【ライブレポート】Qaijff、10周年ワンマン「まだまだやりたいことがいっぱいある」

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ピアノロックバンドのQaijffが、11月22日(火)に愛知・名古屋 Electric Lady Landで<10th Anniversary one-man live“調律のされていないピアノみたいに”>を開催した。

◆ライブ写真

2022年3月で結成10周年を迎えたQaijff。彼らの軌跡を改めて振り返ると、歩んできた道のりというのは決して平坦なものではなかった。近年で言えば、音楽をやめたくなるほどの大きな苦悩も経験し、バンドの主導権を自分たちに取り戻すため、所属していたレコード会社や事務所からの独立を選ぶなど、紆余曲折の日々を乗り越えたうえで、納得のいく活動ができている今がある。


それだけに節目のアニバーサリー公演が、いくぶん肩に力が入ったライブになったとしてもおかしくないと思うのだけれど、今のQaijffはそんな気負った様子がまったくない、むしろいい塩梅にリラックスしていて、なおかつ心の底から演奏を楽しんでいる幸福感がいっぱいの清々しいパフォーマンスを見せてくれた。彼らの地元・愛知に駆けつけたたくさんのお客さんも、その姿を観られたことが何より嬉しかったのではないだろうか。

思い返せば、森彩乃(Vo,Pf,Syn)がヨガマットを引いてマイペースにストレッチをしていたり、内田旭彦(B,Syn)もすごく落ち着いた感じで会話しながらライブまでの時間を過ごしていたりと、本番前の楽屋もずいぶんとナチュラルで柔らかな空気が流れていた気がする。約1年前にスペシャルゲストの斎藤ネコを含む総勢49名の出演者で挑んだ自身初のオーケストラコンサート(<Qaijff Orchestra Concert「live my city Q 2021」> 2021年12月24日 名古屋 三井住友海上しらかわホール )の厳かさや圧倒的な迫力ももちろん途轍もなく素晴らしいものであったが、良い意味でそこと対極に位置する、もっと自由で軽やかなQaijff本来の姿がこの日はふんだんに味わえたのだった。


定刻の19時を少し過ぎた頃、「Re:Answer」をアレンジしたSEが場内に流れ出す。大きな拍手に迎えられ、まずは森彩乃と内田旭彦、そしてサポートの深谷雄一(Dr)という3ピース編成でステージに現れたQaijff。オープニングを飾ったのは、バンドが誕生したときの彼らの心境に想いを馳せられるような、10周年ライブの幕開けになんともふさわしい「organism」だ。森がサビ部分をピアノ弾き語りでスローに聴かせる始まりから、イントロで耳を惹く内田の痛快なベースタッピングを機に演奏がガツンと加速すれば、拳が上がったりハンドクラップが起こったりとフロアも一気に過熱していく。


さらに、間髪入れず「meaning of me」。彼らの顔と言える代表曲がスタートから颯爽と繰り出されるさまが、やっぱり気負った感じがなくて素晴らしい。ミックスボイスが効いた森のボーカルはもちろんのこと、ピアノ、ベース、ドラムが奏でる音色のどれもが主役を担い得るような絶妙の間合いもQaijffらしく、その個性的なギターレスサウンドがライブ序盤をパワフルに彩った。“生きてることに意味が欲しい”“君が流した涙に意味があったとしたら 僕が今放つ言葉に意味を付けたこと ありがとう ありがとう”といった歌詞のとおり、いつだって必死に活動してきたバンドのドラマは、曲の中に瑞々しく詰まっている。


「10年だって!」「10年ですかー(笑)」と和やかに言葉を交わして笑顔を見せる森と内田に、彼らのファン“Qaijffy”たちが改めてお祝いの温かい拍手を贈る。「10年前から知ってくれてる人も、中にはいるのかしら。9年前や8年前からの人、最近になって知ってくれた人……いろんな人がいると思うんだけど、どこかのタイミングで出会ってくれて、今日こうして会いに来てくれたことが本当に嬉しいです。ありがとうございます!」

