【インタビュー】ヒグチアイ、さみしさの答え

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■無責任にいないといけないなと思っています

──ヒグチさんは歌で描かれる内容や視点はもちろん、そうやって自分の芯がしっかりあるのが見えるから、きっとラジオやSNSなどでもいろんな相談事がきたりもするんでしょうね。

ヒグチアイ:相談は受けていますね。

──わりとヘヴィな内容のものもありそうです。

ヒグチアイ:何年か前にやっていたラジオでも、ヘヴィな相談も多かったですね。どうしたらいいんだろうと思うこともたくさんありました。でも、さっきも言ったように、自分があまり近づきすぎてしまったら、その人にとって相談する相手ではなくなっちゃうと思うんです。“無責任に相談してもらえる人”とか“思いを吐き出せる場”であった方がいいよなって思うんですね。でも大丈夫かな、あの子生きてるかなって思う子は何人かいます。

──自分の身近な人にこそ言えない悩み、話せない悩みはありますしね。

ヒグチアイ:そうですね。どうしてもこれを吐き出したい、という感じがわかるんですよね。でも私の一言が、その人にとってどちらに転ぶかわからないので。だからこそ無責任にいないといけないなと思っています。

──仕事や家族、恋愛といったものが、自分のさみしさ感情の盾になるという話をしてきましたが、今はパパ活のようなつながりを求めたりする人もいますね。そういったことについてどう感じていますか。

ヒグチアイ:ちょうど今回の『うふふ〜生き抜く力と息抜く言葉〜』の第2号はパパ活についての特集もあるんです。パパ活をやめた人に話を聞いていて。

──やめた人、なんですね。

ヒグチアイ:意外といろいろ考えているんだなって、面白かったんです。ある子の話では、“相手は、お金を払わないと誰かに話を聞いてもらえないような人だから、そういう人って全然話が面白くないんです”とか言っていて(笑)。


──それは、なんとも切ない話というか(笑)。

ヒグチアイ:めっちゃわかるなと思って。その“パパ”にしても、自分の価値みたいなものを認めてもらうために、お金を払わないといけない人なんだなと思って。話を聞いた子は、面白い人に会いたいからパパ活をはじめたみたいですけど、結局そういう人には会わなくなっていって、結局お金をもらうパパ活自体もやめたと話をしていて。その子はお金がほしいというよりも、さみしさからそういうことをしていたんですよね。そういうさみしさだったりとか、親からの愛情が足りていないとか、もっとあっけらかんとそういう仕事が好きだとか、いろんな話を聞いて『うふふ』に載せたんですけど。私ができないことをやっていて──もし何かがあったらできるかもしれないけど(笑)。みんな、ちゃんといろんなことを考えていてたくましいなって思いましたね。

──面白い人に会いたいからっていうパパ活は、ない発想でした。

ヒグチアイ:そうなんですよ。その子は、そもそも“パパ活”という年上の人に会うようになったのも、自分はお父さんがいなかったから、もしかしたら父性を探しているのかもしれないと言っていたんです。話が面白い人とか、知らないことを教えてくれる人が面白いから、いろんな人に会っている結果、お金をくれる人がいたりする、という話だったんですね。一方では、結局ズルズルそういう関係が続いちゃってるという女の子もいましたけど。意外とお金じゃなかったんだなっていう話もあって面白かったですね。


──ひとりひとり、やっぱりその背景は聞いてみないとわからないものですね。

ヒグチアイ:そうですね。私はもっと本格的にお金を稼いでいる“パパ活”の人とも喋ってみたいですけどね(笑)。ただ、どういうふうにやったらお金がもらえるんだよとか、パパ活のやり方は教えてもらいました(笑)。

──(笑)実際、なかなか聞けないですしね。

ヒグチアイ:そうですね。でも話を聞いていたら、意外とみんな話したいのかもなっていうのは思いました。とくに話が上手とかではないですけど、だからこそ誰かに自分の話を聞いてほしいみたいな人もいるし。例えばパパ活をやっていて体の関係があるという人でも、そもそもキャバクラで働くとお客さんと喋らなきゃいけないし、うまく喋れないからパパ活をしちゃったほうが早いし、そのほうが自分の時間が埋まるって思っている人もいるんですね。そういうさみしさを埋める形があったり、意外とちゃんと考えてやっているんだろうなっていうのは思いますけどね。とにかく、危ない目にあわないでねって思っていますけど。

──本当に『うふふ〜生き抜く力と息抜く言葉〜』を通じていろんな人に話を聞いているんですね。

ヒグチアイ:本当にやっていてよかったなって思います。まったく知らない人の話を聞かせてもらう機会はなかなかないことですし、仲良くなっても深い話とか、本当に思っていることを聞くのってすごく時間がかかるものなので。普通に生きていても、大なり小なり何かあるものだし、いろんな人のいろんな生き方があって面白いんですよね。とくに人がやらないようなことをやっている子って、ひとつ何か扉が開いちゃってるので。そういう人がどんな考え方をしているのかを聞くのは面白いんですよね。多分、私もそう。自分の人生を曲にするって、結構おかしな話だと思うので。

──そうかもしれません(笑)。

ヒグチアイ:「ヒグチさんはもう人に喋れない話はないでしょう」って言われるくらいですからね。確かに、そうかもなって思うし、そういう扉が開いちゃってる人の話は面白いですよね。それで言うと、パパ活の“パパ”の方に話を聞きたいなっていうのはずっとありますね。どういう気持ちなんだろう、どういう気持ちでそういうことをしているんだろうっていうのは気になります。


