【インタビュー】シキドロップ、闇から光へ
あなたは今、心の中で何を育てていますか?──10月9日にリリースされたシキドロップの配信シングル「育つ暗闇の中で」は、コロナ禍の影響を真正面から受け止めた平牧仁が、心の中の暗闇を素直に吐き出した独白ソングであり、同じ思いを共有するすべての人へのメッセージチューンであり、愛の歌でもある。そして宇野悠人の歌は、暗闇の中でも消えずにまたたく小さな灯りのように、どこまでも力強くのびやかに輝いている。闇から光へ、たくましく立ち上がったシキドロップの現在を二人に語ってもらおう。
◆ ◆ ◆
■曲を書く意味って何だろう?
──お久しぶりです。元気でした?
宇野悠人:元気です。
平牧仁:バリバリです。
──よかった。こういうインタビューをしていると、やっぱりステイホーム期間中に、気持ちがブルーになる人もかなりいたので。
宇野:ブルーではありましたけどね。健康上は問題なさそうです。
平牧:ただ、僕には役者や演出家やいろんな友達がいるんですけど、みんな精神的にやられたり、経済的にやられたりしましたね。うちらもお世話になった「晴れたら空に豆まいて」というライブハウスも、クラウドファンディングをしていたり、ルイード(池袋、新宿店)さんが閉店してしまったり、これを機に足を洗う人がいたりとか。
宇野:ショックだよね。
平牧:よく聞いたのは、「必要なものと不必要なものがあぶりだされる時期だ」みたいなことで、その中で「はたして俺が作っているものは必要なのか?」みたいなことまで考えてしまいましたね。エンタメでも格差がすごく浮き彫りになって、もう売れていて名前がある人はオンラインライブにも人が集まるけど、まだそんなに知られていない人は本当に大変で、やればやるほど人数が下がるという統計も出ていますし、その中で何ができるんだろう?と思っていて。その結果、今こうして元気でいられるのは、「これしかできないんだ」という当たり前のことをちゃんと思えて、開き直れたからなんですけど、一周してそこに至るまでの道はめちゃくちゃつらかったですね。人に相談することができないんですよ。「じゃあやめたら?」という話じゃないですか。その中でまさにこの曲のように、暗闇をひたすら育てていました。でもおかげで今はめちゃくちゃ元気ですし、今何があってもびくともしないし、優しくも、強くもなれた気がします。
──よかった。
平牧:語弊のある言い方かもしれないけど、アーティストにとっては必要な1年だったのかな?と思います。これを越えられるかどうかで真価を問われるというか、試されている時なんだと思うし、一回負けそうになりましたけど、絶対に越えてやるってあらためて思っていますね。
──悠人くんも、闇を育てた時期はあった?
宇野:まあそうですね。簡単に言えば、やることがなくなっちゃったし、明確じゃなくなっちゃったんで、何をやっていいかわからずに家にいる状態で、ひとまず梅干しと糠漬けを始めて(笑)。
──出た(笑)。それ、最近よく言ってますね。
宇野:そこからいろいろ始めた結果、みんなとコミュニケーションを取りたいなと思って、YouTubeライブを頻繁にやるようになりました。何か目的があるわけではないですけど、とりあえずやってみて、何かになればいいなという感じですね。だから、そんなに言うほどブルーな気持ちになったか?というとそうではなくて、目標を探していた時期だったと思います。梅干しと糠漬けも、完成させるという目標を目指すということだと思うので。些細なことですけど。
平牧:いや、クリエイティブだと思うよ。
宇野:梅干し、めちゃくちゃ面白いんですよ。って、長くなるんでやめますけど(笑)。
──梅干しまで行かないけど、僕も家で塩レモンを作っていて、1日1回振りながら愛でてます。
宇野:そういうの、楽しいですよね。
平牧:僕はサボテンを育てました。トゲを愛でてます。
──いいですね。サボテンも梅干しも、それこそ「育てる」という感覚かもしれないし。
平牧:育てるっていいですね、そういう意味では。
──時に、変なものも育っちゃったりしますけどね。それこそ「暗闇」とか。
平牧:表裏一体ですよね。情熱を育てているつもりが、それに照らされて闇も濃くなったりするじゃないですか。その塩梅によって、倒れる時は小石一つでつまずいてしまって、「こんなところで倒れるの?」と思うけど、反動でガクッときちゃう時もあるんだろうなって自分で思ったし、今年1年いろんな人と共に生きてきて、周りを見て思ったりもしましたね。
──この「育つ暗闇の中で」は、7月からYouTubeで公開されたASMR×演劇『DUMMY 2032』の主題歌になってましたよね。これはどんな経緯で?
