【ライブレポート】TOMORROW X TOGETHER、ワールドツアー日本公演で「だから僕は歌手になったんだ」

第4世代K-POPグループを牽引するポップアイコンとして注目を集めるTOMORROW X TOGETHER (TXT)は、BTS直属の弟分として2019年に韓国デビュー。現在、アジア、アメリカなど13ヵ国をめぐる2回目のワールドツアー＜TOMORROW X TOGETHER WORLD TOUR“ACT:SWEET MIRAGE”＞を行なっている。同ツアーは4月14日および15日の大阪・丸善インテックアリーナ大阪公演を皮切りに日本上陸。18日および19日に埼玉・さいたまスーパーアリーナ、25日および26日に神奈川・横浜アリーナ、29日および30日に愛知・ポートメッセなごや第1展示館にて＜TOMORROW X TOGETHER WORLD TOUR “ACT : SWEET MIRAGE” IN JAPAN＞を完走した。各地のMOA(ファンの呼称／Moment Of Alwaysness)を熱狂させていった声出しOKのツアーから、4月19日の埼玉・さいたまスーパーアリーナ公演のレポートをお届けしたい。

◆TOMORROW X TOGETHER 画像

ソロやユニット曲なし、バックダンサーもバンドもなし。3時間を超える長丁場のステージをスビン、ヨンジュン、ボムギュ、テヒョン、ヒュ二ンカイだけで歌ってパフォーマンスしきってみせる5人のタフな体力とチーム力の高さに圧倒された。さらに、これまで彼らが作品を通して描いてきた物語やミュージックビデオ、 そこにHYBEオリジナルストーリー“The Star Seekers”まで連動させ、映画を観ているようなシネマティックな演出が没入感を増幅させる。何度観ても新たな発見があり、考えれば考えるほど様々なものが果てしなく繋がって沼化していく中毒性ある世界観が、MOAの心を甘美な空間へと溺れさせていく。

巨大LEDパネルにメリーゴランドが回るオープニング映像が流れ出すと、観客が持つペンライトがブルー一色になり、目の前には夢のようなファンタジックな世界が広がる。宮殿にいるメンバーをとらえた映像、その映像の中と同じ衣装を身につけた5人の貴公子がステージに姿を現すと、舞台が煌めき大歓声が巻き起こった。そして、ライブは「5時53分の空で見つけた君と僕 [Japanese Ver.]」で幕開け。オレンジとブルーが溶け合うような照明で客席を幻想的なマジックアワーへと包み込むと、軽快なステップワークとジャンプのまま、大人になっても子供時代が終わってほしくない気持ちをゲームに例えて歌った「Can’t We Just Leave The Monster Alive?」を披露した。


日本語で愛嬌たっぷりに自己紹介を行なったMCでは、「僕たちの魔法のような物語を一緒に作って下さい」とスビンがMOAに語りかけ、映像は森の中へ。そこにはバスケットゴールがあり、始まったのは「Drama [Japanese Ver.] + No Rules」だ。スポーティーな衣装に着替えたメンバーが、バスケットボールをパス回ししながら歌うという若さ溢れるパフォーマンスが場内を明るい雰囲気に。「No Rule」のサビでセクシーに腰を回す振り付けにMOAから大きな悲鳴が上がった。本国デビュー曲「Cat & Dog」は可愛らしさ満載。純粋無垢な表情を次々と繰り出すメンバーたち…といったギャップも彼らの魅力のひとつだ。

「世界で一番素敵なネコのお手本を見せてください」というヒュニンカイからのお題にヨンジュンは、なぜか「ワンワン」と犬の鳴き声を披露。「ネコです…」というテヒョンのツッコミによって仕切り直し。「にゃんにゃんにゃ〜ん！」と愛嬌たっぷりな鳴き声の可愛さにMOAが悶絶して大絶叫。それを沈めるような「25さ〜〜い」というヨンジュンのクールな発言にメンバーもMOAも大爆笑だ。場内が大いに和んだあとは、ペンライトを使ったゲームでメンバーとファンの距離をさらに縮め、テヒョンがシリアスなトーンで、「この時間が永遠になるようにTXTと逃げようか」とMOAに投げかける。このワードがヒントとなり、次のシークエンスへライブが突入した。






