【ライブレポート】Ken Yokoyama、渋谷公会堂初ワンマンに新境地「ライブハウスでは得られないもの」

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Ken Yokoyamaが11月9日、東名阪ホールツアー<My One Wish Tou>のファイナルとなる東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)公演を開催した。初披露の新曲を含む新旧23曲を披露した同公演のレポートをお届けしたい。

◆Ken Yokoyama 画像

コロナ禍以前は観客のモッシュとクラウドサーフによって、フロアがカオスと化すライブを是としていたKen Yokoyamaが席有りのホールツアーを開催したことはもちろんだが、それを存分に楽しんだことも含め、さまざまな場面で横山健(Vo, G)をはじめ、Ken Yokoyamaの新境地を物語るライブになったことが重要だ。



席有りのワンマンライブという意味では、すでに5月20日、日比谷野外大音楽堂で経験済みだが、その野音公演とこのLINE CUBE SHIBUYA公演の両方を見た人は思ったことだろう。肩の力を抜いて、ライブに臨んだように見えたことも含め、LINE CUBE SHIBUYA公演のほうが横山をはじめ、バンドはより自然体だった、と。

もちろん、名古屋、大阪と回ってきたホールツアーのファイナル公演ならではと言える見どころも少なくなかった。それも含め、ライブの見どころを早速振り返っていこう。


「よく来てくれた、<My One Wish Tour>。今日がファイナル。よし、早速始めようか!」

横山の短い挨拶からバンドの演奏は「Ten Years From Now」でスタート。観客は早速、シンガロングの声を上げたのだが、全員立ち上がってはいたものの、席有りという状況に慣れていないせいか、若干遠慮気味だったのだろうか。

「こういうホールのライブ、(Ken Yokoyamaには)珍しいから。みんな、まだ硬いと思うんだよね。ちょっとほぐそうか」と語りかけた横山はいきなり“憑依芸”を披露──「う、ううっ。フレディ・マーキュリーが降りてきた! 俺はフレディ・マーキュリーだ。俺と一緒にオーオーと言うずら(笑)」と観客の緊張をほぐすように自ら率先しておどけてみせると、ウォーミングアップするように繰り返した“Oh Oh”のコール&レスポンスからなだれこんだ2曲目の「Walk」では曲の冒頭から横山の「Singin' !」に応え、観客のシンガロングがホール中に響き渡り、観客全員が一斉に拳を突き上げるという壮観な光景が目の前に広がった。





そこから「4Wheels 9Lives」「Cry Baby」と繋げたところで、「きっと聴いてきてくれたと思う」と横山が言いながら早くも飛び出したのが、今回のツアーの冠になっている「My One Wish」。シングルシリーズの第2弾として、Ken Yokoyamaが9月20日にリリースしたこの曲をライブで聴ける日をどれだけ待ち望んでいたことか。

その「My One Wish」、Ken Yokoyamaの十八番と言えるメロディックパンク・ナンバーなのだが、8ビートと2ビートを巧みに使い分けながら見事に竜巻く松本“EKKUN” 英二(Dr)のドラムをはじめとするバンドの演奏もさることながら、横山のメロディメイキングが明らかに一皮剥けたことを思わせるメロディも大きな聴きどころ。中でも聴く者を祝福するようなサビのメロディは何度聴いても胸に染みる。



「ライブハウスのオールスタンディングのライブに慣れている人からしたら、ちょっと体が疼くぜみたいなのがあると思うんだよね。ただ、コロナの中でホールのライブをやってみて、前の方で女性とか、お子さんとかが見ていることは素敵なことだと思って、ホールツアーを企画しました。ライブハウスでは得られないものがあると感じてやっているよ。ライブハウスには、もちろんここで得られないものがあるんだけど、違った別の2つのいいものっていう解釈を最近している。
 (自分が)渋谷公会堂のステージに立つとはね。正式にはLINE CUBE SHIBUYA? 若い頃、海外のバンドが来日すると、ここでライブをやっていて、俺、見にきたんだよ。建て替えしちゃったから同じステージとは言えないけど、まぁ近い感じでしょう。そこに立てるなんて。しかも俺、54歳なんだけど、この歳になってそういうチャレンジができるってすごくありがたく思う」

