【インタビュー】シキドロップ、ポップなサウンドと深い内省に沈む歌詞とが鮮やかなコントラストを描く「銀河鉄道」

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悲しみに暮れる季節をくぐりぬけ、雨上がりの向こうの喜びを信じて、シキドロップは疾走する。セルフプロデュースによる連続配信リリースの最新曲は、12月15日にリリースされた「銀河鉄道」。それはイラストレーター“革蝉”による強烈なビジュアルに包まれ、シキドロップ史上最高にポップなサウンドと深い内省に沈む歌詞とが鮮やかなコントラストを描く、悲しくも美しい1曲だ。冴えわたる宇野悠人(Vo)のアレンジ&プロデュース力、そして深まり続ける平牧仁(Key)のソングライティングの核心について、二人の最新語録を届けよう。

■悲しみや絶望みたいなものを言葉にしないとやりきれない
■そういう時のひとりごとみたいな感じです


――今回、ビジュアルがすごいですよね。イラストレーター“革蝉”氏とのコラボの3作目で、どんどん進化しているというか、禍々しいものが噴き出しつつあるというか。

平牧仁(以下、平牧):重ね絵というのか何というのか、レイヤーっていうんですかね。もともとこれは、悠人のアイディアだよね?

宇野悠人(以下、宇野):最初は僕でした。『呪術廻戦』のアニメを見ていて、オープニングかエンディングの映像で、キャラクターが一人ずつ増えて行くんですよ。そこでパッと思いついたのがそれだった。

平牧:悠人はビジュアルから入ってくれることが多くて、そこはすごく信頼しているし、個人的に助かっています。その側(がわ)が出来て、どの曲を当て込むか?と思った時に、コンセプトが一気に固まり始めたんですね。


――「残響」「傘」、そして「銀河鉄道」と3作のイラストを並べるとわかるんですけど、元の絵を残しながら、色も違う、表情も違う。これは、曲の性格の違いということなのかな。

平牧:これは今作っているアルバムの話にもつながるんですけど、「暴かれていく」ということが一つのテーマになっているんですね。


▲「残響」(左)、「傘」(右)

――ああそうか。だんだんと中身が暴かれていく。

平牧:まさにコロナ禍で、「良い人」と「悪い人」とが暴かれたと思うんです。みなさんの周りの人でも、「なんか人が変わったな」と感じることないですか? それは生きるために仕方なかったことでしょうし、暴かれたのか自分から変貌していったのかはわからないですけど、生きていく上での選択というものが、今回いろいろテーマになっているので。そこにレイヤーというコンセプトが当てはまって、その変わり様を表している最中だと思います。

宇野:3枚目でようやくみんなわかってきたんじゃないかな。「残響」のイラストを見返すとまだ人間っぽいし、「傘」だとまだわかりにくかったのが、“中から出てきたのかな?”みたいな想像がふくらんでくる感じだと思います。みんなの感想を聞いてみたいですね。

――曲としては、「シキドロップ史上こんなに軽快なビートの曲はあっただろうか?」というのが第一印象ですね。

平牧:悠人が、良い意味でやらかしてくれました(笑)。最初はアレンジが違ったんですよ。歌詞に合わせてセンチメンタルというかノスタルジーというか、すごくメロウな形で最初のアレンジを作ってくれて、完成形にはスネアが2拍4拍に入っているんですけど、最初は3拍目だけの重いビートで、全体的にゆったりとした感じで、歌詞の世界観的にはそっちが有りだなと思ったんですけど…実はこの歌詞、ちゃんと読んだらめちゃくちゃ暗いんですよ。

宇野:そうね。

平牧:だから僕は、どうせだったら…暗いものを表現する時には、逆説的にすごく軽快な表現をしたいなと思って、僕のつたないDTMを駆使してイメージを伝えたら、悠人がそれを解釈してくれて、リレーションを何回かやって今の形になりました。僕もびっくりしましたよ。悠人がこんなにポップでキャッチーなものに挑戦してくれたことがうれしくて、たぶん作っていて最近の中で一番面白かった作品ですね。

――同感です。良い意味で意表を突かれました。

平牧:このアンバランスな感じが、余計にセンチメンタルに感じられて、めちゃくちゃ良いですよね。

宇野:最初のアレンジ、どんな感じだったっけ?