森がそう伝えたあとは、1stフルアルバム『クアイフ』(2014年発表)に収録されている「escapism」へ。アッパーなサウンドの中、3人それぞれのフレーズがいっそうトリッキーに絡むなど、Qaijffのプログレッシブな面が際立つこのブロックは、特に古参にはたまらなかったはず。ピアノの短音が連なって印象的に始まる「change」にも息を呑む。音源のリリースはされていないものの、バンドの譲れない部分が感じられるとともにダイナミックな展開や繊細な変拍子を併せ持つ、同じく結成当初からのナンバーである。ここで歌われる“曖昧な今ならいらない 変わり得ない未来など意味ない”という信念をずっと貫いてきたからこそ、最近ではエレクトロニックを大胆に融合させたアレンジを楽曲へ取り入れるなど、10周年を超えた現在もなお彼らの進化は止まっていない。


次は、まさに新章モードの皮切りとなった「Want」。「change」と「Want」、この2曲がものすごくナチュラルに接続されたことによって、Qaijffを構成する芯の部分は思わず聴く側の表情が緩んでしまうほど変わっていないのだと、身をもってハッキリと体感できたことが嬉しかった。一方で、先述したようにサウンド面では必要に応じて絶えずアップデートを重ねてきたバンドであり、リーダーの内田が「Want」において繰り広げるパフォーマンスは視覚的にも非常に楽しく見ごたえ十分。モーグシンセで低音を操作しつつ、フロアタムを叩き、コーラスまで入れるという、ライブ全編を通して人力にこだわった同期ゼロの演奏、“自分次第 ここからの時代 自由自在 それこそが未来”と森がまっすぐ放つメッセージからは、11年目以降もまだまだ突き進んでいくという溢れんばかりの気概が伝わってきた。




そして、ここでさらなるゲストプレーヤーとして竹内勝哉(G)がバンドにイン。信頼できる仲間がまたひとり加わったことによって一段と開放的なムードが生まれ、森はなんとピアノセットの前に飛び出し、「こだまして」をハンドマイクで躍動感たっぷりに歌う。竹内もエレキの軽快なカッティングやメロディアスなギターソロで演奏を盛り立てるなど、こうしてピアノを抜いたアレンジで果敢に攻め、ピースが欠けた状態をむしろおいしくしてしまうようなアプローチもQaijffらしかったと思う。



「ギターを愛し、ギターに愛される男、竹内勝哉~! 本当に四六時中ギター触ってるもんね(笑)」(森)

「このライブのリハーサルのために勝っちゃんと俺は泊まりがけで合宿をしたんだけど、そういうときっていろんな話もしたいじゃん。なのに、常にギターを弾いててさ。ギターと僕、どっちが大事なの?」(内田)

「ギターです(笑)」(竹内)


「楽しいなー!」という言葉が森からこぼれる。続いては、2016年にリリースされた1st EPの表題曲「snow traveler」。当時のレコーディングにも参加した竹内がアコギを添えるなど、季節に合った冬の曲でオーディエンスを魅了すると、同EPの収録曲「good morning」も披露。一転してグッと抑制の効いたバラードで、ゆったりとしたグルーヴと温かな包容力を感じさせてくれる。深谷がマレットで叩くビートに乗せて、“君を救いたいから 愛したいから いつもそう探してるんだ”と歌う「Re:Answer」を含め、やさしく紡がれた言葉の一つひとつが心のひだに深く染みわたってきて気持ちいい。

誰かと比べてしまいがちな現代人の悩ましさや森彩乃自身の葛藤を生々しく綴った歌詞、“たらたったった”とリズミカルに聴かせるサビ、浮遊感のあるサウンド、全員で重ねるコーラスなど、インパクト抜群な新機軸の2作目「たらしめろ」も中盤で炸裂。この曲も人力で表現するからこそのアンサンブルが刺激的だったし、ライブのたびに進化を遂げているのが面白い。演奏後はメンバーが口々に「たらしめた~!」「たらしめたね!」「じゃあ俺も」「僕もたらしめました」と笑顔を見せ、ステージ上もフロアも本当に楽しそう。


「「たらしめろ」もいっぱい聴いてほしいんですけど、11月15日に「通り過ぎていく」という新曲をリリースしました。今までのピアノサウンドとはまた違う印象があって、間奏のサックスソロもかっこいいよね!」(森)

