【インタビュー】キーファー「人と経験を共有しないと、人生は特別なものにはならない」
ヒップホップの音楽性を更新する西海岸の人気レーベル「Stones Throw」が数年前から大プッシュしているアーティストが、20代のピアニスト/プロデューサーのキーファーだ。
幼少期からピアノを習い父親の影響でジャズに傾倒。名門カリフォルニア大学ロサンゼルス校のジャズ・スタディーズ・プログラムで著名なジャズギタリスト:ケニー・バレルに師事し、伝説のイベント<Low End Theory>の影響を受けてミュージックシーンに進出した彼は、テラス・マーティンやマインドデザインのライブバンドメンバーとしても活躍する他、2021年グラミー賞を受賞したアンダーソン・パックの『Ventura』の楽曲プロデュースも務めた実力派だ。
2017年のデビュー以降、様々な活動を経て進化を遂げたサードアルバム『When There's Love Around』ついて、本人に話を聞いた。
──新作の話の前に、2019年の来日公演について話を聞かせてください。
キーファー:ジャパン・ツアーは本当に素晴らしくて、東京でのライヴは人生の最高のライヴのひとつだった。アメリカのオーディエンスよりも真剣に聴いてくれているのがわかったし、たくさんのエネルギーを受け取って、僕らも魂を込めて演奏して、そんな相乗効果で素晴らしいライヴになった。スタッフもとても暖かくて、愛に包まれた環境だったよ。会場が提供してくれたこの時の録音をここ1年間聴き返しているけど、本当に素晴らしいライヴだった。アメリカに戻ってきた時には、もうこのアルバムに取り掛かる意欲が湧いていたよ。このツアーで音楽は人々とシェアするものであるということを学んだし、リスナーとエネルギーを交換できることがいかに素晴らしいかを気付かされたね。
──本作は、この時のライヴメンバーが核となった初めてのフルバンドレコーディングですね。どんな経緯でこのプロジェクトがスタートしたんですか?
キーファー:ここ2~3年の活動の中でバンドと一緒に演奏するすごく好きな曲があって、それがザ・クルセイダーズの「When There's Love Around」なんだ。タイトルの通りオーディエンスやミュージシャンの間に愛のオーラが漂っているのがわかる。この曲のフィーリングを表すにはひとりではなく、バンドで演奏するしかないと思った。だからこの曲をタイトルにして大切な仲間とのレコーディング作品にしようと決めた。ずっと前からバンドとアルバムを作りたいと思っていたからね。
──スタートしたのはいつくらいだったんですか?ちょうど、2021年の春にもEP『Between Days』が出たばかりですね。
キーファー:『Between Days』は、主にソロで作っていてパンデミック中に感じた不安や、そんな中でも自分の使命を果たしたいという気持ちが反映されている作品だね。この時は、感覚的に歳を取った気分だった。実際は20代だからそんなことないんだけど、思うように物事が進んでいなかったり無駄に時間が過ぎたりして行き詰まりを感じていた。そんな中でも、向上したい、何かを成し遂げたいという気持ちを表現した作品なんだ。『When There's Love Around』は、パンデミック前から計画を始めていて、ここ3~4年の自分の人生を超越した内容になっているんだ。連帯感、友情、家族、アイデンティティがテーマになっている。
──実際にレコーディングした時期はいつ頃だったんですか?
キーファー:パンデミック前の2020年の1月と2月、その後は9月で、3回レコーディング・セッションを行った。それぞれのレコーディングは5日間ずつ。セッションによってメンバーが少し違ったんだ。その中のひとつは、来日メンバーのドラマーのウィル・ローガンとベーシストのアンディ・マコーリー。彼らとは3年前からユニットで活動していて、お互いのことをよくわかっているし、音符とかコードのことを頭で考えなくても、目を合わせながら暗黙の了解で演奏できるんだ。
──他のセッションでは、また違うメンバーが参加していますね。起用のポイントは何かありましたか?
キーファー:一緒に演奏するミュージシャンに僕が求める条件は、他の誰とも似ていない唯一無二の演奏をしているかどうかなんだ。アルトサックスのジョシュ・ジョンソン、ハービー・ハンコックなどのトップミュージシャンと共演しているドラマーのジョナサン・ピンソン、ベースプレイに革命を起こしているサム・ウィルクスとのセッションや、ブッチャー・ブラウンのメンバーが参加するセッションもレコーディングした。それに伝説的なパーカッショニスト、カルロス・ニーニョも参加してくれている。才能あるミュージシャンがたくさん僕のセッションに快諾してくれたんだよ。本当に感謝している。
──先ほども触れていた新作のテーマについて、もう少し詳しく聞かせてください。
キーファー:アルバムの前半は、自分のアイデンティティをテーマにしていて、子供時代のノスタルジックな気持ちを題材にした曲、人を励ます自分の使命を歌った曲や、どうでもいい不安を考えすぎることについての曲もある。後半は、家族や仲間との絆がテーマになっている。去年亡くなった祖母との絆を思い出すことで、自分がどうやって人と愛を分かち合って愛を受け取っているかを理解できるようになったんだ。そんな彼女に捧げた曲や身の回りに常に愛があることを歌った曲も書いた。人とのつながりが僕にとって大切だし、人と経験を共有しないと、人生は特別なものにはならないと思うんだ。このアルバムを通して自分自身について学び、自分が世界の中でどういう位置にいるのかを考えることができて、そして仲間や家族がいることへの感謝を表現したんだ。
──あなたの音楽に影響を与えているミュージシャンは誰ですか?
キーファー:数え切れないほどいるよ。ハービー・ハンコック、マルグリュー・ミラー、ウィントン・ケリー、フィニアス・ニューボーン・ジュニア、シダー・ウォルトンに多大な影響を受けたけど、その中でもハービーは別格かな。チック・コリア、マッコイ・タイナー、キース・ジャレットも大好きだよ。
──最近は、音楽スクールに関わったりTwitchでレッスンをしたりと、教育分野の活動も積極的ですよね。最後にこれからの音楽シーンについて感じることを教えてください。
キーファー:優れた若い世代のミュージシャンがどんどん登場すると思う。SNSは問題もあるけどミュージシャン同士が繋がったり、新しいテクニックを学ぶのに素晴らしいツールでもある。僕が16歳の頃はYouTubeが始まったばかりで、音楽を知ったり演奏法を学ぶことはできなかった。図書館に足を運んで、ビル・エヴァンスのCDをたくさん借りて、それを聴いて勉強してたんだ。でも今は、それらのツールを使えば自分の才能を磨くことができるし、音楽の質もどんどん向上していくと思う。僕らの世代よりも、早く学ぶことができるから楽しみだね。
インタビュー・文◎大塚広子
『When There's Love Around』
¥2,750
1.Introduction
2.I Remember This Picture
3.Lift Somebody Up
4.Earthly Things
5.Crybaby
6.Curly
7.A Wish For You
8.Loving Hands
9.Areti' s Love
10.With You Where You Are
11.When There' s Love Around
12.I Love My Friends
13.Thinking Of You(Bonus Track)
◆キーファー(タワーレコード)