平牧:シャッフルまで行かないけど、ちょっとそんな感じ。悲しい感じの歌でした。

宇野:毎度のことながら、最初に仁ちゃんが打ち込んだデータが僕に送られてきたんですけど、それがけっこうベターっとしているというか、サビでメロディが高くなるわけでもなく、そんなに特徴的なサビではない感じがしたんですよ。

――Aメロ、Bメロの延長線上ですーっと行く感じですよね。

宇野:その感じが、最初に聴いた時にはしっくりこなくて、それでシャッフルにしたんですね。ノリを良くしようと思って。でも仁ちゃん的には違ったみたい。

平牧:逆に、ゆっくりしちゃったと思ったから。

宇野:そうだよね。ゆったりめのジャズっぽいというか、洒落てる感じ。それが仁ちゃんには違ったっぽくて、「倍速にしたら?」って言ってくれた。

平牧:僕が最初に打ち込んだデータは、ピアノしかなかったんです。それが悠人の解釈のおかげで、ここまで素敵なものになった。そういう意味でリレーションは必要だなと思いますね。特に今回は、悠人の音選びがすごくいいなと思っていて、今まで出してこなかったポップさ、キャッチーさ、キラキラさとか、シキドロップにはあまりなかったような感じで、すごくいいなと思います。

宇野:前からそうですけど、特に「残響」からのファンタジー感を受け継ごうと思って。ストリングスの、弦を引っ張って出す音ってあるじゃないですか。

平牧:ピチカートね。

宇野:あの音を、かすかにメロディに入れてるんですよ。

平牧:え? そうなんだ。細か~。

宇野:あの音がちょっとポップな要素になっているというか。シンセサイザーの音だけだとファンタジーっぽくなくて、あの弦の音が入っているとポップに聴こえるなと思って入れてみました。

平牧:職人になってきたね、悠人が。

――そんな技、どこで覚えたんですか(笑)。

宇野:いやー、適当に入れてたら良い音を見つけた感じです。今回も、アレンジは楽しかったですね。

――そもそもこの曲、仁ちゃんは、どんなテーマで曲を作ったんでしょう。

平牧:これは本当に、眠れない夜のひとりごとみたいなニュアンスです。特に何かを訴えたいとか、そういうものさえ超越して、ポロっと出てしまう言葉ってあると思うんですね。どうしようもないとわかっているけど、悲しみや絶望みたいなものをなんとか言葉にしないとやりきれない、そういう時のひとりごとみたいな感じです。だから何も解決していないし、誰かに届けたいわけでもない。でもきっと、みんなの心の柔らかい部分に内包しているものとして、こんな言葉が潜んでいるんだろうなとずっと思っていて、それをなんとか歌にしてみたいなと思って作った歌です。去年の夏とかですね。歌詞から書いて1日ぐらいでできた気がする。

宇野:仁ちゃんにしては珍しいよね。

平牧:そうだね。でもシキドロップの後期で言うと…って、まだ4年ぐらいしかやってないけど(笑)。ここ2年ぐらいは、歌詞先が多いです。

宇野:言いたいことがありすぎて。

平牧:だから、いびつなんですよ。Aメロでメロディと文字数を合わせていないのも、語呂が合っていないのもそう。秋山黄色さんとか、ずっと真夜中でいいのに。さんとか、二度とAメロが出て来ないみたいな曲、あるじゃないですか。一番のAメロと二番のAメロが全然違って、同じコードだけどメロディだけ飛んでいくみたいな。そこまで行かなくても、二番のAメロは展開したいなと思っていて、悠人もそこに音を足してくれているんですけど。短い曲なので、繰り返すだけだと平坦になっちゃうんで、展開させたいなと思っていろいろ遊んでみた曲です。

――作為のない曲というか。

平牧:そうですね。それと、これを書いたのは「育つ暗闇の中で」を書いてまもなくの頃で、僕の中では2曲でA面B面というニュアンスがあるんです。その時のテーマとして“自分のために曲を書いてみよう”と思ったんですね。誰かを救いたい、誰かの傷に寄り添いたいとずっと思っていたんですけど、コロナ禍になった時に、届かないものをずっとやり続けることに疲れちゃって、“自分の救いになるような曲を作ろう”と思った時に、自分の心の柔らかい部分を掘り起こして、ポロっと書いたのが「銀河鉄道」です。しかも、1日中考えているひとりごとではなくて、10分ぐらいモヤモヤしている間にポロっと出た言葉というか、その瞬間を切り取った刹那の歌ですね。そういう意味では嘘偽りなく、誰かのために書いたものではないから、威力はあるのかなと思います。

宇野:そうだね。

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