平牧:知り合いの演出家さんが曲を気に入ってくださって、ちょうどテーマも合うと思うということで起用してくださったんですけど、コロナ禍で演劇のほうは、特に舞台はすごく大変で、舞台ができないという時にそのチームの人たちが挑戦したドラマだったんですよ。ただWEBドラマを作るというよりは新しいことをしたいというもので、それってすごくいいなと思って、僕らも携われたらいいなということで。
宇野:即答でしたね。
──曲自体は、いつぐらいに作っていたものですか。
平牧:これは珍しく、鮮度が高く出せた曲ですね。ちょうど僕が闇を育てていた頃、5月終わりか6月頭くらいに作って…そのあとは猛スピードだったよね。
宇野:猛スピードだった。ドラマの関係で、締め切りまで1週間ぐらいしかなかった。スタジオが使えなかったので、レコーディングはリモートでした。
平牧:僕が、ちょっと病んだ時期と大きく病んだ時期があって、ちょっと病んだ時期に書いた曲ですね。1か月ぐらいあんまり書けない時期があったんですけど、それがさっきの話の、必要性と不必要性を考え始めた時期で、目標が見えなくなって、情熱だけが先走っているけど、この情熱を誰に何のために向けたらいいんだろう?と思って…曲は書けるんですけど、変な話、自分はゴミを作っているんじゃないか?というところまで考えてしまって、曲を書く意味って何だろう?ってなっちゃったんですよ。
──それは病みですね。闇と言ってもいいけれど。
平牧:でも俺が音楽を作らなかったら、ただの飲んだくれクソ野郎だから、とりあえず書かなきゃと思ったんです。そもそも考えていたことを、一番強度が強く、鮮度の高いところを出したいなと思って、まさにコロナの影響の真っただ中で何を書けるんだろう?と考えた時に、今俺が持っている一番暗い部分を書いたら誰かに刺さるかな?と思ったんですよね。それで書いたのがこの曲です。
──悠人くんがこの曲を最初に聴いたのは?
宇野:いつも通りの流れなんですけど、仁ちゃんがLINEで曲をたくさん送ってきて、その中の一個でした。そのあと仁ちゃんから、知り合いの舞台の演出家さんからこの曲にオファーをいただいたということを聞いて、猛スピードで作業に入った感じですね。仁ちゃんがプチ病んでいるのもわかっていたので、歌詞の内容はあんまり深く聞かずに、自分が思うように歌った感じです。暗い歌詞を暗く歌ってもしょうがないんで、いつものシキドロップの曲よりは明るく歌うことをイメージしました。
──そうなんですよね。歌詞とは裏腹に、曲はものすごくポップで軽快。
平牧:これ、トラックから作ったんですよ。
宇野:あー、そうだそうだ。
平牧:トラック、歌詞、メロディに分けると、ほぼ1時間以内に作っていて、合計3時間でできた曲です。最初から決めていたんですよ。意味を考えると考えこんじゃうんで、意味を考える前にやめようと思うと1時間が限度でした。トラックもずっとループで、僕の好きな四つ打ちのダンスナンバーにして、サビのメロディがバーッとできて、歌詞もワーッと作りました。だから(トラックと歌詞の印象が)あべこべなのかもしれない。最初はリハビリのつもりで明るいトラックを作ったのに…。
宇野:中身は暗かった(笑)。
平牧:アレンジャーさんもそこに沿ってくださって、仮アレンジからさらに素敵なものになりました。シキドロップ史上、一番気に入っているアレンジですね。こんなこと言うと怒られちゃうかな。
宇野:でもめっちゃいいよね。
平牧:飲みながら、爆音で流して踊ってます。
──じゃあ、歌詞は細かいことをあまり考えずに、気持ちのおもむくままに書いたと。
平牧:まったく考えなかったです。「生きてて良かった」の繰り返しも…僕はいつもメロディ先行で、そこに歌詞をはめるのが多いんですけど、これは歌詞とメロディがほぼ同時で、もしかすると歌詞のほうが先だったのかな。だから一番と二番の語呂が合わなかったりするんですよ。サビの「生きてて良かった」「一瞬でいいから / 勘違いさせてくれよ」が最初にできて、そこに帰結するかのようにメロディを作っていった記憶があります。
宇野:新しい方法だよね。
──これまでのシキドロップと比べると、言葉のチョイスがものすごく素直でしょう。特に出だしの、「気づけば僕一人だけが / バカみたいになんだか / 頑張ってさ」とか、もはや歌詞じゃなくて独り言に近いというか。前作の『ケモノアガリ』の時の、風刺とか皮肉とか、そういうスタンスとはまったく違う。
平牧:確かに。高校生レベルの素直さですね(笑)。コロナの中で、同じようなことを思っている人がいっぱいいるだろうなと思ったんですよね。
──気持ちがフラットになったんですかね。コロナ禍にやられて、自分を見つめた時に、もともとの自分が出てきたというか。
平牧:たぶん駄々っ子になる時って、みんな子供になると思うんですよ。すごい落ち込んだり、怒ったり、感情のピークにはとてもシンプルになるというか。恋愛もそうじゃないですか。めっちゃ好きになると、誰でも可愛くなっちゃう。今回はそっちの明るいピークではなかったですけど、悲しみとか悔しさとかのピークを迎えた時に子供になっちゃったというか、そこで出てくる言葉はとてもシンプルなのかなと思いますね。後付けですけど。
──いや、それは本当にそうだと思います。
宇野:「君に届かなきゃ意味がない」だもんね。
平牧:歌なんて、まさにそうだよね。
宇野:前の作品の『ケモノアガリ』がわりと社会風刺をしていたんで、僕らが思っていることをそこに乗せているつもりだけど、みんなはわかりにくいところもあるんじゃないかな?って、ちょっと思ってはいたんですね。それもあって、「君に届かなきゃ意味がない」というフレーズも、この歌詞も、ものすごくわかりやすかったんで、いいなと思いました。それがまさか、配信リリースまで行くとは思ってなかったけど。
平牧:僕、けっこう「曲聴かせ魔」なんですよ。曲ができると感想が聞きたいんで、しかもプロの感想というよりも普通の人の感想がほしくて、友達に聴かせることが多いんですけど、今回もいろんな人に聴かせた時に「これは絶対コロナ中に出したほうがいい」と言われて、すごい背中を押されましたね。「この歌は刺さるんだ」って。届くべきところに届いてほしいなと思いますね。
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