TXTの大きな特徴は、少年から大人へと成長する思春期の中で現実に無気力を覚えたら、“諦めろ” “逃げろ”と逃避を肯定するところだ。ライブはここから、さらにそのメッセージ性を色濃くステージに投影していく。魔術発動を知らせる魔法陣と時計が映像に映し出されると「9と4分の3番線で君を待つ (Run Away) [Japanese Ver.]」へ。5人は歌詞と連動したダンスで“ビビディバビディ”と場内に魔法をかけていく。終盤、サブステージに1人残ったヒュンニカイがソロダンスを踊り出すと、天井から呪法の粉のような紙吹雪がステージに降り注ぐ。いつしか場内は真っ赤に染まり、現実の時間軸を打ち破って時間も空間も異世界へ。そのことを示すように、幕間映像では時計が逆回転、幻想的な草原の中にメンバーが佇んでいた。

ステージに白いスモークが立ち込めて、曲はコロナ禍の虚しい気持ちを描いた「We Lost The Summer」へ。喪失感はさらに世界規模へと広がり、激しい虚無感をトラップビートにのせて踊る「Can't You See Me? (世界が燃えてしまった夜、僕たちは...) [Japanese Ver.]」へつながっていく。ここではダイナミックな炎の演出とともに、ステージと客席一面が真っ赤に染まり、その中で“助けて”と救いを求めるセリフがステージから放たれた。その瞬間の刹那、胸が張り裂けるような思いに包まれ、緊迫した空気が場内に張り詰めていく。5人が苦悶の表情を浮かべながら、片方の手でもう片方の手首を強く握りしめると一気に暗転した。息をするのも忘れたように、場内が怖いほどの静寂に包まれた。


再びLEDパネルに映像が流れ出すと、そこには“少年たちは疲れてしまった／もう冒険はやめよう”などの文字が並ぶ。そうして、映像はオープニングのシーンをリマインド…かと思いきや、白い衣装の女性が現れて、メンバーが女性に手を伸ばしたところで映像が途切れた。ステージにはニットの衣装に着替えたメンバーがグランジロックサウンドにのって登場。テヒョンが激しく吐き出すような生々しい歌唱で、“どんなに世界が混沌としても君との愛だけを信じる”とエモさを爆発させる「0X1=LOVESONG (I Know I Love You) feat. 幾田りら [Japanese Ver.]」を披露。

続いて、ステージにセットされた車に5人が乗り込み、「LO$ER=LO♡ER」ではカジノよろしくお札をばら撒きながら、“俺は負け組”と人差し指を掲げて連呼することで、お金で人は幸せになれないことをアピール。そのままサブステージに移動して、シンセが響き渡り壮大なロックチューン「Dear Sputnik」が始まると、“僕と君”という歌詞を深く感じさせるハーモニーを見事に聴かせる。ポップディスコな「Magic」では、スビンのウィスパーなハイトーンが、幻想的な世界や魔法よりも信じられるのは人間的な感情であると物語を着地させて、ライブは再び映像へと切り替わった。

オープニング映像同様の宮殿の中、雷鳴が響くと画面がモノトーンに。そしてステージでは、ヒュニンカイとテヒョン、スビンとボムギュのペアダンスに続いて、TXTのダンス番長ヨンジュンがソロダンスを披露。もがき苦しむ感情を表現し切った後に始まったのは、「Opening Sequence」だ。スモーク包まれながら、“君”との別れに耐えられない悲痛な叫びを迫力ある重低音に合わせ、モダン舞踊のようなパフォーマンスで描ききった。続けて、静かな雰囲気の中で始まったのはバラード「Anti-Romantic」だった。横一列に並んだ5人はその立ち位置のまま、甘美な声で“もう恋愛なんて信じない”と、同曲を叙情を表現力豊かに歌い上げる。6/8拍子のバラード「Eternally」は「Anti-Romantic」とは対照的に、激しさを増していく曲調に合わせて歌とダンスも力強さを強調。自己の内側で激しく渦巻く感情を表現してみせた。


再びLEDパネルの映像が挟み込まれ、美しい瞬間は長くは続くは続かなかったこと、暗い感情が少年の心と体を蝕んでいったことが文字で告げられた。そして、5人が宮殿の中で龍に出会い、物語は人間の心の闇が広がる魔法ワールドへと展開していく。