ライブハウスにこだわってきたKen Yokoyamaがホールでライブをする意味や、そこで得られたものを、横山がしっかりと言葉でも伝えながら、この日、バンドが演奏したのは、「しばらくやってなかったけど、ちょっとだけ、練習して持ってきた」という1stアルバム『The Cost Of My Freedom』収録の「The Story Of The Fallin'Sleet」をはじめとする新旧の23曲。



「Maybe Maybe」「I Won't Turn Off My Radio」といったシンガロング必至の定番曲に加え、ライブハウスでは観客の休憩時間になってしまうという理由から、いい曲だと自負しているにもかかわらず、ほとんど演奏することがなかった「Soul Survivors」も「このホールツアーでやっているレア曲」と言いながら披露。その「Soul Survivors」は横山と南英紀 (G)がツインリードギターを閃かせるKen Yokoyama流のメタルナンバーだが、「Soul Survivors」から「I Won't Turn Off My Radio」を挟んで、思いっきり泣かせたギターソロとともにじっくりと聴かせたバラードの「A Beautiful Song」もそんなレア曲の1つだったと思う。

その「A Beautiful Song」を演奏する直前にひとしきり盛り上がった“エアー刷毛水車大会”をはじめ、いちいち拾わないが、MCに混じる下ネタの割合がコロナ禍以前並みに戻ってきたところからも自分達のペースでホール公演に臨んでいることが窺える。





「健さーん、抱いて!」と客席から飛ぶ女性の歓声に嬉々としている横山を冷ややかに見ている南に「うらやましいんでしょ? ほんとは」と尋ねた横山に対する「健さんのことは尊敬しているけど、うらやましいと思ったことはない」という南の返答は振るっていたが、その流れから「今日はゲストを呼んでいるんだよ。そのゲストを俺は抱いたことがあります!」と繋げた横山のウィットもさすがだった。

当然、『My One Wish』収録の「Tomorrow」をデュエットしている木村カエラだと思って、客席はどよめくわけだが、「ごめん。カエラは来ません。もっとかわいい人を呼んでるよ」という横山の言葉に「誰だ? 誰だ?」と頭にクエスチョンマークを浮かべている観客に歓喜の声を上げさせたのが、「サージ!」という横山の言葉だった。今はアメリカに住んでいるというKen Yokoyamaの初代ベーシストの登場に観客が沸く中、サージのボーカルで「Sucky Yacky」(坂本九の「上を向いて歩こう」のパンクカバー)を披露する。

「サージでした。サンキュー。2日前にメールをくれて、“日本に行くんだけど、渋谷のショウを見たい”って言うから、“だったら一緒にやらないか”と提案したら、“いつだって一緒にやるぜ”と言ってくれた。うれしい。俺達はファミリーだからな」



サージが参加したいきさつを語った横山に観客が拍手を贈る。その直後、この日、横山が着ていたTシャツが、この8月、大規模な山火事の被害に遭ったマウイ島を支援するためのNOFXによるチャリティTシャツだったことを観客が指摘すると、横山はまた機転を利かせ、「好きなバンドがこうやってチャリティTシャツを出すと、売り上げを託せるじゃない? 俺達も経験あるんだよな。東日本大震災の時に作った“We Are Fuckin’ One Tシャツ”をみなさんが買ってくれて、その収益は東北でやる無料ライブに注ぎ込んだ。今後も何か事態があったらやっていきたいと思ってる。その収益を持って、大変なところに持っていく」とかつて「Ricky Punks III」でも歌った自ら信じるパンク精神を繋げる機会に変える。そんなウィットに富んだ話の展開も横山ならではだが、真面目な話をしすぎたと思ったのか、照れ隠しするように「ただ、今回のツアーTは全部俺の懐に入ります(笑)」とジョークで締めくくったところも実に彼らしいとニヤリとしつつ、それも余裕の表れなのではと思ったりも。

