【インタビュー】Qaijff、森彩乃の乳がん手術を経てついに5年ぶりのツアー「僕たちはここからもう一度始めたい

ポスト

今夏、約5年ぶりとなるワンマンライブツアー<誇れ2024>を開催することが決定したQaijff。

約1年前の2023年春には、森彩乃(Vo, Pf, Syn)が乳がんを宣告された。あまりに突然の事態で、本人はもちろん、リーダーの内田旭彦(B, Cho, Syn)にとっても、それがショッキングなものであったことは想像に難くない。

しかし、それでも2人は歩みを止めず、楽曲制作を中心に活動を続けてきた。そして、長きにわたる過酷な治療、勇気を出して決断した手術の末、このたび本格的なライブ活動再開を図る。

今回はQaijffの現状を伺うべく、森と内田にロングインタビューを実施。前編では、森の乳がん判明から、抗がん剤治療中に完成させた新曲「サニーサイド」、2人の事実婚発表まで、波瀾万丈な日々を振り返った。

後編では、手術前後の知られざるエピソード、3月に配信リリースされた最新曲「誇れ」(名古屋グランパス2024シーズンオフィシャルサポートソング)、7月から始まるツアーに向けての心境などについて、2人に大いに語ってもらっている。前編で森が「この経験をした自分から今後生まれる表現が楽しみ」と話していたが、「誇れ」はまさに復活したQaijffの新たなモードが瑞々しく伝わる楽曲だ。

   ◆   ◆   ◆

◼︎手術の記憶が不思議と楽しいものになってるんですよね
◼︎音楽に救われたと言ってもいいのかな


──インタビュー前編で森さんの病気の話をいろいろ伺ったんですけど、もう少しだけ聞かせてください。約半年に及ぶ抗がん剤治療の苦しい日々を経て、2023年11月末には右胸の全摘、右腋のリンパ節切除という大きな手術をされました。

森:手術前は想像以上に、恐怖や緊張でいっぱいでしたね。乳がんがほぼ確定したとき、場所的にも全摘は免れないということをすでに言われていて、命のためには仕方ない選択だなと……自分なりに覚悟ができていたつもりだったんですけど。

内田:治療の副作用から来る手足の痺れと体の痛みも、かなりしんどい時期だったよね。

──肉体的にも精神的にも苦しかったと。

森:そうですね。不安を抱えたまま、手術前日からの入院でした。でも、その夜に気持ちの変化がすごくあったんです。病室でひとり過ごす中、生きていることに対する感謝が急にグワーッと湧いてきたというか。「今までの人生をがんばってきてくれた私の体、命を守るために切除される私の右胸、本当にありがとう〜!」みたいな想いがめちゃくちゃあふれてきて。

──持ち前の感受性が。

森:思わぬ形で爆発しました(笑)。上手いことメンタルが切り替わって、手術前夜も意外とよく眠れたんです。

内田:逆に、僕のほうが眠れなかったかもしれません。


──じゃあ、当日はいい状態で臨めたんですね。

森:はい。主治医の先生への信頼も厚くて、そういう気持ちになれたんだと思います。あと、手術のときに面白かった話があるんですけど。

──何ですか?

森:手術室に入ったら、音楽が小さくかかっていたんです。まず「手術にBGMがあるんだ!」と驚いたし、選曲がZARDだったこともめっちゃ気になって。手術台に寝たりとか、準備は着々と進んでるのに、その件に触れたくて仕方なかったんですよね(笑)。

──ミュージシャンだからかもしれないですね、気になっちゃうのは。

森:そうそう。だけど、私のためにたくさんの方が忙しく動いてるような、けっこう物々しい雰囲気だったから、いざ全身麻酔をされて意識がなくなる寸前、お医者さんたちが無言になったところで、真横にいた主治医の先生に「BGMで流れてるの、ZARDですよね?」と聞いたんです。そしたら先生が笑って「手術の直前でそんなことを言ってきた人、今までにいないですよ!」って。

内田:あははは(笑)。

森:自分のチョイスではない点を力説されてたのも面白くて、私はそのまま笑いながら眠りに落ちたんです。

──理想的な意識の失い方。

森:本当ですよね(笑)。で、手術が終わった直後、まだ酸素マスクや点滴で繋がれているときも「BGMがZARDだったのは意外でした」「いや、あれを選んだのは別の先生で……」みたいに話してたんですけど、なぜかその部分を強調されるわけですよ。なんでなんだろうと思ってたら、先生が「僕ね、イギリスのロックが好きで」とおっしゃられて。


──おお、森さんと近い感じじゃないですか。

森:そうなんです。私、いちばんのルーツは清春さんなんですけど、海外のアーティストだとレディオヘッドが好きだから。しかも、先生もレディオヘッドが大好きなのがわかって、「学生の頃に名古屋のダイアモンドホールで来日公演を観た感動が、今でも忘れられないんです」みたいな話も聞かせてもらったり、術後2時間くらいなのにめっちゃ盛り上がっちゃいました。なので、手術の記憶が不思議と楽しいものになってるんですよね。音楽に救われたと言ってもいいのかな。

内田:僕は手術の当日、森の両親といっしょに電話を待ってたんですけど、予定の時間を過ぎても連絡が来なくて、ずっとソワソワしてましたよ。音楽話で盛り上がっていたとは知らなかったので。

──とにもかくにも、手術が無事に終わってよかったです。

森:ホッとしました。ただ、入院中の術後2日目に自分の体を改めて見たら、不意に涙が止まらなくなったりもしたんですよね。髪が抜けたタイミングもそうだったんですけど、つらい瞬間は無意識に心を明るく保とうとしていたみたいで。強がってるつもりもないまま、人前では気丈に振る舞っちゃうものなんだなと。

内田:ふとしたときに気づいたりするよね。

森:うん。少なからずショックや喪失感があったのを自覚して、思う存分ひとりで泣きました。「サニーサイド」の歌詞じゃないですけど、この涙を流すこともすごく大切な時間だなと噛み締めながら。


内田:こうやって振り返ってみると、2023年は大変でしたね。大変だと思う余裕もないくらい、森の体調をはじめ、一つひとつの課題に向き合っていたから、気を張っていた部分もあったかな。猛スピードで年末が来た感じがします。

──バンドの停滞感はさほどなかったですよ。楽曲のリリースもあったし、ライブもできたし、メディア取材も受けてらっしゃったり。

内田:いろんな方に助けていただいたおかげです。本当に周りのみなさんに感謝しています。

森:私にとっては音楽に夢中になれる時間が大切だし、メンタルを維持するためにもバンドを止めないことを選んでよかったなと思ってます。




◆インタビュー(2)へ
この記事をポスト

この記事の関連情報