ロックなギターリフが荒々しく鳴り響き、「Good Boy Gone Bad [Japanese Ver.]」は失恋で壊れてしまった自分の心を自ら破壊し始めるように激しい。ラテン風味のトロピックなダンスチューン「Tinnitus (Wanna be a rock)」ではヨンジュンのお腹チラ見せの挑発に会場から悲鳴が上がった。悪魔の甘いささやきにメンバーが魅了されてしまう「Devil by the Window」は、メンバーが一丸となったクールなダンスとセクシーな仕草でMOAを誘惑。そして、5人が甘い思い出に浸る映像を挟み、天使と悪魔が葛藤する様を天使の輪と悪魔の角を頭上に作るアクトが印象的な「Angel Or Devil [Japanese Ver.]」へ。ステージ上からメンバーのファンサービスが炸裂するなか、メンバー直筆サインボールがキャノン砲でステージ上から客席に放たれた「Ice Cream」まで、悪魔のささやきに翻弄されて甘い誘惑空間へとトリップしていった。

「Happy Fools (feat. Coi Leray)」では、振り付けを担当したヨンジュン自らMOAにダンスを伝授。その振り付けをしっかりと踊れるかどうか、LEDパネルに映るMOAを指名して一緒にダンスするコーナーでは、アピールするファンとLEDパネル上でコミュニケーションを深めながら、広大なアリーナ会場とは思えない至近距離の交流を繰り広げた。もちろん同曲本番では、会場全体が一体となったダンスで大盛り上がり。そして楽曲は、このままみんなで欲望のまま甘い夢を見続けようと悪魔が口笛を鳴らし、甘い声で誘惑する「Sugar Rush Ride」へ。5人は爽快さとセクシーさをたっぷり含んだ圧巻のパフォーマンスを披露して、本編を締めくくった。






物語は続いたまま、アンコールへ。“なにかが間違っている”と気づいた5人は、海に浮かぶ船に乗ってステージに登場。「Farewell, Neverland」は、夢の世界にさよならを告げる決意を歌ったナンバーだ。そして、このワールドツアー＜TOMORROW X TOGETHER WORLD TOUR“ACT:SWEET MIRAGE”＞のために、メンバー自ら書き下ろしたという新曲「Blue Spring」へ。これまでのTXT楽曲の様々なシーンが盛り込まれた歌詞はあまりにも感動的。勇気を出して現実に飛び出してみたら、凍えていた僕の世界に春を運んでくれたのは君(＝MOA)だった、という韓国語の歌詞をMOAも大合唱。頬に涙を伝わせるMOAの姿もそこかしこに見受けられた。こうして、“Neverland”にさよならを告げた彼らは最後のでこう語った。

「イヤモニを貫くような応援を贈ってくれてありがとうございます」──スビン
「オープニング、LEDパネルが上がって、見えた光が美しくて。だから僕は歌手になったんだと思いました」──ヒュンニカイ
「この公演が、忘れられない記憶になったら嬉しいです。僕は決して忘れません」──ボムギュ
「僕たちを幸せにしてくれて、嬉しい気持ちにしてくれてありがとう」──ヨンジュン
「さいたまスーパーアリーナに立てたのはみなさんがいてくれたから。みなさんのために「Ring (君じゃない誰かの愛し方)」のような曲を作って、お届けしたいです」──テヒョン


それぞれに客席への感謝や喜びを伝えて挨拶を締めくくり、最後に「Our Summer」を披露して＜TOMORROW X TOGETHER WORLD TOUR “ACT : SWEET MIRAGE” IN JAPAN＞が終了した。終演後もステージ上の上手から下手までメンバー全員で移動して手を振り、舞台から姿を消す最後の瞬間までファンに挨拶を届けていた5人に、盛大な拍手と大歓声がいつまでも贈られ続けた。

TOMORROW X TOGETHERはアジア各国の熱狂を引き連れたまま、アメリカに上陸してワールドツアーを継続。8月5日にはアメリカ最大級の音楽フェス＜ロラパルーザ＞にヘッドライナーとして出演する。なお、日本2ndアルバム『SWEET』が7月5日にリリースされるほか、同日、日本でショーケースイベントを行うことも決定。さらには7月1日と2日に大阪・京セラドーム大阪で自身初のドーム公演を開催することが、本日4月30日の愛知・ポートメッセなごや第1展示館公演で発表された。

取材・文◎東條祥恵
写真提供◎(P)&(C) BIGHIT MUSIC (4月18日(火)＠さいたまスーパーアリーナ公演)