「来てくれたみんなに一緒に歌ってもらうのが好きなんだ。時々議論があるじゃないか。隣の奴の歌声が大きくて、こいつのワンマン聴きにきたわけじゃないみたいな。クソ食らえだ。思いっきり歌ってくれ! パンデミックがなくなったんだから、一緒に歌える歓びを受け止めようじゃないか!」

その言葉通り後半戦も「パンデミックの中、作ってみんなに歌ってもらうのを待っていた」という「Still I Got To Fight」、シングルシリーズの第1弾だった「Better Left Unsaid」、マイクを客席に投げ入れるパフォーマンスが復活した「Let The Beat Carry On」他、シンガロング必至の曲の数々を繋げていく。マージービートっぽい魅力もある「Better Left Unsaid」は、Jun Gray(B)がオクターブ奏法やグリッサンドを閃かせながら、8ビートの演奏に加えるアクセントも聴きどころだ。



「正直、一番前でどうしたらいいかわからないでしょ(笑)?」と最前列の観客に話しかける南と、それに対して、「意地悪だよね。実は俺もそれ思ってたんだよ。でも、言わないよね(笑)」と突っ込んだ横山によるざっくばらんなやり取りからもKen Yokoyamaが席有りのライブをどんどん消化していっていることが窺える。

それが「ホールもいいね!」という客席からの声や、「ホールツアーをやりながらつくづく感じたんだけど、自分で選んでやるホールツアー。しかもみんな一緒に歌える環境で俺達がコミュニケーションを取れるならば、ホールは十分ありだなと思ってる。動けないっていうのはあるかもしれないけど、ライブハウスとコミュニケーションの取り方ほぼ変わらないじゃないか」という横山の言葉に繋がるのだが、そんな上機嫌の中、バンドはシングルシリーズの第3弾のタイトルナンバー「These Magic Words」を11月29日のリリースに先駆け、「聴いたことをみんなに自慢してくれよと」と横山が言いながら初披露する。

もうすぐ3歳になる息子に“Oh yeah, it’s alright. It’s gonna be OK(大丈夫さ。そのうちオッケーになる)”と横山が歌うこのメロディックパンク・ナンバーは、「Better Left Unsaid」「My One Wish」同様、シンガーソングライター=横山健の円熟を印象づけるが、同時にサビのオブリ、2番のAメロに加えたオクターブ奏法、ギターソロのビブラートなど、ギターの聴きどころも満載なので、ぜひ音源を聴きながら味わっていただきたい。

そこから「食らってくれ!」と繋げた「Punk Rock Dream」、再びマイクを客席に投げ入れた「Believer」とダメ押しで観客にシンガロングの声を上げさせる。



そして、それぞれに生活がある中、わざわざ会場に足を運んでくれたことに対して感謝と歓びを語ると、「来年早々にアルバムを出すから、ツアーがあると思うよ。友達に伝えておいて。いろいろなところに行くと思うんだ。もちろん東京もあるよ。会える人はまたぜひ会おう」と言って、観客に歓喜の声を上げさせる。

「ありがとうって最近よく言うんだけど、言葉以上に感じてるんだよな。ステージ上からみなさんのことを見ていると愛おしくなるって言うか、すげえ通じ合ってる気がするんだよ。でも、もしかしたら、今日が最後になってしまう人もいるかもしれない。ここから先、Ken Yokoyamaのライブはあるけど、どうしても都合がつかないってこともあるだろうし、最近、ミュージシャンの訃報がすごく多いじゃんか。俺だって何があるかわからないと思いながら生活してるのね。来年ライブが決まってるからって、その時まで生きてるかなってちょっとだけ思うんだよ。もちろん元気でやるよ。だから、みんなも元気でまた会いにきて。時間が経ってからわかることだけど、図らずも今日が最後になってしまった人は次の曲を持って帰ってくれ。俺のたくさんのありがとうが入っているから」