「誰が吹いてるんだろうなー?」(内田)


そんなやり取りからもうひとりのゲストプレーヤー、佐藤祐紀(Sax)がステージに呼び込まれる。Qaijffが彼と出会ったのはまだ半年くらい前だそうだが、冒頭にも森が話していたとおり、出会いの時期はいつだっていい。縁あって互いが共鳴し合い、今日こうしていっしょのステージに立っている事実がシンプルに嬉しいことなのだ。


ライブ後半は5人編成となって、ますます自由なアプローチを解放するQaijff。最新曲「通り過ぎていく」では、消費されるばかりの世界に抗う姿勢を示しながら、森と内田がシンセを分厚く重ね合い、佐藤がアルトサックスのソロを渋く響かせるという、また新たなサウンドが提示され、彼らの音楽への飽くなき探求心も垣間見られた。


演奏はどんどん研ぎ澄まされていき、「change」同様に初期のレア曲として知られる「bird」でQaijffの貪欲な生きざま、深遠な世界観が鮮やかに顕在化。地元である愛知をモチーフにした楽曲「アイノウ」では、生まれ育った街の風景が歌われる中、自ずとバンドの歴史も浮かび上がってくる。そして“変わらない場所”という一節が、ここに集まったオーディエンスの温かみと感動的に重なり出す。


ドラマティックな曲で大いに沸く場内。その中には愛知だけじゃなく、岡山や横浜、東京、北海道など遠方から駆けつけたというQaijffyもたくさんいた。森と内田は「本当にありがとうございます!」と感謝を伝え、今日のステージを支えてくれているメンバーとの出会いについて和気あいあいと話す。「bird」ではクラリネット、「アイノウ」ではフルートと、サックスと併せてさまざまな楽器を演奏した佐藤には、偶然同じスタジオを使っていた際に知り合いだった深谷が思いつきで急遽参加を頼んだそうで、なんとそこでのテイクが「通り過ぎていく」に見事採用されたのだという。

同じくQaijffのレコーディングに参加したこともある竹内とは、彼がロックバンドをやっている時期に知り合ったとのこと。竹内と佐藤は現在ジャズシーンをメインに活動していて、竹内は12月8日(木)に、佐藤は自身のバースデーである1月15日(日)に、それぞれ名古屋市中区金山のジャズクラブ・Mr.Kenny'sでリーダーバンドのライブを行なう予定なので、気になる人はぜひ足を運んでみてほしい。

さて、ライブもいよいよクライマックスを迎え、さらなるサプライズとして森が明かしたのは、本公演名<調律のされていないピアノみたいに>が新曲のタイトルであるということ。レーベルに所属していた時期からリリースの準備を進めていた大切な曲だったが、コロナ禍によってすべて白紙になってしまったという経緯も語られ、話を聞きながら1年前のインタビュー(https://www.barks.jp/news/?id=1000213759&page=2)の記憶が蘇って思わずハッとした。


“正しさってなんだ 美しさってなんだ”と苦しかった時期が滲むラインを含めつつ、それをバネにするように“歪んでたっていいじゃん 何度笑われたって 鳴らしたい 私のメロディー”と自分らしさを強く肯定する。初披露となった「調律のされていないピアノみたいに」は、Qaijffの真骨頂と言えるメッセージもさることながら、ジャズソウル調のアレンジも最高にかっこよくて、こうして形になって本当によかったと思えた。聴かせ終えると、自信を持って「どやーーー‼︎」と言っちゃうほどにオープンなマインドで大歓喜するメンバー。そのポジティブなエネルギーで、会場全体がものすごくハッピーな空気に包まれる。


その後は、佐藤が幽玄なフルートソロからメインリフへと滑り込んだ「Wonderful Life」へ。こうした柔軟なアレンジが組めるのは、さまざまな楽器の特性を一から学んだ、コロナ禍でのオーケストラコンサートの経験が大きいのだろう。縦横無尽なアンサンブルを存分に発揮し、「誰にも邪魔できないよ! 音楽をやるということ、バンドをやるということ、ライブをするということは。これからもみんなに届けるから、受け取ってくれますか?」と森が叫び、本編ラストは渾身の「ナンバーワン」。明るいサウンドに乗せて“不安は消えやしないけど だから君といたいんだよ だからこそ僕ら出逢ったんだろう”と現在の心境を素直に解き放ち、5人は大盛況のうちにステージを降りた。


