【インタビュー前編】Qaijff、「音楽をやめたくなる」苦悩を乗り越えた今
2021年末の 12 月 24 日に地元である愛知の名古屋 三井住友海上しらかわホールで自身初のオーケストラコンサート<Qaijff Orchestra Concert「live my city Q 2021」>を成功させたピアノロックバンド、Qaijff。
◆ライブ映像
コンサートの MC で「Qaijffを結成して来年で10周年なんですが、今日までいろいろなことがありました」という話があったとおり、特にここ2年ほどはメンバーの活動休止(ドラムの三輪幸宏が群発頭痛の治療のため、2021年4月に無期限活動休止を発表)というまさかの事態が起こったり、所属していたメジャーのレコード会社や事務所を離れて独立したりと、バンドは激動の時期を過ごしてきた。
さまざまな出来事の裏でメンバーはどんなことを思っていたのか? 感動のオーケストラコンサートに辿り着くまでの日々について伺うべく、公演の翌日、森彩乃(Vo,Pf)と内田旭彦(B)にロングインタビューを実施。その模様を前・後編2回に分けてお届けする。
前編では、オーケストラコンサートの話はもちろん、深い葛藤を抱えていたレコード会社在籍時代から、森の母校である名古屋音楽大学とのオーケストラコラボレーション配信企画が実現に至るまで、2019年〜2020年にかけてのQaijffも振り返る。ありふれた考え方に囚われない彼らの斬新な活動スタイル、バンドの真摯さや信念の強さ、譲れない部分などが伝われば嬉しい。
◆ ◆ ◆
■こういうコンサートはこれからも絶対にやっていきたい
──今回のオーケストラコンサート、大成功でしたね。
森彩乃(以下、森)ありがとうございます。インタビューだからちゃんと言葉にしなきゃいけないのに、あまりに味わったことのない体験すぎて、まだものすごく感動してしまっていて......! 今の気持ちをどう伝えたらいいのか、こんなにもうまく言葉にできない自分に驚いてます(笑)。昨日の公演後もヘトヘトなはずなのに、頭も心もハイな状態であまり眠れなかったっていう。そのくらいめっちゃ楽しかったです。
内田旭彦(以下、内田):いろんなことを乗り越えてここまで来たので、そういうのも全部含めての感動がありました。自分たちにとって初めてのオーケストラコンサートを、こんなに最高の形で無事に終えられてホッとしてます。
──2021年はここに向かって生きてきたと言ってもいいくらいじゃないですか?
森:まさに、おっしゃるとおりで。2020年に無観客で行なった名古屋音楽大学オーケストラとのコラボのときもそこに向かって生きていた感じでしたけど、今回は念願のお客さんを前にしての生パフォーマンスだったので、さらに必死になって準備を重ねてきた日々でした。
内田:自分たちがやりたいことをやるわけなので、僕らが楽しいのは当たり前なんですけど、関わってくれた人たちみんなも楽しんでもらえていた感じがあったから、それが本当に嬉しかったですね。
──“楽しむ”ということも、実は大切なテーマだったのかなと思いました。
森:はい。ある時期から“こうやらなきゃ!”みたいに思い込みすぎて、音楽をちょっと楽しめなくなっていた感じがあったので。その苦しんだ時期を経験したからこそ、自分たちでやりたいことをやりたいように進めていけるのが楽しかったんですよね。もちろん当日までの準備はめちゃくちゃ大変だったけど、それも含めて楽しくて。
内田:“楽しい”って、“楽であること”とはぜんぜん違うよね。自分たちの意志で決めて、行動に移せて、そうやって作ったものが喜んでもらえる。その実感が持てるとやっぱり楽しいんだなって、今回のオーケストラコンサートですごくわかった気がします。
──オーケストラコンサートをやってみたいという話はバンド結成当初からされていた記憶があるんですけど、その発想ってどこから生まれたものなんですか?