そんなふうに語った観客に対する真摯な思いとともにオールディーズ風のメロディが染みるメロディックパンク・ナンバー「While I’m Still Around」で本編を締めくくったあと、待っていたのがこの日最大の見どころだった。


ひとりステージに戻ってきた横山は長男が生まれた時に作ったというバラードの「Father’s Arm」をアコースティックギターで弾き語りしたのだが、なぜそれが最大の見どころなのか──。

それは同曲を演奏する前に横山がこの曲をとある理由からしばらく封印していたことと、「These Magic Words」を作ったことをきっかけに「Father’s Arm」を作った時の長男に対する気持ちが今も全然変わらないことに気づき、だったら歌ってもいいんじゃないかと封印を解いた理由を語ったからだ。もちろん、語ったその内容ではなく(だから詳細はここには書かない)、そこまで一個人=横山健を曝け出したことが見どころだと思うのだが、アンコールを最大の見どころと言うことには正直、躊躇する気持ちもある。しかし、もしかしたら二度と見ることはできないのだからということを考え、もちろん本編が見応え満点だったことを前提に、この日最大の見どころだったと書かせていただきたい。

「Better Left Unsaid」「My One Wish」、そして「These Magic Words」とシングルのリリースを重ねながら、横山が書く歌詞は一個人としての横山健を表現するものになってきたが、まさかライブでそれを感じられるとは。ちょっと驚きながらも、ホール公演というシチュエーションがきっかけになったのだろうか、それもまた新境地の1つの表れなのだと思うと、横山およびKen Yokoyamaはここからまだまだ我々を驚かせながら、音楽を楽しませてくれるに違いない。そんなふうに思えたこともこの日のライブの大きな収穫だ。当然、来年早々に出るというアルバムにも期待が募る。



アンコールの2曲目の「Longing」もワルツのリズムの弾き語りと思わせ、途中からバンドイン。南、Jun Gray、EKKUNの演奏とともにオールディーズ風のバラードに展開する。そして、そこから自らの出発点を確認するように繋げた1stアルバムのタイトルナンバー「The Cost Of My Freedom」で今一度、観客にシンガロングの声を上げさせると、いつまでも鳴りやまない拍手の中、<My One Wish Tour>は大団円を迎えたのだった。

取材・文◎山口智男
撮影◎半田安政

■<Ken Yokoyama「My One Wish Tour」>2023年11月9日@LINE CUBE SHIBUYA (渋谷公会堂) セットリスト

01. Ten Years From Now
02. Walk
03. 4Wheels 9Lives
04. Cry Baby
05. My One Wish
06. The Story Of The Fallin' Sleet
07. Maybe Maybe
08. Forever Yours
09. Sucky Yucky (with サージ)
10. Soul Survivors
11. I Won't Turn Off My Radio
12. A Beautiful Song
13. Still I Got To Fight
14. Better Left Unsaid
15. Let The Beat Carry On
16. Still Burning
17. These Magic Words
18. Punk Rock Dream
19. Believer
20. While I'm Still Around
encore
21. Father's Arms
22. Longing (A Quiet Time)
23. The Cost Of My Freedom

■6thシングル「These Magic Words」

2023年11月29日(水)発売
【初回盤(CD+DVD)】¥1,800(+税)
【通常盤(CD)】¥1,200(+税)
▼CD収録曲
1. These Magic Words
2. Bitter Truth
3. Sorry Darling
▼DVD収録曲 ※初回盤のみ
<Live from DEAD AT MEGA CITY>
1. Let The Beat Carry On
2. Better Left Unsaid
3. I Wonʼt Turn Off My Radio
4. Still I Got To Fight
5. Ricky Punks III



■<Ken Yokoyama「These Magic Words Tour」>

12月09日(土) 滋賀 U STONE
12月10日(日) 岐阜 Club Roots
12月12日(火) 浜松 窓枠
12月13日(水) 清水 SOUND SHOWER ark
12月22日(金) 横浜 Bay Hall

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