──そこにもまたそれぞれのストーリーはありそうです。

ヒグチアイ:ある子が言っていたのが、パパ活をしていても説教してくる人もいるんですって。結構真面目な人も多いみたいで、家族とはこういうものなんだとか、仕事とはこうなんだってことを言う人が、何か一瞬のケガをしてしまって今この場所にいる、この2時間くらいの行為はちょっとしたケガなんだみたいに思っている人が多いっていうか。自分に何か歪みがあることに気づいてないんだろうなっていう人が、意外と多いのかもしれないですね。男性も女性もですけどね。まあでも男の人の方が多いのかな、ちゃんとしなきゃいけないとかもあると思うので。

──社会的にちゃんとしなきゃいけないというところが、まだ女性以上に強いかもしれません。

ヒグチアイ:そうですね。そういう人が聴く音楽、どういう音楽に惹かれるのか共感するのかにもすごく興味があります。

   ◆   ◆   ◆

「やめるなら今」楽曲レビュー

3ヶ月連続リリースの締めくくりになる「やめるなら今」。“働く女性”をテーマに描いてきた今回の連続リリースのなかで、この「やめるなら今」は心の底から突きあがってくるような思いが、力強く表現された。

社会に出て数年、仕事がある程度できるようになったけれど、何か手応えが感じられず、喜びや痛みにも鈍感になってしまう時期。自分自身をほったらかしにしたまま、ただただ日々が流れていく、そんな焦りをじんわりと感じながらも退くも進むも億劫な状態。きっと、誰しもが人生の折々で味わうぐずついている心模様に、「やめるなら今」は呼びかける。あるいは麻痺状態の自分に気づかせてくれる曲となった。そして厚い雲をかき分けて、その先でずっと輝いているエネルギーや恐れながらも新しい一歩を踏み出していった自分の姿を思い出させてくれる。


焦燥感のなか響きわたる秒針のように刻まれるドラムビート、高揚する心とともにボリュームを増していくベースやピアノのドラマティックな旋律、そして自分自身にも問いかけ、喝を入れるようにもその声を震わせるヒグチアイのヴォーカル。“恐れていいんだよ 怖がっていいよ”、“その弱さはいつかの強みになるから”。そう優しく語りかけて、“お前を信じてるわたしを 信じてるから”と力強く放つ。タイトルは「やめるなら今」だが、“やめんなよ 続けようよ”とこの曲は続く。聴く人の立場や状況で曲の解釈はさまざまだと思うが、いまを生きていく勇気に、今日を超えていくファンファーレになってくれるだろう。

第1弾「悲しい歌がある理由」、第2弾「距離」の香りも感じさせながら、「やめるなら今」は繊細で、少しばかりひねくれた観察者であるヒグチアイならではの応援歌になった。そこには、彼女自身のリアルな鼓動や、転げ回って擦りむけたままの血や涙が滲んだ言葉がある。多様化する生き方や仕事の仕方、コロナ禍で急激に新しい生活様式へと変化を余儀なくされつつ、一方でおいそれと切り替えられない思いもある。心落ち着かず、地に足がつかないまま社会の風に流されそうな今だからこそ、自分の存在や心のありかを確かめさせてくれるヒグチアイの曲は優しく、また正直ゆえに手厳しい。そんな遠慮のない寄り添い方をしてくれる音楽だ。

取材・文◎吉羽さおり
写真◎佐藤裕之

リリース情報

「やめるなら今」
2021年11月24日(水)配信
配信リンク:https://lnk.to/yamerunaraima

「距離」
2021年10月20日(水)配信
配信リンク:https://lnk.to/Kyori

「悲しい歌がある理由」
2021年9月8日(水)リリース
配信リンク:https://lnk.to/kanashii_utaga_aruriyuu

ファンBOOK&カルチャー誌『うふふ:生き抜く力と息抜く言葉(VOL.02)』

編集長 ヒグチアイ
定価:1100円(税込)
発行:ナガオ考務店 発売:星雲社
A4変形版、オールカラー、40ページ
ISBN:978-4-434-29693-2
※11月末発売予定

[目次]
はじめに...
特集:子どもができたら強くなるのか弱くなるのか
1年目のお母さんへのアンケート
働く女性にインタビュー/そうだ! パパ活しよう!?
インタビュー01「お金を払って話を聞いてもらうような人の話は面白くない」
エッセイ「父は変な人」
インタビュー02「超幸せです。人生、楽しいこと以外ありますか?」
連載エッセイ「商店街の真ん中で愛を叫ぶ」
編集後記

★おまけ
ヒグチアイの元カレカルタ
「か」「き」「く」「け」「こ」

「うふふプロジェクト」:https://www.higuchiai.com/ufufu

<HIGUCHIAI band one-man live 2022>

2022年
3月11日(金)東京・EX THEATER ROPPONGI
open 18:30 / start 19:30

3月27日(日)大阪・umeda TRAD
open 17:30 / start 18:00

全席指定:前売 5,500円(税込)+1Drink
▼オフィシャル先行(先着):2021年11月26日(金)21:00~12月13日(月)23:59
https://eplus.jp/higuchiai2022/
※各公演4枚迄申し込み可
※チケット取扱:e+ スマートチケット
※各公演、地方自治体/会場ごとの感染拡大防止ガイドラインに従い開催させていただきます。状況により、開場/開演時間が変更になる場合がございます。予めご了承の上ご購入をお願いいたします。

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