アンコールでは、内田から「Qaijffというバンド名はそもそもサッカー選手のヨハン・クライフを文字ったもので、名古屋グランパスのオフィシャルサポートソングももう7年やらせてもらっていて、サッカーといえばイレブンじゃないですか。なので、来年の11周年は10周年以上に盛り上げていきたいです。新曲もどんどん出していくし、2022年は東京とか他の場所にはなかなか行けなかったんですけど、今度は僕らが会いに行くので、そのときはまたよろしくお願いします!」という嬉しい言葉も。


「2012年に結成して、2013年に初ワンマンをやって、CDもたくさん出し、メジャーデビューして。そしてコロナ禍が来て、ドラムの(三輪)幸宏が活動休止になって、バンド自体がもう無理かなと思ったこともあったけど……続けていくと決めてね。レコード会社と事務所を辞めて、今こうしてたくさんの人たちにサポートしてもらいながらやれています。10年経っても、まだまだQaijffでやりたいことがいっぱいある」とも話し、大切な分岐点となった曲「愛を教えてくれた君へ」を森と内田の2人で届けた。


最後の最後は深谷、竹内、佐藤を再び招き入れ、「Clock hands」で完全燃焼。森が「マスクの下で笑ってくれよ」「心の中で歌ってね!」とフロアに呼びかけ、“こんな僕を愛してくれてありがとう。”と締め括り、全員がひとつになって大団円。いつだって自分たちの気持ちに正直に。より賑やかな11周年に向けて、時計の針はまた進み始めた。


なお、12月13日(火)には森彩乃のソロワンマンライブ<リアル森スタグラム 2022 〜ロックンロール30周年 まじおめワンマン〜>が、Qaijffが初ライブを行なったハコである名古屋CLUB ROCK'N'ROLLで開催決定。それに合わせて、森が自身のアトリエ“MORINOKOYA”で撮影した新たなライブ映像もYouTubeに公開されている。さらに、森がレギュラー出演を務めるZIP-FMで配信のポッドキャスト番組(心理学がテーマ)も年内にスタートする予定とのことなので、こちらもチェックしよう。



■終演後コメント

森彩乃(Vo,Pf,Syn):純粋にめっちゃ楽しかったです! この5人でライブをするのは初めてだったんですけど、今日に向けてみんなで作り上げてきて、本当のバンドみたいでした。

1年前に観ていただいたコンサートはオーケストラでクラシカルな感じで、それもめちゃくちゃいい緊張感で満喫できたんですけど、今回はジャズ界隈のミュージシャンがサポートしてくれて、彼らの感性にかなり影響を受けて、より自由になれました。それが“楽しいー!”に繋がったのかなと思います。ジャズとクラシック、今後も両方やっていきたいですね。

内田旭彦(B,Syn):MCでも言ったんですけど、やりたいことはまだまだたくさんあるので、バンドの歴史をじっくりと振り返るのはもっと先でいいと思ってます。今は自分たちの最高地点を見せることが、10年というものの表現の仕方でした。

本来ピアノというものは調律されるものなんですけど、されていないからこその良さも弾いているとあったりするんです。人間やバンドも同じで、誰もがどこかしら欠けたところがあるけれど、“そこも含めて素敵じゃん”って思うことが多くて。「調律のされていないピアノみたいに」はとてもQaijffらしい曲ですよね。


取材・文◎田山雄士
写真◎Photo by Muu(R)

セットリスト

1.organism
2.meaning of me
3.escapism
4.change
5.Want
6.こだまして
7.snow traveler
8.good morning
9.Re:Answer
10.たらしめろ
11.通り過ぎていく
12.bird
13.アイノウ
14.調律のされていないピアノみたいに
15.Wonderful Life
16.ナンバーワン

en1.愛を教えてくれた君へ
en2.Clock hands

◆Qaijff オフィシャルサイト
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