぞ素材を使って料理してください」というのが、今回のライセンス契約です。今の円安という状況の中で、たとえばレコードを輸入して薄利で売るということをしても、それじゃ1970年代から何も変わっていないじゃないですか。だけど我々がやろうとしている今回のビジネスは、そうじゃないんだよと。音楽をもとにした波及効果をいろんなところに広げていければいいなと思っています。たとえば13thフロア・エレベーターズのこのジャケットとか、今の時代だったらファッション的に「おっ!?」となる絵柄だと思うんですよね。それをアパレルでも何でも、そういうところに広げていけたらすごく面白くなると思うし、とにかく間口を広くやりたいなというのがありますね。


左:13thフロア・エレベーターズ
右:13thフロア・エレベーターズのベーシスト、ロニー・レザーマン

──可能性が広がりますよね。

金子ヒロム:経緯としてはスタートしたばっかりで、これからどんどん広げていきたいというところですね。これって、やっぱりBtoCというよりもBtoBであったり、BtoBを経由してBtoCになるBtoBtoCという形だと思うので、とにかくいろんな人に見てほしいし、参加してほしい。そのほうが絶対面白いと思っています。「何か、こういう事をやってみたい!」というものがあれば、個人商店でもいいんです。会社の規模は問いません。ぜひお話を聞かせてください。

──面白くなりそうですね。「可能性は無限大」ということでいいでしょうか。

金子ヒロム:実は、レーベルのライセンスを手に入れるというのは、個人的にも長年の念願だったんですよ。長い間アーティスト・グッズを輸入して販売したり、海外に貴重品を買い付けに行ったり色々やってきましたけど、やっぱりライセンスを持っている事が一番強いんですね。権利を持っているところが最強なんです。我々ビー・ミュージック・エンターテインメント合同会社(略称:BME/代表・金子ヒロム)はそこにすごくこだわっていて、まず権利を手に入れて、次の段階へ行きたい。内容は色々あるんですけど、やっぱり音楽好きが喜んでくれることをやりたいわけです。

──よくわかりました。これはある意味、業界の方というか、音楽ビジネスに興味のあるクリエイターの方の目に届いてほしい記事になりますね。



金子ヒロム:あともうひとつ特約として入っているのが、将来的に日本のバンドやアーティストと契約して、海外でリリースすること。おそらくブリティッシュ・ビートが好きなアーティストだったら、イミディエイトから出してみたいとか、レゲエだったらトレジャー・アイルから出してみたいとか、絶対あると思うんですよ。フリージャズやインストゥルメンタルの人たちはBYGレコードから出してみたいと思うだろうし、テクノ系とかハウス系だったらセルロイドから出してみたいとか、そういうのっていっぱいあると思うんです。

──そこまで考えているんですね、チャーリー・レコードは。

金子ヒロム:それは僕の方から提案したんです。向こうから一方的に押し付けられる契約は嫌だから「こっちはこうしたい」ということは言っています。だからね、やりたいことがいっぱいあるんですよ。これはチャーリー・レコードにも関わっている話なんですけど、P・P・アーノルド本人と打ち合わせした時に、「仮に日本でコンサートをやる場合、どういう形がいいのか?」という話もしています。例えば「ステージの一部を彼女をリスペクトしている日本人のバンド、アーティストがバックを務めることは可能か?」とか。ロンドンでライブを観ましたけど、やっぱりすごいでんすよね。マイクが口元から滅茶苦茶離れていてもウワーッ!ていう感じですごい声を出す。お歳ですからさすがにアイケッツの時みたいなダンス・アクションはしていないですけど、歌はもう全然すごいです。だから来年以降、彼女を日本に呼んで、いろんな形でコンサートをやってみたいという計画もあります。


──本国のチャーリー・レコードの立場で言うと、アジアの日本という国に期待しているのは、どんなことだと思いますか。

金子ヒロム:アイディアですね。彼らにとって日本はアメージング・カントリーなんですって。いわゆる日本のクラシカルな部分、インバウンドでやって来る外国の人たちが行く京都とか、普通のヨーロッパ的感覚だと日本はそういう伝統的な国なんだけど、それとは真逆の、超新しいことを次から次へとやっている国でもあると。VRの技術とか、アバターを使ったテクニカルな部分もそうだし、ファッションもそうだし、その両方を持っているから、日本にかなり期待しているというのはありますね。今回のチャーリー・レコードとの契約は、「素材としては過去の物だけど、それをうまく日本というフィルターとして新しくしてほしい」という意図を感じます。最初に話をした時にも、「うちにどうしてほしいの?」と聞いたら、「好きにやってほしい」と。「何かアレンジメントしてほしい、日本流にしてほしい」と言うんですよ。