内田:ライブやコンサートを観て記憶に残った瞬間というものを思い返すと、みんなで声を出したり手を上げたりする一体感ももちろん素晴らしいんですけど、自分の中では、ただ音楽を浴びているだけで涙が出るような光景にいちばん憧れがあったんですよね。言葉にできない感動というか。それがオーケストラなら理想的な形で実現できるんじゃないかなって。
──クラシックのコンサートに足を運んで得た経験が大きいんでしょうか。
内田:そんなにたくさん行ってはいないんですけど、実際にクラシックのコンサートを体験したときは衝撃を受けましたし、テレビで観たジブリのオーケストラとかもすごいなと思いましたね。なんて言えばいいんだろう......音楽が五感を超えてきて「うわあー!」とため息が出ちゃうような。五感を超えてくるから、言葉で表わせないんでしょうね。そのドキドキに昔からずっと憧れていたんです。
森:私は内田の願望に最初から強く共鳴していたわけではなかったんですよ。ただ、今までQaijffはピアノバンドとして、ギターロックのバンドに混ざって“負けないぞ!”って想いで活動してきたり。“いや、そうやって誰かと比べるものでもないな”と意識を改めたりしてきた歴史があって。そんな時期を経たうえで今回このスタイルに取り組んでみたら、プロジェクトを進めるうちに“あれ? もしかして自分たちにすごく合ってるんじゃないかな”と思ってきたんです。もともと幼少期からピアノを弾いてきたので、グランドピアノのほうが馴染んでいるし、オーケストラといっしょに弾くのが本当に気持ちよくて。生ピアノでやれる喜びが再確認できた感じがしたんですよね。昨日もステージで演奏しながら、こういうコンサートはこれからも絶対にやっていきたいなと考えてました。
──しかし、オーケストラのアレンジまで自分たちで手がけたのは驚きです。当初はそういう考えではなかったのかなとも思ったんですけど。
内田:いや、コンサートを開催するなら自分たちの手でそこまで作り上げたいと思ってましたね。特に最初はまず僕らでやってみないと、オーケストラアレンジの大変さが何もわからないので。そこを理解したうえで誰かに託すのはいいんですけど、ないがしろにしたまま丸投げしちゃうのはちょっと違う気がしていて。バンドって本来そういうものじゃなくて、もともと自分たち主導で始めたものですから。その途中で誰かの助けが必要になって何かを頼んでいったりするものなのに、いきなり全部をお願いするみたいな形だと、サポートしてくれる方への敬意も持てない関係性になっちゃうだろうし。関わってくれる人たちをリスペクトしたいがゆえですよね、このアプローチは。
──それを行動に移して実現させたのが、本当にすごいと思います。ロックバンドがストリングスをバックに付けてホールでライブをするのは決して珍しい形態ではないけれど、自分たちでオーケストラアレンジをすべて手がけて、スコアも書くというバンドはほとんど聞いたことがないので。
内田:あははは(笑)。フルオーケストラのアレンジを自分たちでやろうとする人はいないでしょうね。ストリングスだけとかならいるかもしれないけど。
森:でも、本当に途方もない道のりでしたよ。私は音大に行っていたけど、管楽器のことまで詳しいわけじゃないし。オーケストラアレンジをする、譜面を作るというのは、まったくと言っていいほど知識がないところからのスタートだったので。2人でいろいろ調べたりしながら、必死でがんばりました(笑)。おかげで、ひとつひとつの楽器がすごく好きになったなと思います。
内田:2020年の春・夏はコロナの感染状況が酷くて、初めての緊急事態宣言も発令されて、先の見通しがまったく立てられなかったじゃないですか。そういう中で知り合いのバンドが解散していったりメンバーが抜けていったりするのを見ていたら、Qaijffも続けていきたいけどいつまであるのかなんてわからないし、自分がいつまで音楽ができるかだって本当にわからないよなって。そう思ったときに、逆に僕はポジティブになれたんですよね。“だったら、ずっとやりたかったことを今この瞬間こそやらないとダメだ!”となって、動き出せた感じです。
──コロナ禍が始まったばかりの時期のQaijffは、Zoomを使って生ライブをやったりしていましたよね。思えば、あれも他のバンドがやらないような試みでした。
森:そうだそうだ。<live my room Q>というタイトルで、遠隔で生演奏を成立させるライブをしてましたね。あれがオーケストラコンサートのタイトル<live my city Q>に繋がっているんです。確かに、普通だったらやらない企画だったかも。
内田:週2回くらいやっていた時期がありました。もう、遠い昔のことに感じる(笑)。
森:めっちゃ配信してたよ! リモートでワンマンまでやりましたからね。あそこでも内田のストイックさが表われていたと思います。
(配信アーカイブ:https://www.pscp.tv/Qaijff/1ZkKzLYkkADJv)
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