──普通はイメージとブランディングを守るために「変えるな」と言われそうな気がするんですけどね。

金子ヒロム:それは、チャーリー・レコード自体がインディーズだからだと思います。これがメジャーだったら「何も変えるな」と言われたかもしれない。何か面白いことをしようとしても、「まずアーティスト・マネージメントにアプルーバル(承認)を取って、その上で話を進めていくという形でよろしいでしょうか?」とか言って、「何年かかるんだよ」ということになる(笑)。でもチャーリー・レコードは、「俺たちは英国最高のインディー系リイシュー・レーベルだ」と自分たちで言っているぐらいですから、基本的にどこにも属さないというスタンスでやっています。面白い話があって、ここだけの話、日本でのライセンス代理店の話を僕に持ちかける前に、実はある日本の大手から話があったんですって。チャーリー・レコードの社長から聞いたんですけど、「上から目線で舐めたことを言われたんで、蹴ってやった」って(笑)。

──かっこいい(笑)。

金子ヒロム:だから僕が、2022年の夏にロンドンにストーンズを観に行っている時に、ミーティングしたマーキー・クラブ®の人たちを通じてチャーリー・レコード側に「うちと取引している日本のライセンス・エージェントが来ている」という話が伝わって、以前にそういう舐められたことがあったから「日本の会社ってみんなああなのか」みたいなことをチャーリーの社長がマーキーの社長に話しててね、「いや、日本のBMEという会社は、ストーンズが好きなちょっと変わっているヤツがやってるけど仕事は丁寧だし、ちゃんとやるよ」みたいなことを前から話してくれたみたいで「そいつ、今ストーンズを観にここに来てる」「じゃあ連絡してくれ」って、マーキーの社長から連絡が来て、チャーリーの社長に会いにロンドンのチャーリー・レコードのオフィスへ行ったんです。

──ある意味、ストーンズがつないだ縁かもしれない。金子さんらしいです。



金子ヒロム:「チャーリー・レコード・ジャパン」に関しては、すでに問い合わせも入っているんですよ。あるレーベルをやっている方から、「チャーリーから出ていたこの音源はありますか」と聞かれて、「それはもう契約が切れちゃってるからないんです、期待に沿えずごめんなさい」と答えたんですけど、「今後も何かあったら一緒にやりましょう」みたいなことを言ってくれて。で、このビジネスは必ずしも大手ではなくても販売店とか、街のマニアックなレコード店みたいなところ、そういうところでもやろうと思えばできるんだなと思いましたね。たとえば7インチを限定500枚で、「世界でここしか売ってないですよ」とかね。

──世代も年代も問わないですよね。こうした音楽ビジネスに関しては。

金子ヒロム:そうです。たとえばザ・ローリング・ストーンズのベロマークは、もう年代を問わないアイコンじゃないですか。我々が既にライセンスしているマーキー・クラブ®のロゴも、その存在や歴史を知らずともデザイン的にカッコいい、という御意見をホントに数多くいただいてます。同じように、チャーリー・レコードやイミディエイト、BYG、セルロイド他アンダーレーベルのロゴ、またジャケットのアートワークなどは、音を知らない若い人たちが見たら「これ、すげえかっこよくない?」とか、そういうところから始まっていくものもあると思うんですね。それをぶった切っても何しても、今の時代はある意味全部OKなところがあるから、一度好きなようにいじくってくれたら、きっと面白いものができるんじゃないのかな?と思っています。




金子氏が着ていたマーキー・クラブ®公式Tシャツ




チャーリー・レコードを始め傘下のレーベルでリリースされているアルバムの主なアートワーク

──それに耐えうる・値する作品がチャーリー・レコードの中には詰まっている。

金子ヒロム:音を出すことは、アーティストさんにお任せです。それはもう元々あるし、これからも作られていくだろうから、そっちじゃなくて、ライセンスという形で新たな可能性を広げていきたい。1951年に伝説のDJのアラン・フリードが「ロックンロール!」とラジオで叫んでから、もう70年以上経ちますけど、それだけの歴史があるわけだから、それをなんとかうまく、もっともっと浸透できるといいなと思います。あ、そう!あとライセンスがあるので伝説のライブハウス:マーキー・クラブ®を日本でオープンさせる計画も考えてます。マーキー・クラブ®東京とか大阪とか。そこでクラブに所縁のあるストーンズやTHE WHOなんかが来日公演を演ってくれたら最高じゃないですか?ただしみんな高齢なんであまり時間がないんですが(笑)。これもなんとか実現させたいと思っています。

──期待しています。またぜひ、お話を聞かせてください。

金子ヒロム:ありがとうございます、今後とも是非!



◆チャーリー・レコード・ジャパン・オフィシャルサイト
◆ビー・ミュージック・エンターテインメント合同会社オフィシャルサイト
この記事をポスト

この記事の関連情報